社長・SE・PGの社内対談「ずっとプログラマでもいいですか?」
今回は「コラム」ではなく「対談」をお届けしたいと思います。なんとなく思いついたんでやってみました。対談相手はうちの会社の社長と上司。全部、身内でまかなっております(笑)。ちなみに、全体的にシステムエンジニアを「SE」と略していますので、ご承知おきくださいませ。
まずは、登場人物の簡単なプロフィールを。
- かげ コラム主が勤めている会社の社長。高校卒業後、システム開発会社に就職。PG→SEという標準的なルートを進んでいたが、起業というあまり一般的じゃない道に進む。いわゆるコボラーだったそうだ。
- いけ コラム主の上司兼開発のメインパートナー。専門学校卒業後、大手SIerに就職。退職後はフリーとして働いていたが、うちの会社に流れ着く。プログラマ歴はゼロだそうだ。
- ひでみ コラム主。専門学校卒業後、システム開発会社に就職。退職後は派遣社員としてあちこちを渡り歩く。ずっとプログラマでSE歴はゼロ。
では、対談に突入です。
● 「定年までプログラマ」ってホントに言った ●
ひでみ コラムで「定年までプログラマ」って条件を付けて採用してもらったって書いたら、「それでよく雇ってもらえましたね」とか言われるんですけど(笑)。
かげ うちの業界で仕事をしている間はプログラマってのは絶対に必要だから、いてもらっても構わないと思ったんだよ。年取ってプログラムできなくなる人っているけど、そうじゃない人もいるからねえ。
いけ 年を取ってプログラムができなくなる人っているんですか? わたしはそういう人を見たことがないんですけど。
ひでみ わたしは最初FORTRANをやってたんですけど、それが途中で廃れちゃったというか、仕事がなくなっちゃったんですよ。それで、FORTRANから他の言語に乗り換えられない人というのはいましたね。
いけ ああ、新しい技術や言語を覚える能力がなくなるということなのか。
ひでみ 能力の問題なのか気力の問題なのか分かんないですけど。
かげ 一時期、汎用機のCOBOLとかからオープン系に移れなくなった人たちってのが、いっぱい辞めていきました。
いけ そうか、同じものを続けていく分には年齢とか関係なさそうなんだけど、違うのをやれって言われるのは厳しいですね。つぶしが効かなくなっちゃったというか。そういう人はどこ行ったんですかね。
かげ 別の業界に行きましたよ。
ひでみ 業界に残った人はマネジメントの方に行ったりして、開発から外れていきました。
● 「ずっとプログラマ」は嫌われる ●
いけ 他に移るのは、興味が移っていくっていうのもあるんじゃないんですか? でも、興味がずっとプログラムにあるのなら、それはそれでいいんじゃないかな。
かげ 本当にできる人で、プログラムをしながらマネジメントをしつつ経営もやるって人もいるけど、大体の人はそんなことはできなくて、だんだん「プログラムめんどくせー」って話になる。でも、ひでみさんは、うちの会社にくるまで20年くらいずっとプログラムをやってきているという実績があったんで、「この人は大丈夫かな」って思ったんだけど。
いけ でも、会社によっては難しいっていうのはありますよね。
かげ うん、プログラマが余ってるような会社にひでみさんが入るのはかなり無理があるよなあ、って思う。
ひでみ 「あなたは会社に迷惑を掛けている」的なコメントをいただくこともあります(苦笑)。
いけ 2次請け3次請けだと、もっと金をもらいたければSEをやりなさいよ、という構造になっちゃってる。そうなると、ずっとプログラマって言い張る人は迷惑なんだろうと思いますよ。
かげ それと、やっぱりプログラマが年いってると、SEの方が年下になっちゃって、なかなか扱いにくいし言いにくい、ってのはあるんじゃないかな。SEとプログラマが、同列じゃなくって上下関係というのが一般的になっちゃっているから、そういう発想になるのかなあって思う。採用情報とかが流れてくるのを見ると、プログラマになると年齢制限が厳しくなるんだよね。35才までとか。それは、プログラマがSEよりも年上になっちゃうと、言いたいことも言えない、って状態になるかららしい。
