意識改革は、比較的簡単に大幅な作業改善を図ることが可能です。

意識改革からの作業改善 ~ 5.損失を考える

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 『「絶対、もしくは、絶対以上」というものは9分9厘存在していない』ということを前回書きました。

 システムを開発する上で、多くの場合(意識されていようと、いまいと、それに関わらず)問題なのは、尊守すべき事柄と(常識を含む)ローカルルールの区別がされていないことです。

 システム開発において絶対に守らなければならないことというものは大抵、あらかじめ明示されているいくつかの(それほど多くない)決めごと程度のものです。(もちろん、機能詳細やクリティカルな部分などは厳密に決められているべきですが、そこに至る過程や、実現する過程、手段はいくらでも柔軟にすることが可能です)

 しかし、それ以外の「開発工程は絶対にこうあるべきだ」「他社から来るデータの(未来の)変更点を全て吸収できるデータベース設計にしなければならない」などは、多くの場合、個人の思い込みなどのローカルルールと言えます(後者はそもそも不可能)。チーム内のローカルルールと知っていて、統一ルールとして尊守しようと意見統一を図るのは構いませんが、一方的に意見を押し通すことには問題があります。

 これらの(一方的な)ルールを適用したシステムは、他のチームで働いたことのある人間から見ると非常に滑稽に見えるものです。また、そのルールを無闇に展開することは、自分だけではなく、他のメンバーの大きな負担となり得ます。

 もし配下のメンバーが潰れてしまうことが多いチームのリーダーは、(潰れてしまったのは)本当にそのメンバーの所為なのか振り返ってみることをお勧めします。

第2回では、残業について書きました。

 残業は作業、成果物、労働者、使用者、企業にとってメリットよりデメリットが多く、組織のことを考えるのであれば、残業はしない方がいいという内容でした。

 これにも例外があって、他の会社に人材を送り、その報酬から利益を得ている会社(多くのIT系会社が当てはまると思います)の場合、契約内容によっては労働者の残業時間分、利益を上乗せできるケースが考えられます。

 この場合は作業、成果物、労働者のデメリットが大きく使用者、企業にはメリットと感じるかもしれませんが、企業対企業の信用度がどの程度稼げるかと長期的に考えてみると、即物的で自滅的なメリットであることが分かると思います。

 また、労働者にかかる負担による疾病リスクなど、「時間」をかけて成長した人材を失うという「損失」が出る可能性の増大を考慮しなければいけなくなります。

 これを損失と考えず、「あいつは駄目な奴だった」と切り捨て、新しい人材を人事に要求する管理者は、知らずに多大な損失を企業に与えていることになります。 いくら管理者本人が出来る人間であったとしても、居なくなった労働者にかけた時間と契約企業に対する信頼、そして自社の損失に加えて、労働者の人生……残念ながら、それらの全てを取り戻すことは不可能でしょう。

 この回の余談では36協定という言葉が出てきました。

 これは、労働基準法・第三十六条(時間外及び休日の労働)に記された労働組合、なければ労働者の過半数を代表する者との書面による協定を言います。

 企業はこの36協定を締結し、行政官庁に届け出て初めて、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて労働させることができます※註1

 この36協定には法定時間外労働の限度時間(残業の限度時間ではないことに注意)が設定されています。基本的に使用者は、この限度時間を超えて労働者を働かせたり、定められた残業手当を出さない場合、労働基準法違反となります(労働基準監督署からの是正勧告があり、悪質な場合には書類送検もあり得ます)。

 しかし、納期間近や不具合多発、機器の故障など具体的な特別事情により、この限度時間を超える可能性が考えられます。 そんな場合を想定して限度時間を二重底にすることが可能で、これを特別条項付36協定と言います。 ただし、あくまで臨時的な特別処置であるため年の半分(半年)を超えることはできません。

 たとえば特別条項付36協定の場合に、6カ月連続で36協定の限度時間を超えて働いた労働者が、「これ以上、限度時間を超えることはできない」と会社から指導を受け、次の月から毎日定時で帰るようになったという例を考えてみましょう。

 ごく一般的に有り得る、普通の出来事だと思っていませんか?

 しかし、これこそが減らすことのできる残業です!

 むしろ、ちょっと指導した程度で定時に帰ることができるよう働けるのであれば、何故今まで限度時間を超えていたのかと疑問を持たなければ、企業の損失は止まりません。さらに言えば、恒常的に限度時間を超えていたのであれば、明確な理由があったとも考えにくいため、特別条項の条件に当てはまらないことに気づくでしょう……会社内で当り前のように行われていることでも、よくよく調べてみると労働基準法などに抵触していることは結構見当たるものです。

 そもそも、残業自体が日々の仕事からはみ出してしまった部分であり、それが恒常的に行われること自体がおかしいという意識を持ちましょう。 届出を出さない限り残業が許可されないことからも、それが読み取れるでしょう。 人件費が一番の負担とも言えるIT業界における残業は企業の損失であり、さらには個人の健康、ひいては人生の損失にもつながりかねないのです。 限度時間を見て、「ここまでは働いても大丈夫」という考え方をするのはやめましょう。

 ただ、勘違いしないでいただきたいのは、すべての残業が悪と言っているのではないということです。 必要な残業も間違いなく存在しており、それを認めた上で残業が必要最低限になる仕事を心掛ける方が良いと言っているのです。

 その他、日々の勤務時間の切り捨て(「15分に満たない分は切り捨て」など)、休憩時間の自由に関することなど、職場でよく見かけるような部分にも労働基準法違反は存在しています。 そういった部分は、より良い企業になるためにも、どんどん是正していくべきでしょう。

 また、アルバイトでも半年続けると有給休暇が取れるなど、知っていると有利なことが結構あるので、労働基準法の知識などはある程度付けておく方が身を守るためにも良いでしょう。

■注1

 36協定の届出がされている場合、残業の要求があれば労働の義務が発生し、正当な理由が無ければ基本的には断ることができません(終業時間間近だったり、大きな損失が発生する場合などは考慮されます)。 ただし、残業を無理に強要するような行為を行った場合には強要罪などに問われる可能性も考えられるため、使用者、労働者共に強硬な態度をとることは賢明ではないでしょう。

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