ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

高村ミスズの事件簿 コールセンター篇(3)

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 ユカリが差し込んだUSB デバイスは、USB ポートに挿入すると、2 ミリメートルほどの厚みのプラスティック片が付いているようにしか見えなかった。元々が備品室だったせいか、モニタルームの照明は、人間が快適に仕事を続けるには少し光量が足りない。そのせいか、元々目立たない色のUSB デバイスは、ぱっと見にはわからない。

 『スタートメニューから』イヤピースから指示が聞こえた。『エクスプローラー起動。わかるな』

 その手順は事前に練習していた。ユカリはエクスプローラーを起動すると、USB デバイスがマウントされているドライブを見つけ、その中の唯一のファイル、run.exe を実行した。コマンドプロンプトが立ち上がり、一気に100 行ぐらいの文字列が表示される。1 秒後、コマンドプロンプトは勝手に閉じた。表面上は何も変わらない。

 「これ、動いてるの?」ユカリは訊いた。

 『動いてる』彼女のボスは答えた。『アクセスランプも何もないからわかりづらいが、やるべきことはやってる。問題があるとすれば……』

 「あるの?」

 『そのPC にデバイス監視ソフトが入ってる場合だな。それが作動するなら、すぐに誰か飛んで来るか、電話がかかってくるだろう。いつでも外せるようにしていてくれ』

 「はーい」ユカリは一度離した指を、再びUSB デバイスの上に置いた。「どれぐらい?」

 『3 分……いや、5 分ぐらいか』

 ユカリは頭の中で、いざというときの証拠隠滅手順を復習した。誰かが来たら、USB デバイスを素早く外す。時間があれば下着の中に、その余裕がなければ口の中に放り込む。そしてにっこりと罪のない笑みを相手に向け、堂々とモニタルームを出て行く。廊下に出たら、全てをかなぐり捨ててダッシュする。幸いここは3 階だ。非常階段を駆け下りれば、すぐに屋外に出られる。

 前日の夜、キシリトールガムを使って、ユカリは何度か実地訓練を繰り返した。2 度ほどガムをそのまま飲み込んでしまった後は、M&M に替えて練習を続けた。元々、手先は器用な方だ。最終的には、50 センチ離れた場所から、2 本の指でつまんだM&M を口の中に放り込むことができるようになっていた。その努力を思えば、いっそ、今すぐにでも誰か――たとえば血相を変えた警備員とか――が、ドアから飛び込んで来て欲しいぐらいだ。だが5 分が経過しても、幸か不幸か、ドアが開くことはなく、電話も鳴らなかった。まあ、いつかこの小技を舞台の上で活用できる日も来るだろう。

 『よし』イヤピースからホッとしたような声が聞こえた。『たぶん大丈夫だろう。30 分かそこらはかかるだろうから、モニタの監視を続けていてくれ』

 「はーい」ユカリは管理ツールのウィンドウを切り替えた。「こんな部屋に2 時間もいたら、身体壊しそう。ストレッチとかしてもいい?」

 『構わんが、あまり離れると信号が受信できなくなる。できれば2 メートル以内でやってくれ』

 「冗談よ、冗談。あ、また赤くなってる」

 ユカリはため息とともにGC ボタンを押して、リソースを解放してやった。

 何事もなく、20 分ほど時間が経過した。何度か電話が鳴ったが、いずれもセンターからの勝呂への問い合わせだった。ユカリは内容をメモし、折り返しの連絡を約束して電話を切った。

 「そろそろトイレに行かないとやばいかも」ユカリは言った。「あと、どれぐらい?」

 『10 分かそこらでいいと思う。スキャンが終わったら、スマホがバイブするから……』

 また電話が鳴った。木原SV だった。

 『前園さん、いい知らせですよ』木原SV の声は明るかった。『今、交替の技術者がそっちに行きました』

 「え」ユカリは固まった。「でも、まだ……」

 『たまたま近くに人がいたらしく、本来の交代要員の到着まで、その人がやってくれるそうですよ。寒いところに放置してしまってすみませんでした』

 木原SV の言葉が終わらないうちに、ドアの方から物音が聞こえてきた。外側のドアが開閉したらしい。続いて、内側ドアのセキュリティロックを解除する電子音が鳴り始めた。

