ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

レインメーカー (2) DXとCRM

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◆アリマツ通信 2021.4.2
 DXって何?
 DXと言われても「なんじゃそりゃ」と思う方も多いかもしれませんね。実は、私(土井)もその一人でした。
 DXはデジタルトランスフォーメーションのことで、簡単に言ってしまえば、業務のデジタル化です。
 「いや連絡はメールやチャットでやってるし、センター業務だってExcel とかAccess とかで動かしてるよね。デジタルしてるじゃん」と言う声が聞こえてきそうですが、実はDX推進には「脱 Excel」が重要項目として挙げられているぐらいなんです。
 詳しくはこちらのサイトを参照して下さい。
 撮影・文 総務課 土井

  アリマツ・テレビジネス株式会社では、事業部、部、課に続く組織の最小単位は、係ではなくユニットとなる。コールセンター運営が主業務であるアリマツでは、最も多いのは、<業務名>ユニット、またはユニット<業務名>というパターンだ。
 「たとえば」根津はスクリーンに表示された組織図をポインターでなぞりながら言った。「名古屋にあるクスノキ養蜂のCC の正式な部署名は、東海営業本部名古屋CC 管理部名古屋CC 課ユニットクスノキとなるわけだな」
 名刺のレイアウトが大変そうだ、と感じたものの、もちろん田代は口には出さなかった。幸い、田代たちの所属名はそこまで長くない。DX 推進室はどの事業本部にも属さないので、DX 推進室DX 推進ユニットとなる。
 初日は新卒採用の若者たちと一緒に、午前中がオリエンテーション、午後は多くの書類の記入と捺印、社員証用顔写真の撮影、出退勤システム他、各種申請システムの説明、主要部門の見学などに費やされた。2 日目の今日は、新卒採用者たちは社会人教育から始まる研修だが、中途採用の田代と朝比奈イズミは、DX 推進室の業務方針についての説明だった。
 田代もイズミも、今日はフェイスシールドを着けていた。これは会社の方針によるものだ。コールセンターのOP(オペレータ)は、業務中、マスクを着けることができない。通話相手への音声がこもってしまうからだ。とはいえ感染対策は必須なので、シフトに応じて複数枚のフェイスシールドを会社から支給されている。オペレータを監督するSV(スーパーバイザー) や管理者となる社員も、それに準ずる、ということで、外出時以外はフェイスシールドだ。田代とイズミも、昨日の退社時に、それぞれ5 枚のフェイスシールドを渡されていた。
 9 時に会議室に集まったのは、ほとんど昨日のオリエンテーションと同じ顔ぶれだった。桑畑副社長、名古屋CC の根津副部長、横浜CC の椋本副部長。これは偶然ではなく、桑畑副社長はDX 推進室のマネージャ兼務、二人の副部長はサブマネージャを兼務しているためである。総務課の土井という女性社員も最初だけ顔を見せていたが、何枚か写真を撮ると、すぐに新人研修の方へ行ってしまった。
 ようやく本来の仕事、つまりシステム開発の話に入れる、と思ったが、始まったのはアリマツの組織と業務の説明だった。昨日に引き続き、説明を担当したのは根津だった。名古屋CC での採用面談のとき、田代に対して一番熱心に質問をしていたことが印象に残っているが、DX 推進室で自分の部下になる人間の選定だったからだと、今ではわかる。
 アリマツはコールセンター業界では老舗の方だが、業績は下から数えた方が早い。1980 年代に名古屋市で有松コンタクトサービス株式会社として創立され、1996 年に大阪CC、2002 年に沖縄CC を開設した後、2003 年に横浜市に本社機能を移転し、社名を現在のアリマツ・テレビジネス株式会社に変更した。そのあたりまでは業績も好調だったが、ゼロ年代後半から首都圏の厳しい競争から脱落し始めた。日本流通産業新聞が毎年発表しているコールセンターランキングでは、50 位前後で浮き沈みを続けている。
 SV 出身だという根津の話術は巧みで、人の注意を惹きつけて離さないよう、ボリュームやリズムを変え、ときにジョークを交えたりもした。長時間にわたって話し続けても、疲れる様子もない。別の状況であれば、田代も熱心に聞き入ったかもしれないが、話されているのは田代が事前に調べて知っている情報がほとんどだった。昨日のオリエンテーションで聞いた話とも、一部が重複している。
 途中で田代は何度か質問を挟んだが、傾聴している態度を印象づけるためのポーズでしかなかった。メモ帳に時折ペンを走らせていたが、根津の口から出たワードのいくつかを、脈絡もなく書き留めているだけだ。
