選択・集中・振り返り
前回のコラム(「社会人大学院への挑戦」)では、これまでのキャリアや、社会人大学院に入ろうとしたきっかけなどをお話ししました。今回は本題の学校の中身と、私自身が通って感じた事を書きたいと思います(なお、本コラムの内容は、あくまでも阿部が個人的に感じた事、思ったことを書いています。産業技術大学院大学との直接の関係は無いことを念のためお断りしておきます)。
さて、カリキュラムについて軽くふれておきます。
大学院大学ということで、基本的には2年間のマスターコースになります。授業自体は、平日夜間2コマ+土曜日4コマという構成で、2カ月単位で4クォーター制をとっています。やはり、基本的には仕事をしながら通うところですので、長期間引きずる形ではなく、できるだけ短期間で完結する形をとっているとのことです。
カリキュラムは大きく2つに分かれており、ざっくり以下のような形態をとっています。
- 1年次:講義形式。各科目はそのクォータ内で終わらせる短期集中型。ただし、座学だけの講義はほとんどなく、何らかの実習やグループワークが必ずついてきます(やっぱり手を動かさないと身につかないですし、またチームコントロールのような、特定の技術ではない部分のコンピテンシーも重要視しています)。
- 2年次:PBLという、チームに分かれてプロジェクト形式で、1年間1つのテーマにチームで取り組む形式。いわゆる修士論文のようなものはない。
カリキュラム等の正式な情報については、是非産業技術大学院大学のWebサイトをご覧いただきたいと思いますので、ごく簡単に触れておきます。
■現状とスキルアップに対する悩み
さて、前回でも少しふれましたが、この学校に入ろうとしたきっかけは、自分を振り返ってみて、以下の2点に気づいたことです。
◆知識/ノウハウの技術領域が非常に偏っている。
これまで、いくつかの開発プロジェクトの現場でやってきました。やはり、技術やノウハウが自分の血肉になるのは、苦労してやり遂げる開発現場だと思っています。一方で、それぞれの開発プロジェクトでは、特定のお客様の業務があり、それを実現する処理方式を決定し、それを実現するための設計技法や言語を決めて、その中でどう実現していくかを突き詰めていく。必要とされる技術や知識の領域は、限られています。
一方、いまの職種では、180度変わって、ある意味ですべての業種、すべての開発プロジェクトが相手になったわけですが、自分のスキルを振り返ってみると、自分の経験の範囲では強いのですが、そこから一歩外にでると、ぜんぜん太刀打ちできない状態になっていることに気がつきました。これが1点目です。
◆技術の原理原則を知らない(単なる小手先の技術になっている)
これは、先の内容と関連しているのですが、じゃあ、全部の技術や方法論を全部押さえられるかというと、そんなことは神様でもない限りできないことです。神様みたいな人ってたまにいますけどね(笑)
長年、いろんな案件を経験してノウハウを積み上げる、という方法もあるでしょう。ただ、仕事は仕事。現状はそれを許してくれません。じゃあ、どうするか、と考えたときに、(ちょっと表現がむずかしいですが)根底にある原理原則とか、そういう領域の考え方を身につけないといけないのではないか、逆に、そういうところの考えかたを身につけておかないと、様々な技術がどんどん出てくる中で、この先エンジニアとして生きていけないのではないか、と思ったところがあります。
別に、システム開発の問題点を根本的に解決する何かがあるのでは、とかそういう考えではなく(銀の弾丸はやっぱりそうそうないようです)、例えば、何か1つの開発言語でしっかり作れるようになると、プログラムの基本的な考え方が身について、ほかの言語をやるときも、その言語の深いところをおいておくと、「勘所」みたいな部分って一緒の部分があるじゃないですか。そういう感覚を身につけたいな、と思った次第です。
少し固いことを書いてしまいましたが、「そんなん自分で地道に勉強すればいいじゃん」という意見もあるかと思いますが、やっぱり、正直腰が重くって、家に帰ったら結局だらだらしてしまうじゃないですか。なので、自分を強制的にそういう環境においてみよう、というのも正直なところです(ホントにすごい人たちは、その辺が違うのでしょうね)。