 『くそ』イヤピースが罵った。『まずいな』

 「わかりました」ユカリは努めて冷静に答えた。「では、戻ります」

 ドアが開いた。

 『もう少しのはずなんだが』イヤピースが囁いた。『仕方ない。USB を回収して撤退しろ』

 ユカリは、すでにUSB デバイスに手を伸ばしていたが、それに触れる寸前で思いとどまった。

 「時間稼ぐ」

 ネックチョーカーの骨伝導マイクが拾えるぐらいの小声で囁きながら、ユカリは繊手を片耳に伸ばした。素早くイヤリングを外し、足元に転がす。同時にドアが開いた。

 「すいません、お待たせしました」入ってきたのは、30 代ぐらいの男性だった。「交替します」

 「あー、助かりました」ユカリは嬉しそうな声と魅力的な笑顔を作って、男性エンジニアを迎えた。「もう寒くて。ここ、寒いですよね」

 「そうですね」男性はたちまち相好を崩し、愛想良く言った。「すいませんね。こんな寒い部屋に1 人で」

 「これもお仕事ですから」

 『ユカリ』イヤピースから焦ったような声が聞こえた。『何してる』

 「あ、これ」ユカリは男性にメモの束を渡した。「電話が何件かありました。勝呂さんがいると思ってかけてきたみたいです」

 「ありがとうございます。対応しておきます」

 スマートフォンはまだ沈黙したままだ。ユカリはゆっくりと立ち上がり、男性とデスクトップPC を結ぶ線の間に身体を置いた。

 「勝呂さんの具合はいかがなんですか?」

 「え、ああ、ぼくは知らないんですよ。電話で連絡もらっただけですから」

 「そうですか。急に倒れられたから、びっくりしちゃいました。どこか、身体が悪いんでしょうか」

 「ここの勤務をやってればねえ」男性は諦めたような笑いを洩らした。「そりゃあ、身体も壊しますよ」

 「どうして24 時間、ずっとここにいないといけないんですか?」

 「うーん、そうですねえ」男性はユカリとの会話を喜んでいるような顔で答えた。「まあいろいろあるんですよね。技術的に」

 『何でJava Web Start を使わないんだ?』突然、イヤピースがアドバイスしてきた。

 「そういえば。どうしてジャバウェブスタート使わないんですか?」

 「え」男性は驚きの表情でユカリを見直した。「よくご存じですね。いや、それはちょっと私には。私が関わったときには、もうこうなってたんで」

 「普通にエッチティーエムエルでもできると思いますけどね」

 「はあ、そうですよね」

 「これ、コードサイニング証明書、使ってますよね。どこのを使ってるんですか?」

 「あ、えーと、いや、そこまでは」

 「ジェイエムエックスの監視ですよね」ユカリは内心冷や汗をかきながら、表面上は自信たっぷりに続けた。「エッチティーエムエルアダプタなんですか?あたしもやったことありますけど、あれはエムビーンインターフェースの使い方にコツがあるんですよね」

 「そ、そうなんですか」男性は少し怯えたような顔で応じた。「すいません、私はそこまで詳しくわからないんです」

 そのとき、ユカリの服の中でスマートフォンが短く2 度振動した。ユカリは安堵のため息をつきそうになりながら、相手に安心させるような笑顔を見せた。

 「あ、ごめんなさい。お忙しいのに。個人的な興味があって、つい」ユカリはてへ、と舌を出した。「じゃ戻ることにします」

 男性は名残惜しそうな顔で頷いた。

 「おつかれさまでした」

 ユカリはドアの方に振り向きかけ、耳に手を当てて振り向いた。

 「あれ」慌てたような声を出す。「イヤリングが」

 「え?」

 「イヤリングがないんです。その辺に落ちてませんか?」

 ユカリは床の方に顔を向け、そちらに男性の視線を誘導しつつ、デスクトップPC の方へ近づいた。男性の視界からデスクトップPC が外れたと見極めたとき、素早くUSB デバイスを引き抜き、手首のスナップを利かせて口の中に放り込んだ。

