私にアイスを齧(かじ)らせて!
【 ICE 】(読み:アイス)
牛乳などを冷やしつつホイップしてクリーム状とし、凍らせた甘美なる製菓。
と、定番のネタ(たぶん)をこなしつつ、ICE(In-Circuit Emulator)の解説から始めさせて頂きます。
組み込み業界に縁のない方もいらっしゃると思いますので、念のため。
本来はIntelの登録商標であり、組み込み開発に使うデバッガを全てアイスと呼ぶのは誤りで云々......てな話はさておき、とにかく。
「組み込みエンジニア、組み込み開発といえば、ICE!」
少なくとも私の中では、そのような憧れの存在でありました。
このまま、かの「私の中の憧れの存在」について緩ぅく語らせて頂きたいな、というのが申し訳なくも本稿の趣旨なのですが、私の中の、という前に、私自身について僅かなりとも語っておくのが筋であろうと。
そういったわけで自己紹介です。なんたって初コラムですからね。 はじめまして。
「@IT自分戦略研究所 エンジニアライフ」にてコラム執筆の機会を頂きました、川畑 愛(かわばた あい)と申します。
性別、女。年齢、23。誕生日は3月2日なので何かください。
鹿児島県に生まれ、国語と読書と、中学からは英語も大好きな少女としてすくすくまるまる育ち。
高校を当然のように文系で卒業後、文学部(北九州市立大学文学部比較文化学科)に進学し。
なぜか今、組み込み開発に携わるITエンジニアです。人生って不思議ですね。
学生としてITを学んだのは2年間。独立行政法人「雇用・能力開発機構」の運営する「川内職業能力開発短期大学校」に大変お世話になりました。
学校名が長く、「入力が面倒」と言う人は多かったのですが、私は一気にタイプして一気に変換する瞬間がなんだか好きでした。ひらがな列が、角ばった漢字列にびしっと雰囲気を変える満足感(分かる方だけ分かって頂ければ......)。
ま、初めてのPCだと確実に「仙台職業能力~」と変換されてしまうのですが。......そう、なかなか珍しい読みですよね。鹿児島の地名です。
この川内職業能力開発短期大学校(一気に変換)にて、そろそろ1年次も終わろうかというある日。就職活動の始まる時期でもあり、私はぼんやりと自らの進む道について考えていました。
思索のパートナーは真っ白なA4用紙。描いたマインドマップもどきを要約すると次の通りです。
- せっかく勉強したのだから、ITを使って何かやりたい。
- 自分のキャリアとか自己実現のためだけに頑張り続けるのは限界がある。私が一番がんばれる「○○のため」は、何だ?
- 故郷・鹿児島のため、というのが一番しっくりくる。
- ITで鹿児島を活性化したい。
- 故郷・鹿児島のため、というのが一番しっくりくる。
- (2~3日ほど就職サイトで調査してみて)全国で使われているようなソフトウェア・システムは、だいたい東京で作られている。地方に拠点のある会社では、地元で使われるシステムの開発を行っている。
- もちろんそれも十分魅力的な働き方だ。
- ただあえて、「鹿児島発・全国or全世界で使われるシステム」に取り組んでみたい気がする。
- もちろんそれも十分魅力的な働き方だ。
★ひとまずの結論。
「鹿児島から、鹿児島の外に向けて、ITに絡んだ何かを発信している/しようとしている会社を探す。2年生の4月1日までにそういう会社が見つからなければ、東京の開発会社を探して就職する。必要な経験を積んだと判断したら鹿児島に戻り、得たスキルを最初の目的のために活かす」
ここまでまとまると何だか明日が楽しみになったので、その日は早めに眠りました。
「2年生の4月1日」と若干厳しめの期限を設けていましたが、何とかなるのでは、と感じている自分がいました。もちろん精一杯探すつもりでしたし、何より「アンテナが定まると情報が飛び込んでくる」ことを、比較的強く信じている方ですので。
ほどなくして、学校で、会社説明会の案内がありました。
そしてそれは、「鹿児島から、鹿児島の外に向けて発信しようとしている会社」でした。
- 人数としては中堅規模ながら、全国に拠点を構え、各地域ごとに開発案件の「鹿児島への持ち帰り」を目指していること。
- 鹿児島と全国の拠点を結び、リモート分散開発のネットワークを作るという構想。
ここだぁ! とばかり、当日のうちに履歴書を作成し、うわ手書きだと確かに面倒だね学校名などと思いつつ、採用試験も何とか通過して内定を頂くことができた次第。
それが今の会社、株式会社ソフト流通センターです。