 隣の席では、イズミが熱心に根津の話を聞き、議事録でも取っているのかと誤解するほど、ほとんど手を休めることなくノートを埋めていた。田代は半ば感心し、半ば失望した。真面目なのはいいが、もう少し要領よくやってもらえないものだろうか。採用時の説明では、田代が開発チームのリーダーとして全体を管理し、イズミはサブリーダーとして、プログラミングメンバーをまとめるということだった。てっきり開発の経験が豊富な人材かと思っていたが、昨日の話では、経験はゼロより少しマシ、といった程度らしい。応募人数はそれなりにいたはずだが、なぜイズミが採用されたのか、田代には大いなる謎だった。結局、田代が実装レベルまで面倒を見ることになるかもしれない。
 根津がアリマツの歴史と組織の説明を終えたとき、時刻は11 時40 分を回っていた。朝が早かった田代の胃袋は、しばらく前から空腹を主張し始めている。根津が言葉を切って時計を見たので「続きは午後から」と言ってくれないかと期待したが、その願いは届かなかった。
 「さて」ここからが本題、と言わんばかりに、根津は手をバシンと打ち合わせた。「そんな危機的状況を打開すべく、社長が仰ったのが、DX を推進しろ、という一言だったわけだ。つまりそれが、二人が今ここに座っている理由になるわけで......」
 根津の言葉は、椋本の大きすぎる咳払いで中断された。
 「そろそろ休憩に入ってはどうかと思うんだがね」椋本はうんざりした様子を隠そうともしなかった。「君はまだ何時間でも喋り続けてられるんだろうが、聞いている方は疲れる」
 「キリのいいところまでやっておきたいんだよ」
 「午後でいいんじゃないか」椋本は桑畑の方を見た。「どうでしょう?」
 腕を組んで頭を垂れていた桑畑は、驚いたように顔を上げると、何度かまばたきした。どうやら居眠りしていたらしい、と田代は気付いた。採用面談のときに、根津がこっそり耳打ちした話が記憶に蘇る。DX 推進室のマネージャは、正直に言えばお飾りだね。冗談かと思っていたが、どうやら事実だったようだ。勘弁してくれ、と田代は内心呻いた。DX 推進室は、会社の危機的状況を打開する切り札である新部門だったはずだ。そのトップに名前だけの人間を据えるとは、やる気があるのか。二人のサブマネージャにしても、良好な関係にはとても見えない。
 椋本が改めて訊くと、桑畑は時計を見て同意した。
 「ああ、まあ、時間も時間だし、午後からでいいんじゃないか」
 お飾りといえども、その言葉には逆らえず、根津は渋々頷いた。
 「わかりました。では、少し早いが昼休憩ということで。13 時に再開します」
 上司たちが出ていくのを待って立ち上がった田代は、救われた思いで大きく伸びをした。もたもたとノートをバッグにしまっているイズミに声をかける。
 「朝比奈さん、お昼行く?」
 昨日の昼食は、新入社員全員と各事業部長との会食だった。毎年の恒例行事だそうだ。手配した総務課社員の話では、コロナ禍前は近くのバルにテーブルを予約し、全員が大声で雑談をしながらのランチタイムだったとのことだが、今年は会議室でデリバリーの弁当を黙食するだけに終わっていた。
 「あ......えーと」イズミは恐縮したように答えた。「総務の方たちと約束があって。その、近くの安いお弁当屋さんを教えてくれるって」
 なるほど。女性社員同士の仲間意識というやつか。田代は頷いた。
 「そうなんだ。じゃあ、また午後に」
 「はい」
 イズミは一礼してドアに向かったが、不意に足を止めると、田代に向き直った。
 「あの」躊躇いがちな声だった。「余計なことかもしれませんけど......」
 「?」
 「さっき何度か質問してましたよね」
 「ああ、それがどうかした?」
 「ああいうのは控えめにした方がいいんじゃないかと思います」
 虚を突かれた田代は、しばらく言葉を失ってイズミの目をまじまじと見つめた。
 「最初は根津さんも喜んでいたんですが」イズミは理由を説明した。「後の方だと、なんていうか、質問のための質問をしてるのがわかったみたいで、ちょっと不機嫌そうだったので」
 田代は驚愕した。根津が田代の質問の真意に気付いていた、ということよりも、イズミがそれに気付いていたことに。さらに自分が気付かなかったことに。
 「もしかして」田代はかすれ声で訊いた。「朝比奈さんが何も質問しなかったのは......」
 「まあそうです」イズミは認めた。「これ以上、根津さんを怒らせることは避けた方がいいんじゃないかと思ったので」
 部下となるこの女性を、田代は再評価せざるを得なかった。ぼーっとしているようで、見るべきところはしっかり見ている。
 「そうか。すまない。午後は気を付ける」田代は素直に頭を下げた。「ありがとう」
 「いえ」イズミは少し笑った。「気持ちはわかります。副部長の話は、確かに長かったですもんね。じゃ、すみません、お先に」