 「あ、これじゃないですか?」男性が顔を輝かせて、床からイヤリングを拾い上げた。

 「それです!」ユカリは男性の手を包み込むように握ると、イヤリングを受け取った。「ありがとうございます。これ、なんか、油断してると、すぐ外れちゃんですよね」

 「い、いえ」男性は赤面した。「どういたしまして」

 「じゃ、お仕事がんばってくださいね」ユカリは手を振って、男性に背を向けた。

 背後でドアが閉まると、ユカリは周囲をちょっと見回してから、掌にペッとUSB デバイスを吐き出した。

 『よくやってくれた』イヤピースから賞賛の声が届いた。『素晴らしい演技だった』

 「次はイチゴ味にしといてね」ユカリはハンカチでUSB デバイスを包んでポケットに押し込んだ。「オペレータルームに戻るの?」

 『先にトイレに行け』

 「そうだった。ありがとう、ボス」

 『いや、そうじゃない。トイレでスマホからデータを送信してほしいんだ。それから、そのUSB はトイレに流してしまえ』

 「あ、そういうことか」ユカリはトイレの方に歩き出した。「これ、捨てていいの?」

 『ああ。データはスマホに転送されてるからな』

 「うまくいったってことね」

 『どこまでデータを収集できたかによるがな』

 「5人目の犠牲者が出る前に何とかしてあげて」

 

 トイレで諸々の用事を済ませ、オペレータルームに戻ったユカリを、木原SV が待ち受けていた。別に賞賛の言葉を期待していたわけではないが、多少なりともねぎらいの言葉ぐらいはあると思っていた。ところが、木原SV の顔に浮かんでいるのは、困惑の表情だった。

 「前園さん、ちょっといいですか?」木原SV は、ブースに戻ろうとしたユカリを制した。「少しお話を聞かせてほしいんです」

 「なんでしょう?」

 木原SV は、何事かと注目しているオペレータたちをちらりと見ると、ドアの向こうを指した。

 「ここじゃ何ですから、ミーティングルームで」

 「わかりました。一応、訊きますけど、これも勤務時間に含まれるんでしょうね?」

 「もちろんです」

 「お昼もまだ何ですけど」

 「すぐに終わりますから」木原SV は先に立って歩き出した。

 廊下を木原SV に続きながら、ユカリはそっと指で次に取るべき行動を訊いた。

 『さっきの行動がバレたのかもしれないが』返事はすぐに来た。『とりあえず話を聞いてみよう』

 ユカリはイヤピースをコツンと弾いて応答した。

 ミーティングルームには先客がいた。ナツメシステムの今野と、館脇センター長、それにスーツ姿の見知らぬ男性だ。来訪者用バッジをつけている。ユカリが入室すると、今野と会話していた館脇センター長が顔を上げた。

 「座ってください」館脇は丁寧といってもいい口調でユカリに椅子を勧め、木原SV を見た。「木原くんはセンターに戻っていてくれ」

 あらかじめ言われていたのか、木原SV は頭を1 つ下げると、黙って戻っていった。ユカリは高鳴る鼓動を表に出さず、舞台用の笑みを浮かべながらゆっくり座った。

 「今野さんはさっき会ったね。こちらは」と館脇は3 人目の男をちらりと見た。「ナツメシステムの開発部の須藤さんだ」

 ユカリが視線を向けると、須藤は小さく頭を前後に動かした。会釈したのか、単に頷いただけなのか判断がつかなかったが、ユカリはとりあえず礼儀正しく頭を下げておいた。

 『ナツメシステムに須藤という人間はいないな』イヤピースから少し緊張した声が聞こえた。『急いで探ってみる。正面から顔を見てくれ』

 須藤は髪を短く刈り込んでいたが、その大部分は白髪だった。目尻にも深い皺が刻まれている。50 代前半ぐらい、とユカリは見当をつけた。腹が出ているが、全体的にがっしりした体格のせいか、あまり目立たない。

 「えーと、前園さん」低い声で須藤が言った。「今日からK モバイルセンターで勤務しているんだね」

 「はい」

 「この職務経歴書によれば」須藤はテーブルの上に置いてあった書類を指で叩いた。「いろんな仕事を転々としているようだが、なぜなのかな」

 ユカリは笑みを消すと、館脇に顔を向けた。

 「どういうことでしょうか?」以前、猟奇殺人犯の役をやったときの表情で館脇を軽く睨む。「あたしは、何か取り調べでも受けなければならないことをしたんですか?言われた通りに、寒くて暗いモニタルームに1 人でこもって、ツールでGC をかけて、電話対応して、トイレにも行かずにがんばったんですよ」

