キャリア20年超。ずっとプログラマで生き延びている女のコラム。

社長・SE・PGの社内対談2「プログラマは下っ端ですか?」

»

 前回に引き続き「対談」をお届けします(話が長くなりすぎたので、分割しただけなんですけど)。ちなみに、全体的にシステムエンジニアを「SE」と略していますので、ご承知おきくださいませ。

 前回と同じですが、一応、登場人物の簡単なプロフィールを。

  • かげ コラム主が勤めている会社の社長。高校卒業後、システム開発会社に就職。PG→SEという標準的なルートを進んでいたが、起業というあまり一般的じゃない道に進む。いわゆるコボラーだったそうだ。
  • いけ コラム主の上司兼開発のメインパートナー。専門学校卒業後、大手SIerに就職。退職後はフリーとして働いていたが、うちの会社に流れ着く。プログラマ歴はゼロだそうだ。
  • ひでみ コラム主。専門学校卒業後、システム開発会社に就職。退職後は派遣社員としてあちこちを渡り歩く。ずっとプログラマでSE歴はゼロ。

 では、対談に突入です。

● プログラマは下っ端? ●

ひでみ 昔、後輩に「早くSEになりたいです」って言われて、「なんで?」って聞いたら「いつまでも下っ端はイヤです」って答えが返ってきたことがあったんですよ。その時は面倒くさかったから黙ってたんですけど、うざがられても「プログラマは下っ端じゃない!」って言っておけばよかったかなあ、って今になって後悔してるんです。「プログラマは下っ端だ」と思ってSEになった人は、プログラマを下っ端として扱うんじゃないかと思って。

いけ ああ、それはあるかもね。

ひでみ その後輩の考えを1ミリも動かすことができなくても、うざがられても、反論ぐらいすれば良かったと。黙ってスルーしたってことは、それを認めちゃったってのと同じことなんじゃないかって、なんかもうずっと後悔が残っているんですよ。わたしがコラムを書いてる理由の大元はそれかもしれない。

いけ SEはプログラマに仕様書を渡して「作ってよ」と言うけど、それは人の立場とは関係ないよね。そこをごちゃごちゃにしてるんじゃないの?

かげ でも、そういう考えで教育してる会社はたくさんあるし、SEになるという目標に向かってがんばる、というのはあるからねえ。少なくともうちの会社のやり方は異端だからね。

いけ わたしもそう思いますよ。うちの会社は異端だなあ、って。だから「普通の会社」に対して「それはおかしい」とか言ってもカチンとくるだけなんでしょ。

ひでみ 「せっかく頑張って出世したのに、これは出世じゃないのか~」って感じなんですかね。

いけ ジェネラリストとスペシャリストを同じ枠で評価するってのはおかしいよね。何でもかんでもジェネラリストが偉いっていうのもなんか違うと思うし。

かげ 何でもできる人ってのは使い勝手はいいんですけどね。うちの中でよくあるのが、設計やってる間、プログラマがやることがなくって「休んでください」って。

ひでみ 仕様確定休暇!(※仕様が決まらなくてプログラマがヒマを理由に休みをとることを「仕様確定休暇」と呼んでいる。ちなみに普通の有給休暇であって特別休暇ではない)

かげ 逆に、プログラムを頑張って組んでる時に横で眺めてるだけってのもある。だったら、何でもやってくれるとうれしいなあ、って思うこともある。でも、中途半端にジェネラリストっていうのはあまりうれしくないんで。今の状態だと。

● プログラマはおとなしい? ●

ひでみ わたしって昔からよくSEと喧嘩してましたけど、表立ってSEと対立するプログラマってあんまりいないんですよね。「言ってもしょうがない」って思ってるっぽい、ってのは感じてるんですけど、なんでそういう空気になっちゃうのか謎なんですよ。言ってもなんともならない時もあるし、なんとかなる時もあるから、とりあえず言うだけ言っとけ、とかわたしは思っちゃうんですけど。それともわたしが空気読めてないだけなんですかね。

かげ 「いいものを作りたいんです」っていう気持ちでの議論に近い喧嘩ならしてもいいと思うんだけど……。そもそもうちの業界に入ってくる人っておとなしい人が多いから。

いけ でも、技術者としていいものを作りたいってなったら、意見が合わないこともあるよね。

かげ だけど、おとなしい人が多いから言われたら「分かりました」って従って、それで影に隠れて悪口を言ってるってパターンなんだよね。

いけ 最初っからあきらめてるんですかね。立場が上の人に逆らうのは良くないって。

かげ それがSEとプログラマの上下関係につながっていってるような気がするね。それでへたにいうと、飛ばされたり干されたりする可能性もあるから。「あいつは使えねえよ」って言われたら、それでプロジェクトには入れなくなる。

ひでみ そういうこともあるんですか。

かげ あるねえ。でもまあ、基本的には自主的に抑えてる人の方が多いんじゃないかな。

いけ 上の人には逆らうな、的な風習が残ってるってことなんでしょうね。

かげ たいていの場合、プログラマよりSEの方が年上だからね。文句を言っちゃいけない、言ってもしょうがない、っていうのはある。

ひでみ 昔のリーダーに言われたことあるんですよ、「おまえは一番、先に騒ぐからいい」って。おまえはなにかあった時にあったところで騒ぐけど、たいていの連中は問題の種がある時は黙ってて、終盤ちかくの取り返しがつかないところになって、「最初っからこれは問題になるんじゃないかと思ってました」って言い出す、と。それくらいなら、取り返しのつく地点で騒いでくれる方がまだましだって。

