シンガポールでの賃貸契約
前回はシンガポールで家を見つけるところまでを書いたが、賃貸契約について書く。
苦労して住処を見つけられたとしても、賃貸契約を結ばなければ住めない。前にも書いたように、日本やイギリスの不動産屋のように店舗を持つわけではないエージェントが、オーナーとテナントの中に入って、契約を交わすわけだ。
契約は、HDBの建物の下にあるコンクリートのテーブル上とか、近くのマクドナルドなどで行われる。こちらの契約は、どういうわけか1年契約が普通だ。問題なのは、いったん契約を結ぶと、テナントからでも途中解約できない仕組みになっていることだ。日本やイギリスでは、1カ月前に通告することで退去可能だが、ここシンガポールでは簡単にできないのだ。2年契約の場合、『1年目以降なら、テナントの雇用者による命令で帰国するケースに限り、途中解約ができる』と書いている契約もある。しかし、そういう契約はあまり一般的ではない。
しかしながら、実際のところでは、途中で退去するとしても、次の入居者が見つかるまでの家賃を払うだけで済むことが多い。また、シンガポールでは賃貸の住居が希少価値ゆえ、次の入居者はすぐに見つかることが多いので、これはそれほど厳しい条件ではないのかもしれない。
わたしの場合、シンガポールに住み始めて1年が経過し、賃貸契約の更新が近づいたころ、わたしの雇用者の状況が少し不安定だった。万が一職を失うようなことになると、最悪日本に帰国する必要があると考えていたのだ。そのころ、わたしはEパスという労働ビザを取得してシンガポールに滞在していたのだが、このEパスは職を失うと2週間以内に出国しなければいけないという厳しいものだった。万が一職を失うことになれば、1カ月間の退職通告後の期間と2週間のEパス失効後の滞在猶予期間、つまり1月半ぐらいで次の仕事を見つけられなければ帰国せざるをえない。そこで、結局わたしは1年を経過した後の住居は、短期の契約のものにした。3カ月契約だ。それなら、最悪シンガポールを出国するはめになったとしても、数カ月余分に家賃を払うだけで良い。そのため、3カ月の短期の賃貸を払いながら3カ月ごとに引っ越しするという、しなくてもよい苦労を強いられることになった。
シンガポールでの3カ月の短期賃貸は、こちらのHDBリセールのルールを決める法律の結果存在する、特殊な賃貸の形態だ。と言うのは、HDBでは売買契約が成立した後すぐにフラットの新オーナーが住み始められず、3カ月待つ必要があるからだ。例えば、海外に行くために自分が所有するHDBを売却したオーナーは、フラットの購入者が住み始めるまでの期間、3カ月だけ賃貸することによって、少しでもお金をもうけようとする人が多いのだ。
3カ月ごとに引っ越しするわけだが、こちらの引っ越しは日本ほど費用がかからない。それは、ほとんどのフラットは家具つきで、自分で家具を運ぶ必要がないことと、大抵は周辺の東南アジアからの労働者だと思うが、作業をしてくれる人の報酬が低いからだと思う。引っ越し業者に払った額は300ドル、つまり2万円程度だったと思う。もちろん、引っ越しのたびに荷物をダンボールに詰めるなどの作業が必要になるわけで、つらいものであることに変わりはない。ここらあたり、シンガポール政府に言いたいのは、わたしのような『貧乏』外国人のことを考慮して、途中退去しやすいような契約ができるように法整備してもらえないものかと思う。しかし、打つ手打つ手のほとんどを成功させているように見えるシンガポール政府のことだ。この制度は、国のための全体最適だと計算して、意図的にこのままにしているものなのだろう。
その後、わたしは永住権を取得したので、2年目、3年目の賃貸契約更新時には安心して1年の更新をすることができた。ところで、契約更新に関してだが、1つ言いたいことがある。それは、シンガポールでは家賃が1年ごとに、大幅に変わることだ。シンガポールに最初に住み始めたフラットの最初の1年目の家賃は1200シンガポールドルだった。それが1年後の更新時には、なんと1700シンガポールドルに上げるよう要求された。これには少し憤慨して、結局そのフラットを出て別のフラットに引っ越したのだが、他も大同小異だった。
リーマンショックのころは、さすがのシンガポールも世界不況の影響を受けて経済が停滞し、その時は家賃が少し下がったりもした。しかし、大体においてどんどん家賃は上がっている。現在では、日本円に換算すると、横浜あたりの家賃と同じぐらいの感覚がシンガポールの賃貸住宅事情だ。日本でもらう給料よりは少し少ない給与で我慢しているわたしとしては、家賃の高さを感じる昨今である。
小さな島に500万人もの人が住み、とっくの昔に1人当たりのGDPは日本を追い越し、今年(2010年)などはGDP成長率20パーセント近いらしい。そろそろ、ヨーロッパの北欧諸国並みのGDPに到達したのではないだろうが。そういう国で、家賃が日本の横浜並み、つまり東京よりはまだ安いレベルにあるということは、もしかしたら驚異的なことなのかもしれない。
もう1つの同じような都市国家として香港があるが、香港の住居費の高さを考えると、そう思える。多分HDBという、政府が直接コントロールを行いやすい住宅が90%をしめるという状況を作り出せた結果だろう。しかし、実際のところ、ここまで住居費が高くなると、安月給の現地採用組にはこたえる。
最後に、少し古くなるが、1997年ごろわたし自身が書いた、『イギリスでの家の探し方』のコラムがわたしのホームページにある。ロンドンに赴任もしくは、語学留学などされる方の参考になればと思う。