 「申しわけない、前園さん」館脇は弱々しい声で答えた。「ナツメシステムさんが、どうしても訊きたいことがあるというので。少しの時間だけ付き合ってもらえないだろうか」

 ユカリは思案するふりをして、膝の上に置いた指で、どうする?のサインを作った。

 『話を聞いてみよう』

 「わかりました。センター長がそう仰るなら」

 須藤はニッと笑うと、スーツの内ポケットから何かを取り出してテーブルの上に置いた。Wi-Fi ルータのようだが、製品名や型番はどこにもない。須藤は小さなボタンを押した。

 ガリッ

 不意にイヤピースから響いた雑音に、ユカリは顔をしかめた。須藤は興味津々な顔でユカリの表情を観察している。

 「館脇さん」須藤は人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべると、館脇に言った。「この部屋から電波が出てますよ。確か、各センターはスマホや携帯などは持ち込み禁止でしたよね。私と今野のスマホは電源を落としてあります。館脇さんは何かお持ちですか?」

 「いや」館脇は首を横に振った。「持って来ていない」

 「となると、この女性でしょうね。訊いてみてはいかがですか?」

 館脇は嫌そうに須藤を見ると、やむを得ないという顔をユカリに向けた。

 「前園さん、何か持っているのかね?」

 「いいえ」ユカリは即答した。「何も持っていません」

 「そういうことだ」館脇はホッとしたように言った。「私は前園さんを信じようと思う」

 「まあ、ここで身体検査するわけにもいきませんしね。いいでしょう」

 安堵するよりも、むしろユカリは残念だと思った。身体検査を要求されたら、一騒ぎ起こしてやるつもりだったのに。どうも、この須藤という男は虫が好かない。

 「ところで前園さんは」須藤は薄笑いを維持したまま言った。「システム的なことにも詳しいそうだけどね。管理ツールを見てどう思ったかな?」

 「どう……って?」

 「たとえば、今どきApplet ってどうよ、とか、そういった類いのことだよ」須藤は手にしたデバイスをもてあそびながら訊いた。「率直な感想を聞かせてほしいものだと思ってね」

 ユカリはイヤピースからの声を待った。彼女のボスが、この場を切り抜ける横文字を知らせてくれるはずだ。ところが、10 秒以上待っているのに、イヤピースは沈黙したままだ。

――まさか、さっきの……

 そんなことをすべきではない、と思いつつ、ユカリの視線は、須藤の手の中にある小さなデバイスに引きつけられた。よく見ると、親指でボタンの1 つを押しているように見える。

 顔を上げると、須藤と目が合った。ユカリの表情を観察しているような、冷ややかな光を湛えている。

 「どうした?」面白がるような声が訊いてきた。「遠慮なく、感想を言ってくれないかな」

 「感想って言われても」ユカリはふてぶてしい表情を作って答えた。「まあ、一言で言うなら、ダサいツールよね、あれは」

 「ほう。どんなところが?」

 「90% 越えても、赤くなるだけとか」

 「それには同意するが、そういう表面的なことではなくて、もう少し技術的な面での意見が聞きたいね。たとえば、JMX を使っている点はどう思う?」

 「えーと……」首筋を汗がつたうのを感じながら、ユカリは必死で冷静さを保った。「まあ、いいんじゃないの?」

 「サーバにエージェントを入れて、Zabbix あたりで監視する手もあると思うが、JMX と比べてパフォーマンス的にどうだろうな?」

 「ザビックス?ああ、そうね。そういう手もあるわね」

 「まあネックがあるとすれば、Zabbix はちょっと高額だというところだろうな」

 「そ、そうね。安くはないわね」

 須藤はニヤリと笑うと、握っていたデバイスをスーツのポケットに戻した。途端に、イヤピースから声が響いた。

 『ユカリ、大丈夫か?』いつになく焦ったような声だった。『映像も音声も途絶えていたぞ』

 ユカリは不安な思いを押し殺して、指でイヤピースを弾いた。須藤の反応が気になるが、もはやどうすることもできない。

 「お時間を取らせました」須藤は館脇に言った。「もう、よろしいですよ」

 「前園さん、ありがとう」館脇は安堵したような顔でユカリに笑いかけた。「ブースに戻ろう。では、これで」

 館脇センター長に促され、ユカリは立ち上がった。須藤は座ったまま、ヒラヒラと手を振った。

 「またね、ユカリちゃん」

 

