新潟初のソフトウェアテストシンポジウム「JaSST'11 Niigata」開催レポート(その1)――新潟から、全国へ
こんにちは、第3バイオリンです。
前回のレポートで、間違えてタイトルに「ソフトウェアテストカンファレンス」と載せてしまいました(現在は修正されています)。知っている方に指摘されて気が付きました。お恥ずかしい限りです。レポートの最後の方に「無事に終わっているでしょうか」と書きましたが、始まる前から無事じゃないし! と、1人で頭を抱えてしまったことはここだけの話です。
さて、気を取り直していよいよレポート本編を始めます。
■まずは準備から
今回は、JaSST Niigata実行委員のアドバイザを務める吉澤 智美さんと、JaSST Tokyo実行委員長の長谷川聡さんが東京からお手伝いに駆けつけてくださいました。
おふたりともこのようなイベントは何度も経験されているとのことで、手際よく受付のセッティングを済ませ、参加者の対応にあたってくださいました。また、当日参加していたアドバイザの秋山浩一さんも、会場の写真撮影を引き受けてくださいました。この場を借りて感謝申し上げます。
参加者の受付が始まってからも、わたしは機材チェックや講演者への対応などでバタバタと走り回っていました。参加者として受付に並んでいた直属の上司に「廊下を走らない」と、小学生のような注意を受けてしまったのはここだけの話です。
■オープニングセッション
まずはオープニングセッション、いわば「開会宣言」です。ここは実行委員長であるわたしがビシッと挨拶をするところです。
しかし、信じられない話だと思いますが、当日まで忙しかったこともあって、挨拶の練習をまともにしないまま、ぶっつけ本番で臨んでしまいました(クロージングのご挨拶も)。後の情報交換会で、直属の上司や関係者に「挨拶の練習をしなかっただろう!?」と叱られたのはここだけの話です。
つたない挨拶でしたが、「この『JaST'11 Niigata』が、参加者のみなさんにとって、現場の悩みの解決、改善のヒントを得られる場になることができれば、そして新しい交流の場になることができれば幸いです」何とかこの言葉をお伝えし、開会宣言としました。
■品質を上げるための、個人/組織の体質改善
今回の「JaSST’11 Niigata」のコンセプトです。
品質を上げるための方法はいろいろありますが、小手先のテクニックに頼るだけでは、本当の意味での品質向上は実現できません。もっと根本的な、個人の意識や組織の体質から改善していく必要があります。例えば、人間の体が薬や巷に溢れる健康法に頼るだけでなく、内側から体質改善をしなくては本当の意味で健康になることができないように。
「JaSST’11 Niigata」では、そのために何をするべきか、参加者の皆さんと一緒に考えることにしました。
■基調講演「テストを軸にしたソフトウェア品質の改善」
電気通信大学の西康晴さんの講演です。
まずは、新潟でJaSSTを開催する理由の説明から始まりました。
これまでのJaSSTは、東京の他、大阪や札幌などの大都市で開催されていました。新潟のように、それほど広くない地域での開催は初めてです。
新潟に限った話ではありませんが、地域というのは東京から仕事が流れてくることが多いと思います。このような傾向は、東京への一極集中と批判的に見られることが多いのですが、裏を返せば、東京だけでは仕事が成り立たない、東京の仕事を地域の力が支えていると見ることもできます。
ということは、地域が栄えて、技術力をアップさせなければ、東京の、ひいては日本の繁栄もないということなのです。
西さんは、「『地方(ここではあえてこう言いました)には仕事が少ないし、単価も安い』こういう考えを変えてほしい。地域が東京を、ひいては日本を支えているのです」と語りました。
さらに、「JaSST’11 Niigataをきっかけにして、テストの勉強会やコミュニティが新潟に生まれてほしい。そして新潟がレベルアップして、他の地域が新潟を目指すようになってほしい」と熱く語ってくださいました。
