180.【小説】ブラ転23
初回:2021/9/22
ブラ転とは... 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略
1.Java 17
毎週月曜日の夕方から、技術部第3課のミーティングがあった。これは朝一番の部課長会議の結果を伝えるだけの会議だったので、正直退屈だった。本来は、会社の方向性や技術部としての優先順位付けなどの決定事項を共有するのが目的だろうが、プロジェクトの進捗がどうとか、売り上げがどうとか説明されても、じゃあ、どうすりゃいいんだ...という所があいまいだったので、ただ聞いているだけしかなかった。
毎週火曜日の朝は、それらの報告を受けて、各チーム内での打合せだった。要するに、各チームの進捗や対応方針はこの会議で決定し、週末に課長に状況報告、その結果が月曜日朝野部課長会議で報告され、それを月曜日の夕方にフィードバックされる仕組みだった。まあ、他のチームの動きが判るのでいいんだが、判るのは進捗だけで、どうする、どうやったがないので、会議の必要性に疑問を感じていた。
私(長瀬)は3課に所属しており、チームとしてはWebアプリケーション系のインフラを担当していた。インフラといってもネットワーク系ではなく、JavaやTomcatといったWebアプリケーションの基盤技術だった。
「タカさん、Java 17がリリースされましたね」
タカさんというのは、同じチームに所属する先輩、小鳥遊(タカナシ)さんの事だ。
「前回の JDK11のLTSリリースから、もう3年たつのか?」
LTS(Long Term Support)=長期サポートというのは、OracleがJavaのライセンスを変更した際、バイナリ・リリースの定期サイクルを採用(6カ月に1回(毎年3月と9月)のフィーチャー・リリース)したので、新バージョンがリリースされたタイミングで旧バージョンのアップデートが終了するので、ずっとバージョンアップし続ける必要があるのだが、3年ごとにLTS指定されるフィーチャー・リリースのみが長期サポートの対象になるというリリース・モデルのことだった。
《参考資料》
https://www.oracle.com/jp/technical-resources/article/java/ja-topics/jdk-release-model.html
JDKの新しいリリース・モデおよび提供ライセンスについて
2018年10月時点
「前回の、JDK 8 からJDK11にアップする時も結構苦労しましたからね」
以前、私たちは、JDK 8を使っていたが、JDK 9にすべきか、この際、JDK 11 を評価すべきかで議論になったことがあった。
「あの時は、タカさんが『今更、JDK 9にアップしてすぐにサポート切れなんて、JDK 11 対応なんて嫌です』ってきっぱり断ったから...未だに JDK 8のままになったんでしょ」
「俺のせいか?」
私は笑顔で(決まってるじゃないですか?)といった。タカさんも、苦笑いするしかなかったようだ。
「で、どうします?このまま、ずっと、JDK 8 を使い続けるつもりですか?」
「11 もすっ飛ばして、17 に移行する...とか?」
私は、タカさんなら、そういうだろうと思っていた。
「Tomcatの方は、どうするんですか?」
Tomcatの方というのは、現在、Tomcat9 を使用していた。Tomcatについては、Java EE platformで使用していた、javax関連のパッケージが使えなくなったため、Tomcat10では、javaxがjakartaに置き換えられた。3課で提供するプラットフォームは、JSPやServletなので、これらのパッケージを使用していたので、Tomcat10 対応する場合には、これらを利用しているソースコードの修正が必要だった。作業自体は大したことは無かったが、各種ドキュメントの修正が必要だったので、正直邪魔くさい作業だった。
「どちらにしても、評価環境を作る必要がありそうだね」
これに関しては、タカさんと意見が一致した。
2.Amazon Corretto
Oracle Java SE 8u202 が、商用利用向けの最後の無償バージョンになって、その時に採用したのが、OpenJDKだったが、AWS上での利用促進という事で、Amazon Correttoに乗り換えた経緯がある。
Amazon Correttoについては、よくある質問の中で、Corretto と OpenJDK の違いが解説されている。
《参考資料》
https://aws.amazon.com/jp/corretto/faqs/
Amazon Corretto のよくある質問
「とりあえず、ダウンロードしてみましょうか?」
私は、Amazon Correttoのトップページ(https://aws.amazon.com/jp/corretto/)を開いた。
「あれ、まだ、17でてないみたいですね」(※1)
「単なる日本語ページ上の問題だよ。言語の所を、English に変更してみれば」
確かに、英語のページには、『Download Amazon Corretto 17』へのリンクボタンが表示されていた。
「ついでに、Tomcat10 もダウンロードしておきましょうか?」
こちらも、Tomcatのホームぺージ(http://tomcat.apache.org/)から、左のDownloadリンクのTomcat 10 をクリックすることで、最新のファイルをダウンロードすることができた。
「環境構築して、とりあえずコンパイルでもしてみるか?」
javax.servlet が存在しないなどのエラーは想定内だったが、javadoc関係や、Security Manager 関連の警告など、数えきれないくらい出てきた。
「完全にやる気を無くしますね...」
「そっか、俺はがぜん、やる気が出てきたぞ」
======= <<つづく>>=======
※1 17でてないみたい
物語上、2021/9/17 時点の話です。
登場人物 主人公:クスノキ将司(マサシ) ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで 残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして... 婚約者:杉野さくら クスノキ将司の婚約者兼同僚で、OEM製品事業部に所属。 秘書部:山本ユウコ 二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週2で参加している。 社史編纂室:早坂 妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。 技術部:長瀬 技術部第3課のメンバーで、以前早坂さんが新人教育している 技術部:小鳥遊(タカナシ) 技術部第3課のメンバーで、長瀬の先輩。通称タカさん。
社長兼会長:ヒイラギ冬彦
1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
姉:ヒイラギハルコ
ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
二代目(弟):ヒイラギアキオ
ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。
ヒイラギ電機株式会社:
従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。
スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』
ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。
P子:「また、登場人物の説明が増えてない?」
早坂:「書いとかないと、自分が忘れるんだって」
P子:「最後には、登場人物だけで、ページの半分を占めるかもね」
早坂:「この、スピンオフを含めると、逆転したりして」
P子:「もう、ネタ切れなんでしょ」
早坂:「何言ってるの。これから色々と盛り上がるわ...よね!?」