P32.人事一課監察係(7) [小説:CIA京都支店]
初回:2020/02/19
CiA日本法人本社の人事一課長と直接対面したP子は、課長の狙いが自分と城島丈太郎の採用調査だという事を突き止めた。一方丈太郎は、監察係の大河内の依頼を元に、P子探しを継続していたのだった。
15.P子探し
城島丈太郎は、浅倉南やクレハと食事をした翌日、P子を探すにはデバイス開発室のミスター"Q"を追求するのが一番の近道だと考え、CiA京都支店に出社した。
「室長、居られますか?」
丈太郎は、出社してすぐにデバイス開発室に出向いた。室長がいないと思って扉を開けたら椅子に腰かけていたのだった。
「室長、探してたんですよ。昨日、おとといと何処においででした?」
「ん、あんまり覚えておらんのじゃよ」
「いや、覚えてないって...P子先輩がどこに行かれてるかご存知でしょうか?」
「ん~判らん」
「判らんって、そんな~」
「そうじゃ、佐倉課長に聞いてみてはどうじゃな」
「それが肝心の事は何も教えてくれないんです」
『それって、私が意地悪してるみたいじゃない』
「佐倉課長。まあ、いつでもどこにでもいると思ってましたが。でも事実でしょ」
『じゃ、意地悪じゃないって所を見せましょうか?』
「教えてくれるんですか?」
『でも、本当は教えちゃダメなんだけどね。とりあえず支店長の所に行ってみれば』
支店長が何か情報を手に入れたのかもしれない。丈太郎はミスター"Q"と姿の見えない佐倉課長に軽くお礼を言って部屋を出た。支店長室と言うのが無かったので、来客用会議室に向かった。今では支店長が私用で使用している会議室だ。
「支店長、お邪魔します」
ドアを開けて中に入った所で丈太郎は驚いた。会議室のドアに背を向けて来客用ソファーに座っていたのは、探していたP子だったからだ。
「P子先輩...今までどこに行ってたんですか?」
「あら、丈太郎君。あなたもここに座りなさいよ」
P子は自分の横のソファーをパンパンと叩きながら丈太郎を呼び寄せた。
16.問い詰める
丈太郎は言われるがままにソファーに腰かけた。
「支店長!丈太郎君も来たことですからもう一度聞きますね。初めから知ってたんですか?」
「え?」
丈太郎は、P子の言ってる意味が分からなかった。
「P子ちゃん。そんなに怒らないで。正確に言うと知らなかったんだよ」
「そんな言い逃れが通じるとでも思ってるんですか?人事一課長から、私達を推薦したのが支店長だってことを直接聞きだしたんですから!」
「え?」
「あなたも『あ』とか『う』とか言ってないで、なんか言いなさいよ」
丈太郎は(「『え』しか言ってないよ」)と思いつつ、とんだ八つ当たりだと思った。
「全体像が見えないんですけど」
丈太郎としてはいきなり部屋に来て椅子に座らされたかと思えば、初めから知ってたとか推薦されたとか理解不能だった。
「東京の本店が大規模なシステム開発案件を受注して、そこにSE兼スパイ任務で参加要請があって、私たちが推薦されたの。支店長に...」
「大河内さんは、私たちの適正検査を行う為に、あなたに私の極秘調査を依頼してきたの」
P子は矢継ぎ早に丈太郎に説明した。
「おいおい、P子ちゃん。だからシステム案件への推薦と、大河内君の調査が関係しているってことは知らなかった訳で...」
「そんな言い訳が通じるとでも思ってるんですか?」
いつもチャラけている様に見えるが何と言っても支店長は支店長だ。システム案件の人員要請と監察係の調査依頼が紐付くことくらい、支店長ならお見通しだっただろう。
P子がいくら追及しても、支店長はのらりくらりとかわすだろうから、追及するのは止めることにした。
「所で、そのシステム開発案件に参加する場合のメリットってあります?」
「お、現実的な話し合いが出来そうだね」
支店長は本棚から一冊のバインダを取り出してP子の前に差し出した。そこには京都支店から東京本店の開発案件に参加する場合の条件...出向手当や住宅手当などの規定が書かれていた。また長期間の勤務地変更時には、準備金と言う一時金が、出向の最初と最後に出ると書かれていた。言わば引っ越し手当みたいなもだった。何よりも本店での仕事を受ける場合、給料も一律15%増しになるというのは魅力的だった。
「いや、お金の話の前に、開発案件の業務内容やスパイ活動の対象者などを教えて頂きたいんですけど」
「そんなもん、知らんよ」
「知らないのに推薦したんですか?」
「推薦って、どこの会社に派遣する時でも推薦状書いてるだろ」
「え?」
「まあ、実際には推薦したって採用されるかどうかも判らんし。とりあえず連絡を待つことだな」
P子はそれ以上支店長を追求することを諦めた。丈太郎は話の展開についていくことが出来なかったが、大規模開発案件については興味があった。最近はスパイ活動よりシステム開発が面白いと感じるようになっていたからだ。
17.お別れ
2日も経たないうちに、人事一課長から京都支店長にP子の採用通知が送られてきた。と言ってもメール一本で済まされていたが。あいにく城島丈太郎は採用を見送られた。それとは別件(を装うかのように)監察係の大河内が再び京都支店に訪れて来て、P子の情報漏洩の容疑が晴れたと報告した。
丈太郎はスパイとしての能力に疑問符を付けられた形になったが、まだまだ若かったので良くある話だと納得できた様子だった。
P子の東京勤務が決まり、一番悲しんだのがデバイス開発室室長のミスター"Q"だった。ただ、話し相手としては、最近はもっぱら佐倉課長ばかりだったので寂しさは紛らすことが出来るだろう。
京都支店長は、P子の抜けた穴をどうすべきか悩んでいたが、川島支店長補佐にSES課営業を兼任してもらうことにした。教育担当は、最近システム開発が楽しいと言っていた城島丈太郎に決まった。
京都支店の体制もあっという間に決まった。それも、初めからP子が居なかったかのように...。
≪第一部 完≫
P子「ちょっと、お別れがあっさりしすぎてない?」
そんなことありません。サラリーマンなんて誰かが居なくなったって、業務は止まりません。
P子「送別会とかも無し?」
SES課は大半が派遣先に勤務しているので中々一堂に集まるという機会がありません。P子さんは教育担当なので顔が広いことになっていますが、退社などではないのであえてしないことにしました。
P子「所で、第一部 完ってどういう意味なの?」
元々、この小説は『ゆるい感じ』の日常を描いたサザエさんとかちびまる子ちゃん的なほっこりした話にしようと思っていました。ですが、そういう話を面白くするのはなかなか難しいのです。個人的には『捜査資料管理室(仮)』のようなドラマが好きなので、そっちに持っていこうかと思いましたが方向が違い過ぎるのでダメでした。
P子「で、一旦終了してどうするの」
現在社会のお話にするので現実味が出ないのだと思います。誰も知らないところで起こった事件をひっそりと解決するみたいな話にするのも、もう一つでしょう。
やはりエンジニアライフっぽさを出そうと思うと、近未来的な話とか未知のハイテクとかの方が面白いと思い、時代を少しだけ先の世界に設定しなおそうと思いました。
P子「面白くなりそう?」
まあ、面白くなるかどうかは判りませんが、自分が面白いと思える話にしていきたいと思います。
ほな、さいなら