【小説 パパはゲームプログラマー】第十三話 僧侶の国3
病気の感染を恐れて、コブチャは城に閉じこもっている。
僕を中心とした元信者で構成された反乱軍は、コブチャの城を陥落させた。
意外と簡単に事は進んだ。
コブチャの城の兵士は同じくコブチャ教の信者だった。
真実を話したら仲間になってくれた。
駐留していたグラン王国の親衛隊が早々に撤退してくれたのも運が良かった。
そして今、僕はコブチャの座っていた玉座に座っている。
足元にはコブチャがボロボロの白装束姿で跪いている。
僕は口を開いた。
「何故、手かざしだけで人の傷を治すことが出来たのか?」
コブチャは僕の質問に、嫌な顔して答えた。
「私の様な上級治癒魔法使いなら、人に聞こえないくらいの小声で詠唱しても治癒魔法を発動出来る」
つまり、『奇跡』とは小声で発せられた治癒魔法だった。
「もう一つ質問。蘇生はどうやった?」
現代の治癒魔法では、人を蘇らせることは出来ない。
コブチャは既に死体となった仲間(モモ、サエ、カショ、シーザー)を見て、こう言った。
「あれは、あいつらと私の芝居だ」
「芝居だとしても、毎回、違う人を死体役にしていただろ? そんなに役者がいたのか?」
コブチャは、もうどうでもよくなったのか大笑いしてこう言った。
「シーザーは人の顔や身体を偽装するスキルを持っている。毎回、私の仲間達が違う人に見えたのはそのせいだろう」
教団の秘密を共有している者が多いと、秘密が漏洩する確率が高くなる。
だから、教団の秘密を共有している者は少ない方がいい。
だから、『奇跡』の芝居はコブチャとその仲間4人だけで行われていた。
「さあ、もう全部話したぞ。私の命だけは助けてくれよ。このクソ雑用係が」
「いや、まだだ、最後にもう一つ」
僕は彼の顔の前で人差し指を立てて見せた。
「グランの弱点を教えてくれ」
コブチャはビクリと震えた。
「それは......」
「タケルだって知ってるって言ってた。いつも除け者だった僕と違って、グランの側で戦ってたお前も知ってるはずだ」
「そんなこと話した何て、グラン王に知れたら俺は殺される」
「じゃ、やっぱり知ってるんだな」
またコブチャはビクリと震えた。
コブチャの首に光り輝く刃が添えられた。
「今、ここで死ぬか?」
タブが怒りに震えた声を出す。
少し離れた場所で、シヲリとマツヲが、洗脳から解けた両親と語り合っている。
元信者達が僕とコブチャのやり取りをじっと見ている。
「分かった。奴の弱点は......」
コブチャの口が開き掛けた時、ガラスばりの天井が崩れ落ち、光の玉が降り注いだ。
何て綺麗だと思っている間に、その光がコブチャを包んだ。
次の瞬間、彼は跡形も無く消えていた。
明日、僕は南の国を旅立つ。
そんな僕のために、マツヲが宴会を開いてくれた。
「さあ、どんどんやってくれ!」
ギルドを借り切っていた。
今日だけは酒場の様になっていた。
僕はすすめられるまま、酒をドンドン飲んでいた。
「ケンタさん、行かないでください!」
「私らの王様になって下さい!」
すまない。
僕は皆の言うとおりに出来ない。
やるべきことがあるんだ。
コブチャ教に不満を持った信者が反乱を起こし、南の国の統治者がマツヲ達になった。
だが、それは表向きの話で、本当は僕がコブチャに復讐するために起こした反乱だった。
皆、そのことは黙っていてくれた。
そのお礼に僕は、稼いだ金のほとんどを置いて行くことにした。
「それにしても......あいつやることやったら、さっさといなくなりやがったな」
マツヲがビールをあおりながら、そう言う。
「ほんと。私もそう思う。もっと治癒魔法について教えて欲しかったし」
シヲリがカクテルをチビチビ飲みながら、そう言う。
最上級の治癒魔法使い、ミナージュのことだ。
彼女とは一ヶ月前、このギルドで出会った。
僕が思いついた計画。
その実現には彼女の力が大いに役に立った。
◇◇
一ヶ月前。
「南の国限定で病気を流行らせたいんです」
「え?」
シヲリが驚いている。
コブチャでも治せない様な病気を流行させる。
人を救うコブチャ教でも救えないものがあれば、教祖の権威は失墜するだろう。
「治癒魔法で病気や怪我を治せるなら、逆の魔法で病気や怪我を作ることも可能だと思うんです」
僕の考えを、シヲリが黙って聞いている。
そして、こう言った。
「......確かに。あなたの言う通りよ」
シヲリ曰く、治癒魔法と攻撃魔法は表裏一体らしい。
例えば、ダメージを回復する魔法の裏側には、ダメージを与える魔法が存在する。
魔法スキルを持つ者は、本来どちらの魔法も唱えることが出来る。
ただ、治癒魔法と攻撃魔法を並行して使いこなすことは余程の才能が無いと出来ないらしい。
