魔女の刻 (19) 保険
これほど不機嫌そうな人間を見たのは初めてかもしれない。サクラちゃんに案内されてきた今枝さんは、アイゼンガルドを放逐されたサルマンのように、怒りと不満を隠そうともしなかった。
今枝さんは車椅子に座った白川さんの姿を見ても驚いた素振りを見せなかった。呼び出したのは白川さんらしいから当然だ。だが、高杉さんが視界に映ったとき、その目が大きく見開かれた。
「高杉さん?」今枝さんは自分の視覚を疑うように訊いた。「な、どうしてこんなとこに」
こんなとこ、というのは私が先ほど口にした形容詞だが、社外の人に言われると不愉快だ。同じ思いを共有したらしい田嶋社長が小さく咳払いしたが、あいにく今枝さんは、コンビニエンスストアの店員に向けるのと同程度の関心しか持たなかったようだ。
「座りなさい、今枝」高杉さんはサードアイ社員の許可も得ずに命じた。「あなたに訊きたいことがあります」
「白川さん」今枝さんの額に険悪な縦じわが刻まれた。「ダーティなやり口じゃないですか。ぼくをこんなところに呼び出しておいて、上級SE を使ってプレッシャーをかけるとはね」
「勘違いしないで」白川さんは歓迎するような笑みを浮かべた。「高杉さんは偶然居合わせただけ。まあ、いいから座りなさいよ」
今枝さんは空いている椅子に座り、私たちの顔を見回した。そのときになって、ようやく、東海林さんや私がいることに気付いたようだ。
「ん? あんたら、何やってんの、こんなところで」
この人は、わずか数時間前に自分がクビにした人間の会社名も憶えてないのか。
「うちの会社なので」東海林さんが当然すぎる答えを返した。「あなたよりは、この場所にいる権利はあると思いますがね。あ、市田さん、お茶を差し上げて」
「はーい」
返事をしたサクラちゃんが戻っていく。私は後を追って、その耳に囁いた。
「いいお茶じゃなくていいから」
「そうなんですか」
「むしろ、美味しくないやつで」
「ドクダミ茶とか?」
「そんなのあった?」
「ないです。じゃあ、台ふきんの絞り水でもトッピングするとか......」
「そこまでしなくていいから」
サクラちゃんはクスリと笑うと、了解した合図にOK マークを作り、給湯室に入っていった。大人げないのは自覚しているが、自分にクビを宣告した相手をもてなす気分にはなれない。
「それで、何なんですか」今枝さんは苛立たしげに言った。「ぼくは忙しいんですがね。だいたい白川さん、当分は入院してるって聞きましたよ。いいんですか?」
「心配しないで。担当医も特に反対しなかったから」
つまり、黙って抜け出してきた、ということだろう。その証拠に、新美さんが呆れたような顔で苦笑している。
「今枝。君、サードアイの東海林さんと川嶋さんに戦力外通告をしたそうね」
「ええ」今枝さんは反抗的に鼻を鳴らした。「それが何か? 正当な理由あってのことです。それが聞きたくて呼んだわけですか」
「いやいや」白川さんは小さく首を横に動かした。「理由とやらはどうでもいいのよ。撤回してもらえるかな。今すぐ」
「白川さんにそんなことを命令する権限はないはずですよね」
「知ってる。その上で即時の撤回をお願いしてるのよ」
「お断りします」今枝さんの細い目がメガネ越しに東海林さんと私に向けられた。「この二人に辞めてもらったのは、私の判断によるものです。私は自分の判断に自信を持っていますので」
「私が頼んでもダメかな?」白川さんは自分の身体を見回した。「この通りの有様なんで、立って頭を下げるわけにはいかないけど」
「ダメですね」
「そっか」
白川さんはため息をついたが、傷が痛むわけでも、今枝さんの説得を諦めたわけでもなさそうだった。ちょっと待って、と言いながら右手を病衣のポケットに滑り込ませる。取り出したのはスマートフォンだった。膝の上に置き、指紋認証でロックを解除する。覗き見防止フィルムのため、何が表示されているのかは見えない。
「こういう手は使いたくなかったけど、さっさと病院に戻らないと騒ぎになりそうだから」白川さんはぎこちなくスマートフォンを立てた。「これ見て」
