AED48――AED普及を阻む4つの壁をエイット超えた話
AED。何あれっ? 最近ビルでよく見かけるけど。いつの間に普及したの?
というあなたに、私が受けたセミナーのレポートを報告する。「自動体外式除細動器(AED)の認可から普及まで」という、元ヒュレッドパッカードの千葉訓道氏によるセミナーだ。
■AEDとは
日本では「心臓突然死」で死亡する人が年に4万人もいる。交通事故の8倍らしい。心臓突然死というのは心臓からの電気信号(健康診断の心電図検査で見ているやつ)が乱れて機能しなくなって死ぬこと。それを助けてくれるのがAED。これを使ってなるべく早く電気ショックを与えれば助かる。早く対処するほど生存確率は高く、10分放っておくと死に至る。日本ではこのケースで生存する確率は10%にも満たないそうだ。AEDの普及が早かった米国では生存確率が50%もあるのに。
心臓停止で倒れた人がいたら、素早くAEDを使えば助かることがある。私はAEDの講習で見せてもらったが、AED装置は開けてパッドを胸の2カ所に当てたら自動的に流れる音声ガイドに従うだけ。自動的に心電図を計って電気ショックをかけてくれるので意外と簡単だ。もっとも、私のいい加減な説明を信じるよりも、AEDのサイトの説明を読んでほしいところだが。
■日本の救命率を2ケタにしたい
「日本の救命率を2ケタにしたい」という願いで千葉氏が始めたAED普及のプロジェクト。しかし「高電圧を使う医療機器であるAEDを普及させて一般人に使わせる」というのは、前途多難であった。それをやり遂げるには、越えなければいけない4つの壁があったという。
■行政の壁
新しい医療機器が認可されるには、時間と手間がかかる。AED装置の臨床データはたくさんあったが、すべて外国人のデータ。日本人のデータを取れ、と言われても、これを使う機会はいつ起こるか分からないし、普及していない状態では何年かかるか分からない。
法的にも、医者以外が医療機器を使うことは、それまでは完全に禁止されていた。
この壁に対しては、麻酔学会と蘇生学会と救急学会を巻き込み、医大の先生に嘆願書を書いてもらって解決したという。
■組織の壁
千葉氏の所属していた医療事業部門の客先は病院のみ。一般の会社や公共団体に売る経験もなければ、売り上げ見込みも立てられない。
この壁に対しては、医大の教授の言葉を借りて、回りを動かしたという。
■需要側の壁
医療機器は、法律で宣伝広告を出すことが禁止されている。ではどうやって広めるのか?
この壁に対しては、マスコミや実際にAEDで助かった人の体験談が役に立ったという。AEDには録音機能もついていて、使っているときの様子を自動的に録音するそうだ。録音された音声を再生すると、周りの人達が必至になって助けようとしている様子がひしひしと伝わるそうだ。患者が目を開けたときの歓喜の声を聞くと、誰もがこれは導入すべきだという気になったという。
■供給側の壁
売りに歩く人も、AEDなど使ったことがない。素人が素人に売らなくてはいけない。
この壁に対しては、戦略を考えて説明して動いてもらうことで乗り越えた。
■ステークホルダーの合意を得る秘訣
こうして4つの壁をエイット乗り越えて、千葉氏はAEDを普及させることに成功した。プロジェクトのステークホルダーの合意を得るには、次のことが重要だったという。
- その場その場で違う顔をする必要がある
- 関係者の目線をより高い位置に引き上げ、「日本の救命率を2ケタにしたい」という最終目的を見るようにさせる
- 引き上げるためには、権威者の言葉を借りて熱意を持って説明することが大事
- リーダーは演出家でなくてはいけない
なるほど。ためになる話だ。と私は感じた。次のブログではもう少し詳しく書いてあるので興味があれば見ていただきたい。「AEDを普及させた男」
■PMAJの月例会
今回このセミナーを主催したのは、PMAJ(日本プロジェクトマネジメント協会)。ここで行なわれる月例会では、ゲスト講師を呼んでさまざまなプロジェクトの話を聞かせてくれる。協会の会員でなくても低価格で参加が可能なので、興味のある方は一度行ってみるといいだろう(PMAJの例会)。
■abekkanの野望を阻む壁
このセミナーで聞いた話を参考に考えてみた。私のやりたいことを阻む壁って何だろうか。
- 上司の壁
- こづかい不足の壁
- 妻の反対の壁
- 子供に手がかかるの壁
う~ん。AEDに比べるとなんて低レベルな壁なんだろう! でも越えられない……(+_+)
abekkanでした。