P11.Mi7の思惑 [小説:CIA京都支店]
初回:2019/06/19
CIA:Communication Intelligence Applications(通信情報アプリケーションズ)
SESが主な業務のちょっと怪しい会社。一応主人公の勤務先
P子:CIA京都支店の職員であり、現役のスパイ 兼 SES課営業 兼 SE 兼 教育担当
対外的には、"川伊"と名乗っている。主役のはずだが、最近出番が少ない。
Mr.J:城島丈太郎はSES課の新人SE。もちろんスパイ。
爽やかな笑顔と強靭な肉体の持ち主で、やるときはやる好青年。
Mr.M:CIA京都支店長
口が軽く、オヤジギャグが特技。にやけた笑顔で近づいてきた時は要注意。
Ms.S:謎の新任課長の佐倉ななみ。今はP子のポシェットがインターフェース
Mi7:Miracle Seven(ミラクルセブン)
人材派遣と人材紹介を主な業務とするブラック企業。CIAとはライバル関係。
373:浅倉南。Mi7滋賀営業所に勤務するスパイ。
時には派遣スタッフとして、時には転職希望者として企業に潜入します。
908:山村クレハ。Mi7のスパイとの連絡係(諜報員見習)
キュートな笑顔と人懐っこさで、男性職員の間では結構人気が高い。
MIT:Michael International Technologies
(マイケル・インターナショナル・テクノロジーズ株式会社)
人工知能の開発メーカーで、さくらプロジェクトの開発元
西田:MITの人事担当の部長。
KGB:Knowledge Global Business(世界的知識ビジネス株式会社)
人工知能関連のビジネスでMITと競合している。
井上:KGBシステム開発部の部長。
岩倉さん:岩倉友美(ともみ)MITの出入り業者の監視役のリーダー格の女性。
山本君:山本五十八(やまもといそはち)MITの出入り業者の監視役。実は...
大原:MITの出入り業者の監視役
CIA京都支店のP子が、MIT大阪支店でMi7の浅倉南と運命の再会?を果たした。彼女はすでにMITの秘書として潜入していたのだった。その帰り不審な人物に尾行されたが逆に尾行し、MITの競合相手であるKGBの社員だという事を突き止めた。
10.尾行者の正体
『所で、あなたを尾行してた人の名前が分かったわよ』(※1)
「え?」
P子は佐倉課長の突然の話で驚いた。
「誰なんですか、と言うよりどうやって判ったんですか?」
P子にとっては、名前なんてどうでもよかった。それよりポシェットの中にいる佐倉課長が、どうやって名前を掴んだかそちらの方が圧倒的に興味があった。
『教えて欲しい?』
ポシェットの佐倉課長は、相変わらず機械的な音声だったが、楽しんでいるようだった。
『あのKGBのフロアを覚えてる?その中の一つのデスクに、座席表が挟んであったの。たぶん電話を受けたときに内線電話で転送するためのものだと思うわ』
佐倉課長は続けた。
『あの場に尾行者がいなかったから、席に着いている人は除外、女性も除外、部門長クラスも除外』
尾行者は男性だから女性は除外して良い。年齢や誰かに指示されていたことから、部門長クラスの人物も除外して良いというのは、P子も同感だった。
「私もちらっと座席表は見ましたが苗字だけでした。女性や部門長ってどうやって判ったんですか?」
『まあ、女性に関しては、机の上の整理状態やひざ掛けの有無、バッグなどの持ち物からよ。そして、部門長は、受付の電話に呼び出し番号と部門長らしき人物の名前があったでしょ。座席の位置からも推測して除外したの』
P子はちょっと感心した。
『で、行きと帰りで最後までその場にいなかった人物を8名まで絞れたの』
佐倉課長は、相変わらずの機械的な音声で続けた。
『最後の絞り込みは、パソコン画面に映っていた行動予定のWeb画面から、出張中3名、休み1名を除外して、残ったのが4名ね』
『で、その4名の名前と、Facebook、Twitter、Instagramなどから追跡者の顔写真とマッチングをかけて判ったのが、"山本五十八(やまもといそはち)"という若者なの』(※2)
P子は全て納得した。とりあえず、この"山本五十八(やまもといそはち)"という人物の身元調査を、"J"こと城島丈太郎に依頼した。
11.Mi7の思惑
浅倉南は今回の任務にあまり乗り気ではなかった。