怪訝そうにスマートフォンの画面を正面から覗き込んだ今枝さんは、次の瞬間、ハッと息を呑んだ。浅黒い顔から血の気が引いている。
「こ、これ......」
「私は他人の性的嗜好をどうこう言う趣味はないのよ」白川さんはスマートフォンを小さく振った。「別にどんな格好で何しようと、年齢が離れていようと、反社会的行為に荷担しない限りは個人の自由だしね」
一体、何が映っていたのか、という好奇心に駆られたのは私だけではないはずだ。何人かがさりげなく画面を盗み見ようとしたが、白川さんは素早くスマートフォンの画面を消すと、苦労しながらポケットに戻した。
「ただ、上級SE の審査は、数字としての実績が最大要素だけど、最終的に決定するのは人間だからね。建前は個人の自由を尊重すると言っていても、こういう画像を見ちゃうと、それが影響を及ぼさないとは断言できないんじゃないかな」
「......脅迫ですか」
「一般論よ。私は何も要求してないでしょ」
今枝さんは憎悪に満ちた視線を白川さんに向けていたが、やがて諦めたように肩を落とした。のろのろと立ち上がりながら、スーツの内ポケットからスマートフォンを出し、数回タップしてから耳に当てた。少し離れた場所まで歩き、誰かと通話を開始する。ボソボソと話す声の内容は聞き取れなかった。
すぐに通話を終えた今枝さんは、崩れるように元の椅子に身体を沈めた。そこにサクラちゃんがお盆を持ってくる。今枝さんの前に置かれたのは、特売品の煎茶らしい。ギリギリまで茶葉をけちったらしく、限りなく透明に近いグリーンだ。
「申請は撤回しました」死人のような顔で今枝さんが白川さんに報告した。
「理解してもらえて嬉しいわ」
白川さんはニッコリ微笑んだ。反対に、今枝さんの顔には敗北感と諦観が同時に浮かんでいる。
「で、次は何ですか」そう言った声は、いかにも投げ遣りだった。「くぬぎ市案件のオーダーテイカーの辞退ですか?」
「まさか」白川さんはまた笑った。「どうしてそんなことを」
「ぼくが白川さんの立場なら、そうするからです」
「君にはそのままオーダーテイカーを続けてもらいたいわ。なにしろ、私はこんな有様だから」
今枝さんは、何かのトラップを疑うように、白川さんの表情を確認した。白川さんは肩をすくめたが、その仕草で身体に痛みが走ったらしく、顔をしかめた。
「うーん痛い。あのね」白川さんは笑顔を消した。「もし君が無能で権力欲しかないようなクズなら、私は君がこの案件に関わる前に葬り去っていたと思うわよ。でも、幸いなことに、君は私には遠く及ばないにしても、それなりのスキルは持っているんでしょう。だったら、くぬぎ市再生プロジェクトでその力を発揮してもらいたいわ。少なくとも私が復帰するまでは」
「......」
戸惑った顔の今枝さんの視線が、白川さんから高杉さんの間を往復した。高杉さんは、白川さんに任せてある、と言わんばかりに小さく頷いた。
「うちとQ-LIC が冷戦状態にあるのは知ってるでしょう。今、仲間内で下らない権力闘争ごっこなんかやってるヒマはないのよ。そんなことをしてたら、Q-LIC が喜ぶだけ。それぐらいわかるわよね」
「それはまあ......」
「私は何としても、くぬぎ市案件を成功させたいの。そのために、使える戦力は有効活用させてもらうつもりだから。サードアイさんは貴重な戦力だけど、君だってそう。私は君の対人折衝スキルは高く評価しているつもりよ。そのスキルを活かさないのはもったいないじゃない」
「スキルを活かすと言っても」今枝さんは自嘲気味に眉をしかめた。「どうせ、白川さんのオーダーに従え、ってことですよね」
「なんでそう思うのよ。そんなに自信がないの?」
「そういうわけではなくて......」
開発センターで見せた横柄さを、すっかり抜き取られてしまった今枝さんは、白川さんがスマートフォンをしまったポケットを見つめた。
「ああ、なるほど」白川さんは再びスマートフォンを取り出した。「この画像がある限り、君は私の言いなりになるしかない。そういうことを心配してるわけね」
