『プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと』――ソフトウェア開発の難問はいつだって“人”だった
プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと 神庭弘年(監修)、Barbee Davis (編集)、 笹井 崇司 (翻訳) オライリージャパン 2011年11月 ISBN-10: 4873115108 ISBN-13: 978-4873115108 1995円(税込) |
■世界はきのこに満ちている
「○○が知るべき97のこと」シリーズの第3弾が出た。本書は、プロジェクト・マネージャ(以下PM)向けのエッセイを97本(日本版は+11本)を収録している。
第2弾『プログラマが知るべき97のこと』は、プログラマ向けのエッセイが収録されている名著だった(以前に書評を執筆したので、ぜひご覧いただきたい)。
『プログラマが知るべき97のこと』は通称「きのこ本」として親しまれている。ちなみに第1弾は『ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと』。これはもう「きのこ本シリーズ」とでも呼ぶべきだろう。
■きのこ本が築く、きのこの山
「きのこ本シリーズ」は、それぞれの分野で活躍する人物の手によるエッセイを97本(+α)収録するものだ。いろいろなキャリアを積んできたベテランが、プロジェクトで経験してきたことを短く印象的なエッセイにまとめている。
「いろいろなキャリア」に根ざして書かれたコラムはどれも味わい深く、時には執筆者同士がそれぞれ違う主張をぶつけ合うことだってある。それが「きのこ本シリーズ」の魅力の1つでもある。
ところが、本書は過去2冊と比べて明らかに「主張の衝突」が少ない。これはどういうことなのだろう。
■PMの問題領域、それは「人」
本書を最初から読んでいくと、「プロジェクトを進める際によくある落とし穴」「気を付けるべきポイント」「よりよい行い」といったことを書いたコラムが並んでいる。アジャイルな開発手法を少しでも学んだ/経験したことがある人にとっては「あるある」の連続だろう。
- 顧客/ユーザーを巻き込む
- シンプルを心がける
- 問題を小さく分割する
- 優秀なチームを編成する
- チームで責任を果たす
- 変化を受け入れる
- コミュニケーションをとる
読みながら分かったのは、「PMの問題領域は人間である」ということだ。
考えてみれば当たり前なのだが、ソフトウェア開発においてもっとも難しいのは、設計でもプログラミングでもデバッグでもなく「合意すること」なのである。
ユーザーは「自分たちが何を必要としているか」を分かっていない。顧客は予算を出し渋り、期間を圧縮したがる。開発者は移り気で扱いづらい。そしてみんな人間なので、エゴや怠惰さ、自己顕示欲や怠惰さを備えている。
ソフトウェア開発プロジェクトでは、こういった「人間の厄介さ」が集約するハブとして「PM」というポジションがあるのだ。
それであれば、本書に「主張の衝突」が少ないことにも納得がいく。人間関係の問題とは、「すでに解決策が分かっており、そしてそれを実践するのが困難」なものだからだ。
ミーティングがつい長くなってしまう問題、複数のステークホルダーが違うことを言い出す問題、チームに問題児が紛れ込んでしまう問題、納期が遅れてしまう問題。いずれも、ソフトウェア開発が産業として興る前から存在し、そしてきっと、今後も存在する問題なのだろう。
■プロジェクト・マネージャとしてこの先生きのこるには
ソフトウェア開発にかかわらず、プロジェクトをマネジメントするには「人」が最も大きな問題になるのだろう。そういう視点で本書を読みなおすと、PMという立場に置かれた時の心構えを準備できるだろう。
目次を見てみよう。いずれも、ソフトウェア開発に関するエッセイとは思えないような見出しだ。
- 05「複雑よりもシンプルな方がいい」
- 14「大きさが重要」
- 27「見積もって見積もって見積もる」
- 37「自らに誠実であれ」
- 39「変化のための道筋を描く」
- 69「コミュニケーションが重要」
- 82「みんなが聞きたいことはなんですか?」
だが、PMが扱う問題領域は、まさにこうした解決法を必要としている。現場で問題に立ち向かうには、かつて問題に立ち向かった諸先輩の声をよく聞き、よく咀嚼(そしゃく)し、そして
- 16「さあ、プラクティスを投げ捨てよう」
自分の現場でこの先生きのこるには、自分の現場に合ったマネジメントを、自分の手で編み出す必要があるのだ。
(『Wife Hacks ~仕事と家族とコミュニティと~』
コラムニスト kwappa)