【小説 パパはゲームプログラマー】第十四話 魔法使いの国1
私には好きな人がいる。
片想いかもしれないし、両想いかもしれない。
私はそれを、怖くて確かめることが出来ない。
「おっはよー! 千夏」
「おはよ。沙織」
私の名前は山田千夏。
16歳の高校一年生。
で、さっき挨拶して来たのは同じクラスの友達、早川沙織。
「ね、千夏。私、好きな人出来ちゃった」
「え?」
「二組の慶太君」
慶太は私の幼なじみだ。
今でも、家が近いのと、親同士が仲良しなので、週に二回は会っている。
小学校の頃、よく悪ガキにイジメられてたあいつを、助けてやったのは私だ。
弱っちくて、男として最悪、絶対付き合いたくないと思ってた。
......っていうか、男としてすら、見てなかったかも。
だけど、最近あいつ、男らしくなって来た。
きっと、中学生の頃に部活(空手)やったり、生徒会やったり、私がのんびりしてる間に結構、修羅場(その言い方もちょっと変かな)をくぐって来たからかな。
それに、最近、肩幅とか広くなって、声も低くなって来てる。
ちょっと会うたびに、私の中に新しい感情が湧いて来る。
ドキドキが止まらないよ。
「今日、告白するんだ」
「ええっ!?」
「私、欲しいものは絶対手に入れる主義なんだ」
沙織は私なんかと比べて、猫みたいな大きな目をしててメチャクチャ可愛い。
私はいたって日本人といった感じの薄い顔だ。
......勝てるわけがない。
放課後。
沙織が教室を出て屋上に向かう。
私はその後をつける。
「おい、山田」
「はっ、はい!」
担任の桐山先生だ。
「お前、今日、掃除当番だろ?」
「あっ、はっ......はい!」
こんな時に、もうっ!
今頃、沙織のやつ、慶太に告白してるのかな。
手とか繋いで、一緒にマックとか行こうね、とか言ってるのかな......。
クソォ!
握り締めた竹ぼうきの柄がひしゃげた。
私しかいない教室に、眩しいくらいの西日が差す。
オレンジ色になった私は、なんで、もっと早く慶太に告白しなかったのだろうと後悔して泣いた。
「千夏」
その声は慶太。
私は振り向いた。
廊下から彼が手を振っている。
私はたまらなくなって、教室を飛び出し彼に抱きついた。
「好きなのぉ!」
「俺もだよ」
慶太は沙織の告白を断ったそうだ。
私のために。
二人の帰り道、青信号になるのを待ちながら、どちらからともなく、気が付くと手を繋いでた。
車側の信号が青から赤に変わろうとしている。
ゴオオオオ!
渡り切ろうと無茶をする一台のトラック。
猛然と横断歩道に侵入して来た。
「あっ!」
私は背中に物凄い衝撃を感じた。
いつの間にか、慶太と繋いでいた手がほどかれていた。
まずいっ!
身体がつんのめり、横断歩道に入ってしまう。
体勢を立て直すことが出来ない。
だけど、何とか堪えようと首を後ろにそらすと、
中指を立て、笑顔でこちらを見ている沙織。
「そっ、そんな!」
その瞬間、私はトラックにはねられ宙を舞っていた。
◇◇
「また、この夢か......」
16歳の誕生日から、この夢を見るようになった。
それをキッカケに前世の記憶、つまり転生前の記憶が次々と蘇って来た。
私は魔法使いルビーじゃない。
普通の16歳の女子高生、山田千夏だ。
城の奥深く。
地下10階のその場所にある魔法陣。
私は今日もそこで詠唱する。
「降臨《サモン》」
魔法陣の中心に光の柱が立ち昇る。
刹那、光の中から現れたのは......
「チュウ......」
一匹のハムスター。
「くっ......」
そいつは私の股の間を潜り抜けると、壁に空いた穴に逃げて行った。
私は攻撃魔法専門。
特に『火』属性についてはめっぽう強い。
だが、召喚魔法に関してはからきしダメだ。
私の好きな人、慶太を召喚するために何度もチャレンジしているのだが......。
魔王討伐が終わり、この西の国を与えられた。
そんな記念すべき日に、私は16歳になった。
そして、徐々に転生前の記憶が蘇った。
それからは、慶太に会いたいだけの毎日だった。
「ルビー様。連れてきました」
私の執事トールスが、暗闇の中から現れた。
イケメン。
私に優しいし、カッコいい。
だけど、私は慶太が(略)
彼の隣には縄で縛られ、足枷を付けられた男がいる。
「やれ」
兵士達によって、その男は魔法陣の中央に寝かされた。
「なっ、何する気だ! 俺は無実なんだ! 助けてくれ!」
「殺人と強盗の罪で、お前を裁く」
私は冷たく言い放つ。
「だから、でっちあげなんだ! やってないって言ってるだろ!」
私は泣く男を無視して、詠唱する。
「降臨《サモン》」
私の非力な召喚魔法を強力にするために必要な生贄。
それがこの無実の罪で連行されたこの男だ。
シュゴオオオ!
