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本の原稿をどうやって書いているのかというお話

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エンジニアライフ読者のみなさま、こんにちは。

今回は著者という立場から書籍の原稿をどのようにして作っているのかというお話をさせていただきたいと思います。

前提

最近は手軽に自費出版ができるようになってきましたが、本稿で取り上げるのは著者が出版社と契約して、本を出版して商流にのせて、全国の書店で販売するスタイルになります。

作業の流れ

著者という立場から、本の原稿を書いて、出版するまでの流れは以下のとおりです。

  1. 企画書を作って編集者の許可をもらう
  2. 出版社と契約を結ぶ
  3. 本の原稿を作成する
  4. できあがった原稿を提出する
  5. 原稿の編集が完了するまで待つ
  6. ゲラに対して著者校正を行う
  7. 索引用のキーワードを提示する
  8. 出版されるまで待つ

企画から契約まで

著者が最初にやるべきことは企画書を作って、本当に出版していいかどうかを出版社から承諾を得ることです。出版は営利目的ですから、本を出すことで売上が見込めるかどうかがすべてです。もっとも、本が出せれば、売上なんて気にしないという考えを持つ著者だったならば、売れるかどうかなんてどうでもいいことかもしれません。

無事に企画が通ったら、次に行うのは出版社との契約です。ただし、契約は原稿を書き終わった後に行う場合もあります。これには理由があって、原稿を書き上げることができない著者が案外多くて、出版が立ち消えになることがあるからです。ブログなどの単発記事は書けるけれど、本一冊となると書けない人が多いのです。本を書き上げるのに必要なことは根気です。根性です。ガッツです。そして、孤独な作業に耐えうるメンタルの強さ。

契約形態は業務委託になります。つまり、本がさっぱり売れなくても、著者が賠償責任を負うようなことはありません。このことから作家業はローリスクローリターンと言われています。労力の割には印税収入が少ないのが現実です。契約に伴うリスクは小さいので、著者の参入敷居は低いといえます。

ただし、著者による契約違反やコンプライアンス違反の行為があった場合は、なんらかのペナルティがあります。

 ・出版社の許可なく、勝手に原稿を一般公開した。

 ・原稿に盗用があった。

 ・出版社を誹謗中傷した。

もっとも、ペナルティといっても契約打ち切りぐらいで、出版社との信用を失う程度です。よほどのことをしない限り、出版社から訴えられることはないと思われます。

じごくの原稿執筆

本の原稿を作ります。この原稿のことを著者原稿といいます。著者原稿には著作権が含まれます。そのため、著者原稿を著者がどうしようと自由ではあるのですが、他の本に流用したい、一般公開したいなどの場合は、出版社に断りを入れるのが礼儀です。

さて、原稿はどんなツールを使って作成すればよいでしょうか?

特に指定のツールというのはなくて、フリーフォーマットであるのが一般的です。出版社さん的にはプレーンテキストが好まれる傾向があります。図解に関しては、自分は以前Visioを使っていましたが、ライセンス料が高いので、いまはPowerPointで作っています。

regex_book.png

上記は2001年、今から19年前に作った著者原稿の一部で、テキストエディタで作ったものです。はじめて本の執筆をしたときの原稿です。過去に執筆した原稿はすべてCD-RやDVD-Rなどのメディアに保存しているのですが、一部のメディアはエラーになっていて、もう読み出せなくなった原稿もあります。

そして、著者原稿を書き上げるのがいちばん大変です。ここにかけた労力に対しては無収入ですから、いかに短期間で仕上げるのがポイントです。

ところで、著者原稿はテキストエディタで作成しているといいましたが、最近ではMicrosoft Wordも使うようになりました。正直に言うと、Wordはずっと好きではなかったのです。文書作成といえばワープロの東芝ルポから始まり、一太郎(MS-DOS版)と来て、最後にWordという流れです。

自分が新人の頃、職場のパソコンはWindows98で後にNT4.0に移行しましたが、Word97を使って文書作成を行っていました。Word97はお茶目なアプリで、編集中に落ちる、保存した瞬間落ちる、保存ファイルのサイズが増加していき開けなくなる、保存したデータが保存されておらず巻き戻っている、などの怪奇現象が発生していました。そもそも仕様書や設計書作りが面白くないというのも重なって、Wordにはトラウマがあったのです。

幾星霜を経て、ここ最近になって原稿執筆でどうしてもWordを使わなければならない場面が出てきました。そして、真面目にWordを使ってみたのですが、便利な機能が豊富で、安定性もバッチリで、とても使いやすいのです。ついにトラウマを克服して、Wordが好きになれました。

著者校正

著者原稿ができあがったら、出版社に提出します。これを脱稿といいます。出版社のほうでDTP化されて、著者原稿がゲラに変わります。ゲラというのはgalleyが語源です。

昔は、著者原稿は紙に印刷されて宅急便で送られてきました。赤ペンで校正記号を使って訂正を行っていきます。この時、索引に使うキーワードに蛍光ペンでマークもしていきます。校正が終わったら、宅急便で送り返します。

今は、著者原稿はPDFファイルでオンラインで受け取り、PDFに直接修正をいれています。時代は変わりました。

校正作業は初校と再校の2回行います。3回目は念校というのですが、自分は3回までやったことはありません。

出版まで待つ

著者校正が終わったら、著者の仕事は終わりです。もうすることはないので、あとは出版を待つだけです。

本のタイトルや表紙のデザイン、価格などは出版社がすべて決めます。ただし、タイトルに関しては出版社によりルールが異なります。

・著者に決定権なし。出版社で決める。

・著者の意向を取り入れて、最終的に出版社が決める。

・著者が全面的に決める。

タイトルはキャッチコピーでもあるので、売りに大きく影響します。また、タイトルに含まれるキーワードが登録商標に抵触すると問題となることがあります。拙著ではないのですが、自分がお世話になったことがある、とある出版社から出している本のタイトルが、登録商標に引っかかったことがあり、渋々お金を払ったことがあったそうです。

自分は特にタイトルにこだわりはないのですが、同じ出版社から本を出したことがある、知り合いの著者さんと話をしている中で、「あそこの出版社はタイトルを決めさせてもらえない。売れないタイトルつけやがって!」と憤慨しておられました。

どうやら、自分でタイトルを決めたい著者さんもいらっしゃるようですね。「うちらみたいな本は母数が小さいので、タイトルをいくら工夫しても、どうせたいして売れないよ」と身も蓋もないフォローをしたのを覚えています。

おわりに

本を書くのは大変な作業です。その割には作家へのフィードバックが少ないので、本を書く人たちは物好きなのでしょう。お金にならないことに注力ができるのですから。自分でも、なぜ本を書いているのか意味がわかりません。

けれども、毎日のように大量に発売されている新刊の書籍をみていると、本を書きたい人がまだまだたくさんいるのだなぁと思っています。本好きとしては嬉しいことであります。

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