「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

偉大なリーダーはあらゆるレベルに――『リーンソフトウェア開発と組織改革』

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リーンソフトウェア開発と組織改革 リーンソフトウェア開発と組織改革

Mary and Tom Poppendieck(著)
依田光江(翻訳)
依田智夫(監訳)
アスキー・メディアワークス
2010年10月

ISBN-10: 4048687417
ISBN-13: 978-4048687416
2940円(税込)


■偉大なリーダーはあらゆるレベルに存在する

 ソフトウェア開発における「リーダー」というと、皆さんはどんな人物を思い浮かべるでしょうか。顧客を喜ばせるようなビジョンが作れる人? 卓越した専門性を持つ技術リーダー? 制約(コストや納期)の中でプロジェクトを完遂させる実装の主導者? たゆまぬ組織改善を行う指導者? 最前線に立って周囲の人々に大きな影響を与える現場のリーダー?

 どれもが正解ではないでしょうか。というのも、ひとことで「リーダー」といっても、さまざまなフェイズに、さまざまなタイプのリーダーが必要とされるからです。

 「リーン開発」の提唱者、メアリー・ポッペンディーク氏とトム・ポッペンディーク氏は、『リーンソフトウェア開発と組織改革』で、次のように語っています。

 「偉大な企業は組織のあらゆるレベルに偉大なリーダーがいるのだ。さもなければ彼らは偉大な企業になっていなかった」(p.311)

■24のフレームと、6つのリーダー像

 本書は『リーンソフトウエア開発――アジャイル開発を実践する22の方法』『リーン開発の本質――ソフトウエア開発に活かす7つの原則』に続く「リーン開発シリーズ」の第3弾です。リーンの視点から、組織改革と、それを実現するリーダー像について論じているのが特徴です。

 全体の構成として、24のフレームが提示されています。それらは6つの章に分けられており、1章につき4つのフレームを解説されています。各章の最後には、対応するリーダー像が示されており、「どのフレームではどんなリーダーシップが求められるか」が確認できます。

  • 第1章「システム思考」
    • フレーム1:顧客中心
    • フレーム2:システムの能力
    • フレーム3:開始から終了までのフロー
    • フレーム4:ポリシーが生み出すムダ
  • 第2章「技術的卓越性」
    • フレーム5:本質的複雑性
    • フレーム6:構成的な実装による品質
    • フレーム7:進化型開発
    • フレーム8:深い専門性
  • 第3章「確実なデリバリ」
    • フレーム9:裏づけのある実績
    • フレーム10:ワークフローの平準化
    • フレーム11:プル型スケジューリング
    • フレーム12:適応制御
  • 第4章「たゆまぬ改善」
    • フレーム13:完璧を視覚化する
    • フレーム14:ベースラインを決める
    • フレーム15:問題を顕在化させる
    • フレーム16:改善の仕方を学ぶ
  • 第5章「人こそすべて」
    • フレーム17:知識労働者
    • フレーム18:「助け合い」という規範
    • フレーム19:相互尊重
    • フレーム20:熟練の誇り
  • 第6章「連携型リーダー」
    • フレーム21:理論から実践へ
    • フレーム22:ガバナンス
    • フレーム23:団結
    • フレーム24:持続可能性

 これらのフレームから導かれるリーダー像とはどんなものでしょうか。第1章では「製品のアイデアにシステム思考を取り入れる『製品チャンピオン、テイク1』」、第2章では「優れたテクノロジの開発に全力で取り組む『高能力・高業績(コンピテンシー)リーダー』」、第3章では「制約、リスク、スケジュールを管理し、実装を主導する『製品チャンピオン、テイク2』」、第4章では「たゆまぬ組織改善に努める『メンターとしてのマネージャー』」、第5章では「現場において人々に影響を与える『前線のリーダー』」の人物像が描かれます。それらを踏まえ、第6章では『あらゆるレベルのリーダー』の人物像がまとめられています。

■結果に着目するのは誤りである

 ところで、本書は技術書なのでしょうか。それともビジネス書? 恐らくは両方です。例えば第2章「技術的卓越性」では、テスト駆動開発や継続的統合といった手法をソフトウェア工学の歴史の延長上に位置付ける形で解説しています。また、第3章「確実なデリバリ」では、「制約に合わせて活動を設計する」というシステム設計の考え方を、エンパイアステートビルの建築プロジェクトを例にとって解説しています。その一方で、第4章「たゆまぬ改善」や第5章「人こそすべて」において、マネジメントや組織改善といった課題への取り組みについて論じています。

 読み手によって、どの章を面白いと思うかは分かれるのではないでしょうか。そしてそれこそが、その人が「どのタイプのリーダー向きか」を表す鏡として機能します。

 ただし、共通する視点も存在します。その1つが、原書の副題ともなっている“Results Are Not the Point”です。「ベロシティの高い企業」(業界を常にリードしている企業)について、本書では次のように書かれています。

 「ベロシティの高い企業は複雑性にどう対応するかを予測しようとせず、複雑性を学ぶことに集中する」(p.217)

 「ベロシティの高い組織は、予定とのずれを、学習する好機として歓迎し、仕事の複雑性についてもっとよく知ろうとするのだ。ベロシティの高い組織は仕事を終わらせることではなく、仕事を終わらせる方法を学ぶことに重点を置く」(p.217)

 別の章では、知的労働について、次のように書かれています。

 「知的労働では、人と、人が働くシステムなくして成功はありえない。結果が肝心なのではない。人とシステムを育成し、両者の力が合わさって成功を達成できるようになることが肝心なのだ」(p.260)

 組織を改善し、人を育てながら、制約の中で素晴らしい成果を作り上げるのは、並大抵のことではありません。それを可能とするシステムを作り上げるのが、リーダーの仕事なのではないでしょうか。

 本書の最後には、「偉大な企業のあらゆるレベルに見られるリーダーの人物像」がまとめられています。これらを参考にして、偉大なリーダーとして自分のチームや会社を改善させることに、ぜひ挑戦してほしいと思います。

  • リーダーは目的を示す
  • リーダーはトーンとテンポを決める
  • リーダーは人を成長させる
  • リーダーは他者が成功するための場所を作る

(@IT自分戦略研究所 岑康貴)

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