久しぶりに再会したあいつは、あまりに寂しく哀れだった。(後半)
街で、自分の関わった製品に“再会”する。
それは、組み込み開発に携わってよかったな、と心から思える幸せな瞬間。近場に同じような施設が2つあるなら、“わが子”たる精算機が置いてある方をついつい選ぶ。発券機の操作に戸惑っている人を見かければ、「画面分かりづらかったか……ごめんなさい」と心の中で密かに謝る。けれど、
(こんなに寂しい“再会”は初めてだな……)
振替機に薄く積もった埃をハンカチで払い、考えました。「この子がちゃんと使われるには、どうしたら良いんだろう?」
●まずは設置場所変更
棚の陰から、お客様控え室の出口付近へ。固く絞った濡れ布巾で改めてお掃除。ついでに「振替機の使い方」なる掲示をカラーで作成し、近くの壁にぺたぺた。他のスタッフから「へー、そうやって使うんだ」なんて声が上がります。
「マニュアルもないのによく分かったね?」
「(そりゃあ開発者ですから!) まあ、いじってみたら何となく。……ていうか、やっぱりマニュアルがないんだね」
「うん。ある日突然、この機械だけやって来た」
「そっか……」
数日すると、お客様が わが子を操作してくださっている姿を見かけるようになりました。1日に1、2人程度ですが、やっぱり嬉しい。「このまま増えていけばいいなぁ……」などと呑気に考えていたら、同僚が眉をひそめて囁きました。
「いま○○さん予約変更されてたね……。あとでチェックしとかないと」
ハッとしました。確かにそうなのです。ここではサービスの性質上、
●スタッフの知らないところで予約変更が行われると、困る(場合もある)
(じゃあ、何で導入されたんだこの子……!?)
めまいを覚えた私に、ふと、あるアイディアが浮かびました。
「……それなら、予約の確認はできるけど、変更はできないようにしようか」
「そんなことできるの?」
「うん、できる……みたいだった! (その設定画面作ったの私だし!)」
「そうなんだ。予約確認のためだけに来る人も多いから、それは便利かも」
「よし。早速やってみるね!」
(あ。納入時のカスタマイズで設定画面なくなってたらどうしよう)
幸いにも設定機能はそのまま残っており、こうしてわが子は「自動予約確認機」として、幾分サイズダウンした第2の生を歩み始めたのでした。
●残る疑問
1. なぜ、マニュアルと十分なユーザー教育を提供できなかったのか?
→他の営業所にも確認しましたが、やはりマニュアルの類はまったく提供されなかったようです。使い方自体は簡単なので、まあいいか、で済まされたんでしょうか……。
2. 「スタッフの知らないところで予約変更されると困る」という現場の声は、システム導入時に掬えなかったのか?
→あくまで私のいる営業所の事情なので、会社としては問題なく無視できたのかもしれませんが。いわゆる「自動化ありき」「機械化ありき」の案件だった、という可能性もありそう。
「非IT企業に転職→昔の自分が作ったシステムに遭遇」という偶然がもたらした、なかなか貴重な体験でした。実は上記以外にも、プログラミング時には気づかなかった「微妙に使いづらいところ」を2つほど発見……。改めて、「ユーザ目線」「お客様目線」の難しさを実感した出来事となりました。
●余談
年末にスタッフとお客様で開いた忘年会の写真をスクリーンセーバのスライドショーに設定したところ、この使い方が最も好評を博してしまったことを補足いたします。
わが子が皆にちやほやされる嬉しさの一方、自動予約確認機としての存在意義すら危うくしてしまった気がひしひしと。ごめん(画面に向かって)。