外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

プロローグ:昼食後のひととき~ランチルームにて

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 「あら、すっかり話しこんじゃった。そろそろ戻らないと」

と、真紀子が両腕をぐっと前につきだしながら背筋を伸ばした。

 「明日香はもともと面倒見がいいから、きっとうまくいくよ」と、食器を重ねなが ら草一郎が言うと、

 「ありがとう。なにか困ったことがあったら、相談にのってね~」

と、明日香は嬉しそうにニッコリした。

Asuka3_2010_0304  中田真紀子草野草一郎朝田明日香は、3人とも30代前半。中堅IT企業に同期で入社して、同じ課に配属された。個性はまったく違う3人だけど、学生気分から社会人への大切な時期を賑やかにドタバタと一緒に過ごしたせいか、相変わらず公私さまざまなことを気兼ねなく話せる大切な仲間だ。

 一見してバリキャリ系の真紀子。口数は少ないがやたらに頭脳明晰な草一郎。2人は、30代になって間もなくそれぞれチームリーダーとしての仕事を任されるようになった。

 2人よりも年下に見られがちで、小柄で素直、どことなく愛嬌のある明日香も、口には出さないが内心では自分もそろそろリーダーという立場で仕事がしたい、と思い始めていた。

 そこへ、先週突然に先輩リーダーが転勤になり、明日香がグループリーダーに昇格することが決まった。早速2人に報告しようと、昼食の時間をわざわざ合わせてランチに付き合ってもらったという次第。

 3人が椅子から立ち上がろうとしたとき、テーブルの横を経営企画部の今屋部長が通りかかった。

今屋 「あれ! 今日は珍しく3人揃ってるね」

 今屋部長は、3人が新入社員として入社したときの直属の課長で、組織が変わってからも3人をなにかと気にしてくれる。

明日香 「わ、今屋部長~お久しぶりです!」

真紀子 「明日香がグループ・リーダーに昇進することになって。せっかくだからお昼の時間を合わせて直接報告したい、というから、3人で一緒にお昼ごはんを食べていたんです」
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今屋 「それは良かったねぇ、おめでとう。ところで、先週たまたま駅で草野君を見かけて、声をかけようとしたんだよ」

草野 「えっ。いつですか?」

今屋 「水曜日の夜だったかな。人ごみがすごくて近寄りそびれてね、結局見失ってしまったんだけど、ちょっと浮かない顔をしてなかった?」

草野 「水曜日……? ……ああ、そういえば。いま僕のチームに、なんだかわけの分からないヤツがいましてね。その日も頭抱えるようなことがあったんで、ちょっと考え込みながら歩いていたかもしれない」

真紀子 「メンバーのこと“わけの分からないヤツ”なんて、よく言えるわね。グループ ・リーダーたるもの、メンバー1人ひとりを把握しないでどうするの!」

草野 「そりゃそうだけどさ……」

今屋 「はは、相変わらず中田くんはキツいなぁ。まあ、3人ともグループ・リ ーダーになればいろいろあるだろう。困ったことがあったら、遠慮なく相談してよ 」

 明日香は改めて、真紀子と草一郎の顔を見比べた。

 (リーダーになれる、って思ってちょっと有頂天になってたかも。実際にはいろいろ大変なんだろうなぁ)

 内心とつぜん心配になった。

 (でも、真紀子と草一郎はグループ・リーダーの先輩として頼りになりそうだし、本当に困ったら今屋部長に相談すればいいんだし)と、持ち前の明るさが明日香の背中を押す。窓の外では、色濃さを増した若葉が輝いていた。

(内容はすべてフィクションです)

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