143.【小説】ブラ転2
初回:2021/4/21
ブラ転とは... 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略
1.朝の出来事 マサシの場合
私の名前は、クスノキ将司(マサシ)。ヒイラギ電機株式会社の技術部で働くエンジニアだ。本当は有休を取る予定だったが、課長に呼び出されて、11時には出社することになっている。その前に宝石店に寄る必要がある。恋人の杉野さくらの誕生日が明日だったので、サプライズ用の婚約指輪を受け取りに行くのだった。
ほんとは夕方までずっと寝ていたかった。もう、まる2日寝ていなかったからだ。こんな状態で出社しても役に立つのだろうか?
電車で3駅、寝過ごしそうだったので寝る間もないから逆に良かった。宝石店で指輪を受け取って外に出ようとしたその時だ。店員の呼び止める声が聞こえた。振り返った瞬間、急激な胸部の激痛と、呼吸困難に襲われた。冷汗が止まらず、その場にうずくまってしまった。
「お客様、大丈夫ですか」
先ほど、指輪を渡してくれた女店員が心配そうにのぞき込んだ。救急車呼んだ方がいいんじゃないか?という声も聞こえた。
やがて、意識を失ってしまった。
2.朝の出来事 アキオの場合
ヒイラギアキオは、朝の経営会議が楽しみだった。今月の売り上げ目標が20%も達成できていなかった。工場の稼働率が落ちてきている事も把握していた。また、オヤジが怒声を浴びせるのだろう。それにビビッて恐縮している役員の顔を見るのが好きだった。
突然、胸に激しい痛みが走った。意識が遠ざかる中、人々が周りを取り囲んでいる気配を感じた。「救急車、救急車」という声が聞こえた。会議室じゃないような感じだ。
「救急車を呼びましたから、頑張ってください」
見知らぬ女性が声をかけた。息が出来ない、胸が痛い。動けなかった。
「大丈夫ですか?意識はありますか?名前は言えますか?」
白い服にヘルメット。救急隊員のようだ。
「ヒイラギアキオです。ヒイラギ電機の...」
意識が遠ざかって行った。
3.朝の出来事 さくらの場合
マサシさんは11時出社と書かれている。昨日も徹夜だったようだし、大丈夫かしら。
電話が鳴った。
「はい、ヒイラギ電機開発3課です」
『すみません。中央病院ですが、ヒイラギアキオ様は、御社の社員さんでしょうか?』
「はい、ヒイラギアキオは弊社の専務です」
『ヒイラギアキオ様とおっしゃる方が、心筋梗塞でお亡くなりになられたんですが...』
「え?少々お待ちください」
『あの、まだ話の続きが...名刺のお名前が、ご本人様がおっしゃられていたお名前と異なっているもので、出来ればどなかた身元確認に来ていただければと思いまして』
「課長、今病院の方から、アキオ専務が心筋梗塞で亡くなられたそうで」
「何?本当か、すぐに社長にお知らせせねば...」
「あの、とりあえず電話を替わっていただけますか?」
「杉野君が話を聞いておいてくれ。私は社長にお知らせに行ってくる」
『もしもし、聞いてます?身元のご確認を...』
「そうでした。でも先ほど、ヒイラギアキオ様とお名前をご存じでしたよね?身分証をお持ちでした?」
『いえ、ご本人が救急隊員にそう答えただけで...ただ、持ち物の名刺入れには別の方のお名前が...そして、このお電話番号も...』
「え?名刺入れ...そこにここの直通電話の番号が?」
さくらは、急に胸騒ぎを覚えた。普通、会社の代表番号にかかってきた電話を総務が受けて、各部署に転送する。名刺入れにここの直通電話の番号が書かれているという事は、この部署の社員という事で、現時点で出社していないのは、マサシ君(クスノキ将司)だけだった。
======= <<つづく>>=======
登場人物 主人公:クスノキ将司(マサシ) ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして... 母(マサコ):クスノキ将司の母親 母一人子一人でマサシを育てあげたシングルマザー 婚約者:杉野さくら クスノキ将司の婚約者兼同僚。
社長兼会長:ヒイラギ冬彦 1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック 兄:ヒイラギナツヒコ
社長の長男。中学時代に引きこもりになり、それ以降表舞台に出てこない。
姉:ヒイラギハルコ
ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
二代目(弟):ヒイラギアキオ
ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
性格も社長に似ており、考えもブラックそのもの。 ただし、この小説では残念ながら出てこない。
ヒイラギ電機株式会社:
従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。
スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』
ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。
P子:「盛り上がってきたわね」
早坂:「自画自賛ですか?それともサクラですか?」
P子:「いや、私たちで盛り上げないと...」
早坂:「あまり盛り上がると、CIA京都支店は永久にお蔵入りになるよ」
P子:「まあ、私はいつでも出番があるから、まっいいか」
早坂:「思いっきり自分勝手ですね」