コラムニスト対談 -リーベルG vs あべっかん(前編)
あべっかん「あれー、リーベルGさん遅いなあ。対談するためにここで待ち合わせたんだけど」
「あ、誰かこっちに向かって来る。えっ?、まさか!」
リーベルGは女性だった!?
あべっかん「あの女性。あれがリーベルGさん? しかも外人だ。リーベルGって、もしかして本名??」
待ち合わせ場所に現れたのは、妖しい笑みを浮かべた若い女性だった。リーベルG の代理、と名乗った女性は、持参したタブレットを手渡した。画面には「SOUND ONLY」と表示されたビデオ会議アプリが起動していた。
女性は、リーベルG氏は緊急のトラブル対応のためにお会いすることがかなわなくなったので、このアプリで対談をお願いしたい、と告げ、その場を離れていった......
あべっかん「あー、びっくりした。あの女性が秘書のブラウンアイズさんかな? どうせなら彼女とお話したかったのに」
タブレット「ビビビビ」
あべっかん「えーっと、ここをクリックかな? もしもーし!」
リーベルG「こんにちは、リーベルGです」
あべっかん「あ、つながった。あべっかんです。よろしくお願いしまーす」
読者「(いちいちタブレット持って来なくても、電話すればいいじゃないの)」
あべっかん「(だってリーベルGさんの台本がこうなってたんだもん)」
ということで、タブレットを使ってのオンライン対談が始まりました。
『レッドビーシュリンプの憂鬱』の出版は一苦労
あべっかん「2月に『レッドビーシュリンプの憂鬱』の本が発売されました。おめでとうございます」
リーベルG「ありがとうございます。声をかけていただいた時は、びっくりしました。いろいろ苦労も多かったのですが、楽しい経験でもありました。出版に携わってくださったツギクルの方々、素敵なイラストを描いていただいた平沢下戸さんに感謝しています。また、多くの方に書評を書いていただいたのも嬉しかったです。あべっかんさんにも書いていただきましたね。ありがとうございます」
あ「売れ行きはどうですか?」
G「実は知らないんですよ(笑)。聞いていなくて。あんまり売れてないんじゃないですかね」
あ「以前にも電子書籍は出していましたね。私も読みました」
G「ありがとうございます。Amazon で自分の書いたものが売られている、というのは、なかなか新鮮でした」
あ「でも、電子書籍と違って紙の本を出版すると気持ちがいいでしょうね」
G「そうですね。出版不況と言われている今、紙で出していただけるとは思ってもいなかったので。初めて手に取ったときは感動でした。ただ、電子書籍のときと違って、苦労は数倍でした。
まず、分量が多すぎるので、半分に減らしてほしい、と言われました。元の『罪と罰』は、そのまま書籍にすると、600ページを越えてしまうそうです。一般的な書籍は300ページ程度なので、上下巻になってしまうのですが、それは難しいとのことで」
あ「600ページもあったんですか。できあがった300ページの本でも、こんなに多かったのか!と思っていましたが」
G「この削る作業に、ざっと2ヵ月ぐらいかかりました。その他、もちろん誤字脱字の数度にわたるチェック、表記のゆれチェック、ストーリーを縮めたことによる矛盾のチェックなど、大変でした」
五十嵐イズムの憂鬱
あべっかん「『レッドビーシュリンプの憂鬱』では、コンサルタントの五十嵐さんが技術のない社員を排除していく。そうやって出来上がった世界はリーベルGさんにとっては理想の環境なの?」
リーベルG「誤解のないように言っておくと、私はエンジニアライフでの小説を、一種の思考実験として書いているのであって、そこに自分の信条なり理想なりを反映させたことは一度もありません。読んでくれた人が、何かを考えるキッカケになったり、よりよい選択を選ぶ手助けになれば、とは思っていますが。
なので、たとえば現実にも中村課長や武田副課長のような人は大勢いるんでしょうが、その人たちをディスる意図は全くありません。その上で答えるなら、理想とは言えないでしょうね。あと10歳若ければ『理想かも』と言っていたかもしれませんが」
あ「わかります。コラムを書くときも若いころの自分だったらこうは思わないよなあ、という意見を書くことがありますし」
G「ただ、IT業界全体がというのは無理としても、技術力ファーストが企業風土となっている会社があるなら、どんな成果を出せるか見てみたいとは思います。あくまで傍観者として、ですが(笑)」
あ「傍観者ならいいですね。私が隠居したらたあとならやってもらってもいいや。隠居したらホウレン草を栽培することになっているので(笑)」
G「私は引退したらレッドビーシュリンプを養殖しようかな」
エンジニアとして幸せな人生を送るには?