社のビジョンに共感し、仲間となった1人として、入社直後から関東・関西とあちこちの現場を経験させて頂いています(現在は滋賀県におります)。
これからも鹿児島を活動の中心としながら、様々な現場に行くでしょう。
もしかすると、今これを読んでくださっているあなたの所にも? ――その際はどうぞ、よろしくお願いいたします。
合わせて本コラムも、末永くご愛顧のほど よろしくお願い申し上げます。
【 はじめてのアイス 】
では、ICEの話に戻ります。
現在入社2年目の私ですが、最近までICEを使ったことがありませんでした。Windows XPやXP Embedded、更に言えばC#.NETとなぜだか縁が深かったのです。
もちろんそれらの案件も非常にやりがいのあるものでしたし、多くのことを学ばせて頂きました。
その一方、基本的に私は「ブラックボックス」を素直に受け入れて使うのが苦手なのかな、との思いを強めたのも確かです――いえ、じゃ全部0と1から作れといわれたら泣きますが――。このプラットフォーム、あのAPI、結局中では何やってるの? と、どうしても知りたくなってしまうのです。
そういったわけで、「イチから、自分の手で作っている」イメージの純然たる組み込み開発には興味津々でした。「この製品はOSを使わずに作っています」なんて台詞にはトキメキすら覚えたほどです。いわゆる夢見る乙女です。反論は受け付けません。
そして、それらものづくり開発の象徴(私の中で)としての、ICE。
ETEC(Embedded Technology Engineer Certification:組込み技術者試験制度)クラス2試験の勉強をしながら、JTAGやらハードウェアブレークポイントやらの用語に出遭うたび
「あー。良いなー。使ってみたいな組み込みデバッガ」
と妄想を膨らませておりました。
そんなある日。自分が担当しているものとは別製品の、単体デバッグ支援をお願いされました。μITRONを使った本格的な組み込み製品です。
机上デバッグということで、はじめて使う本格的な静的解析ツールに内心はしゃいで作業していました。
――そう、先程からICEアイスと騒いでいますが、結局どんな仕事でも面白さを見つけて夢中になってしまう性分なんです。といってもやはり興味は「ボックスの中」......どんな解析をしてるんだろう? というところに向かっていましたが。
久しぶりにC言語にも触れられたし良かったナァ、と満足しつつ報告書をまとめた次の日。引き続き、デバッグを手伝ってくださいというお話を頂きました。
単体デバッグの次、ですから、結合デバッグです。
ということは?
「川畑さん、ここに製品の基板とICEをつなげておくので、使ってくださいね」
やったーーーっ! 初のマイICEを目の前に、自然と心はわくわくそわそわ。
使い方を上司に教えて頂き、調査開始。見つかった不具合も順次修正していきました。とはいえ初めての経験ですから、1つ1つにどうしても時間がかかります。ある不具合の原因が分からず1時間ほど引っかかっていたところ、お客様先の"先輩"に声をかけられ、代わりに見ていただくことになりました。
せっかくだから、何をどんなふうに調べていかれるのか見ておこう、と思い近くに座ったのですが、
(は、速い......)
値のチェックや画面の切り替え操作がとにかく素早く、ほとんどついていけません。しかも、
「あ、これだ」
......調査自体が1分ちょっとで終了してしまいました。
不具合の原因は、ある変数に値を渡すべきところでポインタを渡していたこと。私も先輩と全く同じ、変数の値とアドレスが表示されている画面を見ていたのですが......。実際に受け渡しされているのがどちらなのか、そこまで頭が回らなかったのです。
うん、やはりツールと、それを使う人のスキルが一体となってはじめて良い仕事ができるのですね。
当り前の事実を改めて突き付けられ、精進すべしと心に誓った秋の日でした。
* * *
ICEの思い出を語ると言いつつ、自分の未熟さを暴露しただけのような今回のコラム。背伸びをしてもしょうがない、ということで思い切って書かせていただきました。
これからしばらく、成長記のような内容が続くかもしれません。有意義な情報を提供されている他のエンジニアライフ コラムニストの皆さまを見るにつけ、1日も早くそうありたいと奮い立たされる思いです。
ではまた、次回のコラムにて。最後までお読み頂き、ありがとうございました。