054.ビジネスにコミュニケーション能力は不要!?
初回:2019/12/04
1.そもそも、ビジネスでのコミュニケーションの目的は?
まず前提として、人が生活していく上でコミュニケーション能力は必要です。人と仲良くなったり信頼されたり頼ったり頼られたりする為には、相手と円滑なコミュニケーションをとる必要があり、コミュニケーション能力が高いほど、うまく行くからです。
所が、この能力をビジネスの世界で使うという風潮が多くあります。確かにビジネスと言っても人と人との関わり合いが基本なので、コミュニケーション能力が高いほどうまく行くかも知れませんが、実際はコミュニケーション能力を高めるために、色々な努力や講習があるのですが、なかなか上手く行きません。
技術者はコミュニケーションが苦手だとか専門用語を使わずに一般用語で話せとか、色々な理由付けがなされていますが、そもそもビジネスにおけるコミュニケーション能力が『顧客とお友達になる』為の手段だとすれば、ビジネスには不要と言う訳です。
ビジネスにおける最終的な目的は
『安定的な利益の確保』であり、
←『顧客満足度を高めてリピートして頂く』為に
←『満足いただけるシステムを開発・導入する』為に
←『自分の方針ややり方を行う』為に
←『顧客にも色々と協力してもらう』為に
←『自分の思いのままに操る』為に
←『顧客の信頼を得る』為に
←『コミュニケーション能力を向上』させる
という事でしょう。
『顧客の信頼を得る』為のコミュニケーションですが、相手との共通の前提条件が無いと成立しません。
『共通の前提条件』×『コミュニケーション』=『情報伝達』
という式が成立すると思います。エンジニアなら通信プロトコル(※1)が異なるもの同士を繋げるのに苦労された経験があるのではないでしょうか?通常のビジネスでは技術者と顧客の前提条件が異なります。なのでコミュニケーション能力を高める必要性と共通の前提条件を増やす=顧客にとってわかりやすい言葉で話す必要性のどちらも必要です。
次の会話を聞いて、誰が悪いのか考えてみてください。
技術者:「明日、晴れたらゴルフに行きましょう」
顧客 :「判ったよ」
翌々日
技術者:「昨日、なぜ来なかったのですか?」
顧客 :「だって曇りだったから...」
次の会話も聞いてください。
技術者:「明日、雨で無かったらゴルフに行きましょう」
顧客 :「判ったよ」
翌々日
顧客 :「昨日行ったのに。なぜ来なかったの」
技術者:「あんなに大雪だったら、ゴルフなんてできないでしょ」
もう、お判りかもしれませんが、どちらの会話も技術者が悪いです。前提条件の知らない顧客にきちんと説明しきれていませんでした。でも、会話が通じないからと言って一方的に技術者にコミュニケーション能力の向上を求めるのは無理があると思いませんか?
P子「このたとえ話の方が無理があると思うわ」(※2)
顧客 :「明日、晴れたらゴルフに行きましょう」
技術者:「晴れと言うのは雲の量を目視で判断して、全天の8割以下の場合と、雲量が9割以上であっても上層の雲が中・下層の雲よりも多い場合で、薄い雲を通して地物の影が出来る場合は行うと言う事でしょうか?そして晴れとおっしゃっていますが、実際は曇りや小雨でも実施すると考えています。その場合は、雲の量が全天の9割以上の場合と、朝6時の段階で午前9時から12時の降水確率が70%以下でかつ降水量が2mm以下の場合、実施でよろしいですね。ちなみに雪の場合は前日までの積雪量が5cm以内であれば実施と言う事に致します。それと、雪が降った場合のコンディションですが、雪からできた水溜まりを、カジュアルウォーターとして扱う場合は、全日本ゴルフ協会の規則25-1に伴い救済とし、雪を自然物の障害、つまり、ルースインペディエントとして扱う場合は、全日本ゴルフ協会の規則23-1に伴って、救済で構いませんね」
顧客 :「君が何を言ってるか判らんよ」(※3)
P子「携帯電話で当日に連絡を取りあえば良いのに」
ゴルフのお付き合い程度なら問題ありませんが、システム開発などで技術者と顧客が仕様決めを行う場合には、お互いの前提条件が複雑に絡み合う為、会話が食い違って当然です。つまり、前提条件が異なる者同士がコミュニケーション能力『だけ』で問題解決を図ろうとすること自体に、そもそもの問題があると思いませんか?
2.コミュニケーション能力が必要な職種は?