この言葉に、参加者の皆さんは心なしかテンションが上がっているようでした。少なくともわたし自身はかなりテンションが上がりました。
さて、どうやって新潟が他の地域をリードするのか、そのためにソフトウェアはどうなっていくべきか、どのような組織づくりを目指せばいいのか。それを踏まえつつ、西さんの話は本題へと移っていきました。
例えば、の話ですが「品質を10倍上げて!」とリクエストされた場合、それを実現するためにどれだけの時間とコストがかかるのか、答えられる人は少ないと思います。
いきなり10倍だなんて、そもそも、何を基準にしたときの10倍なんだよ……と言う方も多いと思いますが、決して大げさな話ではなく、社会が求めるソフトウェアの品質のハードルはどんどん上がっています。しかし、作る側がそれに追いついていないというのが現状だそうです。
では、ソフトウェアの品質を上げるために、企業はどのような戦略を取るべきでしょうか。ここで西さんは、「高カイゼン戦略」というキーワードを出しました。
高カイゼン戦略とは、周りを巻き込んで成長し続ける、つまり自社のみではなく顧客やパートナー企業もカイゼンすることにより、付加価値を与える戦略のことです。
例えば、顧客が提示してきた仕様書の内容に問題があってバグが出たとします。高カイゼン戦略を取る企業は、顧客に対して「仕様書にこのような問題がありますね。こちらに任せてくだされば、その問題も解決します」と提案するのです。そうすると顧客は満足し、ずっとひいきにしてくれる、というわけです。
高カイゼン戦略とは、みんなが自分の仕事をちょっとだけ良くして、ついでに周りの人の仕事もちょっとだけ良くする戦略です。これは、日本人の性質によく合っているそうです。しかも、景気や技術の流行り廃れといった外からの変化に強い戦略なのです。
高カイゼン戦略を実現するために大切なものが「フォロワーシップ」です。フォロワーシップとは、例えば社内であれば部下が上司をフォローする、社外であれば自社の社員が顧客やパートナーをフォローする、そのためのスキルです。
具体的には、相手に気持ちよく働いてもらうための言い方や振舞い方のスキル、相手の言いたいことややりたいことを先読みするスキル、などでしょうか。フォロワーシップを高め、自分達だけでなく顧客やパートナーの仕事の進め方までカイゼンできる組織に支えられていると、品質は高くなる、と西さんはおっしゃいました。
こうしてみると、品質を作っているのは、まさに「人」であると言えると思います。
最後に西さんは、開発者が「最も良いやり方で考える」ことに近づけていくためのプロセスのお話をされました。
従来の、要求分析→基本設計→詳細設計→実装と、開発工程を順番に進めて、最後にテストを実施するというプロセスでは、上流工程とテストが分離されてしまうので、テストの結果が上流工程にフィードバックされにくい、バグが入り込んだのが上流になればなるほど、手戻りが大きくなるというデメリットがあります。
これらの問題を解消するために、西さんが提案するのがWモデルです(こちらに図解があります)。Wモデルでは、各工程でテスト設計も一緒に実施してしまう、というスタイルです。上流から開発とテストが一緒に仕事をすることで、最初からバグのないコードを書くようにできるというメリットがあります。
Wモデルで上流とテストが協調することで、組織全体でノウハウを蓄積し、成長していく。バグを見つけるためのテストから、バグを予防するテストへと進化していく。そのために開発者とテストエンジニアが同じゴールを意識することが大切だと西さんは締めくくりました。
わたしは「自分の仕事をちょっとだけ良くして、ついでに周りの人の仕事もちょっとだけ良くする」という言葉が印象に残りました。いきなり難しいことをしなくても、今できることをきちんとこなしつつ、今より少しずつ良くしていけば、確実に品質は向上していくというお話に、希望の光が見えました。
レポート(その1)はここまでです。次回は、地元企業による事例発表の様子をお送りします。
コメント
ohym
当日はありがとうございました。
