シンガポールでアジアのエンジニアと一緒にソフトウエア開発をして日々感じること、アジャイル開発、.NET、SaaS、 Cloud computing について書きます。

次にやりたいこと

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 プロジェクトが一段落して余裕が出てくると、いつもわたしの頭の中でうごめくものがある。山ほどある、「次にやりたいこと」のせめぎ合い。

 わたしは物理学部卒で、4年間落ちこぼれ続けてしまった。結局、物理の知識は高校生レベルに少し毛が生えた程度で止まった状態で、これがいまになって悔しくてたまらない。そんなとき、最近見たBBCのドキュメンタリ『E=MC2』や『ATOM』に、痛く感動した。

 『E=MC2』はアインシュタインが特殊相対性理論に至る物理学の発展史を描くものだ。特に感動したのが、 ファラデーが実験してマクスウェルが理論的研究を求めた結果「マクスウェルの方程式」が生まれ、その方程式から導かれる電磁波の速度が、数々の実験の結果によって明らかになりつつあった「光の速度」と同じである、と発見したくだりだ。これによって、光の正体が実は電磁波だと判明することになる。

 さらに、地球は超高速で移動しているにもかかわらず、光の速度がどの方向に対しても一定という実験結果から「特殊相対性理論」が導かれ、その派生成果として『E=MC2』が導かれた。落ちこぼれてはいたが、物理学でもここら辺まではある程度分かることから、感動できるのかもしれない。

 『ATOM』は、ATOM、つまり原子にまつわる物理学の発展史を扱っている。こちらは、学生時代完全に落ちこぼれた量子力学の発展史なのでいまいちだった。とはいえ、花粉を水の中に落としたとき、花粉が水の中で細かく揺れている様子から、原子の存在とその大きさまでも予言したアインシュタインのくだりには感動した。

 放射線に関するラザフォードの実験からボーアが立てた仮説も興味深い。原子は原子核の周囲を電子が回る構造をしているが、その電子は決まった軌道しか回れない。さらに、それぞれの軌道で回ることが許される電子の数が決まっているということ。さらに、「ある軌道から別の軌道に電子が移動したときに発生するエネルギーは決まった大きさである」という仮説。これを見事に説明できたのが、シュレディンガーやハイゼンベルグなどが打ち立てた「量子力学」というくだりも面白いものがあった。

 これらのドキュメントをきっかけにもう一度、物理学を勉強し始めることにした。インターネットで探すと、面白いほど勉強するための材料が見つかる。まず、見つけたのが、iTunes  U。世界の有名大学がこぞって大学の授業を無料で世界に向かって公開している。米国東海岸の理科系大学と言えばMITだが、そこのWalter Lewin氏がニュートン力学や電磁気学、波動力学などを豊富な実験を実演してみせて、講義してくれる。大学1~2年生レベル(当時はわたしもまだ落ちこぼれていなかった)なので、学生時代の復習として役立った。

 次に、西海岸の大学といえばスタンフォード大学だが、そこからはLeonard  Susskind氏が、解析力学、量子力学、統計力学、相対性理論、宇宙学といった、社会人向けの授業を公開している。こちらはいまのわたしには難しすぎた。大学院レベルなのかもしれない。

 さらに、太平洋を渡って、東京大学もしくは京都大学といきたいところだが、そっちの方向ではなく、太西洋を渡ってイギリスはオックスフォード大学だ。ここでは、James Birney氏が、量子力学の授業を公開している。教室にいる学生を見るとどうも学部生のようで、明らかに学部レベルの授業。いま、わたしはこの授業を聴講している。できれば、苦手な量子力学を克服できればいいなと思う。

 さて、こういうインターネットを利用したいわゆる『お茶の間留学』もいいが、日本語による学習材料はないかと思って探して見つけたのが、広江克彦氏の『EMANの物理学』。「わたしの学生時代にこういうのがあれば、授業に落ちこぼれなくてすんだかもしれない」と思うと悔しい。実に分かりやすく、物理学全般を解説してくれている。広江氏は、このページを世に出し話題を呼んだ結果からか、『趣味の物理学.』などの本まで出版している。

 そして広江氏のホームページのリンクで見つけたのが、『物理のかぎしっぽ』。そして、『いろもの物理学者』。いろもの物理学者こと前野昌弘氏は、実はプロの物理学者で琉球大学の先生、そしてわたしが神戸大学で物理を学んだ(というか落ちこぼれていた)ころの同級生なのだった。彼は、同級生のなかで当然一番できたので、大学院に進んでいまは国立大学の先生をやっている。

 さて、このように物理学を勉強しなおしているわたしだが、いま考えているのが、物理学とコンピュータを融合させた分野、つまりComputational  Physicsの分野に職種変更できないかということだ。科学の進歩のお陰で、世の中の事象の挙動の裏で働く法則は発見できているわけだ。しかし、法則が分かったからといっても、実際の挙動の予想を数学的な解法だけで求められるのは、ごく一部の単純に理想化した事象だけだ。それ以外の事象の挙動を予想するためには、コンピュータプログラムに物理法則を当てはめて計算させるしか方法がないわけだ。最近、急速に価格破壊が起こっている高速コンピュータと同期して、急速に進歩している学問分野、産業分野のようで、なんとかこの分野に進むことができないだろうか。

 ヘビーにコンピュータを使う分野はほかにもある。当然一番お金になるのは、金融工学。オプションやデリバティブなどの金融の世界だ。だが、どうにも会計の原則の裏をかいて税金逃れをしたり、お金儲けをするのが目的だと思ってしまうので、積極的にはやりたくない分野だ。しかし、これは単なる素人の思いこみに過ぎないかもしれない。

 ということで、実は少しばかり勉強を始めた。銀行関連の開発もやったことがあるので、チャンスがないわけでない。遺伝子工学の分野も、Bioinformatics なる分野が最近発展してきているようだ。こちらの分野は最近始まったばかりの学問分野で、シンガポール政府も自国産業の得意分野にしようと企んでいるようで、シンガポールの大学にいろいろコースがあるのがいい。いま抱えているプロジェクトが終ったら、こちらの大学院で学んでみようかと考えている。もしかしたら、いまのわたしにとって一番可能性のある分野かもしれない。

 小生、2001年を境に、コンピュータテクニカルサポートエンジニアから業務ソフト開発エンジニアへの職種変更に成功した経験がある。同じように、今度はComputational Physicsなどのコンピュータをヘビーに使う分野に進むことができないかと模索している。

Comment(1)

コメント

広江さんのツイッターつぶやき(@eman1972)からお邪魔しました。

これからの物理とコンピュータのかかわりということでは、
2009年の「The World Question Center」のお題
「What will change everything?」に対するリサ・ランドール
博士の回答がまさに「組織化・協調コンピュータの可能性」でした。
http://www.edge.org/q2009/q09_12.html#randall

すでにご存知かもしれませんが、ご参考まで。

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