「ええ、まあ」
白川さんの指がスマートフォンを素早く操作した。画面を顔の前に掲げる。「1 枚の画像が削除されました」とのメッセージが表示されていた。
「削除したわよ」
今枝さんの表情は晴れなかった。
「どうせ、コピーがあるに決まってるじゃないですか」
「ない、という証明はできないわね。でも、私の名誉に賭けて、あの画像はここに入っていた1 枚しか存在しない。誓うわよ」
白川さんはウソを言っていない、という気がしたが、それは私が心情的に白川さんを信じたいと思っているからに過ぎないのかもしれない。システム屋なら誰でも、バックアップの重要性は認識しているから、普通は安全な場所にコピーを残しておくに決まっている。ただ、それなら、そもそも今枝さんの前で画像を消してみせるようなパフォーマンスが必要だったとは思えない。
「もし、ぼくが」疑念を払拭しきれない顔の今枝さんが囁くように言った。「もう一度、この二人の契約解除を申請したらどうするんですか。今の言葉が真実なら、もう、ぼくを止める材料は残ってないってことですよね」
「そのときは」白川さんは上司の顔を見た。「高杉さんの政治力に期待するしかないわね。言っておくけど、私は、君の良心に期待しているわけじゃないのよ。いずれにせよ、審査会議でサードアイさんの契約解除は撤回されたと思ってるから。ただ、それまでのタイムラグを可能な限り短くするために、痛む身体を引きずって出張ってきたの」
「......本当に、ぼくのやり方でやっていいんですか」
「もちろん。私は口を出さないことを約束するわ。ただ、ひとつだけ頼みがあるけどね」
「ほらきた」今枝さんは、むしろ安心したようにニヤリと笑った。「やっぱり条件があるんじゃないですか」
「条件じゃなくて、頼み、って言ったでしょう。君、上級SE を目指しているのよね」
「別に秘密ではないですよ。白川さんだってそうでしょう。くぬぎ市再生プロジェクトを成功させたいのは、そのためじゃないんですか」
「うん、否定はしない」白川さんは悪びれずに答えた。「でも、君がこのプロジェクトでポイントを稼ごうとするのはやめた方がいいわね。なぜなら、PL は私だから。君が私を出し抜いて何をしても、結局、私の成果になるだけのことよ。私は実績では君を遙かにリードしているし、くぬぎ市再生タスクフォースとの間に信頼関係も築いてる。一カ月やそこらで、その差を埋めることは絶対にできないから」
「......自慢ですか」
「そうじゃない。負けが明らかな戦いにリソースを投入するのはムダだって言ってるの。たとえば、自分がボスだってことを示すためだけに、あえて私と違うやり方を強引に進めるとか、私が高く評価しているプログラマを排除するとか、そういうこと。もし、君のやり方が本当に理にかなっているという、確固たる信念があるなら別だけどね。そうじゃないなら、このプロジェクトだけは、プロジェクトの成功のために注力すると約束して欲しいのよ。そうすれば、私が上級SE になったときに、必ず、君を引き上げると約束するから」
今枝さんは顎に手を当てて考え込んだ。その頭の中を、疑惑や逡巡や計算がぐるぐると駆け巡っているのが見えるようだ。つまるところ、今枝さんの選択肢は2 つしかない。白川さんの味方になるか、敵になるか、だ。
「理解に苦しむ人ですね」しばらくして、今枝さんは白川さんの目を見つめながら言った。「ぼくなら間違いなく、この場で相手を叩きのめして、後顧の憂いを断ち切ったでしょう。さっきの画像を見せられたとき、ぼくは退場を覚悟したんですよ。ぼくが知ってるエース社員なら、10 人が10 人、そうしたでしょうに。ところが、白川さんは、ぼくにとどめを刺すどころか、今の仕事を続けて欲しいと仰る。全くエース社員らしくない振る舞いじゃないですか。頭がおかしくなりそうですよ」
白川さんは微かに笑みを浮かべただけで何も言わなかった。今枝さんは大きくため息をつくと、仕方なさそうに頷いた。
「わかりました。このプロジェクトに限っては、出世のためではなく、プロジェクトそのもののために尽力することを約束します」
