第11話:“育成中のメンバーにどこまでまかせよう?”の巻(中)
新任リーダー明日香のグループでは、若手のイサハヤをベテランのサイゴウが指導している。サイゴウは、明日香の提案に従い、これまで自分が行ってきたグループ・ミーティング時の進捗報告を、今回からイサハヤに任せることになった。
サイゴウ「それでは夏山興業の進捗状況を報告します。今回から、グループ・ミーティングでの報告はイサハヤくんに担当してもらいます」
イサハヤ「まず先週の作業の内容ですが…」
サイゴウ「あ、先週は特に作業内容で変わったことはなかったんだから、それは飛ばしていいと言ったでしょ」
イサハヤ「……はい。では、計画に対して先週の進捗状況をご説明します。3つあるサブシステムのうち2つは、先週に文書レベルでお客様に最終仕様の承認をいただく予定でしたが、エンドユーザー部門から急な仕様変更依頼が入りました。その対応が重要だと思ったので…」
サイゴウ「“思った”?」
イサハヤ「失礼しました。その対応が重要だと“判断”しました。結局、先週のうちに承認が取れたのは1つのサブシステムだけになりました。遅れているもう1つのサブシステムは……」
サイゴウ「“遅れている”?」
イサハヤ「あ!えっと、その、“承認を先送りした”サブシステムについては、仕様変更の対応は先週中に完了しました。今週火曜に、改めて承認をいただく機会を設けていただきましたので、進捗に対する影響は軽微です。来週から、いよいよ協力会社の方々も加わって実装段階に入ります」
サイゴウとイサハヤが一緒に担当しているプロジェクトは、すでに稼働して安定した運用段階に入っている案件を含めれば全部で4件ある。この後、イサハヤが、残る3件の進捗報告を続けて行ったが、細部に及ぶサイゴウの指導ぶりは否が応でも目についた。
その週の金曜日。サイゴウは、翌週のグループ・ミーティングに備えて、イサハヤに事細かに指示をするつもりだった。ところが、別グループの担当顧客で緊急の技術的なサポートが必要になり、サイゴウが駆り出された。すっかり時間を取られてしまったサイゴウは、イサハヤとの打ち合わせができないまま月曜日を迎えることになった。
月曜日は、久しぶりにカラリとした晴天が広がった。明日香は、ひと駅前で降りてウォーキングを楽しみたい、と早めに家を出た。オフィスにも思いのほか早く着いた。すると、イサハヤがもう自席にいた。
明日香「おはようございます! イサハヤくん、早いのね!」
イサハヤ「おはようございます。今日は進捗報告があるので。先週金曜、サイゴウさんが忙しかったので、自分だけで準備したのですが、もう1度頭を整理しておこうと思って。ちょっと早めに来たんです」
明日香「それは素晴らしい心がけ! 期待しています」
そこへ、サイゴウが出社してきた。
サイゴウ「おはようございます! おっ? リーダー、月曜から朝早いですね。
イサハヤくん、早く来てくれてよかったよ。グループ・ミーティングの打ち合わせをしたかったんでね。今から早速、始めよう」
明日香は、一瞬ためらったが、思い切って口をはさんだ。
明日香「サイゴウさん。イサハヤくんは、先週のうちに自力で準備を終えているそうです。グループ内でのミーティングだし、今日は彼が独力で準備した内容をそのまま報告してもらってはどうでしょう」
サイゴウは、眉をしかめた。
サイゴウ「でも、まだやっと2回目ですよ。先週も、一緒に準備をしてもやはり、直すべきところがかなりありました。今日も事前に確認をする必要があると思います」
明日香「今日はグループの仲間だけに報告する場ですから。もし失敗があっても大丈夫ですよ。まずはイサハヤくんに任せてやってもらいましょう」
サイゴウ「……そこまでおっしゃるなら。でも、お客様に対しての場では、まだ無理ですよ」
サイゴウは、しぶしぶ引き下がった。当惑した様子で2人のやりとりを見ていたイサハヤは、目をぱちくりしていたが、やがて2人をかわるがわる見て言った。
イサハヤ「ありがとうございます! がんばります」
そして、グループ・ミーティングの時間になった。(下 に続く)
メンバーの自立を考えて接していますか(中)
□メンバーの話は口をはさまず最後まで聞くように心がけていますか?
□自発的に頑張っているメンバーには、そのことを認めていることを伝えていますか?
□本人のやり方を試す場を与えていますか?
□メンバーには、成長を期待していることを伝えていますか?
~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 樋口敦子~ (文:吉川ともみ)