「高校入試」で学ぶステークホルダー調整法とPM神化論
■ドラマ「高校入試」での意識ギャップ
「高校入試」というドラマが放送されています。
このドラマの特色は、映画「モテキ」以来エロさ全開ふっきれた感のある長澤まさみの脚線美👠もありますが、ドラマ自体の設定にも特色があります。舞台である「一高」(ドラマの舞台となる高校の略称)。そして、関係者たちの意識ギャップ。
そう、この「高校入試」の面白さは、一高の受験生やその親たちと一高の教師との間に高校受験についての意識ギャップが生じている点です。受験生にとっては、多分一生に1度しかチャンスのない高校受験。クラスでいじめにあっていた場合は、リセットできるいいチャンス。高校デビューを考えてもいい。しかし、教師にとっては、毎年実施される厄介なイベントにすぎない。それに加えて、受験生と受験生の親も、一枚岩ではない。受験生の親にとっては、近所の見栄もあるし、有名校に受かってほしいという欲もある。
■プロジェクトにも絶対ある対立関係
プロジェクトにおいても、このような関係者間の意識のギャップは起こることが多い。いや、表面化はしていないが、確実に起こっています。システム開発を例にとると、ベンダやSIerはシステム導入やシステム開発をしたくてたまらない、ユーザーはできることなら、慣れ親しんだシステムを替えてほしくない、システム部はお題目のように「コスト削減」を唱えている。
そして、システム開発が始まると、ユーザーは使いやすいUI(User Interface)を求め、ベンダは最初に決まった仕様を変更したくない。システム部は、仕様はどっちでもいいが、コストをもっと削減させて自分の手柄にしたい。ついでにIT専門誌の記者は、システムトラブルが起こるとウハウハです。
本当に、各社・各者の想いが入り乱れ、会議は踊るだけではなくブレイクダンス。コンサルタントは、関係者間の「Win-Win」を目指しましょうと語ってくれるが、そうそう「Win-Win」などにはなるものではない。中途半端な妥協は、お互いストレスがたまっていくだけです。勝つか負けるか、のバトルが繰り広げられているのです。
■PMBOKの「ステークホルダー特定」というプロセス
プロジェクトマネジメントのグローバルスタンダードであるPMBOKには、「ステークホルダー特定(Identify Stakeholders)」というプロセスがあります。このプロセスの中で、ステークホルダー分析などを行い、ステークホルダー分析マトリクスなどを作成する(らしい)。また、「ステークホルダーの期待のマネジメント(Management of stakeholder expectations )」というプロセスで、ステークホルダーのニーズに応えるために、話合いや対処を行うとあります。
蛇足ですが、ステークホルダー(stakeholder)とは、関係者のことです。「プロジェクトのメンバー自体もステークホルダーに含まれるんですよ!」とPMBOKファンダメンタリストは力説しますが、そんなことはどうでもいいこと。
このステークホルダー分析というプロセス、そしてステークホルダー分析マトリクスは役に立つのでしょうか? いいえ、結局、形だけです。
こんな表を作って、書かれた対策をやったところで、意味がないです。そんなことでステークホルダーをコントロールできるのであれば、苦労はしない。どこにでもモンスターペアレンツやモンスターステークホルダーは、いるのです。「こんなプロジェクト、俺の趣味じゃない」の一言で、プロジェクトをズタズタにするシステム部部長や、なかなか検収印を押してくれない購買担当者、「仕様ですから」を毎回繰り返すベンダのエンジニアや営業、彼らをどうコントロールすればいいのだ? ステークホルダー分析をやれば、何とかなるのか? 説得術や交渉術を磨けばいいのか? それとも金か? 金なのか? 運次第か? ステークホルダーの応援している球団が勝たないと駄目なのか? もしかして、AKBのチケットが必要なのか?
ステークホルダーの意見は絶対に一致することはなく、立ち位置や状況によって、その意見はくるくる変わる。関係者で集まって多数決で決めるのも民主的だが、声の大きいステークホルダーを無視すると後が怖い。自分の正義を貫いて、自分の所属する会社の利益に反することも問題だ。かといって、上司の言ったとおりに伝言しても相手はOKと言ってくれない。いったいどうすればいいのか?
■PMが神になれば解決する、のか?
あるPMは語ります。
「プロジェクトマネジメントっていっても、最後は品格や徳だよね」
なんだ、それ? プロジェクトマネジメントって工学じゃなかったのか? まるで宗教じゃないか? しかし、ある意味納得。講演などで有名なPMのいうことをホイホイきく観衆(という顧客)。プロジェクトの現場で、PMのいうことは絶対服従。顧客はひざまずき、メンバーはPMが語るとおりに作業をすすめ、「カラスが白い」と言われれば、「もしかしたら自分の目がおかしいのではないか」と考える。
そして、もし、もし、プロジェクトが失敗した場合、それはPM以外のステークホルダーが悪いことになる!
そう、PMにステークホルダーを説得・感化・いいくるめるパワーがあれば、プロジェクトはなんとかなります。カリスマ性を持たしてもよい。有名コンサル出身というブランド属性も有効だ。関係者を煙にまくために、英語で語るのもポイントが高い。しかし、そんなプロジェクトには、絶対参加したくない。PM神に仕えるくらいなら、自分が神になってやる。
そして、さまざまな宗教が生まれたのです。
それでは、また別のお話で。
「高校入試」
2012年10月6日から、フジテレビ系列の土ドラ枠で放送。主演は長澤まさみ(役:帰国子女の英語教師 春山杏子)、共演に南沢奈央(役:音楽教師 滝本 みどり)、中尾明慶(役:体育教師 相田清孝)等。なんと、10年前に子役(「僕と彼女と彼女の生きる道」の小柳凛)で知名度アップした美山加恋(役:受験生 芝田麻美)も出演。脚本が「告白」の湊かなえ(初の脚本)というもの注目。