「あー、失礼」東海林さんが咳払いした。「よその会社でするのはどうかと思う交渉が、めでたくまとまったようなので確認しておきたいんですが、私と川嶋は、明日からどうすればいいんでしょうかね」
「聞いての通りだ」今枝さんは横柄さを復活させた。「クビは撤回した。仕事を続けていい」
田嶋社長と黒野が揃って安堵のため息をついた。東海林さんは小さく頷き、私もホッとした。明日から無為な時間を過ごさなければならないのかと思うと、少々憂鬱だったからだ。
「まあ、多少の行き違いはあったようだがね」今枝さんは続けた。「明日からしっかりやってくれよ」
「あれ、おかしいな」東海林さんは首を傾げた。「てっきり謝罪の言葉をいただけるのかと思っていましたが」
「あ? どうしてぼくが謝罪しなければならないんだ」
これが虚勢を張っているのなら、まだ可愛げもあるというものだが、本気でわかっていないのだから、先が思いやられる。そう思っていると、いきなり横から鋭い声が飛んできた。
「ちょっと、あんた」
「あ?」今枝さんは驚いて、サクラちゃんを見た。「なんだ、お前」
サクラちゃんは険しい顔で近付いてくると、今枝さんの椅子を掴んで、自分の方に向けた。呆気に取られた今枝さんに顔を近づけ、サクラちゃんは低い声で言った。
「もう少し口のきき方に気をつけたらどうなの」
「い、市田さん!」
田嶋社長が悲鳴のような声で制したが、サクラちゃんは無視し、さらに今枝さんに接近した。レイヤードシャツの豊かな胸元を下から見上げる形になり、今枝さんは目を白黒させた。
「ここはあんたの会社じゃないでしょう。これらの小さい者の一人をも軽んじないように注意しなさい、とイエス様も仰ってるわよ」
「何をわけのわからないことを」今枝さんは身体を離して、サクラちゃんを睨んだ。「ぼくは命令を下す立場の人間なんだ。お前こそ、口のきき方に気を付けるべきじゃないのかよ」
「だったらなおさらよ」サクラちゃんはひるむことなく答えた。「使徒ペトロも言ってるわよ。権威を振り回してはいけません。むしろ、群れの模範になりなさいってね」
「誰だよ、そりゃ」
「何が命令を下す立場よ。政治家はトップリーダーなんですとか、バカげたことを言った人いたけど、あの人がどうなったか知ってるよねえ」
「何が言いたいんだ」今枝さんは、助けを求めるように私たちを見た。「おい、あんたらの社員だろ。何とかしてくれよ」
「ゾシマ長老はこう言ってる。人はだれの審判者にもなりえぬことを、特に心に留めておくがよい。つまりね......」
「えーと、サクラさんだっけ」白川さんが笑いをこらえながら言った。「もう、それぐらいで解放してあげて」
「それから」私は付け加えた。「お客様には敬語を使って」
「そうですか」サクラちゃんは表情を和らげた。「まあ、いいでしょう。あ、そうだ。お茶のお代わりはいかが? お湯が沸く間、神の愛についてお話できますよ」
「いや、結構」今枝さんは慌てて立ち上がった。「仕事があるので失礼する」
「そうですか。残念」
今枝さんはカバンを掴んだが、ふと何かを思い出したように白川さんに向き直った。
「一つ、訊きたいことがあるんですが」
「どうぞ」
「さっきの、その......」今枝さんは言い淀んだ。「が、画像のことですが、どうやってこんなに早く入手したんですか。今日の今日ですよ。いくらなんでも......」
「あれを入手したのは、君が10 月からプロジェクトに参加する予定だと知ったときよ。保険の意味でね」
「ぼくが白川さんの敵に回ったときの備えですか」
「君がプロジェクトの遂行を阻害する要素になったときの備えよ。使わずにすめば、それに越したことはないと思っていたけどね。どんなことでも準備は大切よ。イチローも、準備とは言い訳の材料となり得るものを排除していくことだと言ってる。どんなシステム構築にも言えるけど、可能な限りあらゆる事態を想定して準備をしておくことが完成度を上げるのよ」
「それも」今枝さんは白川さんのギブスで固められた脚を指した。「想定の範囲内ですか?」
