エンジニア目線でインストラクターの仕事についてご紹介します

IT研修インストラクターは季節労働者?

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 またまた、前回からかなり間が空いてしまいました。すみません。

 ということで、今回は「IT研修インストラクターは季節労働者?」という話題です。

 いきなり関係ない話で恐縮ですが、北海道の実家にいるわたしの妹が、昨年から雑貨屋を始めておりまして、ときどき仕入れのために東京にやってきます。先月も仕入れで来ていたので、会って話を聞いていたところ、「どの商売もニッパチはダメっていうでしょ。だから今月は厳しい」というようなことを言っておりました。「ニッパチ」というのは「2月、8月」のことを示す言葉で、商売全般において景気が悪いとされる月なのだそうです。

 ニッパチは小売業に特に顕著といわれているそうですが、それ以外の多くの業種でも、やはりよく売れる時期とそうでない時期というのはあるのだと思います。

 では、IT研修業界はどうなのだ? ということなのですが、実はこの業界はニッパチなんてレベルではなく、季節労働者といっても過言ではないほど、忙しい時期とそうでない時期の差があります。

■ 需要の大きい新入社員研修

 IT研修の業界に何年か身を置いて、徐々に分かってきたことなのですが、IT研修の需要において、新入社員研修というのはかなり大きな比重を占めています。

 需要が大きくなる理由としては、

  • ITエンジニアに配属予定の新入社員全員が受講する(同一の研修を複数クラスに分かれて受講する場合も多い)
  • 研修期間が一般の外部研修と比べ非常に長い(1カ月~数カ月)
  • 期間中は、ほとんど毎日研修が実施される
  • 実施時期が集中している(おおむね4月~8月)

などがあげられるでしょう。

 一般のキャリア社員が外部で受講する研修の場合、

  • 研修受講を希望する(または上長などに指名された)特定の社員が受講する
  • 研修期間は長くても3~5日
  • 実施時期が特に決まっているわけではない

というような条件であると思いますので、新入社員研修とはかなり異なることがお分かりいただけると思います。

■ 季節労働者になってしまう理由

 ここに、IT研修インストラクターが季節労働者になってしまう理由があります。つまり、4月~8月くらいまでの「春~夏」にかけては、講師の人数が多く必要なのですが、それ以外の時期である「秋~冬」には、それほど多くの講師が必要なわけではありません。しかも多くの研修業者では、その落差がかなり大きくて、「春夏」には10数名の講師が同時並行で稼働していても、「秋冬」にはせいぜい2~3人くらいでまかなえてしまったり、ということがあったりするのです。

 では、春夏に稼働していた10数名の講師に対して、仕事のない秋冬にもお給料を払えるのかというと、やはり難しいですよね。「ウチは秋冬は仕事がないので、その分、春夏の研修の価格は高くさせていただきます」という理由で価格設定をしても、お客様に納得してもらえる可能性は限りなく低いのですから。

 そんなケースで重宝される労働力といえば……。そうです、昨今の不況でクローズアップされている「非正規雇用」のリソースですね。実は、この業界でもフリーランスでIT研修インストラクターをされている方というのは多くおられます。

■ 春夏の講師は早い者勝ち

 そんな状況ですので、実は多くの研修事業者さんは、春夏の繁忙期の講師の確保がとても重要だったりします。限られた外部リソースをいかに早く確保するかの勝負なのです。弊社の場合、所帯も小さく身軽なので、研修事業者さんから見れば非常に便利な外部リソースにあたります。大きな研修会社に勤めている講師の方は、繁忙期は自分のところの研修講師で手一杯ですから、外部の研修に派遣できるはずがないわけでして、いきおい、フリーランスの講師や小さい会社の講師などに依頼が来るわけです。

 とにかく、講師の確保は早い者勝ち、という面が強いために、弊社のような小さな1人会社でも、かなり早い時期から打診をいただきます。特に新人研修の需要が多い4~6月に関しては、実施前年の10~12月あたりがピークで、年を越す前に翌年の春の予定がすべて(しかもほぼ毎日)内定している、ということも珍しくありません。年が明けてからも、春先の講師の依頼が来ることはありますが、多くの場合にはやむなくお断りをしているという感じです。

 ですので、春夏にかけての予定は、割合早い時期に見込めるのですが、秋冬はそういったことが少ないので、会社としては気を揉むところです。

■ 講師はアリとキリギリス

 わたしが数年前にご一緒したフリーランスの講師の方などは「自分はアリとキリギリスですよ」とおっしゃっていたことがありました。これは「春夏はアリのように働き、秋冬はキリギリスのように遊んで暮らす」という意味です。

 実際、繁忙期に当たる春夏は上記のようにほとんど毎日講師に立たなければなりませんので、かなりキツイ労働です。しかし、閑散期の秋冬については、まったく仕事がないというわけではないのですが、かなり空く時間もあるので、気楽にのんびり過ごせる、ということなんですね。

 実際、フリーランスで自分1人であれば、それでもなんとかなってしまうのかな……と思ったこともありました。わたしの場合、1人とはいえ法人としてやっているので、どうしても月々の固定費などいろいろあって、なかなか秋冬をキリギリスのように過ごすことは難しいのですが……。とはいえ、まとまった休暇などを取るのはどうしても秋冬でないと難しいという状況はあります。