■私の考える、うまくやる秘訣
◆選択と集中
この学校では、カリキュラムとしては情報システムにかかわるほぼすべての領域をカバーしており、1つのクォーター当たり結構な数の講義があります(だいたい、6~7つぐらい)。
せっかくこんな学校に入ったし、未経験の分野も、これまでやってきた分野もすべからくきっちり学びなおしたいと思って、最初のクォーターはたくさん講義を取りました。その結果、日々のレポートやクォーター末の試験などが集中して、ちょっとやばい状態でした(ちょっとです。たぶん、おそらく)。
正直なところ、成績はどうでもいいと思っていましたが、やはり「学校」。単位はとらないと先に進めませんので、試験やレポートにも手を抜くわけには行きません(もちろん、試験やレポートを通して考えないと身に付きませんし……)。
しかし、講義を取りすぎると、そのために細かいところや、自分でゆっくり考える所を通り越して、「こなさなければならない」状態になってしまいます。そんな状態では、せっかくの貴重な場も意味がなくなってしまいます。
やっぱり、自分が強化したい領域をきっちり見定めて、それにマッチする講義を選択する、そして、とった講義にじっくり集中するやり方が良いようです。私は、自分で強化したい領域を、アプリケーションアーキテクチャ系、データベース系およびプロジェクト管理系に軸をおいて、それにマッチする所を集中的に選択してやっていました(ですので、単位はぎりぎり+αぐらいしかとっていません)。
◆振り返り
「正直、講義の内容やレベルってどうなんだろう?」とか、「本当に自分のやりたいところとマッチするのだろうか?」といった不安は必ずあると思います。普通のセミナーなら1回きりなので、「いまいちだったなぁ」で終わるところですが、大学院の場合は、2年間という期間です。期待はずれだったら、残念なことになるわけです。
学校というパブリックな場なので、広くカバーしなければいけませんし、いろんな職種・経験の人たちが入り乱れていますので、講義の内容としてもある程度一般化しなければならない部分はあるでしょう。実際、狙った領域と少し離れていたり、「その先が知りたいんだ」といったところは少なからずありました(ここはその人の経験とか専門とかによるところはあるでしょうが)。加えて、やはり開発方法論とかのやり方は、人や会社で、独特の文化みたいなものがあるので、そういう面でのギャップも結構出てきます。
そういうところで、「期待はずれ」と思ってしまうとそこでやる気がなくなってしまうのですが、私は、自分の経験や自社でのやり方や文化みたいなところを振り返って考えて、その講義で言っている内容と比較して考えながらやっていました。そうすると、入社以来叩き込まれてきたやり方だとかの、良いところと悪いところとが結構見えてきたりするところがだんだんと出てきます。普段当たり前だと思っていたところを改めて考えてみると、「なるほどそういう考えもあるよね」とか、「やっぱり自分たちのやり方って間違ってなかったね」とか、「ここはこうしたほうがよさそう」といった気づきがいろいろと出てきて、より面白くなっていきました。
時々、そんなことをずーっと考えていて、肝心の講義内容が途中から完全に上の空になっていたり、ぜんぜん聞かなくなってしまったりとか(先生すいません)、講義の後の質問時間で、講師の先生とディスカッションしてしまって、授業の終了を引き伸ばしてしまったり(みんなごめん)、といったこともありましたが……。
純粋に知らなかったり、あまり経験していない領域の話を学べるところもいいのですが、やっぱりほかの人(講師や同じ学生同士の会話も含めて)の話や、ほかのやり方、そしていわゆる一般論的なところを聞いて、振り返ってみると、いかに自分がこれまでの経験や慣れ親しんだやり方で凝り固まっていたのか、といったところに結構気づきがありました。こんな観点で自分を一回リセットする場として考えてみると、また違う面白みが出てくる、というところを実感しています。
次回は、もう少しメリット・デメリットみたいなところや、学校に通うようになってからの暮らし方とか、その辺もお話したいと思っています。