なめられないITスペシャリストになろう

デス・マーチ or リビング・トーチ? (1)

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~Which one do you  like,
            the death march or the living torch?~

デス・マーチとリビング・トーチ、どっちにしますか?

 デス・マーチとは、IT技術者であれば誰もが知っている修羅場だと思います。あまり知られていませんが、コンサルタントにも修羅場があります。今回から3回に分けて、コンサルタントの修羅場であるリビング・トーチについて紹介したいと思います(あとで説明しますがこれは筆者の造語です)。

 それでは、デス・マーチから順に説明していきましょう。

◆デス・マーチ

 IT技術者の皆さんなら、デス・マーチについてはよくご存じだと思います。日本語に訳せば、「死の行軍」ですね。無謀な短納期や体制不足の状態で開発をスタートしたり、作業の手戻りの発生などでリリースまでの期間がなくなってしまったことにより、過酷な開発作業が発生した状況のことです。

 何カ月も深夜残業が続き、土日も休めず、何日も泊まり込み、連日の徹夜作業を行ってシステムを仕上げていくことになります。過労とストレスのために心身のバランスがくずれ、倒れる人も出てきます。この状態は現場が大変なだけでなく、プロジェクトの採算が悪化して経営上も大きなインパクトになることは少なくありません。つまり、このようなデス・マーチはシステム開発にかかわるものとしては、絶対に避けたい修羅場といえるでしょう。

 ところがPMも会社も誰もが避けたいにもかかわらず、ユーザ企業の事情やPMの力量不足やさまざまなアクシデントによってこの修羅場は起きてしまいます。今回は、このデス・マーチについてこれ以上深掘りすることはしません。

Deathmarch_3

◆美しい誤解

◇上流コンサルティングは気楽な仕事?

 1歩間違えるとデス・マーチに突入してしまうシステム開発の現場にいると、上流コンサルティングは気楽な仕事のように思えるかも知れません。なぜなら、作った計画や定義した要件を実現するまでの苦労を体験することなく去っていくことが多いからです。上流工程のコンサルタントが行ったシステム化計画や要件定義のできが悪いために、結局後工程でやり直さないと作れなかったというを経験された方は少なくないと思います。しかも、この要件定義のやり直しのために開発工程全体が圧迫されて、デス・マーチになるということすらあります。

 「どうして上流コンサルタントの尻ぬぐいを自分たちがやらなければならないんだ」、という理不尽な憤りを経験された方も決して少なくないでしょう。

 「結局、システムの素人が上流工程をやっているからダメだ。自らコンサルタントになって、このようなおかしなことがないようにしたい」。そう思われている皆さんもいるだろうと思います。これはとても健全な考え方だと思います。

 開発経験のないコンサルタントが上流工程をすることで、システム開発の失敗リスクが高くなるという考えには、著者も賛成です。以前にも説明したように、最終的にシステムでどう作られるのかについて十分な知識がないコンサルタントには、実装時に困らない、信頼できる要件定義をすることはまず無理だからです。そのため、IT技術者はビジネスについての話もできるバイリンガルを目指すべきというのが筆者の考えです。しかし、そのことは必ずしもコンサルタントを目指すべきということと同じではありません。

◇コンサルタントは目標とする理想像?

 わたしはウルシステムズで採用面談を数多く行っていますが、最近特にコンサルタントになりたいというIT技術者が増えているように感じています。それ自体は別に構わないのですが、気になるのは、その中の一部の方が、コンサルタントのことを目標とする「憧れ」とか「夢」とかいった美化したイメージを持たれていることです。これには、なにかしら誤解があるのではないかと思っています。

 「颯爽とお客様のところに出かけていき、経営者から悩みを聞き、それを解決するための提案をかっこよくプレゼンして、感謝してもらう」というイメージを持たれているのかもしれません。確かにそういう場面もありますが、基本的にはコンサルタントもプログラマやシステムエンジニアと同じく、地道な作業の積み重ねが前提となる職業です。また、ITコンサルタントの活動範囲は幅広く、上流工程だけでなくプロジェクト管理支援や技術支援などを行うこともあります。コンサルティングのスタイル次第では、開発パートナーと一緒にデス・マーチに突入してしまうこともあります。  

 コンサルタントは、プログラマやシステムエンジニアとは異なる職業であって、決して上位にある職業なわけではありません。コンサルタントに適性がある人もない人もいますし、やり甲斐を感じられる人も感じられない人もいます。できるコンサルタントもいれば、たいしたことのないコンサルタントもいます。そして、できるコンサルタントのほうがそうでないコンサルタントよりもずっと数が少ないという事情は、できるIT技術者のほうがそうでない技術者よりもずっと数が少ないのと同じです。名刺にコンサルタントという肩書きがついていても、それに値する活動ができる人かどうかはわからないのです。

 中でもぜひ知っておいてほしいのが、デス・マーチのように広く知られてはいませんが、コンサルタントが直面する修羅場があるということです。

◆リビング・トーチ

 コンサルタントにとっての修羅場の状況は、「焼かれる」という言葉で表現されることがあります。デス・マーチに負けないくらい厳しいものなのですが、デス・マーチのおどろおどろしさが感じられないので、筆者としてはここで新しい呼び名を命名したいと思います。それが「リビング・トーチ」です。日本語に訳せば「生ける松明(たいまつ)」です。コンサルタントが松明(たいまつ)となって燃えているのをイメージして下さい。

 リビング・トーチが発生するのは、顧客に対して報告や議論をするためのドキュメントを作成する現場です。準備したドキュメントの質が悪いと上司や顧客から徹底的に絞られることになります。これが大抵のIT技術者の皆さんが想像するよりも厳しいために、エンジニアからコンサルタントに転身したものの短期間で辞めてしまうといったことが起こります。コンサルタントはけっして、気楽な仕事ではないのです。
Livingtorch_3

 次回は、このリビング・トーチの具体的なイメージについて紹介していきたいと思います。

◆追伸

 今回の話とは直接関係しないのですが、筆者が書いたロジカル・シンキングの本が発売になりましたので、少し宣伝をさせて下さい。

「ITエンジニアのロジカル・シンキング・テクニック」 IDGジャパン 発行

http://www.amazon.co.jp/gp/product/487280564X/

 この本は、以前に筆者が「ITアーキテクト」という雑誌に連載した原稿を元に、大幅な加筆をしてまとめなおしたものです。この本の特徴は、通常のロジカル・シンキングの本よりも広い範囲のコンサルティング基本スキルを、ITに関する知見を使って整理しているところです。IT技術者が素早くコンサルティングのスキルを習得できるようにさまざまな工夫がしてありますので、ぜひ一読してみてください。

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