光の柱に包まれた男は、「ああっ!」と声を上げ消えた。
きっと今頃、別の世界に転生したのだろう。
その代わり、慶太......あなたがここに現れるはず。
「うっ......」
男の代わりに現れたのは、
「ワンワン!」
犬。
「トールス」
「ははっ!」
犬はトールスに命じられた兵士達によって連行された。
「ああっ!」
自分でも情けなくなる。
同じ魔法なのに、これほど得手不得手があるとは。
『召喚魔法辞典』にはこう書かれている。
自分が望む者を召喚したければ、召喚魔法のスキル自体を上げるか、生贄を用意すること。
私はさっきも言った様に召喚魔法に向いていない。
だから、手っ取り早く生贄を用意した。
質量保存の法則と同じだ。
誰かが転移元から転移先に召喚されたとする。
その穴を埋めるために誰かが転移元に召喚される必要がある。
つまり、私は生贄と慶太を交換しようとしているのだ。
だが、私の召喚魔法下手のせいで、未だかつて成功したことはない。
生贄の数は1000人に上る。
その誰も彼もが無実の罪でここに連行された国民達だった。
今頃、生贄たちは、どこかの異世界に転生していることだろう。
◇◇
僕は地図を頼りに西の国へ向かっていた。
草原を一人歩いている。
見上げると目指す方角の空は赤く染まっている。
「暑いな......」
汗がしたたり落ちてくる。
夏でもないのに、異常な暑さだ。
僕は水を一口飲んで一息ついた。
城が見えて来た。
赤く染まっている。
暑さの源の様に。
「着いた」
大きな門がある。
この門をくぐれば西の国だ。
「あのー、入国したいんですけど」
僕は門を守る守衛に頭を下げた。
「どこの国の者だ?」
「南の国から来ました。ルキといいます」
マツヲに作ってもらった住民票を見せる。
「目的は?」
「えっと、ここで商売をしようと思って」
「どんな商売だ?」
まだ考えてなかったなあ。
「この国は暑いので、アイスとか冷たい物を売ろうかなと。皆に涼んでもらいたいです」
守衛は腕を組んでため息をついた。
「この国が暑いのは、ルビー様の魔力のせいだ」
「ああ」
思い出した。
ルビーは『火』属性の魔法使いだ。
パーティで共に戦っていた時のこと。
彼女は機嫌が悪い時、体から熱が大量に出て皆から熱いって言われてた。
まさに火の申し子。
それを体現するかの様な、灼熱の様な赤い髪に赤い瞳、真紅の唇。
......ってことは、今、彼女はメチャクチャ機嫌が悪いってことか。
「まあ、無理だと思うが頑張れよ」
守衛は僕のことを台帳に記録すると、門を開けてくれた。
「ここが西の国か......」
暑いなあ。
街中では、この暑い中、皆良く働いている。
僕は路地裏などを探索しつつ、商売のネタになるものを探していた。
「ん?」
僕の方へ全速力で男が走ってくる。
手に麻袋5つ抱えている。
男は僕にその中の一つを渡した。
「重いからやるよ」
そう言い残して、男は僕の後ろの壁を軽々と乗り越え、逃げて行った。
呆気に取られていると、角から別の男が現れた。
「あっ! こいつです!」
その後、その男が僕を指差した。
ターバンを巻いた一見商人の様な男だ。
そのターバン男の後ろから、黒い軍服、黒い帽子のグラン王国親衛隊が現れた。
「お前か、この男の店から食い物を盗んだのは?」
親衛隊はターバン男を指差し、ドスの効いた声で僕を詰問する。
「ち、違います! 僕は盗んでません! 犯人は後ろの壁を越えて逃げました!」
「嘘をつけ! お前、食べ物を持ってるじゃないか!」
「これは......」
僕は両腕を親衛隊に捕まれ、身動きが取れなくなった。
「うっ!」
僕は腹を殴られた。
気を失う。
違う! 僕は罪を擦り付けられただけだ!
暑い。
街にいた時より暑い。
ここはどこだ?
僕は顔を上げた。
薄暗い場所。
四方は石造りで、ここが牢獄だということが分かる。
「起きたか......」
薄闇の中から光る眼が語り掛ける。
「ここは一体どこですか?」
「ふむ。ルビー様の城。その地下牢獄さ」
「え? 僕は無実ですよ」
「無実とかそんなことは関係ない。ルビー様は俺達を生贄にするためにさらっているだけだ」
何のために?
つづく
コメント
VBA使い
片思い、両思い
→「想い」の方がしっくりきます
桐山「先先」生だ
→「きりやまさき」という名前?
「熱」いな......
異常な「暑」さだ。
→揺らいでるように見えますが、敢えてかも。
嘘を「つ」け!(または「吐」け)
慶太…カオスと化したHDDの中で今も彷徨っているのだろうか
桜子さんが一番
なかなか惨い召喚魔法の仕組w
湯二
VBA使いさん。
校正、コメントありがとうございます。
「思う」は「想う」のほうが、ロマンチックですね。
>カオスと化したHDDの
新しく買ったパソコンで文章を書いてます。
途中で止まったあの小説も、そのうち頭の中から引きずり出して文章に起こしたいです。
その前に、あのシリーズの新しいやつも書いておきたいです。
時間が欲しい。
湯二
桜子さんが一番さん。
コメントありがとうございます。
>召喚魔法の仕組
質量保存の法則とか全然関係ないですが、一応それっぽい理屈をつけてみてます。
今更ハリーポッターの小説版を読みながら、魔法について勉強してます。
VBA使い
あと何ヵ所か「熱」になってます。
ネタがいっぱいで、いいですね。
ぼちぼちでいいので、頑張ってくださいm(_ _)m
湯二
VBA使いさん。
結構修正するとこがありました。
>ネタがいっぱいで、いいですね。
思い描くだけで、具体的に作る時間はないんですね~。