「たまには想定外の出来事も起こる、といういい教訓ね」
今枝さんは納得したように頷き、サクラちゃんの案内を断って、エントランスの方に消えていった。
「私もそろそろ失礼しましょう」高杉さんも立ち上がった。「白川。あなたも早く病院に戻りなさい。そもそも、ここまでどうやって来たんですか」
「福祉車両をレンタルしました。新美の運転で」
「気を付けて帰りなさい。それから」高杉さんの顔に珍しく逡巡が走った。「もしかして、私についても何かその、あなたの言う保険を持っているのですか?」
「高杉さんのですか?」白川さんは面白そうに訊いた。「高杉さんに弱点なんてあるんですか」
「どんな人間でもアキレス腱を持っています。どうなのですか」
「持っていたとしても、持っているなんて言うはずがないじゃありませんか」
高杉さんは無表情に部下を凝視し、白川さんは無邪気な顔でそれを受け止めた。さらに追及するかどうか迷うような表情を見せた後、高杉さんは戦闘態勢を解くように口角を少し上げた。ひょっとすると笑みだったのかもしれないが、あまりにも微妙な角度だったので判別できなかった。
「私は会社に戻ります」高杉さんは田嶋社長を見た。「弊社の事情でお騒がせして申しわけありませんでした」
「いえ」田嶋社長は立ち上がって頭を下げた。「お構いもしませんで」
「それから、あなた」高杉さんはサクラちゃんに言った。「美味しいお茶でした。ごちそうさま」
「ありがとうございます」サクラちゃんは嬉しそうな笑顔で答えた。「今度いらっしゃるときは、前もって連絡くださいよ。いい静岡茶の缶が隠してあるんですよ。お茶菓子も、ちゃんとしたのを用意しておきますから」
「楽しみにしています」
高杉さんは立ち去った。その颯爽とした後ろ姿が消えると、全員が一様に重荷から解放されたような息を吐いた。
「さて、私たちも失礼しましょうか」白川さんも言った。
「わかりました」新美さんが脱いでいた上着を掴んだ。「車を回してきます」
新美さんが急ぎ足で出て行った後、代わりに点滴ボトルを持っていた私は、白川さんの額に浮かぶ汗に気付いた。よく見ると、頬も赤い。
「あの、痛みますか?」
「ええ、そりゃあもう」白川さんの言葉にはいつものキレがなかった。「誰も見てなければ、大声で喚きたくなるぐらい」
「すいません。私たちのために」
「どちらかと言えば、私のためなのよ」白川さんは力なく笑った。「今枝はきっとプロジェクトをかき回すだろうけど、そのときサードアイさんがいれば被害を最小限に留めておけると思うので」
「かき回すんですか」
「残念だけど間違いなく。今枝の対人折衝能力を買っていると言ったのはウソではないけど、システムエンジニアの真似事をするには経験値が圧倒的に不足しているから。かなりデタラメな指示が降りてくることになるでしょうね。川嶋さんにもご迷惑をおかけするでしょうね。先に謝っておきます」
「そんな」私はハンカチを白川さんの額にあてながら言った。「それぐらいなら、どうして......」
「今枝を外さなかったのか?」
「ええ」
「ああいう人間は排除して一生根に持たれるより、近くでコントロールした方がいいからよ。それに思いもかけない形で役に立つかもしれないし」
それが何なのか訊く前に、新美さんが戻ってきた。ケガ人を引き留めておくのも悪いので、私は新美さんを手伝って車椅子の白川さんをエレベータに乗せた。
「それでは、川嶋さん」白川さんはケージの中から小さく手を振った。「よろしくお願いします」
「早く復帰してください」私は心からそう言った。
エレベータの扉が閉じ、白川さんは病院に戻っていった。長かった6 月26 日の終わりだった。
(続)
この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。本文中に登場する技術や製品は実在しないことがあります。
コメント
匿名
どんな写真だったのか...。
匿名
白川さん…憧れるのも自惚れと思うほどにかっこいいな
TDKRKUJ
今枝氏ホ○ビ出演者説
user-key.