リーベルG「話を戻しますが、これまでの技術者人生の中で、いわゆる社内政治的な事情で古いシステムをメンテナンスし続けなければならなかったり、上司の個人的な付き合いのために、あまり程度のよくないシステム会社と仕事をしたり、価格だけ高くて使い物にならないツールを使わなければならなかったり、と、いろいろ悔しい思いをしてきたことは事実です。
そういうとき、まず技術的な視点で仕事やツールを評価する、という体制があれば、誰か一人のメンツが潰れたとしても、結果的に多くの人が幸せになったんではないか、と思うことはよくあります」
あべっかん「そういうメンツはどんどん潰しておきたいな!」
G「ただ、ああいう世界が成立したら、よりクオリティの高いシステムが多く提供されるようになって、ユーザ側にとっては嬉しいのかもしれませんが、技術者側からすれば常に緊張を強いられて胃が痛くなるでしょうね。私は一生、プログラマを続けていきたいと思っていますが、年齢的な限界は避けられないでしょう」
あ「リーベルGさんも『プログラマなんかで終わりたい』派でしたか」
G「年齢的な限界がきたとき、五十嵐イズムに支配された会社にいたら、肩身の狭い思いをしながら、意地だけでプログラマ職にしがみついている、という状況になるかもしれません。そういう意味だと、技術的についていけなくなっても、何らかの逃げ道が用意されている現在の社会の方が幸せなのでしょうね。
技術的にガンガンやっていけて、徹夜も早出もいとわない若いうちに、『あいつら使えねえな。いなくなればいいのに』と思うことはあるかもしれません。でも、いつか自分がその立場になる日が必ず来るんですよね。
少し前に話題になった『逃げるは恥だが役に立つ』に、『自分が馬鹿にしていたものに自分がなるのはつらいわよ』というセリフがありますが、リアルに共感できる言葉でした」
あ「石田ゆり子のセリフですね。石田ゆり子もいいけど、ガッキー可愛いよね」
G「そこかいっ!」
あ「それから、『レッドビーシュリンプの憂鬱』の中でアツコさんがパレートの法則のことを言っていました。使えない人を排除してもしばらくすればまた使えない人が出てくる。排除してもキリがない気もします」
G「その状態が永遠に続くというのは、よほどの独裁国家でもない限り無理でしょうね。五十嵐さんも、自分のやり方が永続的なものだとは思っていなんです。ただ、短い時間でも業界のクオリティが上がれば、それはムダにはならないから、と。自分にやれることをやっているだけなんですね。
ネットで話題になるような技術者というのは、たとえばプログラミング言語を作ったり、フレームワークを考案したりする人で、そういうトップガンな人たちが上からIT 業界を引っ張っていってくれているわけですが、一方で、20年前の言語を使って、地味な企業システムを作ったり直したりしている無数の技術者が下から支えていたりもする。
どっちが偉いということではなく、各自が自分のスキルと時間の許す範囲でやれることをやればいいんだと思います。たとえばエンジニアライフでコラムを書いたりとかね」
あ「だから我々コラムニストは書き続けるのだ!」
と、うまくまとまったところで一区切りにしましょうか。
レッドビーシュリンプの憂鬱への思いを聞くことができました。いかがでしたでしょうか。このノリで後編に続きます。
コメント
仲澤@失業者
「レッドビーシュリンプの憂鬱」読みました。
題がなぜかレットイットビーシュリンクに読めて、おにぎり見つめてしまいました(うそです)。
初出の方で呼んでたので読み直しですね。あらためて自分は五十嵐的なのだなと感じました。
ところで、最近全編を読み直したものに
「バイナリ畑でつかまえて」
「パソコン創世記」
等があるのですが、あらためて最近の進歩はすごいものだなと思います。
匿名
リーベルGさんとの対談、興味深く読ませていただきました。
後編も楽しみにしています。
結局、リーベルGさんは男性という事でOKでしょうか?
abekkan
仲澤さんは五十嵐タイプでしたか。
「バイナリ畑でつかまえて」? 勢いでダウンロードしてしまいました。これから読んでみます!
匿名さん、ありがとうございます。
たしかに言われてみると、前編を読んでもまだ男性かどうかわかりませんね。後編になればわかってきます!