166.【小説】ブラ転15
初回:2021/7/21
ブラ転とは... 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略
1.勤怠管理
私(杉野さくら)は、山本さんと話した内容を、早坂さんに相談するため、社史編纂室に戻ってきた。部屋に入るとすぐに目についたのは、段ボール椅子に腰かけて早坂さんと話している二代目だった。
「あれ、こんなところで、何されてるんですか?」
私が何か言うよりも早く、山本さんが二代目に話しかけた。
「先ほどまで、秘書部にも顔を出していたのですけど、居られなかったのでお帰りになられたのかと思っていましたのに...」
「別段、用事なんてないだろ」
「それが...このプロジェクトへの参加時間を、週2日に増やしていただきたいと思いまして...」
「私の面倒は見てくれない...と」
「いえいえ、二代目は、今回の『Web申請予約システム』を使いこなされていますので、いちいち私に確認されなくても大丈夫かと...」
「ほめ殺しかな」
「そんなつもりは...バレましたか?」
「まあ、いいよ。プロジェクトが軌道に乗ってきたって感じかな?」
「いえ、これから軌道に乗せるために、少し時間が必要かなと思ったもので」
「好きにしていいよ」
「ありがとうございます」
私は、二代目と山本さんの会話が終わるのを待って、早坂さんに相談内容を切り出した。
「早坂さん、このシステム、外販してみません?」
「ん~、これだけじゃちょっと厳しいんじゃないか」
「うちの部署で扱ってる監視カメラとRFIDのデバイス制御、サーボモータの制御技術を組み合わせた入退室管理と、Web申請予約システムの日報機能を合わせた、勤怠管理システムも追加するのはどうかなと思って...」
「ん~、どうかな。営業は...まあ、サービス部門に副業でもやってもらうか」
私と山本さんが顔を見合わせてほほ笑んだ。先ほど二人で話していた作戦と同じだと思ったからだ。
「社内副業制度を使うんだね」
二代目がフォローした。まあ、発案者なので、想定範囲内の事だろう。
「今回、本社に導入したのは、既存の社内サーバーに相乗りしただけのオンプレミスだけど、外販するとなると、クラウドも視野に入れとかなきゃいけないし...」
「僕には雲をつかむような話なんだ...」
二代目は愛想笑いを浮かべている。私には意味不明だった。山本さんを見ると...何となく二代目と同じ感じで、愛想笑いをしていた。私の様子を察知した二代目が、説明してくれた。
「まず、オンプレミスというのは、自社構内にサーバーを置いて運用する形態のことだよ。うちは、専用線を引いてレンタルサーバーで一部運用してるけど、インターネットから直接つながせず、自宅からはVPN経由で一旦社内ネットに接続してからでないと、業務系システムには接続できないだろ。災対版オンプレミスといったところかな」
「一方クラウドは、インターネット上から直接アクセスできるシステムって所かな」
正直、よくわからなかった。そういえば、マサシさんも一度そういう説明をしてくれたことがあったような、なかったような...
「で、早坂さんが言ったクラウドって、システムのクラウドの事でもあり『雲』という意味でもあり...まあ、使い古されたオヤジギャグってやつだったんだ」
「二代目~、そういうのをまじめに解説されるのはちょっと...」
「せっかくのギャグでポカンとされても、かなわんだろ」
「私はよくわかりませんが、クラウドにしないといけないんですか?」
山本さんが疑問を口にした。私はオンなんとかもクラウドもよく分からなかったので判断がつかなかった。
「そうだね。サービス部門に営業してもらうのはいいけど、サーバー設置から運用までを色々レクチャーしながら自分の業務もこなしてっていうと、ちょっと嫌がるかも。その点クラウドなら、説明も簡単にしてとりあえず使ってもらって顧客に判断してもらえるから、導入は簡単になるだろうね」
「そんなもんですかね」
「そんなもんだろ」
2.ヒアリング
「どちらにしても、どういう構成にするか、どういうデバイスが使えるかも含めて、OEM製品事業部の技術者に話を聞きに行く必要がありそうだね」
私(早坂)は、冗談ではなくクラウドシステムを避けてきた。というかその必要性を感じてなかった。というか、5年前に技術部を追い出されて以来、新しい技術情報を集めていなかったので、現状をよく理解していなかった。
「じゃあ、今から行きます?」
杉野さんが声をかけた。山本さんはうなづいている。
「二代目も行かれますか?」
「一緒に行っちゃダメなんか?」
「じゃあ、行きましょう」
山本さんと杉野さんが連れ立って部屋を出た。ピクニックじゃないんだから、そんなに浮かれて何しに行くんだか。
二代目が二人に続いて出ていくのを確認し、私は手帳を持って最後に部屋を出た。
技術部に着くと、山本さんと杉野さんがすでに技術部員と話し込んでいた。といっても単なる世間話という感じだった。二代目はというと、早速部長と1課長につかまっているようだった。何しに来たんだ!
「あれぇ、早坂先輩じゃないですかぁ。最近よく見かけますね」
えーと、新人研修の時の...
「今回は...と、杉野さんはあそこだし...何の御用です?」
「いや、ちょっと、技術部の製品の事と、最近のシステム事情を聞きたくってね」
「私にわかる範囲なら、答えますよ」
「じゃあ、監視カメラの製品と、RFIDのデバイス制御と、サーボモータの制御技術について教えてくれるかな」
「いや、いきなりいっぱい言われても、一つづつ行きましょう。えっと、サーボモータですか?」
「先に、監視カメラの製品から行こうか」
======= <<つづく>>=======
登場人物
主人公:クスノキ将司(マサシ)
ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
婚約者:杉野さくら
クスノキ将司の婚約者兼同僚。
秘書部:山本ユウコ
二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週一で参加している。
社史編纂室:早坂
妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。
社長兼会長:ヒイラギ冬彦
1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
姉:ヒイラギハルコ
ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
二代目(弟):ヒイラギアキオ
ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。
ヒイラギ電機株式会社:
従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。
スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』
ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。
P子:「クラウドの説明、ざっくりしすぎてない?」
早坂:「SaaSやIaaSの説明しても、余計に混乱するだけでしょ」
P子:「まあ、何となくでも理解できればOKね」
早坂:「それはそうと、クラウド系の話に行っても大丈夫かな」
P子:「どうして」
早坂:「作者、クラウド全然知りませんよ」
P子:「もしかして『初歩からのクラウド』みたいなコラムにしようとしてたりして」