それでもボクは走りつづける
先日、東京マラソンが行われた。テレビで特集が組まれていたので見た人も多いのではないだろうか。ゴールした瞬間のさわやかな笑顔。とても楽しそうだ。
実は僕も去年の放送を見て、衝動的に、ノリで今年の東京マラソンに応募していたのだ。
ミーハー根性丸出し。一番運動をしていた学生時代でさえも10キロを走るのがやっとのレベル。社会人となり足腰が弱まる一方のデスクワークに従事している男が、調子にのってフルマラソンに申し込んだのである。
結果は見事落選。倍率7倍の壁は厚かったのだ。しかし、これはある意味幸運だったのかもしれない。ずぶの素人が調子にのると怪我をするだけなのだ。
そんな幸運を逃すかのように、落選メールの最後に書かれていた「あなたは落選しましたが、こんなマラソン大会もありますよ」的な文章につられ、またしても申し込んでしまったのだ。そして、不幸にも(?)青梅マラソン30キロを走ることになってしまったのである。
さすがにいきなり走るのはまずいと思い、2カ月前からちょこちょこと走り始めたのだ。ひたすら走るという孤独な作業を黙々とこなしながら、「30キロ? 余裕でいけるじゃん!」などと思い始めていたのだ。このころ最も長く走ったのは平地を15キロ。およそ半分である。青梅は山道を30キロ、平地とは段違いだということを忘れていたのである。
■プロジェクト=マラソン?■
なんだかんだとありながら、無事走り終えて思ったのは、マラソンとプロジェクトは似ているのではないかということだった。
●【1週間前】
・マラソン
ワクワクドキドキ。緊張というよりも楽しみの方が大きい。未知の領域へチャレンジするというワクワク感。
・プロジェクト
新しい仕事が始まるという期待と不安。メンバーと顔合わせをし、やる気満々でモチベーションも上がり始める時期。
●【スタート直後】
・マラソン
あまりの人の多さに渋滞気味。しかし、スローペースでいい感じ。まだまだ余裕がある。
・プロジェクト
スケジュールにも余裕があり、のんびりとした気持ちで仕事にあたる。メンバーと余裕の談笑。
●【折り返し地点】
・マラソン
まだ余裕。目標タイム達成のため、このあたりから調子にのって少しスピードを出し始める。
・プロジェクト
オンスケジュール。仕様も固まり、あとは淡々と進めていくだけ。スケジュールに余裕があり油断し始める。
●【20キロ~25キロ】
・マラソン
どっと疲れる。折り返しからのスピードアップがあだとなり、スローダウン。気力も萎え始める。
・プロジェクト
問題が発生し、少し焦り始める。やばい雰囲気がただよう。余裕を持たず最初から引き締めていればと後悔。
●【25キロ~28キロ】
・マラソン
もう無理。足が痛くてまったく動かない。苦悶の表情。
・プロジェクト
メンバーがピリピリし始める。休日出勤し始める。メンバーから脱落者発生。
●【28キロ~29キロ】
・マラソン
なぜ申し込んだのか後悔し始める。そして「二度と走るか!」という思いだけが強くなる。今すぐにでも棄権したくなる。苦しい表情すらできなくなり、終始無表情。
・プロジェクト
最初からやりたくなかったと、他人への責任転嫁を考え始める。このプロジェクトにアサインした上司を恨み、「二度とやるか!」と思う。プロジェクトメンバーに精気がなくなる。
●【残り100m】
・マラソン
異常に長い。歩く歩道を逆走しているかのようにゴールが遠い。意識が朦朧としてくる。
・プロジェクト
徹夜と休出で曜日感覚なし。一生やり続けるような妄想を頭の中に思い描く。逃げ出したくなる。
●【ゴール】
・マラソン
何より、もう足を動かさなくて良いんだということに喜ぶ。ゴールした瞬間の記憶はない。
・プロジェクト
終了してもまったく実感がない。淡々と時間だけが流れていく。
●【その後】
・マラソン
完走の景品を受け取り、足を引きずりながら歩く。ゴールから30分後。ふと頭をよぎるのは「来年も走ろうかな」という思いだった。「二度と走るか!」と思ってから30分。なぜかまた走ろうという気になってくる。
