今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P40.新組織(8) [小説:CIA京都支店2]

»

初回:2020/07/15

登場人物

これまでのあらすじ

 Mi7滋賀営業所の山村クレハと、CIA京都支店の川伊(P子)が、警視庁公安部の源静香の仕事を受けるためのトンネル会社の代表取締役になった。社名は Miracle Communication Systems(ミラクルコミュニケーションシステムズ)、略して MCS に決まり、事務所も佐倉部長が用意した新築のオフィースビルに決まった。
 翌日、関係者みんなで、新会社に見学しに行くことになったのだった。

18.新しいオフィースビル

 佐倉部長が買い取ったと言うオフィースビルに、それぞれの会社ごとに、現地集合することになっていたが、ほとんど同時にビルの前に到着した。京都駅の南口から、徒歩5分ほどの場所で、近鉄東寺駅にほど近かった。オフィース街ではなかったが、観光スポットでもなく住宅地と商業施設群が混在していると言った雰囲気の場所だった。

 今回の見学ツアーの参加者は、CIA京都支店からは、社長のP子、城島丈太郎、ラズパイの佐倉部長、デバイス開発室の早坂室長代理が参加した。Mi7滋賀営業所からは、代表取締役の山村クレハとメンバーに選ばれた浅倉南、それに元KGBで今では二重スパイとして活躍...していない山本五十八君だった。

「えっと、このビル丸ごと新会社の本社ビルになるんですか?」

 丈太郎は、ラズパイ(=佐倉部長)をバックパックに入れていたが、それを正面に抱えていたため、周りの人から見るとうつむいてボソボソ言ってる危ない人に見えたかもしれない。丈太郎は、がっしりした体格だったが、見た目も振る舞いも好青年っぽく礼儀正しく見えた。電車もそれ程混雑していなかったが、バックパックを背中に担がずに前に持っていた。

『いいえ、ここは8階建てだけど、1階はほとんどエントランスで使えないし、最上階は会議室、残りの6階の内、2フロアを私たちが、4フロア分を他社に貸し出すつもりよ。あなた達には好きな階を選ばせてあげるわね』

 佐倉部長は楽しそうに答えた。

「私達も、賃貸ですか?」

『当然でしょ』

 P子の質問に対して、佐倉部長も間髪入れずに答えた。

 8階建てのそのビルは、足場こそ残っていなかったが、エントランスホールなどはビニールが残ったままの様子だった。

「確かに市内の一等地だけど...まだ、完成してないんじゃないのか?」

『だから言ったでしょ。工事途中で会社が倒産したのを買い取ったって』

 丈太郎の疑問に、丈太郎が持つラズパイから佐倉部長が答えた。

「まあ、内装は1/3は完成してるみたいだし、残りは好きにデザインすればいいんじゃない?」

 P子が答えた。

「いや、ビジネスオフィースで、DIYって、アメリカじゃないんだから...」

「いや、アメリカでも、自分のオフィースを DIYしないでしょ」

(「あの二人って、いつもあんな感じなの?」)と浅倉南が山村クレハに問いかけた。もちろん、普段の二人をクレハも知らなかったので、そんなことを聞かれても判らなかった。

「エントランスに受付嬢置きましょうよ」

 丈太郎が、同意を求める様に、山本五十八君を見た。山本君は、(自分はそんなつもりはありませんよ)と言った雰囲気を出しながらクレハを見た。クレハは気づかない振りをして浅倉南とビル内の様子を見ている風を装っていた。早坂さんは、同意の意思表示を示すように、うんうんとうなずいていた。P子はいつもの事だと半分諦めながら、クレハを見た。フロア割をどうするか決める必要があったからだ。

「クレハさん、どうします?フロア割の希望はありますか?」

「実際、2フロア分も人を雇うつもりはありませんが、CIAさんとMi7でフロアを分けておくのは有りだと思います。川伊さんは、当然上の階が良いですよね」

 普通は上層階ほど良いという事だが、8階が会議室エリアと言う事は、7階か6階と言う事になるが、上の階だからと言って夜景がどうとか言うほどの差はないと思われた。Mi7だから、7階にしてあげようかと思っていたが、丈太郎も早坂さんも目玉を上下に動かして、顎をしゃくる様に前後にがくがくさせていた。無言のプレッシャーが(絶対7階がいい)と言っている様だった。

「じゃあ、お言葉に甘えて、7階をCAIフロアに頂こうかしら」

 丈太郎も早坂さんもうんうんと首を上下に動かしていた。一連のやり取りを見ていた浅倉南は、思わず吹き出しそうになるのをこらえていたのだった。

19.フロア割

 1階はエントランスに倉庫、少し小ぶりだが堅牢そうな部屋が複数あった。電力制御盤やら空調制御室やら守衛室に使えそうな部屋、受付嬢の控室みたいな部屋も準備されていた。そして、2階のフロアは、貸し出しに使えそうだったが1か所だけ空調と消火設備が違っていた。どうもコンピュータ室にでも使うつもりだったようだ。