いけ 自分なんかはずっと1次請けにいて、2次請けとかに仕事を発注する側だったんだけど、実際にプログラムを組む人たちってのはみんな若くて、年を取ったプログラマとか見たことなかったんで、最初、ひでみさんに対して違和感があった。でも、大ざっぱにいって開発ってのは、設計をする人がいて、プログラムを書く人がいて、テストをする人がいて、ってどこが欠けてもダメじゃない。そこに流れはあっても上下はないんだから、別にプログラマの方が年配でも構わないんじゃないかな、ってこの会社に入ってから思ったかな。
ひでみ この会社に入ってからなんですか(苦笑)。
いけ 元請けの会社にいると、どうしても、SEとプログラマの関係というよりは、元請けと下請けの関係になっちゃうから。でも、うちの会社はSEもプログラマも同等で、そういう構造でできる会社はいいんだけど、そういう前提では成り立たない構造になっちゃってる会社が多い。だから「SEとプログラマは同等だ」とか言い出すといろんなところで破たんするんで、そんなことを言う人は嫌われる。
かげ やっぱり単価で商売をしてると、年を取ればそれなりの稼ぎを出してもらわなくっちゃっていうことで、「ずっとプログラマ」ってのは嫌われるよなあ。
ひでみ それと、プログラマにキャリアは必要ないって考えてる人が結構いるのかなあ、っていう気がするんですよ。5年くらいやれば頭打ちでそれ以上は成長しない、みたいな。
かげ そういう考えの人は確実にいるし、実際にそういう人も多いよね。サラリーマンプログラマというか、ある程度、仕事ができるようになったらそれにしがみついて努力しない人がいっぱいいると思うよ。だったら、SEというランクにして高く売りつけた方がもうかるから。でも、うちの会社はSE何人でプログラマ何人ていう見積もりの出し方してないから、ずっとプログラマでいてもらっても会社としては困らないよ。
いけ この仕事の担当はこの人で、この仕事の担当はこの人、ってだけのことですもんね。それと、わたしが思うのは、別にみんながジェネラリストになる必要ないじゃん、ってこと。みんなプログラマができてSEができてって、そんなこじんまりするくらいなら、どっかの分野で飛び出してた方がいいよね。というか、そういった“とがった人”が集まってた方が面白いことができる、ってこともあるだろうし。むしろ、何にでも手をつけて全部が中途半端だったらそっちの方が使いようがねえ、って。全部が熟達した人ってのはなかなかいないですからね。
かげ 本当にまれにいるじゃないですか。プログラムを組みながらマネジメントもして経営もしてっていうスーパーマンみたいな人が。でも、自分はそんな人じゃない。じゃあどうするかって考えた時に、まずはその分野のスペシャリストとはいわないまでも、それなりにできる人に会社に入ってもらって、そういう人たちがうまいことやれば、いいものができるんじゃないかと思った。でも、今の人数規模だからそれができているけど、これから人が増えてくると今の体制でできるのかな、っていうのは不安には思っている。例えば、今の倍になった時、どういう比率でどういう人が必要なのかは考えなきゃいけないよね。
● SEはあぶれてる? ●
いけ そもそも、みんなプログラマを辞めてSEになられてもね。SEがあぶれるだけなんだけど。
ひでみ そうなんですよね。プログラマがみんなSEになったら、どう考えてもSEの方が多くなっちゃう。
かげ だから業界の中で見ると、SEの数が多すぎるのに、新卒の人たちがIT業界を嫌って入ってこないからプログラマが増えないという状況になってて、今はSEでもプログラムが書けなきゃダメです、ってみんな言い出してるんだよね。
ひでみ でも、一度SEを辞めてプログラマに戻るのって大変じゃないんですかね。
かげ プログラムってのはわりとすぐに答えが返ってくるけど、SEっていうのはなかなか答えが返ってこなくて、また得体のしれないものをドキュメント化するっていうことをやってる。そういうのを楽しいって思える人は、SEをやっててもそんなに苦痛じゃないはずなんだけど、そうじゃない人ってのも確実にいるわけで……。
いけ そういう人は喜んでプログラマに戻る?
