今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P39.新組織(7) [小説:CIA京都支店2]

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初回:2020/07/01

登場人物

これまでのあらすじ

 Mi7滋賀営業所の山村クレハが、CIA京都支店の川伊(P子の偽名)に成りすまして、警視庁公安部の源静香という人物と面会した。その時は、追い返されてしまったが、再び浅倉南と二人で発信機を頼りに、源静香に会いに行ったところ、本物のP子が、浅倉南と名乗って源静香と会っていたのだった。

15.源静香の提案

 源静香が提案したのは、Mi7滋賀とCIA京都で共同の法人を立ち上げて、そこで受注して適切に再委託すればよいのでは、という事だった。

 当然、それだけではなく、優先的に業務を委託する代わりに、職員の天下りを受け入れろという事だった。

 この提案に、P子も浅倉南も承諾した。といっても、具体的にどうするのかはそれぞれ、持ち帰って検討することになった。

 山村クレハは、Mi7滋賀営業所に戻り、矢沢所長に報告する必要があった。元々の依頼である新規事業の開拓案の模索は、矢沢所長からクレハに直接依頼された業務だったからだ。

「矢沢所長。新規事業の開拓の件ですが、警視庁公安部の源静香管理官と話がまとまりました」

「ほう、聞かせてくれたまえ」

 クレハは、事の成り行きを説明した。矢沢所長は、共同の法人設立の箇所で少し考える風を見せ、職員の天下り要請の箇所で笑った。

「まあ、当然の要求だろうね」

 クレハは、この提案を拒否されるかと思っていた。浅倉南が源静香の提案をその場で受け入れた時には正直驚いたが、法人設立など色々なハードルがあるのでうやむやにするのかと思っていた。

「じゃ、法人設立についても、クレハ君にお願いしてもいいかな」

 矢沢所長は、こともなげに言ったので、クレハは一瞬言葉を失ってしまった。

「あ、あの。いいんですか?」

「ん?何がだね」

「いえ、法人設立後、天下り先にされるんですよ」

「ハハハ。一般企業ならそうなるだろうけど、うちもCIA京都さんも諜報機関なんだから、相手の弱みを見つけてこちらの言いなりにさせる事なんて、お手のもんだろ」

 クレハは、浅倉南が即決で源静香の提案を受け入れた理由が理解できた。それと同時に、今回の任務を自分にまかされたのは、そういう大胆さが足りていないことを自覚させるためだったのではないかと思った。

16.共同の法人設立

 クレハがCIA京都支店に訪れるのは初めてだった。京都支店長との面談のアポを取り付けた。南先輩にも同行してもらおうとしたが、断られた。断るというより、独り立ちしなさいと叱咤激励されたという感じだった。

 CIA京都支店の判りにくい入り口を入り、階段を上がっていった。そもそも受付の人も場所も無かったし、案内板も無かった。一応、まっとうな事業を行っている事になっているはずだったが、本当に怪しすぎる。場所やフロア情報については、浅倉南に詳しく聞いていたため迷うことは無かった。

 事務所内で来客用会議室に通されたクレハは、すでに中で待っていた京都支店長と川伊(P子の偽名)に挨拶した。

「クレハさんって言ったかね。よろしゅうに」

 京都支店長は、笑顔で挨拶した。

「支店長、初対面の女性をいきなり下の名前で呼ばないでください」

 P子が、挨拶交じりに軽口をたたいた。

「大体の事は彼女から聞いています。後は社名と社長をどうするか、ですかね」

「簡単すぎません?」

 P子が、あーあと言った感じで"shrug"のポーズ(※1)をとった。

 クレハは、二人の会話に入っていくことが出来なかった。

「P子ちゃん。君、社長してみるかね」

 京都支店長が、突然言い出した。

「代表取締役は、双方から1名づつ出すとして、肩書だけとはいえ、社長は1名の方が都合が良いだろ」

 P子は、またまた~という顔をしていたが、支店長は冗談は言うが嘘は言わない。つまり、冗談のような事を、本気で言うからタチが悪い。

「いっそのこと、きちんとメンバーをそろえて、収益事業にしてみるか?」

「どういうことですか?」

「社長をP子ちゃんにするとして、丈太郎君と早坂君もそちらに出向と言う形で転籍させよう。クレハちゃんの所からも何名か社員を送り込むでしょ」

 京都支店長は、先ほどはクレハさんと呼んでいたのに、すでに、クレハちゃんになっていた。支店長は立ち上がると、来客用会議室の扉を開け、目の前を偶然歩いていた社員に何やら声をかけた。

 しばらくすると、城島丈太郎が入室してきた。続いて、デバイス開発室の早坂室長代理が入室してきた。

「突然、すまないね。今度、P子ちゃんが社長に就任する新会社に出向して欲しいんだ。丈太郎君は転籍で、早坂室長代理は兼任でお願いちゃんちゃんこ...」

「支店長!ちょっとこんな大切な事、ちゃんちゃんこで済まさないでくださいよ!」

「あ、僕はかまいませんよ」

 丈太郎が爽やかに答えた。最近、SES業務ばかりで刺激が足りなかったのだろう。こういう怪しげな話に、すぐに飛びついた。早坂室長代理は、別段動じた様子は無かった。そもそも彼はマイペースなので、仕事が増えるとかいう概念が無かった。出来る分だけをやる。出来ない分は出来ないから後回し。ただし、優先順位付けは的確だったので、仕事の内容に関するクレームは皆無だった。あるのは、物事をはっきり言うので皆から避けられているだけだった。『敵に廻すと厄介だが、味方につけると邪魔くさい』というのが彼のキャッチフレーズだ。