■ アリとキリギリスに憧れる方に

 激務が多くて年がら年中忙しいITエンジニアの皆さんからすると、「アリとキリギリス」生活も悪くないのでは? と思えるかもしれません。

 わたしも、ITエンジニア時代に徹夜続きの開発作業をしているときなどは、「このプロジェクトが終わったらど~んと有給消化して1週間、いや2週間は旅行に行ってやる」と思って頑張ったりしたものですが、職場によってはプロジェクト終了後のスケジュールに「ひっそりと」上司が次のプロジェクトの予定を入れていたりする、なんていうこともあると思いますので、なかなかまとまったお休みもままならないですよね。

 IT研修インストラクターは繁忙期と閑散期がはっきりしている業種なのですが、例えばエンジニア経験のある方がフリーランスになられるとしたら、閑散期には開発案件を受託するなどして収入を安定させる手段もあると思います。もちろん、春夏にアリのごとく激務をこなしきって、秋冬をキリギリスのように過ごすライフスタイルを満喫するというのも良いと思います(春夏でそれだけ稼げるかは保証の限りではありませんが……)。

 IT研修とはこんな業界なんだな、とITエンジニアの皆さんの参考にしていただければと思っております(結局、また講師業をおすすめする結論になってしまっているのですが)。

 次回は……いつになるか分かりませんが、講師をやってみたいなと思う方のための話題などを書いてみようかなと思いますので、どうぞお楽しみに。

Comment(4)

コメント

popo

こんにちは。中越さん。

私もエンジニア上がりの講師をしておりました。
会社に所属しておりましたが、
それでも季節労働者風でした。
夏までは何があっても倒れることはもちろん
風邪を引くことも許されず(受講者の皆様にうつすとまずい)
連日長時間たちっぱなしのしゃべりっぱなし。
逆に秋以降はまったりと教材の開発や、
定期的な技術研修に登壇したり
有給や遅めの夏休みを取得したり。
会社員でしたので給料は変わりませんが、
仕事内容の波は津波とべた凪ぐらいあったように感じます。

それでも初々しい新入社員さんを前に
講習をするのは大変ではありますが
非常に楽しいもので、
これはスキルアップ研修などとは比べ物にならないくらいです。
大変だけどやりがいもある楽しい職場でした。

また、違った記事を楽しみにしています。

popoさん>

コメントありがとうございます。

>夏までは何があっても倒れることはもちろん
>風邪を引くことも許されず(受講者の皆様にうつすとまずい)
>連日長時間たちっぱなしのしゃべりっぱなし。

これは、本当にキツイですよね・・・。
私も、繁忙期は花粉症でもないのに電車ではずっとマスクを着用しています。
それと帰宅後の手洗いとうがいは欠かせません。

その大変さはあるものの、やりがいも大きい、というのは、私も全く同感です。

また、ご感想をいただければ幸いです。

ヨギ

はじめまして。コラムニストのヨギです。

IT研修インストラクタの世界(実態)を初めて知りました。

ITの世界も働き方はいろいろありますが、かなり特異な働き方なんですね。
僕も業界にけっこう長くいますが、この事はぜんぜん知りませんでした。

>例えばエンジニア経験のある方がフリーランスになられるとしたら、
>閑散期には開発案件を受託するなどして収入を安定させる手段もあると...
なるほどー
実際は、なかなか簡単にはいかないでしょうけれど、
コツをつかめば、ありえる働き方ですよね。
ふーむ.............

自分、43才なのですが、これからの生き方(稼ぎ方)をいろいろ模索中なので
とても参考になりました。
ありがとうございます。

ヨギさん>

コメントありがとうございます。

>ITの世界も働き方はいろいろありますが、かなり特異な働き方なんですね。
>僕も業界にけっこう長くいますが、この事はぜんぜん知りませんでした。

実は、前のエントリでも書いたのですが、インストラクターの立場は、客先常駐と似ているところもあるかなぁ、などと思っています(短期ですが、エンジニア時代に常駐を少し経験したことがあります)。自分以外ほとんどが外部の人間という環境で、一日のほとんどを過ごさないといけないという点がそれにあたるのかな、と・・・。

ヨギさんのコラムを拝見したのですが、常駐の場合は期間が長いけれど、必ずしも自分が終始注目されているとは限らないということですよね。講師の場合は、期間は割と短め(1日単位から、新人研修でも長くてせいぜい3ヶ月)ですが、自分に終始注目されている度合いは極めて高い。という感じです。

ただ、講師の場合は、常駐SEさんより有利なところとして「教える側」というのがあるので、なんとなくお客さんよりも上の立場で見てもらえることが多い(講師自身はあまりそう思っていないのですが)ということがあるかもしれません。

ITの講師の場合というかどのジャンルの講師も同じとは思いますが、実務経験が豊富な方が重宝されるので、ヨギさんのように経験が長く、しかもいろいろなタイプの業務をされている方は講師にうってつけではないかなあ、と思いますよ。

ではこれからもよろしくお願いいたします。
コラムのほうもまた拝見させていただきます!

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