矢沢部長(コードネーム"830")から新任課長の『七海さくら(コードネーム"773")』を連れて、マイケル・インターナショナル・テクノロジーズ社(通称MIT)に人材紹介で潜り込む任務だったが、まだ真の目的は教えてもらえていなかった。しかも、MITが欲したのは自分ではなく『七海さくら』の方だった。
浅倉南がMITの採用面接のとき、人事担当の西田部長はそっけなかった。所が矢沢部長から言われていた通り『七海さくら』を紹介すると、一転愛想よく笑顔で話しかけて来て、他の面接官の意見も聞かずにその場で採用を決定したのだった。
浅倉南は、自分の存在意義が見いだせないでいた。
しかし、今回の一件で急にやる気が出てきた。今回の一件とは、CIA京都の川伊と会ったことだ。Mi7が目を付けていることと関係するのは明白だった。
「矢沢部長、少しお時間よろしいでしょうか?」
浅倉南は矢沢部長が会議から戻ってきたところを捕まえた。
「MITで、CIA京都の川伊さんと会いました。あちらも何らかの情報に基づいて潜入してきたんじゃないでしょうか?」
「まあ、そろそろいいかな」
矢沢部長は、少し勿体付けた感じで話し始めた。
「元々、うちと付き合いのあるKGBから、調査員の派遣依頼があったんだ」
調査員というのは、簡単に言うと企業に潜入して機密情報を集める仕事の依頼を指す。
「そこで、MITが探しているのが『七海さくら』と『佐倉ななみ』という人工知能だという事が分かった」
「え?あの『七海さくら』課長が人工知能なんですか?」
「いや、残念ながら、あれは偽物。本物がどこにいるのか判らないが、MITは必ず見つけ出す。それを横取りするのがKGBの目的らしい」
「でも、人工知能がどこにいるのか判らないって、どういうことですか?」
「それも判らない」
矢沢部長は、本当に知らないんだという風な顔で、浅倉南を見つめた。
12.CIAの思惑
P子は、城島丈太郎に依頼していた『尾行者』の身元調査の結果の報告を受けていた。
「P子先輩。例のKGBの尾行者の山本五十八(やまもといそはち)って人物ですが、KGBに入社して間もない若者で、スパイでも何でもないタダの社員だそうです」
丈太郎は、実家や出身地、小・中・高・大学と現住所、趣味、恋人の有無などをまとめた資料をP子に渡した。
『丈太郎君、ありがとう』
「どういたしまして...って、あなた誰?」(※3)
城島丈太郎は、突然のポシェットからの音声に驚いて答えた。彼はP子が『佐倉ななみ』課長をポシェットに入れて常に持ち歩いていることを知らなかった。
「あれ、言ってなかった?このポシェットには『佐倉ななみ』課長が入ってるの?」
『所で、その山本君をこちらの情報源に出来ない。つまり、CIAの秘密工作員としてスカウトするの』
佐倉課長の提案に、P子は賛同したかったが、自分はすでに顔を見られている。かといって、丈太郎に男性の山本君を誘惑させるわけにもいかない。残念ながら、CIA京都支店には、ハニートラップを仕掛けられるような女性工作員がいなかったのだ。
P子が逡巡(しゅんじゅん)しているのを察知したのか、佐倉課長が機械的な音声で提案してきた。
『Mi7のクレハさんにお願いしてみては?』
「はあ?」
P子も丈太郎も、一瞬何の事か判らなかった。クレハさんというのは、Mi7の諜報員(実際は諜報員見習の連絡係)の山村クレハの事だった。所で、佐倉課長がクレハの事を知っているのは、CIA京都の報告書には全て目を通しているからだった。
「さすがに、ライバル企業にお願いするというのは...しかも山本君が二重スパイになる可能性もありますし...」
丈太郎が口を挟んだ。もっともな意見だったが、P子は佐倉課長が何の思慮もなくそんな提案をしてきたとは思えなかった。
「佐倉課長、丈太郎君の言う事ももっともですけど、何か勝算と言うか戦略がおありなんですか?」
『実は...丈太郎君がクレハさんを誘惑して、CIAの二重スパイにして、クレハさんに山本君を誘惑してもらうの?一石二鳥でしょ?』
「はあ?」
P子も丈太郎も『あきれた』って感じで答えた。
13.KGBの思惑
(P子が尾行される約2週間前の事)
「山本君、ちょっと来てくれないかな?」
KGB大阪支社のシステム開発部部長の井上が、山本を含む3名の若手技術者に声をかけた。
「我が社がMITとAI関連で競合しているのを知っていると思うが、今から君たちはMITに出入りしている業者、取引先その他すべての関係者の身元を調査して欲しいんだ」