・プロジェクト
久しぶりの休日ではじめて終わったと実感する。そしてまたやっても良いかなと考えてしまう。
マラソンもプロジェクトもペース配分が大事なのだ。そして、修羅場になると、プロジェクトもマラソンもその場その場では死ぬほど辛いのだ。正直二度とやりたくないとその時は思う。しかし、それが終わってみると、懐かしくなり、辛いとわかっていても“またやってもいいかな”と思えてくるのだ。
極度のM気質なのか、それともボロボロになった自分に酔うナルシストなのだろうか。
おそらく、来年の東京マラソンにも申し込むのだろう。そして例年どおり落選し、また青梅マラソンを走り、ゴール間近で“二度と走るか!”と後悔しているような気がするのである。
続く
コメント
第3バイオリン
ホリさん
こんばんは。
>そして、修羅場になると、プロジェクトもマラソンもその場その場では死ぬほど辛いのだ。正直二度とやりたくないとその時は思う。
>しかし、それが終わってみると、懐かしくなり、辛いとわかっていても“またやってもいいかな”と思えてくるのだ。
その気持ちわかりますよ。
私はそうして、バイオリンを12年も続けています。
私の場合、ずっとアマチュアオーケストラに入ってやっているので、
年に2回ほど定期演奏会という「納期」が待っています。
新しく楽譜をもらったときはウキウキして楽しいものですが、
しばらくしてくると「何回練習しても上手く弾けない」「何で休日まで練習してるんだろ、私」
「そもそもこんな難曲やろうって言ったの誰!?」と心の中でブチブチ不満が出てきます。
(その難曲を出してきた「誰か」が他ならぬ自分だったこともあるのですが)
演奏会の日が近づいてくると、何でもっと早く曲を完成させなかったんだろうといつも気持ちばかり焦ってしまいます。
正直、仕事が忙しい時期に休団または退団も考えたことがあります。
しかもアマチュアですから演奏会を開くには出演者がお金を出す必要があります。
半年近い時間と、決して少なくない演奏会費の代わりに得られるものは
観客の拍手と「ブラボー」の歓声だけ。それ以外は一銭も返ってきません。
しかし、その拍手と歓声を聞いた瞬間、
「やっぱりやめられないな。また次もやろう」と思ってしまうのです。
>極度のM気質なのか、それともボロボロになった自分に酔うナルシストなのだろうか。
私は無理を乗り越えようとしている自分が結構好きだったりするので、後者のタイプだと思います。変わってますか?
ホリ
第3バイオリンさん
コメントありがとうございます。
12年も続けられたことと、今回の僕のマラソンを一緒にするのは
気が引けますが、共感していただいて、とてもうれしいです。
>「やっぱりやめられないな。また次もやろう」と思ってしまうのです。
まったくそのとおりです。
他人から見ると、「なんでそんなことやるの?よくやるねぇ」と言われますが
なぜか続けてしまう。不思議ですね。
>私は無理を乗り越えようとしている自分が結構好きだったりするので、後者のタイ>プだと思います。変わってますか?
いえ、この業界ではありがちだと思います(笑)
あえて無茶なことに挑戦する人って多いですよね。
徹夜自慢に始まり、デスマーチ自慢なんかも良く聞きます。
第3バイオリンさんはバッチリこの業界向きですね(笑)
第3バイオリン
ホリさん
こんばんは。第3バイオリンです。
>第3バイオリンさんはバッチリこの業界向きですね(笑)
はい、自分でもそう思います。
きりのいいところまで・・・といいながらいつのまにか夢中になって遅くまで残業してチェックリストを消化するほか、
ホールケーキを均等に分けるため、ケーキ一切れの弦の長さを数式で証明してみせたり、
基盤や配線むき出しの試作機を見て異常にテンションが上がったりするところを見ると、
私は血の一滴までエンジニアだと思います。