 これまでの展開に、クレハは全くついて来られなかった。

「あの、持ち帰って検討してよろしいでしょうか?」

 クレハは、自分がこれ程後手に回った経験があまりなかった。京都支店長の采配や、P子を含む各メンバーの動きに圧倒されっぱなしだった。

「ん?君はMi7滋賀の代表として来たんだろ?」

 P子は支店長の考えが読めた。ある程度の構想は持っていたとしても、目の前で即断即決を見せつけて、彼女にもその場で決めさせようとしているのだろう。京都支店長と滋賀営業所の矢沢所長とは、何らかの因縁があったそうで、お互いを知っている。矢沢所長が送り込んでくるという事は、すでに全権委譲している人物であると判断している。その彼女が後手に回っているという事は、矢沢所長はきちんと意図を説明していないのだろう。つまり、この商談自体が、彼女の教育も兼ねていると支店長が判断したからこそ、少し意地悪い事をしているとP子は感じた。

 (「まあ、女性に意地悪するのは、小学生の男の子みたいな支店長の性格も関係しているかも」)とP子は思った。

「...」

「じゃ、持ち帰って決まったら連絡して、ちょんまげ」

「あの待ってください。判りました。社長は川伊さんにお願いします。弊社側の代表取締役は私がやります。参加メンバーは調整させてください。社名や事務所の所在地などは、川伊さんと一緒に決めたいと思います」

「そっか。じゃ、後はP子ちゃんにお任せって事で」

 支店長は会議室のソファから立ち上がると、自分の机の椅子に座りなおした。来客用会議室と言っても、今は支店長室みたいに独占的に支店長が支配していた。

「あ、そうそう言い忘れてたけど、P子ちゃんは雇われ社長だから、給料据え置きね」

「支店長!」

「ボーナスくらいは考えてあげるよ。新会社の利益次第だけどね」

 支店長は笑顔で皆を見送ってくれた。

17.社名

 P子、丈太郎、早坂、クレハの4名は、来客用会議室を出て、とりあえず新会社について話し合おうという事になった。クレハは近くのカフェかどこかに行くかと思っていたが、3人はそのままデバイス開発室に入っていった。

「どうぞ」

 P子に即される様にクレハもデバイス開発室に入っていった。スパイ道具の開発を行っている部屋の様で、部外者立ち入り禁止じゃないの?と思いながらも、周辺の棚に興味がわいた。どれも専門道具と言うより、比較的安い市販品を改良してスパイ道具にしている様子だった。

「社名、どうします?」

 丈太郎はP子に問いかけた。

「CAIとMi7の頭文字を取って、CiMってどうかな」

 早坂さんが会話に入ってきた。基本的に彼は『いっちょカミ』だ。話が長い、理屈っぽい、回りくどい、しつこい、ギャグがおじん臭い...

「私は、MCSにしようと思ってたの」

 P子が言った。Miracle Communication Systems(ミラクルコミュニケーションシステムズ)だ。

「Mi7のミラクルと、CiAのコミュニケーションか」

 丈太郎がつぶやいた。ミラクルのMが先頭に来ているので、クレハに異存は無かった。

「事務所はどうする?」

 丈太郎は再びP子に問いかけた。

「新しく借りてもお金がかかるし、このデバイス開発室を事務所にする?」

 早坂さんが会話に入ってきた。基本的に彼は『いっちょカミ』だ。

「えー出来れば新天地が良いなー」

 丈太郎としては、新しい環境でのびのびと新しい仕事を始めたかった。

『いい場所知ってるわよ』

 突然、クレハの後ろから声がした。しかし人影はなかった。

「佐倉部長。また、株で儲けたお金で不動産投資してるんですか?」

 丈太郎が軽口をたたいた。

「もしかして、AIの佐倉さんですか?初めまして。Mi7滋賀営業所の山村クレハと申します」

 クレハは声をする方に向かって答えた。

「スピーカはそこだけど、マイクはこっちだよ」

 早坂さんが答えた。

『市内の一等地にオフィースビルの新築があって、工事途中で会社が倒産、私が債権を買い取ったの』

「買い叩いたの間違いじゃないんですか?あ、倒産させたのも佐倉部長だったりして」

 丈太郎は、佐倉部長がお気に入りの様だ。

『実は、ここのオフィースビルも老朽化して来てるし、表稼業もそれなりに利益が出て来てるから本社移転を考えてたの。まだ、支店長さんには言ってないから、今なら川伊さん所の新会社に貸してあげるわよ』

「僕たちから儲けるつもりですか?」

『当たり前でしょ。私の私財なんだから...って嘘よ。でも財務処理はきちんとしとかないと、後で揉めるわよ』

「明日にでもみんなで見に行きましょうよ」

 P子が、まるで遊園地にでも行くかのようにはしゃいで言った。

「僕は兼任だからあっち行ったりこっち行ったりって邪魔くさいな。僕は太ってないけどデブ症なんだ」

 早坂さんが会話に入ってきた。基本的に彼は『いっちょカミ』でギャグがおじん臭かった。

======= ≪つづく≫ =======

 この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありませんが、あなたの知らない世界でこのような事が起こっているかもしれません。

※1 "shrug"のポーズ
 https://ejje.weblio.jp/content/shrug
 (両方の手のひらを上に向けて)すくめる、肩をすくめる、肩をすくめること

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