西先生のお話は、本当に「目から鱗」な内容で、錯覚かもしれませんが少し視野が広がったように思います。
自分の周囲を思い返すとどこから手をつけるか途方に暮れてしまいますが、少しずつ何かを変えてみよう考えています。
今後、勉強会なども企画されたら是非参加させていただきます。
最後になりましたが、実行委員長の作業、お疲れ様でした。
第3バイオリンさんがあの役目を担わなければ、あのシンポジウムはなく、あのすばらしい機会を得ることがありませんでした。
本当にお疲れ様でした、そして心よりの感謝を。
第3バイオリン
ohymさん
コメントありがとうございます。
こちらこそ、ご参加いただき、ありがとうございました。
>西先生のお話は、本当に「目から鱗」な内容で、錯覚かもしれませんが少し視野が広がったように思います。
>自分の周囲を思い返すとどこから手をつけるか途方に暮れてしまいますが、少しずつ何かを変えてみよう考えています。
基調講演のときは、参加者みなさんが聞き入っている様を私も見ていました。
もちろん、私自身も聞き入っていました。
にしさんの講演は、参加者の皆さんに力を与えてくださったと思います。
>今後、勉強会なども企画されたら是非参加させていただきます。
はい、勉強会も企画しております。
(できれば3月中に…なんて、こんなところで言ったら、
本当にやらなくてはいけませんね^^)
開催時には、ohymさんもお誘いしたいと思います。
>最後になりましたが、実行委員長の作業、お疲れ様でした。
>第3バイオリンさんがあの役目を担わなければ、あのシンポジウムはなく、あのすばらしい機会を得ることがありませんでした。
>本当にお疲れ様でした、そして心よりの感謝を。
いえいえ。
参加者のみなさんの内に秘めた熱い気持ちがなければ
JaSST'11 Niigataの成功はありませんでした。
私はきっかけを作っただけですよ^^
NAKA
JaSST新潟の実行委員長もされたのですね。すばらしい!
あきやまさんのmixiで内容は知っていたのですが、実行委員長の
ブログをこうして読ませていただいているとは知りませんでした。
世の中狭いですね。(^^;
これからも、よろしくお願いいたします。
(今日はJSTQB試験の勉強の為に
図書館に来たのですが、このコラムを読めて幸せでした。
これからもたまにお邪魔します。
実は私はパソコンを持ってないので
ほんとたまにしかお邪魔できないですが、コメント残して去っていきます。(^^))
第3バイオリン
NAKAさん
コメントありがとうございます。
>JaSST新潟の実行委員長もされたのですね。すばらしい!
>あきやまさんのmixiで内容は知っていたのですが、実行委員長の
>ブログをこうして読ませていただいているとは知りませんでした。
>世の中狭いですね。(^^;
>これからも、よろしくお願いいたします。
ええ、そうなんです。
コラムが縁で、いろいろな方に私のことを知っていただけて
こういうチャンスを頂くことができました。
JaSSTの中の人、それも実行委員長がレポートを書くというのも、面白いかなあ、と思いまして。
私のほうこそ、よろしくお願いします。
>(今日はJSTQB試験の勉強の為に
>図書館に来たのですが、このコラムを読めて幸せでした。
JSTQB、いよいよ今月に迫ってきましたね。
私も勉強中です。
今だから言いますが、実は、私は当初受験するかどうか迷っていました。
以前テストリーダーだったのですが、諸事情があって今はリーダーではなくなったので。
そんなとき、NAKAさんがJSTQB ALのことを書いたコラムにコメントをくださったのを見て、迷いが消えました。
お礼を言うべきなのはむしろ私のほうです。あのときは本当にありがとうございました。
>これからもたまにお邪魔します。
>実は私はパソコンを持ってないので
>ほんとたまにしかお邪魔できないですが、コメント残して去っていきます。(^^))
はい、ご遠慮なくいつでもどうぞ。
別のコラムのコメントにも書きましたが、コメントがあるとメールが送信されるシステムなので、過去のコラムでもすぐにお返事しますね。