 イズミが会議室を出た後、田代はもう一度座り込むと、メモ帳からページを破り取り、丸めてカバンに放り込んだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 誰にとっても幸いなことに、午後は説明のペースが上がった。根津はここ数年の売り上げの話から始めたが、30 分もしないうちに結論を述べたのだ。もしかすると昼休みの間に、桑畑か椋本が根津に何か言ったのかもしれない、と田代は思ったが、3 人の上司の態度には変化がなかった。
 「......つまり、アリマツの売り上げが年々落ちている原因は、もう一つに集約できると言ってもいい。CC のデジタル化の遅れだ」
 CC、つまりコールセンターの規模と稼働期間は、業務によって千差万別だが、乱暴な言い方をすれば業務内容は二種類に大別することができる。インバウンドとアウトバウンドである。インバウンドはセンターにかかってきた電話の対応、アウトバウンドは逆にセンターから電話を発信する業務だ。どちらの場合も、通話内容の記録が必要となる。
 「あの」イズミが手を挙げた。「無知ですみません。通話内容の記録というのは、具体的にどんな......」
 「そこからか」根津は呆れたようにイズミを見た。「えーとだな。うちの業務には全てクライアントがいる。それはわかるな? たとえばA という通信販売の会社がコールセンターの運営を依頼してきたとするな。業務内容は商品の注文受付や問い合わせ対応だ」
 「はい」
 「当然、受電した注文内容や、問い合わせ内容をA 社に連携しなければならないわけだ。CC にもよるが、たいていは業務終了後に、その日の分の受電内容をまとめて報告することが多い。Excel とかCSV とか、クライアントの指定する形式でな。Excel なら、受電した日時、相手の名前や連絡先、注文内容や問い合わせ内容をシートにまとめるわけだ」
 「はい」
 「じゃあ報告の元になるデータは何だと思う?」
 「録音ですか?」
 「音声データは音声データで取るが、容量も大きいからそのままクライアントに渡すことは通常ないし、文字での検索もできないからな。第一、後から録音を聞きながら、シートに起こしていくなんて時間がかかるだろう。通話しながらオペレータがPC に入力しているんだ。専用のシステムにな。うちではCRM システムと呼んでいる。本来のCRM とは少し意味が異なるんだが、まあ習慣というか」
 「よくわかりました」イズミが納得したように頷いた。「話の途中ですみませんでした」
 「いいんだよ」椋本がにこやかに言った。「わからないことは素直に質問してくれた方がいいからね。田代くんの方は? 疑問点はないかな」
 「そうですね......」田代は無理にでも質問しようかと考えたが、先ほどのイズミの忠告を思い出し、首を横に振った。「いえ、今のところは」
 「たびたびすみません」イズミがまた手を挙げた。「さきほどデジタル化の遅れ、と仰ってましたが、CRM システムを使っているということとは別の話なんでしょうか」
 「今、それを話そうとしていたんだ」根津が少し驚いたように言った。「問題はCRM システムが統一されていないということなんだ」
 「補足するとね」椋本が言った。「一応、<コールくん>という共通のCRM システムがあるにはあるんだよ。ただ、使い勝手が今ひとつ、いや、今三つぐらいのものでね。小規模センターでは、あまり使われない」
 「全く使われていないわけではない」根津が苛立たしげに話を取り戻した。「ユニット長とSV が慣れているCC では<コールくん>を選択することも多い。<コールくん>については、来週、詳しい説明の時間を取ってある。今日のところは、そんなシステムもある、ということだけ頭に入れておいてくれればいいから。ここで重要なのは、そのCRM の保守を外部のシステム会社に頼っているということだ」
 「去年、社長が言ったんだ」桑畑が言った。「これからはDX だ。まずはシステムの内製化から始めろ。手始めに<コールくん>のバカ高い保守料の削減からだ。その鶴の一声で、DX 推進室の設立が決まったわけだ」
 それで去年の12 月に、いきなり募集が始まったのか。田代は納得した。転職サイトのエージェントも「急に飛び込んできた案件なんですが」と驚いていた。明らかにスキルと経験の足りないイズミが採用となったのも、じっくり時間をかけて適任者を選定している時間的余裕がなかったからかもしれない。
 「君たちの最初の仕事は」桑畑は続けた。「<コールくん>の保守を内部で行えるようにすることだ」
 「遅くなったが」根津が持参したクリアファイルから、数枚のプリントアウトを抜き出し、田代とイズミに配った。「これがDX 推進室の体制表だ」