『元々、本社が引っ越してくる予定だったらしいので、そこのシステムをここに置く予定だったらしいの。光ケーブルもここに集約されていて、ここから各フロアに引かれているの。だから、オフィスの貸し出し時にも、ネットワークは私たちが一括で管理することになってるの』

「要するにここに入る会社の通信は、すべて筒抜けって事ですか?」

 丈太郎が佐倉部長に問いかけた。当然、クレハも浅倉南も聞いていたが、最初からそんな事判っていたので、対策するつもりだったのだろう。

『2階はレイアウトが少し違うので、貸し出すの止めて、本社の一部を持ってきましょうか?例えばデバイス開発室とか、支店長室とか』

「いっそのこと、MCS(新会社の略号)にバイス開発室を作って、CiAとかMi7とかに製品を販売するってどうですか?支店長室は要りませんけど」

 丈太郎が提案した。早坂さんもうんうんうんうんと首を上下に動かしていた。CiA京都支店にすれば、デバイス開発室は間接部門だから、アウトソーシングしても構わないだろう。といってもスパイ道具を作っている部署なので、普通の民間企業に委託する事は出来ない。そういう意味では、身内であるMCSで経費を使って、CiAへの売値で利益操作すれば、節税対策になるかもしれない。しかも、同じ製品をMi7にも販売できれば、開発コストを抑えることが出来るかもしれない。

「まあ、京都支店長に相談しないと勝手に決めるわけにもいかないわね」

「大丈夫です。あっちで働かないように調整しますから」

 早坂さんが『働かないおじさん』を宣言した。といっても、元々何してるか判らない部署だし、早坂さんは昔から働いてるのか働いてないのか良く判らない立ち位置にいた。

「まあ、元々あっても無くても同じような部署だもんね」

 P子が承認したことで、CiA京都支店のデバイス開発室は廃部になり、MCSに新たにデバイス開発室が設けられることになった。当初、兼任と言われていた早坂さんは、MCSに専任として出向することに決まった。

 3,4,5,6,7階と、ほとんど同じフロアの作りをしていた。貸オフィース予定の3,4,5階は、内装も終わっていたが、肝心の6,7階は、内装がまだ出来ておらず、電気配線が壁から飛び出していた。

「やっぱり、DIYが必要じゃないですか」

 丈太郎が勝ち誇ったように、自分のお腹に話しかけた。

「これ、内装工事の完了後に、私たちに引き渡して頂けるんでしょうか?」

 P子は丈太郎のお腹に向かって話しかけた。

『もちろん、そのつもりよ。しかも今ならある程度お好みの内装に設計し直せる特典付きよ』

「さっすが~、佐倉部長」

 丈太郎が褒めたたえた。

「次は、ラズパイの8Gメモリ版に、64bitOSを入れてあげますね」

 早坂さんが持ち上げた。でもラズパイはあくまでI/Fというか音声入出力だけを受け持っているのであって、佐倉部長の実態はもっと高性能のスパコンにいるはずだった。本人は否定していたが「富岳」への侵入も考えているという噂までたっていた。

『後、お客様特典と言う事で、ファーストユーザーの皆様にはオフィス用品も無償貸し出しの予定よ』

「一生、佐倉部長についていきます!」

 丈太郎が、自分のお腹に向かって敬礼した。早坂さんも同じく丈太郎のお腹に向かって敬礼した。

(「やっぱり変な人達の集まりなんじゃ?」)と、クレハと浅倉南は顔を見合わせて微笑んだ。

「一度図面を持ち帰らせていただいて、デザインを考えてみます」

 クレハはそう言うと、図面を送ってもらえるように、佐倉部長...丈太郎のお腹に向かって依頼した。

「後...この裏手の非常階段ですけど、このフロアの横からも抜けられるようにって出来ます?」

 浅倉南は、フロアの裏手にある給湯室やトイレの奥の非常階段へ抜ける道を、通常のルート以外に、フロア内から用意できないかと問いかけた。当然、正面から何らかの襲撃があった場合に、裏口を封鎖されても隠し部屋からの脱出経路を確保しておきたいという事だろう。

 CIAにはバレバレだが、襲撃の相手をそれ以外と考えているからだろう。例えば、商売相手の警視庁公安部が敵対しないとも限らないからだ。

 P子も当然逃げ道の確保は考えていただろうし、本当はMi7にも知られたくなかったが、そういう訳にもいかなくなった。

『いいわね。隠し部屋に秘密の抜け道、あと、床が抜けて地下の洞窟に落ちる罠や、踏むタイルを間違えると弓矢が飛んでくる廊下とか...』

 佐倉部長の提案に、丈太郎と早坂さんは、うんうんうんうんと首を上下に動かしていた。

======= ≪つづく≫ =======

 この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありませんが、あなたの知らない世界でこのような事が起こっているかもしれません。
Comment(0)

コメント

コメントを投稿する