視点を変えてみましょう。
コミュニケーション能力が必要な職業のベスト3をピックアップしてみます。
1位:詐欺師
2位:占い師
3位:新興宗教の教祖様
P子「詐欺師って、職業なの?」
残念ながら「立派な職業」とは言えないかもしれません。
P子「他にもあるでしょ。教師とかコンサルタントとか...」
詐欺師の下に並べるのに、気が引けました。
P子「ちょっとは忖度してるのね」
これらの職業は、コミュニケーション能力そのものが仕事に必要不可欠なスキルの人達です。詐欺師なんて『顧客の信頼を得て、自分の思いのままに操る』そのものでしょう。
P子「そもそもの選択に悪意を感じるわ」
3.コミュニケーション能力への依存度が低い職種は?
逆に、コミュニケーション能力への依存度が低い職業のベスト3をピックアップしてみます。
1位:ゴルゴ13(スナイパー)
2位:大門未知子(ドクターX)/間黒男(ブラックジャック)
3位:ディオゲネス・クラブの会員(※4)
P子「そもそも職業じゃないし」
何を言いたいかと言うと、これらの人達は卓越した技術力で『顧客の信頼を得て、自分の思いのままに操る』ことを行っているという事です。なので、コミュニケーション能力への依存度が低くても支障が出ないという事です。プロのアスリートも、依存度が低い職種でしょう。
さらに言うと『自分の思いのままに操る』事が、私利私欲ではなく顧客第一主義だという事です。顧客の真の希望を叶えるために、一見すると顧客の主張と反対の行動を取ったりしますが、結果的に顧客の真の希望を叶えてしまいます。
また、この人達に共通するのは、顧客にもそれなりの代償を支払ってもらうという事です。ゴルゴ13など、顧客が嘘をつくと射殺してしまいますから。
システム開発を例にとると、顧客との信頼関係を元に、移行用のマスタデータの作成や操作説明会の開催の段取り、サーバーの購入やLAN回線の準備など、顧客に色々とお願い事をすることがあります。
P子「コミュニケーション能力への依存度が低い職業って、すべて架空の人物なんですけど。それに『私、失敗しないので』だけで信用してホイホイ手術なんて受けないわよ」
そこはドラマと言う事で、若干過剰な演出が含まれています。
実の所、フィクションレベルの飛びぬけた技術力がない限り、技術力だけで顧客の信頼を得ることは難しいでしょう。だからと言って、それを技術者個人のコミュニケーション能力に依存するのは無理があります。
それではどうするかと言うと、会社対会社の契約や、事前の取り決めで約束しておくべきと言うのが私の主張です。
4.顧客に対して『傾聴』が危険な理由
少しわき道にそれますが、技術者が顧客に対して直接的に『傾聴』すると危険な目に遭います。
技術者=直接的な決定権を持つ人物なので、その人物が自分(顧客)を深く理解、共感してもらえたならば、そこで話した内容すべてを実現してもらえるのではないか、という期待が顧客に膨らみます。
その後で、ビジネスライクな話し合いを行うのは難しいと思います。システム開発の場合は納期やコストなどの制約があるので、技術者自身も本当は実現してあげたいと考えても無理な場合もあります。
その場合、信頼を寄せてくれた顧客は裏切られた思いを持つでしょう。さらにこの顧客が長年取引を行っている顧客ならまだしも、一度や二度の説明会で会ったばかりの利用者などが、自分たちの不満をぶつける場で傾聴してもらえると、すべてを受け入れてもらった気持ちになり勘違いしてしまいます。
なので、そういう事は営業に任せて、技術者は同席するだけにすべきでしょう。
良い警官と悪い警官(※5)の話を知っていますか?
P子「刑事ドラマに良く出てくるあれね。犯人の取り調べで脅しをかける警官がいて、それを止める良い警官が犯人に共感を示して自供を取るっていうやつね」
顧客に近い営業が『良い警官』役になるのが適役で、技術者は『悪い警官』役がお似合いです。
P子「それはそれで、悪意を感じる対比ね」
5.コミュニケーション能力より大切な物
ビジネスにおいて、前提条件を合わせてからでないと話がかみ合わない「コミュニケーション能力」を使うことは、非効率だと思います。事前に契約なり取り決めをしておいて、それこそビジネスライクにプロジェクトを進めるのが良いと思います。
また、中途半端なコミュニケーション能力を使うと痛い目に遭うケースもあります。逆にある事ない事言って顧客の信頼を得たは良いが、実際に納品したシステムが全然業務に沿ってなかったりすると、大きく顧客の信用を失うことになってしまいます。
私は、技術者にはコミュニケーション能力より大切な物があると思っています。それは『誠実さ』です。
P子「技術力って、言うと思ってたわ」
例えば、自社の商品と他社の商品で、他社の商品の方が優れている場合、あなたはどちらの商品を顧客に薦めますか?
