心の医者
今月のお題は「尊敬しているプロフェッショナル」ということですが、実際のところ、会社生活では鬼上司、ダメ上司、まじめがとりえな先輩など、プロとして尊敬できるような人にはあまりお目にかかったことがないです。日本ではプロというよりも会社人(=サラリーマン)であることが重視され、職業人として一流でも、出世しなければ尊敬に値しないという風潮が強いです。いくら腕が立っても出世とは無関係な面が多い。「こち亀」で言えば、寺井さんのような和を好む凡庸なタイプが順調に出世していくのではないでしょうか?
若いころ、1年半ほどシリコンバレーにて、ハード開発で外国の人と仕事をしたことがあります。米国の会社ではプロジェクトが発足するとそれに見合った人材を募集します。プロジェクトが終わってしまうと、同じ会社の別のプロジェクトに参加するか、違う会社に行くか選択することになります。どこのプロジェクトからもお呼ばれがない場合は、職がなくなります。資本主義というものは競争社会なので、プロジェクト期間中はかなり遅くまで仕事をするのが普通でした。労働組合は工場のラインで働く人ためのものであり、エンジニアは組合員でない、つまり用なしになればクビ。稼げるところに行く、稼げるときに稼ぐ。有能な人材こそが常に職と報酬を得る。彼らはプロフェッショナルでした。
皆さん、尊敬するIT業界の人やスポーツマン、芸術家、起業家などいらっしゃると思います。それらの方は日ごろから人知れぬ努力をしているのでしょう。しかし私の印象に残るプロフェッショナルな人は架空の人であります。
● ブラック・ジャック 雪原のバイオリン(原題:ストラディヴァリウス)
ブラック・ジャックが乗った飛行機は極寒の地の雪原に不時着してしまいます。乗客は混乱しパニック状態。そんな中、バイオリニスト「モロゾフ」は演奏を始めます。乗客は静まり返り、演奏を堪能。モロゾフはブラック・ジャックに言いました。「私は心の医者だ!」
ブラック・ジャックは私が子供のころに少年誌に連載していた手塚治虫先生の漫画であります。アニメ化されたことで今やブラック・ジャックは子供から大人まで人気がある憧れのプロフェッショナル! どんな大手術でも物怖じせず冷静にやってのけます。
この話に出てくるモロゾフも、たとえ窮地に陥っても自分の演奏に没頭できる落ち着きがあります。その後、偉大な音楽家の凍傷にかかってしまった指をブラック・ジャックが切ります。泣けるシーンですね。結局、飛行機で聞いた演奏がモロゾフ最後のものとなったわけです。医者と音楽家という違う分野での2人のプロフェッショナルの、偶然の出会いを描いた心に残る話です。
手塚治虫先生もプロフェッショナルな方ですが、何か子供にプロフェッショナルであることの偉大さ、重要さを教え、大人になってからもこの漫画を思い出して仕事の励みにしてほしい、というような思いがあったのかもしれませんね。