かげ 上下関係が出来上がっちゃってるから、言われたことは一生懸命やるしかねえ、と思って頑張るけど結局ダメになるんだろうね。

いけ 自分で判断しないのが良くないですよね。あの人から言われたからいいやって。やってみたけど「ほうら、できませんでした」って。それは自分で受けたんだったら、自分で判断しろよって。

ひでみ 黙ってるにせよ、文句を言うにせよ、受けたからには受けた責任がありますからね。

かげ だから、SEとプログラマの上下関係はつけちゃいけなくて、プログラマはプログラマでちゃんと責任があるんですよ、と。どこまで責任を持つのかを周りとちゃんと調整させるという役割を持たせなければいけない。そもそも、そこのリーダーはプログラマがなにか問題があった時にものを言いにくい空気を作っちゃってるんだろうから、そういうチームを作っちゃうリーダーも悪いんじゃないの? って思うけどね。

ひでみ ああ、そういう空気を読めてないんですね、わたし。

かげ まあ、むやみやたらにアラートを出すのはどうかと思うんだけど、本当に危ないと思うものに関しては、ちゃんと早めにアラートを出してほしい。

いけ そりゃあ、ギリギリになって「だから自分は最初っから問題だと思ってました」って言われてもねえ。そういえば、昔、「○○さんにこう言われたからこうやりました、って言うのは言い訳だから使うな」ってすごい言われました。そりゃそうだなあ、と。受けたからには、自分がそう納得したってことなんだから、自分が納得した理由を相手にちゃんと説明できるようにならなけりゃダメだなって。

● ウォーターフォール育ちでアジャイル暮らし ●

ひでみ 今、社内でSEからプログラマに渡ってくる文書ってあまりないじゃないですか、ほとんど口頭で。

いけ ないねえ。

ひでみ きちんとドキュメントを書かなきゃいけない、っていうのは、情報を伝達したり考えを統一したりするのに必要だから、っていうのは分かってるんですけど、現状では、問題が発生した時に誰が悪いのかを決めるためのエビデンス的な意味あいが強いような気がしてるんですよ。

いけ 結局そうだよねえ。バグにするか、仕様にするかを決めるための証拠。

かげ 今、うちの会社でやってるシステムの規模は小さいからそれでもどうにかなってるけど、大きくなってくると今のうちの状況はムリだよね。ちゃんと意志を統一するためのドキュメントはどうしても必要。

いけ そもそも、そこまででかくなるとドキュメント書かないと頭の中、整理できないし……。それにしたって、直列になるのは良くないですよね。ある程度、並列で。口頭でもちょっとしたメモでも進められる部分は進めてもらって、そこをやってもらいながら確定していけばいいだけの話で。

ひでみ そういえば、この3人どっぷりウォーターフォールで育った世代なのに、気が付けばアジャイル開発的なものになってますよね。「これからはアジャイルだ!」とかいう話し合いをしたこともないのに、自然にそうなってる。まあ、正式なアジャイルってのがどんなんだかよく分からないんだけど、少なくともウォーターフォールではないですね。設計とプログラミングが並走してることが多いから。

いけ だってイヤじゃん。仕様提示が遅れて他の人が遊んじゃうの。でも、実はジレンマなんだけど。自分としてはちゃんとドキュメント書きたいのは書きたいんですよ。ちゃんと自分の中できっちり整理したものを渡したい。でも、プログラマが遊んじゃうんだったら、ちょっとしたメモでも伝えて、進められるとこは進めてもらった方が効率いいし。

かげ うちの会社って開発に関して制限が少ないんですよね。技術や言語の選定もほとんどこちらで決めさせてもらってるし。わたしがガチガチに固められてる発注を受けないようにしてるってのもあるんですけど。

ひでみ えっ、そうだったんですか? 要求されるドキュメントの種類がいつも少ない、とは思ってましたけど。

かげ 正直、面倒くさいってのがある。ソフトの品質とは関係ないところでなんやかんや言われるっていうのは。それに、それだけのドキュメントをそろえるだけでも工数が掛かる。そんなわけで、できるだけ制限の少ない仕事を選んでやってきてると。

いけ うちの会社は間違いなく生産性はいい。というのは、たいていの会社は余計な制限によって、余計な工数がすごい取られてて、じゃあそれですごく品質が上がるかっていうとそうでもない。

ひでみ 品質を上げるわけじゃない工数を掛けさせられると、逆に品質が下がりますからね。実際のところ。

◇◇◇

 前回と同じくコメント欄は閉じさせていただきます。わたしあてのコメントとかありましたら、Twitter(_hidemi_)でリプライいただければ読ませていただきますので、よろしくお願いします。

 今年分のコラムの公開はこれでが最後になります。読んでくださった皆さま、コメントをくださった皆さま、編集の皆さま、本当にありがとうございました。どうやら来年も書くつもりがあるらしい(笑)ので、引き続きお付き合いいただけるとありがたいです。

Comment(0)