P子「まあ、普通は自社の商品ね」
その判断には『誠実さ』が欠けていると思いませんか?
P子「じゃあ、他社の商品を薦めるの?」
そうならないために、技術力を磨いて自社の商品を本当に薦められるようにするのが技術者の本分という物です。
『誠実さ』があれば、コミュニケーション能力が低くても『顧客の信頼を得る』事が可能でしょう。『誠実さ』を実現する為にも、技術力を磨く必要があります。技術力が低いため『誠実さ』を実現できないから、コミュニケーション能力を磨くというのは本末転倒だと思います。
技術力を磨いた上で、コミュニケーション能力も磨くというなら、非常に良い事だと思います。
ほな、さいなら
======= <<注釈>>=======
※1 通信プロトコル
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E4%BF%A1%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%AB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
※2 P子「このたとえ話の方が無理からね」
P子とは、私があこがれているツンデレPythonの仮想女性の心の声です。
※3 君が何を言ってるか判らんよ
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK2602J_W3A420C1000000/
実は知らない 「晴れ」「曇り」の見極め方気象予報士 伊藤みゆき
2013/4/30
https://tanukigolf.com/post-276/
雨の日のゴルフの判断基準とキャンセルの手順や注意点
2019.06.25
http://blog.tokyu-golf-resort.com/basic/1168.html
雪でもプレーはできるの? 雪のゴルフで確認しておきたい3つのこと
2017.02.13
※4 ディオゲネス・クラブ
http://fuzkue.com/entries/35
ここはディオゲネス・クラブかどうか
P子「また、シャーロックホームズの話?」
※5 良い警官・悪い警官
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%AF%E3%81%84%E8%AD%A6%E5%AE%98%E3%83%BB%E6%82%AA%E3%81%84%E8%AD%A6%E5%AE%98
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コメント
白栁隆司
ドーモ。
普段から「プログラマの仕事は詐欺師の親戚みたいなもん」って言っている方から来ました。
> 顧客に対して『傾聴』が危険
エンジニアに対して、傾聴をオススメしている僕としては、とても興味深い話題ですね。
しかしながら、挙げられたケースは『傾聴』が危険なのではなく、
それによって生まれた信頼関係と期待を含めて、状況を正しくコントロールしていない事、
これが問題なのではないでしょうか?
つまり、マネジメントの問題である、と考えますが、如何でしょう?
ちゃとらん
> エンジニアに対して、傾聴をオススメしている僕としては・・・
お勧めしていただいて、結構です。
> 状況を正しくコントロールしていない事、 これが問題なのではないでしょうか。
おっしゃる通り、傾聴が『悪』ではなく、マネジメントの問題と言えると思います。その、マネジメント方法として、営業が『傾聴』し、エンジニアはアドバイザー的な役割になった方が良い・・かも・・という考えです。
簡単に言うと、『うん、うん』と気持ちよく聞いてもらえる=対応してもらえる と勘違いする可能性が高いので、危険という表現を使いました。もちろん、部下に対して傾聴したからと言って、すべての要求を聴くとは(部下の方も)思ってないでしょうし、それなりにシステム導入経験のあるお客様の場合も、出来る事、できない事くらいは判っていただけるのですが、中には『言ったことを否定してなかったから実現すると思った』とおっしゃるお客様もおられるので、ご注意ください、という感じです。
熊猫
このコラムにおけるコミュニケーションの定義が複数バラバラに散って混ぜ混ぜで話が進んでいるように感じます。なのでコラムをよく理解していません。
ここでのコミュニケーションって説明能力のこと?言語を多く話す能力?このコラムを理解するために教えてくださいな。
ちゃとらん
> 定義が複数バラバラに散って
最初に、一般的なコミュニケーション能力の話を入れちゃったんで、定義が薄くなってしまいました。
ビジネスでのコミュニケーション ⇒ 仕事を進めるうえで、コミュニケーションが必要なのか? という命題に対して、不要でしょ! というのが今回のお話です。
『説明能力』が、商品説明やシステムの使い方の説明、どういうシステムを作ろうとしているのかの仕様説明などとすると、それを個人のコミュニケーション能力に頼るのは、おかしいでしょ、という事です。
『言語を多く話す能力』=『外国人とのコミュニケーション』は対象外です。
※ 言語=業界用語、システム用語という意味での問いかけなら、説明能力に含めています。
まあ、OJTが、教育なしで現場に放り出すという悪い使われ方をしているのと同じで、本来組織として行うべき事を、個人のコミュニケーション能力に頼るビジネスの方法は、いかんでしょ、ということが言いたかったのです。