体制表.png

 田代は受け取った体制表に目を走らせ、手を挙げかけたが、イズミの方が早かった。
 「プログラマ7 名のうち」イズミは体制表を見ながら言った。「5 名分が空白になっているのはなぜでしょうか」
 「そこは今年の新卒採用の中から選抜する予定だ。当初は派遣で埋めるという計画だったが、それでは内製ということにならないと反対の声が上がったんでな」
 「そのために」桑畑が付け加えた。「今年は新卒採用の枠を大幅に増やした。ここ何年かは1 名か2 名だったんだ」
 「新人は2 ヵ月ほど、実際の業務を知るために、CC も含めて、各部署をローテーションで勤務してもらうことになっている。だからDX 推進ユニットに配属する奴が決まるのは6 月になる。2 名の契約社員の契約開始日も6.1 に合わせてあるんだ。DX 推進室の方針説明が一度ですむからな」
 「その2 名はベテランなんでしょうね」
 「もちろんだ」
 逆に言えば、契約社員の2 名以外は素人ということだ。田代は内心で嘆息すると、別のボックスに指を置いた。
 「このアドバイザというのは」田代は訊いた。「どういう役割なんでしょうか」
 「アドバイザは」椋本が答えた。「CC の実業務からの視点をシステムに反映する役割だ。常勤ではないがね。その2 名は、それぞれ横浜CC と名古屋CC のSV だよ」
 そのときドアが開き、コンパクトデジカメを手にした総務課の土井が入ってきた。それを見て椋本が言った。
 「ああ、土井さんも広報兼記録係として、ミーティングなどには参加する。社内にDX 推進室の活動内容を広報してもらう。あと、これも社長の意向なんだが、活動記録をきちんと残しておきたい、ということでね」
 土井は一礼して端の席に座ったが、イズミに小さく手を振った。イズミも同じ動作を返したところを見ると、ランチを一緒にした総務課の女性たちの中に土井もいたらしい。
 「全てのメンバーが揃うのが6 月ということですが」田代は首を傾げた。「それまで私は、いえ、私たちは何をしていればいいんでしょうか」
 「やることはいっぱいあるよ」椋本が楽しそうに答えた。「現行システムの仕様の把握だろ、CC 業務の詳細も知らなきゃいかんだろ、開発メンバーが使うPC やサーバの選定、新人にどういう教育や研修を受けさせたらいいのかも教えてもらわにゃならん。何しろ時間がないからね」
 田代とイズミは思わず顔を見合わせた。
 「......あの」急にこみ上げてきた不安を押し戻すように、田代はつい尖った声を出した。「時間がないというのは......」
 椋本が根津を見た。
 「おお、そうか」根津は自分の頭を叩いた。「失礼失礼。言ったと思ってた。上期中に保守体制を整え、ベンダーからの切り替えを完了してもらう。9 月末の週に、各事業部の成果報告会が行われる。その時点で、<コールくん>の保守が、完全に社内に切り替わっているようにしてほしい」
 「してほしいっていうのは」椋本が他人事のような声で言った。「しろ、っていう命令だからね、もちろん」
 「さらに年度末までに、社内で新しいCRM システムを開発してもらいたい」
 「新しいCRM システム......」田代は言った。「その<コールくん>とは別に、ということでしょうか」
 「そういうことだ。さっき椋本が言ったように、小規模なCC では<コールくん>を使わず、Excel やAccess で入電履歴を管理しているところもある。そういうCC で使えるものが欲しい」
 「すいません」イズミが手を挙げた。「どうして小規模なCC だと<コールくん>を使っていないんでしょうか」
 「大きくはコストの問題だ」根津が答えた。「他にもあるが、詳しくは<コールくん>の説明のときにわかると思う。どうだ、できるんだろう。まずは上期に<コールくん>の保守体制だ」
 「経験者ばかりならともかく」唸りたくなるのをこらえて、田代は努めて冷静な声で反論した。「ほとんどがプログラミング未経験です。三ヶ月で既存のシステムを調査、理解し、メンテナンスできる体制を確立するというのは現実的ではないですね。部分的にでも外注を使うのはアリですか?」
 桑畑、根津、椋本が小声で相談し、桑畑が仕方なさそうに言った。
 「それしか方法がないのであれば構わないがね。ただし、現在、<コールくん>の保守を頼んでいるベンダーは使わないように」
 当然の要求だ、と田代は頷いた。
 「もう一つ、システムの重要部分は外に出さないように」
 「重要部分というと......」
 「CC 業務に必要な部分だよ」当然だろう、と言わんばかりの口調だった。「要するに、外注を使うにしても、そこに保守を頼まないと運用できないようなモノを作ってはいかん、ということだ」
 「業務のノウハウを外部に流出させない、という点でも重要なことだ」根津が付け加えた。
 業務システムの重要部分こそ、経験の浅い新人プログラマではなく、経験値の高いベテランに頼みたい。開発期間に余裕がないのであればなおさらだ。経験豊富なプロにロジックを組んでもらい、こちらの新人にそのプログラミング手法やプロセスを盗ませる。そんな楽観的な見通しは崩れ去った。
 「もしできなかったら?」
 不安そうに訊いたのはイズミだった。椋本が根津を見て、根津が桑畑に視線を送った。桑畑は咳払いして答えた。
 「できませんでした、という言葉は聞きたくない。もし、その言葉を私に言うつもりなら、同時に退職願、いや退職届を持参することだ。それぐらい、社長はDX 推進室に期待しているんだから」
 「ですが、システム開発というものは......」
 言いかけた田代に、桑畑は「言い訳も聞きたくないな」と遮った。
 「田代くん、君は入社式のとき何と言ったんだった? プロに任せろ、と言ったな。ご期待下さい、とも言った。口にした言葉を呑み込むわけにはいかんぞ。プロなら自分の言葉に責任を持ってもらおうじゃないか」
 「そういうことだ」根津が言い、スクリーンの表示を切り替えた。「では、具体的なスケジュールについて説明する」

