181.【小説】ブラ転24
初回:2021/9/29
ブラ転とは... 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略
1.45歳定年制
私(杉野さくら)はWebの社内掲示板に新着情報が掲載されてることを見つけた。何とは無しに覗いてみて驚いた。
1.すべての社員は、45歳で定年とし、以降個別に雇用契約を結ぶこととする 2.勤続10年以上の社員については、退職金を上乗せして早期退職を募集する
(希望退職は、前回の二代目の発表時にもあったが、勤続10年以上って、30代も対象って事?)
ついこないだ、専属エージェント契約を発表したばかりなのに、今度は定年の前倒し?私はすぐに二代目に電話を掛けた。
『はい、秘書部です』
よく知っている声だ。山本さんだ。
「私です、さくらです。二代目は居られますか?」
『先ほど、社長室の方に行かれましたよ。もしかして掲示板の件ですか?』
「そうです。なんですか、急に」
『二代目も苛立っておられましたよ』
「え?」
『あれをアップされたのは、ハルコお嬢様ですよ。それを抗議するために、社長に直談判に行かれたようです』
「そうなんですか?二代目の社内ベーシックインカムに反する制度だったのでおかしいとは思ったんですけど...発表されたという事は、決定事項なんですか?」
『覆らないと思いますよ』
技術部の周りの人たちの何人かが、この掲示板に気づいたようで、少しざわつきだしているようだった。私と同じように、二代目に対して不満を述べている人たちもいるようだったが、あえて私から弁解しなかった。誰が発表したかではなく、今後どうなるかの方が重要だと思ったからだった。
2.ハルコの反撃
私(二代目)は、山本さんに掲示板にアップされている45歳定年制の告示を教えてもらった。すぐに社長室に向かった。
「社長、どういうことですか!」
「ん?何のことだ?」
「掲示板ですよ。45歳定年制と早期退職の募集の件です」
「なんだ、ハルコはもう告示したのか?」
(やはりハルコ姉さんだったのか?)
「オヤジもご存じだったんですか?」
「だから、会社ではオヤジと呼ぶなと言ってあるだろ。まあ、ワシはハルコの案の方が好みだがな」
「...」
「どうせ告示したんだから、取り下げることはないだろ。お前の時もそうだったじゃないか?」
私が前回掲示板にアップしたときも、ハルコ姉さんが怒鳴り込んできたっけ。
「そもそも、人事関係の役員はハルコなんだから、どちらかというとお前が先に領域を荒らしたんだぞ」
私としては、すごすごと引き下がるしかなかった。
私が秘書部に戻った時、山本さんが少し心配そうにこちらを見た。
「二代目、どうでした?」
「まあ、予想していたとはいえ、何も言い返せなかったよ」
「ハルコお嬢様にはお目にかかれたんですか?」
「いや、まだだけど、どうせ会ってもマウント取られて終わりそうだから、いいや」
「今回は弱気ですね」
「オヤジ...いや社長にも、人事領域は本来ハルコ姉さんの持ち分だからって...それに今回の内容は社長もお気に入りでね...」
「ハルコお嬢様は、すでに人事部長と何度も打合せされていたようで、経理部長にも早期退職の退職金の上乗せ分の予算についても決められていると思いますよ」
「なんだ、君は知ってたのか?」
「いえ、ただ、打合せの予定などを見ていると、少し普段より多い気がしていたもので...」
「まあ、先に分かっていたとしてもどうしようもなかったけどね」
「でも、二代目の告示でも、希望退職の募集って入ってましたよね」
「ああ、あれを入れないと、社長が認めなかったんだよ。どちらかというと、部課長廃止で辞めたいという上司をターゲットにしていたけど、ハルコ姉さんの案は、45歳定年をちらつかせて、30代も対象に希望退職を募ってるんだから、私の案とは真逆に近いんだよ」
「ただ、45歳定年って言っても、高年齢者雇用安定法では60歳未満の定年禁止が明確に書かれてますし、45歳を過ぎた社員を強制的に解雇すれば「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)に抵触し裁判で敗訴しますから、掲示板的な表現だと思いますよ」
《参考資料》
https://news.yahoo.co.jp/byline/mizouenorifumi/20210921-00259354
新浪氏「45歳定年」発言はブラフ!? 本当の狙いとは
溝上憲文|人事ジャーナリスト
9/21(火) 10:51
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf
高年齢者雇用安定法 改正の概要
厚生労働省ハローワーク
山本さんによると、ハルコお嬢様が、二代目の私が組織改革の発表をしてから、今回の発表まで時間がかかったのは、そのあたりの法律的な対応を、人事部長や総務部長と打ち合わせしていたからじゃないかという事だった。
高齢になると役に立たなくなるのではなく、年齢に関係なく、日々努力している人に報いる社会という事で、賛成者も多いかもしれないが、ますます貧富の格差が開くだろうし、仕事で成果を上げることと幸せになる事が連動している世の中が本当に正しいのか、私には疑問だった。
======= <<つづく>>=======
登場人物 主人公:クスノキ将司(マサシ) ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで 残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして... 婚約者:杉野さくら クスノキ将司の婚約者兼同僚で、OEM製品事業部に所属。 秘書部:山本ユウコ 二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週2で参加している。 社史編纂室:早坂 妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。 技術部:長瀬 技術部第3課のメンバーで、以前早坂さんが新人教育している 技術部:小鳥遊(タカナシ) 技術部第3課のメンバーで、長瀬の先輩。通称タカさん。
社長兼会長:ヒイラギ冬彦
1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
姉:ヒイラギハルコ
ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
二代目(弟):ヒイラギアキオ
ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。
ヒイラギ電機株式会社:
従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。
スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』
ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。
P子:「ハルコの乱ね」
早坂:「先に謀反を起こしたのは二代目だけどね」
P子:「でも、どちらの案も同じ感じに見えるんだけど...」
早坂:「二代目はベーシックインカム制を併用して失敗しても再チャレンジできる制度を目指してるんだよ。それと、各自の得意領域で勝負できるようにと...」
P子:「資本主義社会じゃ、なかなか難しそうね」
早坂:「資本主義社会の枠組みの中で、なにか出来ることが無いか、模索中なんだよ」