ひでみ ああ、もともとSEになりたくないのになっちゃった人、ってのもいますもんね。
いけ 全員がSEにならなくてもいいのに、SEに向かない人にまでSEをやらせるから……。その人がやりたい仕事、向いてる仕事をやらせりゃいいじゃん、って。
ひでみ そういえば、最近、プログラムもできないのにSEやってんじゃねえよ、的な空気を感じるんですけど。
かげ わたしは最初っからそう思ってたよ。やっぱり、現役でプログラムが組めるかどうか、ではなくって、プログラムというものの知識がなくってSEなんてやってんじゃねえよ、ってのはいまだに思ってるけどね。
いけ わたしがいたのはそんな会社でしたけどね(苦笑)。ほとんどの人はプログラムが分からない。だから概念だけの話になって、実装はどうでもいいって人ばっかりだったんだけど。
かげ そういう人の見積もりってのは根拠がなくって、これくらいだったらできるだろうって感じで出してくる。ちょっとしたことでも難しいってことあるじゃないですか。そういうものの規模とか価値が分からなくてむちゃくちゃなことを言い出したり。そういう根拠のない見積もりでスタートしちゃうと、それに見合った金とか人とかしか用意できなくて、火を噴くのは明らかという……。
ひでみ わたしとしては、SEはプログラムを書けなくてもいいと思ってるんですね。そんなのわたしが書くし。
かげ うん、だけどプログラムを作ることの難しさは理解していないと。
ひでみ プログラムが分からなくても、プログラマをちゃんと観察してれば、こういうことは大変らしい、とかそういうことは分かるもんなんじゃないかと思うんですけどね、ある程度のところまでは。
かげ だけど、プログラムの技術がない人は、できる人とできない人を見分けられないから、見極めがつかない。
ひでみ ああ、観察対象のプログラマのランクが分からないと基準も分からないですね、確かに。
いけ そういう人たちは、コードレビューとかに出ないんですかね。
かげ 出ないですね。入社していきなり金勘定を教えられますからね。それでSEと名乗るという。
ひでみ そもそも、SEの仕事の範囲がよく分からない。
いけ 営業でもなくてプログラマでもない人がSEなんですよ。
ひでみ なるほど。分かりやすい!(笑)
いけ そういう、ものすごく都合のいい言葉なんですよ、SEって。でも、自分的には、コンピュータのことがよく分からない人たちの言葉をプログラマに伝える人がSEで、伝えられた言葉をコンピュータに伝える人がプログラマ、という感じかな。
ひでみ いけさんはプログラムを書きたくて業界に入ってきたわけじゃないですよね。
いけ いや、そんなことないよ。専門学校でプログラム書いてて、それなりに好きだったよ。
ひでみ あれ? プログラム書くのがあんまり得意じゃなかったからSIerに就職したのかと思ってました。
いけ この業界だったら、当たり前にプログラム書くもんだと思ってたんだよ。それなのに入ってみたら、そんなもん書かないよ、って言われて「え~っ?」って。
かげ 今だから「SIerは」とか「ソフトハウスは」とか言えるけど、学校を卒業する時に、会社の区別なんかついてなかったよね。全部、同じだと思ってた。せいぜい、大手か中小か、くらいな判断基準だった。だから給料が一番、高いところに入った。
いけ わたしもです。
かげ ひでみさんだって、たまたま入った会社がプログラムを書かせてくれる会社だったけど、そうじゃなかったら全然、違うことを今、やってるかもしれない。
ひでみ それはありますねえ。う~ん、なんか想像つかない。
● 「ずっとプログラマ」でも許される理由 ●
かげ うちの会社はこの規模(←現在、社長含めて5人)でも1次請けで、直接お客さんと話をして仕様決めて、ものづくりをして運用までしてるから、プログラマ専任の人がいてもやっていけるだろうと思ったから採用したわけで、自分が普通の会社にいたら、多分、ひでみさんは採らないと思うよ。だから、ひでみさんがうちの会社を見つけてくれたのはラッキーだったと思う。
ひでみ 他の会社にふられまくってただけなんですけどね。
かげ うん、だけど、ふられつづけてても会社はいっぱいあったわけで、その中でなぜかうちにきてくれたっていう。それがすごいな、と思う。
ひでみ ふられつづけていたっていっても、全部書類で落ちてたから、面接すらほとんど受けてないんですけどね。
いけ やっぱり年齢制限なんですか?
ひでみ 年齢なのか、リーダー経験ゼロが響いたのか……。
かげ 年齢とやってきたことのバランスでしょうね。
いけ わたしは逆でした。プログラマ経験がないからって書類で落ちるんですよ。
ひでみ やっぱり偏ってるとダメなんですか?
いけ 採用する側としては、何かに偏った人が入ってきて、それがもし使えなかったりしたら、もうどうにもならない。
ひでみ なるほど、リスキーなんですね。それは分かります。
かげ 例えばひでみさんの履歴書に、FORTRANしかできませんって書いてあったら、わたしは間違いなく落としていたよ。世の中には、知ってる言語が1つか2つしかない中で、他の言語はダメだみたいなことを言ってる人がいて、そういう人だったらわたしは落とすよ。でも、ひでみさんはプログラマという仕事の中でのジョブチェンジがちゃんとできてる人だと思ったから、採用した。
ひでみ じゃあ、「ずっとプログラマ」とか言い張ってても問題ないですか?(笑)
かげ 今の生産性が出せなくなったら、考えなきゃいけないけどね。
ひでみ はい。それは承知してます。
かげ でも、それができるんだったら、定年までプログラマで居座ってもらってもいい、っていう条件付きなんだよね。「何でもいいからプログラマやらせてあげます」っていう言い方をすると「会社に甘えている」っていう誤解を招くんで、「プログラマでいられるだけの価値を自分自身で創造できたらプログラマやりつづけられます」っていう言い方をすればいいんだよ。結局、費用対効果だけの問題だからね。
ひでみ 単純にそれだけの問題なんですね。
かげ そうそう、給料分ちゃんと稼いでくれるんだったら、別にやってもらっても構わないですよ、っていうことだから。
さて、いかがでしたでしょうか。なんかやたら長くなっちゃったんですけど(←それでも結構、削ってる)。
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