日曜プログラマです。

「メルマガ」って、もう古いですか? ~“情報流通技術者”の喜怒哀楽+α その2

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前回から、メールマガジン発行者としての体験をもとに記事を書かせていただいてます。

 わたし自身、14歳から「まぐまぐ」を利用してメールマガジンを発行し始め、20歳あたりから独自配信にも挑戦しています。今回は、独自配信を始めたあたりの話。名前入りメールマガジンで読者さんとのやりとりがさらに活発になることを楽しみにしていましたが、世間では「迷惑メール」という言葉が一般化しつつありました。

※ 今回の記事は「喜怒哀楽」の「怒哀」編。全体的にネガティブなムードが漂っております。わたしがメールマガジンを運営する中で実際に受信した、クレームメールの文章も使用しています。一部に刺々しい言葉遣いが含まれていることを、あらかじめご了承ください。

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【怒】二度と送らないで!

 初めての独自配信メルマガ。今まで発行していたメールマガジンの方でも宣伝はしていたから、初回から感想メールはぼちぼち届いた。

 そんな「常連さん」の感想の中に、見覚えのないメールアドレス。

 やった、新しい読者さんからだ! ……でもどうして、件名が「Re: ご登録ありがとうございます」なんだろう? 登録確認メールに、なぜわざわざ返信が来るんだろう?

 訝(いぶか)るも、クリック。

 本文はひどく短かった。

 「登録なんてしていません! この手のメール、二度と送ってこないでください!」

 まず、ぽかんとした。「この手のメール」が何を指すのか分からずに。数秒してようやく気付く。スパムメールに間違えられた。

 彼女がわたしのメルマガに登録した記録は、登録日時もIPアドレスも含めて残っている。他人によるいたずら登録の可能性については、こちらからは調査できない。あるいは単純に登録したことを忘れてしまったのかな? ……結局こちらからは何も言わず、購読解除しておいた。

 これは結果的に、ベストの対応だったらしい。「決して議論しない」――クレーム処理の鉄則が守れずに、メーラーの受信トレイを“炎上”させてしまった友人もいる。

 そう、受信トレイである。趣味でメールマガジンを発行している人は特に、プライベートで使っているメールアドレスを発行元として記載していることが多い。昨今“炎上”場所としてよく話題になるブログとは異なり、メールは本当に「自分のところ」に攻撃が一直線にやってくる。

 「自分のところに」であり、自分のところ「だけ」に、でもある。以前、急にメールのやりとりが途絶えたオンラインの友人がいた。たまたまチャットで会えた機会に、何となく「この前送ったメール読んだ?」と聞いてみると――。ひたすら謝りながら、事情を明かしてくれた。

 勝手に迷惑メールに登録するな、という(濡れ衣の)クレームへの対応を誤ってしまった。すでに読者登録は解除しているのだが、「いいえ、確かに登録されていますよ」という一言がよっぽど気に障ったらしく、毎日誹謗中傷のメールが届く。

 「怖くてメーラーを開けなくなっちゃって、さ」

 ――話の始めに「音声チャットにしようか」と持ちかけたのは偶然だったが、本当に良かった。

 文字だけ見ていたら、彼女の感じていた苦痛を計り違えるところだった。

 上の、文章にまとめるとたった数行の内容を伝えるために、彼女は結局30分ほどを費やしたのだった。最初のうち――嗚咽で話が途切れるたびに――わたしは彼女を止めようとした。変なこと聞いてごめんね、もういいよ。でも彼女は続けた。たぶん誰かに吐き出したくてしょうがなかったのだと思う。数カ月の間ずっと。

 彼女が使っていたのはWebメールだった。チャット画面にIDとパスワードが打ち込まれ、乞われた。自分の替わりにログインして、受信トレイを見て欲しい。

 「……分かった」

 ずらっと並んだ件名を見る限り、その(元)読者からのメール以外は、普通の感想のようだった。10人からの応援メールで貰った元気が、たった1つのネガティブな反響でマイナスにまで落ち込む。わたしにも覚えがある。

 もちろん、何らかの表現・発信を始める以上、批評や批判は避けられないことである。健全な活動を続け、自分自身も成長したいなら、それらの声を積極的に役立てるくらいの気構えも欲しい。

