今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P21.黒と白(4) [小説:CIA京都支店]

»

初回:2019/09/11

登場人物

これまでのあらすじ

 黒井工業の社長と、白井産業の社長が裏取引してるという情報を元に、P子と城島丈太郎、そして浅倉南と山村紅葉(クレハ)がそれぞれの会社を探ることになった。それぞれの社長が、Mi7の諜報員と言う事もあって、浅倉南とクレハは簡単に潜入できるが、P子と丈太郎には難関だった。

8.飛び込み営業

 浅倉南から連絡を受けたP子は、翌日、城島丈太郎を連れて白井産業に向かった。黒井工業には、浅倉南とP子が派遣される予定であったが、元々新田技術部長の要請を受けているので、採用は既定路線だった。
 白井産業には、まず丈太郎を受け入れていただき、その動向を探るという名目でクレハを派遣する、そういう筋書きであった。

 白井産業は、京都市の南に位置しており電車の最寄り駅からはタクシーを使う必要があった。P子と丈太郎は、CIA京都支店の雑居ビルを出て、烏丸御池に向かって歩いていた。市営地下鉄の烏丸線で、竹田駅で近鉄に相互乗り入れしているので、乗り換えるのか、直通電車でそのまま行くのか、どちらかだと丈太郎は思っていた。

「P子先輩、そもそも今回の件ですが、どちらの社長さんも Mi7の諜報員なんでしょ? 新田部長さんは信用できるのでしょうか?」

「まあ、支店長の所にわざわざ相談に来たくらいだから、大丈夫なんじゃない?」

 P子は丈太郎の心配をよそに、軽く答えた。

「丈太郎君、ちょっとここで待ってて」

 P子は御池通りに出た所で丈太郎を待たせて、一人で路地の方に向かっていった。2~3分程度待つと、1台の赤い車が丈太郎の前に停車した。

「丈太郎君、おまたせ」

 P子が運転席から声をかけた。丈太郎もそれほど車に詳しくはなかったが、それがアルファロメオのMiToだということは知っていた。
 丈太郎は、助手席に乗り込みながら、P子に問いかけた。

「電車とタクシーで行くと思ってました」

「私もその予定だったんだけど、京都支店が借りている駐車スペースが空いてるって聞いたから、今日は自家用車で出勤させてもらったの」

「所で、この車って、P子先輩のですか?」

「まあ、中古で買ったんだけどね」

 アルファロメオのMiToは、3ドアFFハッチバックで、残念ながら、2018年10月末で日本での販売が終了していた。そもそも、欧州でも3ドアハッチバックの需要が縮小傾向であり「3ドアっぽい5ドア(つまりスタイリッシュな5ドア)」の需要に押されていた。
 現在は世界中でSUVブームになっているので、3ドアのラインナップしか持たないMiToが生産中止になるのは時代の流れと言ってもいいかもしれなかった。

 丈太郎自身は車を所有していなかったが、P子が6速MTを器用に操作しているのを見て(こういうのもいいかも)と思った。

 30分ほど車を走らせて、目的地の白井産業に到着した。今回は何のアポも取らずに来た『飛び込み営業』だったので、門前払いの可能性が高い。まずは担当者に会ってもらえるかどうかが、第一関門だった。

「初めまして。CIA京都の川伊と申します。本日はエンジニアの常駐請負などのご要望がないかお伺いに参りました。ご担当者の方に取り次いで頂けないでしょうか」

「少々、お待ちください」

 受付の女性が、電話で担当者に連絡を取っていた。

(「鼻の下が伸びてるわよ」)

 P子が小声で丈太郎にささやいた。

(「そんなにいつも伸びて無いですよ」)

「技術部長が不在で、システム課の課長がお会いになるとのことです。ご案内します」

 2人が通されたのは、大きな会議室だった。

「すみません。適当な部屋が空いてなくって」

 程なくして、会議室の反対側の扉から男性が現れた。

「お忙しい中、ありがとうございます。CIA京都の川伊と申します。本日はエンジニアの常駐請負などのご要望がないかお伺いに参りました。」

 P子は、先ほど受付でしゃべった内容と同じことを言いながら、名刺を渡した、P子も名刺を受け取った。そこには『システム課 課長 今市博』と書かれていた。

「常駐請負ですか?実は、請負ではなく派遣を考えているんです」

 今市課長は、申し訳なさそうにそう告げた。

 CIA京都支店は派遣事業許可を持っていないため、人材派遣は出来なかった。ちなみに、浅倉南のMi7滋賀営業所では、派遣事業許可と人材紹介事業許可の両方とも持っていた。

9.尾行

 白井産業を後にした2人は、そのまま次の目的地である黒井工業に向かうことにした。黒井工業まで、車でそれ程かからない距離にあった。

「P子先輩」

 丈太郎が神妙な顔でP子に話しかけた。ただし、P子は運転していたので、神妙な顔は見えていなかったが。

「判ってるわ」

 丈太郎がP子に言いたかったのは、白井産業を出てから、ずっと尾行されている事だった。前回の尾行はKGBの差し金で、MITに接触する人物を特定するためだったが、今回は名刺交換もしているから身元は判明しているはずだ。そうだとすれば、何を探っているのか?