(続)

この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。

Comment(14)

コメント

侘助

うへえ・・
開発体制とかノルマを上から押し付けられると、ゴミみたいなシステムが出来上がるんだよなあ。
後からの改修が大変で、余計にコストがかさむ。

クラウドCRMにちょこっとカスタマイズを入れて構築するくらいならなんとか間に合うレベルか?

yupika

アドバイザーという非IT枠が仕様確定後にとんでもない要求をしてくる未来が…。

猫ちゃん

初っ端からヤベェ臭いしかしなくて草

匿名

田代氏の壊れる展開が予見されてしまうフラグだらけですが果たして…

匿名

プロジェクト完了時に新卒プログラマー何人残ることやら。

匿名

プロジェクト完了時に新卒プログラマー何人残ることやら。

ななし~

いやぁ...開発当事者を交えずにスケジュールを確定的に決めてしまうのって、割と普通なんですかね?
あ、現職では割と普通ですw 幸い、出来ない時は出来ないとは言えますが...

匿名D

いやあ、時間リソースが無いなら
技術リソースを積むしか無いのにそれすら無い。
そんなのどんなプロだって無理ですよ。
なんかこう、見境なしに時間ばかり食う課題を放り込んでくるだけで、
総量管理を全くしていない、学校の夏休みの宿題みたいですね。

匿名

フェイスシールド、やってる感のメタファーとして有効に機能してますね

匿名

2回目も胃が痛い展開。

匿名

朝比奈さんが8月頃に連呼してそうな台詞は「トランキーロ」でしょうか。

匿名

イズミちゃん女子だったのか

じぇいく

清々しく炎上確定なスタートラインですなー。
イズミちゃん逃げてー!!

匿名

”原告側弁護人”なのかな。

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