「だから、私は子供の頃、攻撃魔法には向いてないと思ったから治癒魔法を極めようと思ったの」
魔法使いはある年齢に達すると、こういった選択を迫られるそうだ。
「シヲリさん。病気を作ってもらえませんか? もちろん治す方法もセットでお願いします」
シヲリは頷いた。
僕の言葉を理解したようだ。
「......ただ、私のレベルじゃ病気を作るなんて無理よ。恐らく、コブチャでも無理なんじゃないかしら。それこそこの世に何人かいる最上級の治癒魔法使いか、賢者でもない限りね」
僕は不意に、賢者マリクの顔を思い出した。
彼は攻撃魔法も治癒魔法も、ルビーとコブチャと同等レベルに操っていた。
パーティにいた時、僕は彼とはほとんど会話したことが無かった。
他のメンバーに戦いを任せて、彼が戦っているところはあまり見たことは無い。
だが、パーティがピンチになると彼がいつも何とかしてくれた。
どうすればいいか悩んでいた。
最上級の治癒魔法使いがいれば......。
ある日、ギルドに行った。
僕の望んでいた人がいた。
そこに......まるで用意されたかのように。
「彼女の名はミナージュ。見て。このステータス」
ギルドマスターであるフィナが僕にミナージュのステータスを見せてくれた。
フィナはあのサチエの友達だった。
だから、フィナはサチエの自家製能力測定器を持っていた。
ミナージュ(20歳)
Lv.5010
スキル :治癒魔法(最上級)
攻撃力 : 1
防御力 : 50
HP : 300
MP : 9999
素早さ :570
知力 : 7950
運 : 1445
「ミナージュさん。はじめまして」
「ん?」
昼間っから、ギルドの隅っこでビールを飲んでいるミナージュは僕の声に反応した。
白い肌に白い髪。
スラリとした身体に絹の白装束をまとっている。
大きな目に海色の瞳。
鼻筋の通った美人。
いかにも治癒魔法使いと言った風情だった。
「唐突で申し訳ありませんが、僕の話を聞いてください」
僕の計画を彼女に話した。
「分かりました」
彼女は頷くとこう言った。
「治癒魔法をバカにしている輩に復讐する件、お請けしましょう」
「ありがとうございます」
「ただ、私はあくまで治癒魔法使い。その反対となる病気を魔法で作るとしても、それほど強力なものは作れません」
「例えば、どんなものが作れますか?」
「人を殺すほどのものは作れません。せいぜい、風邪を強力にしたもの程度なら......」
彼女はビール片手に淡々と語った。
「その程度で大丈夫です。僕はなるべく死人を出したくない」
「では、用意しておきます。明日、またここで会いましょう」
次の日。
ミナージュは、『病気の元』が入った瓶と、その病気を治癒することが出来る『病気の特効薬』を持って来ていた。
「治癒魔法使いの人は凄いですね。病気を作った上に、セットで薬まで作れるなんて」
魔法の力を込めることで作った病気の元と、『病気の特効薬』。
彼女オリジナルのものだ。
「私より上級の治癒魔法使いでなければ、この病気を治すことは出来ません」
つまり、コブチャではどうすることも出来ないわけだ。
そして、僕は病気の元を街中にばらまいた。
◇◇
ミナージュが望んだ報酬は、999999999999999エンだった。
グルポと同じ額だ。
当然払える額じゃなかった。
だけど、彼女は僕の悩んでる顔を見てこう言った。
「払える時まで待ってます」
そして、彼女は去って行った。
次の日。
「行ってしまうのね」
シヲリが寂しそうな顔でそう言う。
「はい。僕にはやるべきことが沢山あります」
僕は前しか向かない。
「いつか戻って来いよ。その時は、なっ、シヲリ」
「もう、お兄ちゃんったら」
顔を赤くしたシヲリがマツヲの肩をパンチした。
「ところで次はどこに行くんだ」
「西の国」
魔法使いルビーが治める国。
なんだか、呼ばれているような気がするんだ。
「じゃ」
僧侶の国編 おわり
コメント
桜子さんが一番
展開早い。もうコブチャ死んじゃった・・・
VBA使い
「最後にもう二つ」…人差し指を立てて見せた。
→二つだったら、人差し指と中指?
タケルにとどめを刺したのはカズシだと思ってたが、実は違ってたようだ
ケンタが、もう一つは何を聞きたかったのか気になる
VBA使い
追伸
彼は攻撃魔法も治癒魔法「も」
湯二
桜子さんが一番さん。
コメントありがとうございます。
少年漫画ばりに展開早くを心がけてます。
湯二
VBA使いさん。
校正、コメントありがとうございます。
>ケンタが、もう一つは何を聞きたかったのか気になる
「もう一つ」でした。
グランの弱点を聞き出すところで、ハイ終了。
タケルにとどめを刺したのは、何者かがどこかから発した光のエネルギーです。
それはまだ謎です。