「P子先輩。まきます?」

「んー目的が判らないから、気づいてない振りをしましょ」

 10分も経たないうちに、目的地の黒井工業に到着した。尾行していた車は、そのまま通り過ぎて行った。

「どうします? 逆に尾行してみます?」

「まあ、白井産業様の関係者ってことは確かだろうし、今日の所はいいんじゃない」

(「やけにあっさりしてるな」)と丈太郎は思った。

 黒井工業の受付で新田技術部長を呼び出してもらい、ロビーで待っていると新田部長が現れた。

「すでに受け入れの対応は出来ています。川伊さんが来られるんですね」

「その予定です。所で白井産業様と業務委託の契約が出来なかったので、城島が潜入できなかったんです」

「まあ、仕方ありませんね。まずは弊社の社長の調査をしっかりして頂ければOKです」

 新田部長が冷静に答えた。ただ、余りにも冷静であっさり答えたので、丈太郎は少し拍子抜けした。この前、CIA京都支店に乗り込んで来た勢いが感じられなかった。

 会議が終わり部屋を出たところで、P子が不穏な事を言い出した。

「丈太郎君、今夜、白井産業様に侵入してみる?」

 通常、CIA京都支店では予算の関係で、請負で稼ぎながらその会社に潜入する方法を主としてきた。その他の活動も、基本的にはどこかの依頼に基づいて活動するので、自社で持ち出しなんてことは考えられなかった。今回の依頼で、新田技術部長から予算が出たとは考えられない。丈太郎には、なぜ?という疑問しか思い浮かばなかった。

「まあ、一回持ち帰りましょう」

 P子は、自問自答の様に一人で答えた。

10.クレハと浅倉南

 浅倉南がクレハに伝えたのは「白井産業様に不審な動きがある」という事だけだった。それ以外の情報はなく、浅倉南自身も黒井工業様に派遣されるため手助けも一切出来ないという事も伝えてあった。
 クレハは寂しそうな表情を作ったが、それも浅倉南に対するサービスみたいなものだったかもしれない。

「白井産業様の営業担当は七海さくら課長なんだけど、今回は、私に代わってもらったの。すでにアポは取れているので、明日『顔合わせ』に行くわね」

 浅倉南はクレハにそう告げた。

 派遣先企業には労働者の採用/不採用を決める権限がないため、派遣社員の事前面接は違法だった。ただし、派遣社員が予め派遣先の実情や労働環境を見るための『面談』や『顔合わせ』は問題なかった。
 実際には選別することも可能な『顔合わせ』ではあったが、長くても30分や1時間程度の『顔合わせ』で適性が判断される事はほとんどなかった。

(「後は城島さんが上手く潜入できるかどうかね」)

 浅倉南としては、2人とも潜入できれば100点、クレハだけでも潜入できれば80点と考えていた。元々、黒井工業の新田技術部長がCIA京都支店に持ち込んだ案件だったので、Mi7としてはノータッチのつもりだった。それを強引にねじ込んだのが浅倉南だった。

 翌日、浅倉南とクレハは社用車で京都市の南の方にある白井産業の本社に訪問することにした。Mi7滋賀営業所に一番近い高速道路のICは、瀬田東になるのだが、このICは名古屋方面への入口、名古屋方面からの出口のみなので、瀬田西から乗る必要があった。降りるのは京都南ICだった。

 ハンドルはクレハが握った。もちろん浅倉南もクレハも運転の特殊訓練を受けていたが、何となくの気分でクレハが自分から運転すると言い出した。

 お客様用駐車場に入った所で、CIA京都の川伊と城島丈太郎が本社の玄関から出てきたところだった。

「南先輩。あれってCIA京都の川伊さんと、たしか...顔は覚えてるんですけどやはりCIA京都のスパイさんですよね」

 浅倉南はちらっと見ると、2人に気づかれないルートで駐車場に車を止めるように指示した。しばらく身を潜めて見ていると2人は赤い車に乗り込んだ。

「南先輩。ちょうど入れ違いで帰る所みたいですね」

 2人の乗った車が動き出すのを見て、浅倉南が降りようとしたのをクレハが制止した。

「南先輩。今まで無人だと思ってましたが、赤い車の3台横の車が急に発進しました。尾行してる?どうしましょう」

 クレハが聞いてきたので浅倉南が答えた。

「今回の作戦の指揮権はすべてあなたに渡したわよ」

「...まず、あの怪しい車を追跡します。南先輩は恐れ入りますが『顔合わせ』の中止を連絡していただけますか?」

 クレハが潜入できれなければ30点ね、と浅倉南は思った。

≪つづく≫

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する