『クラウド時代の製品・サービス選び Vol.2』――クラウドを使って、災害に強いインフラを整備する
災害と節電を見据えたITシステム作りをサポート クラウド時代の製品・サービス選び Vol.2 ASCII.jp編集部(著) アスキー・メディアワークス 2011年9月 ISBN-10: 4048709240 ISBN-13: 978-4048709248 1280円(税込) |
「クラウド時代の製品・サービス選び」の第2弾が登場した(第1弾の書評はこちら)。
「クラウド」といってもその範囲は広いが、本ムックでは主にインフラを中心に扱っている。震災をふまえてか、本ムックのテーマは「災害に負けない次のITインフラ作り」。特集内容を順に紹介していこう。
■第1部 大震災以降のITの災害対策を考える。
東日本大震災のような広域にわたる災害を想定した場合、業務データのバックアップメディアとデータセンターが同時に被災しないよう、遠隔に保管する必要がある。私もこれまでさまざまな業務アプリケーションの構築に携わってきたが、遠隔にバックアップサイトを設けるほどのシステム開発の経験は一度しかない。とはいえ、社会インフラを担うような重要業務のデータは失われてはならないものなので、さまざまなことを考慮したうえで保護されなければならないだろう。
本ムックで私が注目したのは「リモートレプリケーション」という手法である。
コンピュータシステムの災害復旧(ディザスター・リカバリ)の手法として、これまではバックアップ媒体を遠隔に保管する方法が主流だった。しかし、HDDや通信コストの低下によって、新しい手法が導入されるようになっている。
事業継続の観点からバックアップ手法を検討した場合、RTO(目標復旧時間)がゼロに近い方が望ましい。レプリケーションという技法を使えば、ディスクボリュームやデータベースの完全な複製をリアルタイムで複製できる。
最新の遠隔バックアップ技術は、レプリケーションを遠く離れた2つの装置間で行う「リモートレプリケーション」だ。本ムックでは、こうしたクラウド的なデータ同期の考え方を至るところで目にする。
■第2部 在宅勤務で失敗しない方法
東日本大震災以降、「節電」は一大テーマとなった。休日をずらす、サマータイムを導入するなどさまざまな方法があるが、在宅勤務制度を導入した企業は多かった。
VPNの技術が発達したため、自宅にいながらにして会社と同じデスクトップ環境を扱えることは珍しくない。セキュリティなどの問題さえクリアできれば、ITエンジニアという仕事は在宅勤務をしやすい。
在宅勤務において私が最も気になる部分は、チームのメンバー間のコミュニケーションをいかに取るかということだ。本ムックでは、コミュニケーション不足を補うコラボレーションツールについても扱っている。
最も古典的な方法として、ファイル共有がある。例えばマイクロソフトは「SharePoint Server」など、情報の共有化だけでなく、情報の可視化や生産性向上、標準化/最適化といった観点から、コラボレーションツールの充実を図っている。
リアルタイムなレスポンスを期待するなら、Web会議システムが有効だ。昨今のWeb会議システムは、単に映像と音声を共有するだけのシステムではなく、アプリケーション共有機能もあり、これが在宅勤務に非常に有用なのだという。
Google Docsも、リアルタイムで変更を共有できる機能を持っている。こうしたクラウドサービスを利用して、在宅勤務をより効果的にできるようにしたい。
■第3部 災害を見据えたデータセンター選び
私は普段、あまりデータセンターに足を運ぶ機会はない。
一度だけ、某社の大規模データセンターを見学させてもらったことがあるが、その佇まいはSF世界のようで、ずいぶん感動した記憶がある。
そのデータセンターは厳重な耐震設計が施されており、大規模な直下型地震にも耐えられるという説明を受けた。本特集の最後は、そんなデータセンターの話。
本特集で紹介されているのは、NTT コミュニケーションズの東京第5データセンター、KVHの印西データセンター、IIJの松江データセンターパークである。
どのデータセンターも写真付きで設備が紹介されており、私が実際にデータセンター見学の際に感じた「SF的」な美しさを垣間見られる。また、各センターのセキュリティや災害への取り組みなども具体的な設備とともに説明されていて、大変興味深かった。
■クラウド時代の災害対策
クラウドのメリットは、場所や端末にこだわらずにネットワークを経由して常に同じ情報にアクセスできるという点にある。
これは、日々の業務の効率化や日常の情報の扱いを便利にするだけでなく、災害対策にも有用だ。
ネットワークのコストが低下し、さまざまな新しい技術が生まれる時代において、災害対策についてもそれらを生かした方策を考えていく必要があり、本ムックはその一助となると思う。
(『雲(クラウド)の隙間から青空が見えた』コラムニスト
粕谷大輔)