「あの画像はここに入っていた1 枚しか存在しない。」→似たような映像はあるって事かぁ。
公英
>スキルを生かす
スキルを活かす、ですね。
また最終行「エレベーター」です。
魔女の本領ですね。こっわ(好き)。
リーベルGさんの描く女性、一人として倒せそうな人物がいない…(笑)
のり&はる
「どんな格好で何しようが」…男の娘だったとか?「年が離れて」るってなんだろう?
shin
熟女との赤ちゃんプレイと推察する
nabe
不正アクセス的な方法でも使ったんだろうか・・・魔女こわい
dai
あとで高杉さんが自分の写真有無を心配したあたり、実は高杉×今枝写真だった可能性はどうだろうか。
高杉晋作
もしや白川…私の弱みも握って…
SQL
白川さん、かっこいい
しかし改めて読み返すと、
サクラちゃんはサクラちゃんでなんなんだろうw
匿名
白石さんがスゴイということはよくわかった。
……それだけで、なんかスカッとしない。
やってることも対処療法でしかないし。
まあ、子供向けの勧善懲悪物語じゃないからな。
atlan
自分で撮影したんでない限り撮影者がバックアップ作ってないと保証出来ないだろうなぁ
匿名
幼女と赤ちゃんプレイかな?
羨ましい
匿名
女装でホスト通いとか。
匿名
リーベルGさん、今枝の性癖はスピンオフで明らかになるんですよね?
リーベルG
公英さん、ご指摘ありがとうございます。
匿名
スキルを生かすで良いようにおもいますが。
匿名
アッーな写真?
社内政治こわい
ああああ
>不正アクセス的な方法でも使ったんだろうか・・・魔女こわい
その手のスキルを持った人間や組織にコネがあったんじゃ。
本命:興信所や探偵やジャーナリストetc...
大穴:高村ミスズ
ネタ:イニシアティブ
あたりに。
しかしこうして見ると、白川もこんな人間をバッサリやらず、
プライベートを嗅ぎ回って弱みを握ってコントロールするという発想をするあたり、
やっぱり権力闘争の文脈からは逃れられていないな。
>「ああいう人間は排除して一生根に持たれるより、近くでコントロールした方がいいからよ。それに思いもかけない形で役に立つかもしれないし」
今枝は指輪物語で言うところのゴクリ(ゴラム)枠って伏線かな。
だとすると、今枝の独断専行が、今後ぶち当たる問題への解決策になるっていうオチが待っているのか…?
3STR
今枝君、生贄候補か
説教で改心期待するくらいならパワープレイの方が即効性は高いという判断かな
しかし無礼を窘めるわけでもない高杉さん、対外折衝まともにできる人なのかね
匿名
今回の対応と言動に限ると、例えばサクラちゃん視点だと高杉さんはある程度はまともな人っぽく見えそう(エースの文化に染まり切ってるのは置いといて)
まあ今枝さんがアレすぎる反動なんだが、とりあえず真面目に仕事するつもりらしいからお手並み拝見だね
えいひ
指輪物語のスメルゴアを思い出してしまった。指輪と引き換えにマグマに落ちないようにね。(白川さんのセリフが死亡フラグ
匿名
白川さんのスマホをチラチラ見てたのが後々になって見たけりゃ見せてやるよって事になったら今枝としてはまずいですよ
p
たまに指輪ネタが入るの好き
キリスト教知識極振りの引用攻撃で完封するサクラちゃん大好き
東海林さんが会話の節々に嫌味混ぜてヒットアンドアウェイするのもっと大好き