 ……だが……。

 「できればそのメール消して、ゴミ箱も空っぽにしてて欲しくて……あ、どのメールだか分かるかな……」

 「うん、分かった。……すぐ分かった」

 友人の日常を部分的に狂わせたメールを削除しながら、思い出していた。「この手のメール」を送るなと“怒鳴り込んできた”あの読者さん。いや読者さんと呼ぶには、短かすぎるお付き合いだったけれど。

 たぶん、普段は礼儀正しく、親しみをこめたメールを書く人なのだと思う。あのメールは「わたし」に送られたものではなく、彼女の心の中にあるステレオタイプ「めいわくめーるはっこうしゃ」に向けてぶつけられたもの。きっと普段から大量の、身に覚えのないメールに悩まされていたんだ。

 それがたまたま、わたしのところでぶち切れた。

 Webメールの操作を続ける。ゴミ箱のページをいったん開く。さきほど移動させたメールが再び現れる。

 ――件名「死ね」。

 普段はこんなメールを送る人じゃないのかも、しれない。友人もそれが分かっているのか、送り主に対する恨みつらみは一切言わなかった。ただ「自分の対処がまずかった」とだけ。

 「ゴミ箱、空にしたよ」

 「ありがとう! ほんとに、ありがとう!」

 それから数週間ほどして、彼女のメールマガジンがぽつりと届いた。廃刊のお知らせだった。

【哀】すれ違う「伝えたい人」と「知りたい人」

 独自配信に名前入りメール。わたしの目には、発行側の進歩しか映っていなかった。

 思えば読者側の事情も、この数年で様変わりしていたのだった。

 もはや、自分の登録したメールマガジンを管理しきれている人などいない。そして「メールマガジン=迷惑メール」の先入観は、世間全体で確実に強くなっている。

 わたしや、件の彼女のような目には遭わなくとも、「メールマガジンを出しにくくなった」と漏らす発行者は増えていた。

 ――読んでくれる人との距離が遠くなった気がする。

 ――新しく増えた読者はまったくメールをくれない。初期の読者と明らかに温度差がある。

 ――最近買って便利だと思った商品を紹介したら、「DM(ダイレクトメール)は要らない」と苦情が届いた。広告費を受け取っていると思われたらしい。

 当時、つまり2005年前後といえば、Webサイトやメールマガジンに広告を貼って収入を得られる「アフィリエイト」が大流行。特にメールマガジンを使ったアフィリエイトは、成約率の高さと新規参入の手軽さから注目されているようだった。

 「あなたも明日から稼げます!」と謳ったメールマガジンのテンプレートが、数万円で売られているサイトを目にしたことがある。実際に、その類のテンプレートを使ったとおぼしきメールも受け取ったことがある。なぜ分かるかって……? 同時に、まったく別の送信元から、判を押したように9割がた同じ内容のメールが大量に届いたからだ。

 それらのメールマガジンには、おそらく懸賞サイトかゲームサイト経由で「登録」されたのだと思う。サイトによっては、一度のSubmitボタン押下で20~30誌のメールマガジンに同時登録されるところもある。

 アフィリエイトのみを目的とした広告だらけのメールマガジンに関しては、平成20年12月に「特定電子メール法の改正」が施行されてから、だいぶ減ったように見える。

 だが、読者側に根付いた「メールマガジン=迷惑メール」の先入観が容易に消えることはない。ある人はメールマガジンを購読する、という習慣そのものをやめてしまい、ある人は予め大きな警戒心を持って登録をする。

 そんな中、メールマガジンの発行者を続けたいと思えば、越えなければならない壁は高い。にもかかわらず、発行者であり続ける人たちは現実に存在する。Webサイトでもブログでもなく、メールマガジンを舞台として選ぶ、その理由は様々だが――。彼・彼女らの熱い想いのこもったメールを読むたび、なぜだか悔しい。

 この世にもしも、迷惑メールがなかったら。

 いまわたしが感動したこの言葉に、同じように触れられる仲間はもっともっと多かったのかもしれない。いろいろな人がまずは読者として、いろいろなメールマガジンに関わって。そのうち何人かが発行者にもなって。

 素敵なメールマガジンが加速度的に増えていく。――ふと そんな未来を思い描いては、今日も届いた「件名: 楽して副収入get♪」を、荒めのキータッチで削除する。

(つづく)

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P.S. 更新催促メール(笑)をくださった皆様へ。中途半端なところで2カ月もお待たせしてしまいすみません。ありがとうございますm(_ _)m

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