井上部長が言うには、3人で出入りする関係者を尾行して欲しいという事だった。
「尾行って、出てきた人に直接聞くのはダメなんですか?」
一人の技術者が質問した。
「そんなことすると、その関係者がMITに言うだろう」
井上は、明らかに『こいつバカか?』と言わんばかりの表情を見せた。
「まあ、よろしく頼むよ」
井上はそういうと、3名にスマホを持たせて現場に向かうように命じた。
山本を含む3名の若手技術者は、意味も目的も分からずとりあえずMITの出入り口が見える喫茶店に入った。ただ、井上からは『いつまで』という指示は受けていなかったので、毎日毎日、朝から晩までここを使用するわけにはいかない。今は、今後どうするかを決めるためだけに利用することにした。
「山本君と岩倉友美(ともみ)ちゃんだよね? 僕は大原と言います。いきなり胡散臭い仕事で嫌になっちゃうね」(※4)
大原と言う若者は屈託なく二人に話しかけたが、岩倉さんはいきなりのちゃん付けで少し怪訝な表情になっていたし、山本君も君付けされたことで自分の方が下に見られた感じがした。
「所で、順番を決めない?」
岩倉さんが先に切り出した。もちろん、尾行する順番だったが、山本君は最初何の順番か判らなかった。
「じゃ、ジャンケンか?」
大原がそう言ったが「こんなとこで?」と岩倉さんが拒否した。山本君は二人の会話を黙って聞いていた。
「じゃ、あみだくじね」(※5)
岩倉さんがそう言いながら、クラッチバッグからメモ帳を取り出し、1枚切り取って机の上に置いた。そして、3本の縦線を引いて適当に1,2,3と番号を書き、数字の箇所を折り曲げて見えないようにしてから、自分で横棒を数本入れた。
「何本か線を入れて」
岩倉さんはそう言うと、大原に紙とペンを渡した。大原は数本横線を入れ縦棒の一つに"大"の字を書き込んだ。そして「ほれ」と言って山本君に紙とペンを滑らせて渡した。
山本君は、ほとんど入れる箇所がなくなった紙に、無理やり何本かの線を入れ、大原と同様に"山"の字を一番右端の縦棒の上に書き込んだ。
ほとんど同時に「じゃ、余りが私ね」といって、山本君から紙とペンを取り戻し、折り曲げていた箇所を引き延ばして、何も書いていない棒線から、ペンで"あみだ"をなぞり出した。
「あーあ、2番手か」
岩倉さんは少し残念そうな声を出して「じゃ、次は大原君の分ね」と言った。岩倉さんはそのまま、"大"の字から"あみだ"をなぞりだすと、3の所にたどり着いた。
「あら、大原君が3番手という事は...」
岩倉さんは儀礼的に"山"の字からあみだ"をなぞった。
「山本君が1番手ね」
二人が少し羨ましそうに山本君に言ったのと裏腹に、山本君は不安そうな表情を浮かべていた。
======= <<注釈>>=======
※1 『所で、あなたを尾行してた人の名前が分かったわよ』
前回のお話を参考にしてね(By P子)
P10.P子と南 [小説:CIA京都支店]
https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/06/20190612_ciacommunication_intelligence_applications_ses_pcia_ses.html
※2 山本五十八(やまもといそはち)
山本 五十六(やまもと いそろく)とは無関係です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E4%BA%94%E5%8D%81%E5%85%AD
※3 ...って、あなた誰?
軽いノリツッコミです。
※4 岩倉友美(ともみ)ちゃん
岩倉 具視(いわくら ともみ)とは無関係です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A9%E5%80%89%E5%85%B7%E8%A6%96
※5 あみだくじね
「あみだくじ」実は不公平!?知っている人だけが得をする引き方は
https://www.daily.co.jp/society/life/2018/12/22/0011925903.shtml
ところで『アミダばばあ』って知ってる?
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%80%E3%81%B0%E3%81%B0%E3%81%82