 すぐにでもトイレに駆け込み、ボスに報告したいところだったが、館脇センター長は、取り調べのような目に遭わせてしまったことへのお詫びのつもりなのか、しきりにユカリに話しかけてきていたのだ。

 「気を悪くしないでくれ。あそこの会社と関係を悪くするわけにはいかないんだ」

 「まあいいですけど」ユカリは笑顔を向けた。「ちょっとクセのある人でしたね。センター長さんもお疲れになったんじゃないですか?」

 言葉と同時に、さりげなく片手を相手の腕にかける。館脇はたちまち表情筋と言葉を軟化させた。

 「まあ、ここだけの話、プライベートでも付き合いたい相手じゃないよな」

 「でも仕事ですもんね」

 「そうなんだよな。入ってもらって1 年ぐらいなんだが、できれば別の会社がよかったよ、本当に」

 「システムの会社なんですよね?他にもまともなとこが、たくさんありそうな気がしますけどね」

 「まあ、上からの命令だからね」館脇は天井を指した。「仕方がない」

 『上からの命令?』疑問文が囁かれた。『聞いていた話と違うな』

 「上からですか」興味を示したのではなく、世間話に付き合っている、という態を装い、ユカリは首を傾げてみせた。「なんでしたっけ、ナツメシステムさんですか、てっきりずっと前からのお付き合いだから、あんなに態度が大きいのかと」

 「そうじゃないんだよ。詳しい事情は私も知らんのだけどね。取引先からの紹介で断り切れなかったとか、そんなウワサがあってね。まあ、この手のウワサはオペレーターさんたちの方が、ずっと詳しいんだろうな。私も飲み会のときに、オペレーターさんから聞いたんだよ。前園さんの耳にもそのうち入ると思うよ」

 もう少し詳しい事情を聞き出したいところだったが、2 人はオペレータルームに着いてしまった。

 「じゃあ、私は上に戻るから。お仕事、がんばってください」

 「ありがとうございました」

 ユカリはID カードをセンサーにタッチした。ドアが開く。館脇はユカリが入室するまで見送っていた。

 少し精神的な疲労を感じながら、ユカリはブースまで歩いた。オペレータたちが、忙しく応対しながら視線を向けてくる。オペレータたちは交替で昼食に行くので、室内にいるのは3 分の2 ぐらいだ。木原SV も離席している。ブースに座ると、何かを入力していたマドカが身体を寄せてきた。

 「おつかれさま」興味津々な顔だ。「ねえ、何があったの?」

 「いえ、別に。いろいろシステムのことで訊かれてて」

 「システムの経験あったのね」マドカは感心したように言った。「すごいよね。ナツメの人と対等に話してたしさ」

 「大したことじゃないですよ」

 「そう?でも、うっかり気に入られて、またシステムのお守りを頼まれたりするのも困るか。ここだけの話、ナツメとはあまり関わらない方がいいって話だし」

 ここだけの話、か。ユカリは相づちを打ちながら、マドカの顔を見た。ユカリは、自分の人を見る目には、ある程度自信を持っている。新人の指導役として割り当てられたことから考えても、マドカはオペレータの中でもベテランの方らしい。人当たりもいいし、人望もありそうだ。リーダー的存在の人間には、自然と各種情報が集積するものだ。

 何とか、マドカから情報を引き出せないか、と考えていると、そのチャンスは向こうからやってきた。

 「ねえ、お昼まだでしょ?」マドカはヘッドセットを外した。「お弁当とか持って来てる?」

 「いえ。どっか、外で食べようと思ってましたけど」

 「じゃ、一緒にいこ。近場のお店、教えてあげる」

 もちろんユカリに否やはなかった。

(続く)

この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係なく、たとえ実在の人物に似ているとしても偶然です。また登場する技術や製品が、現実に存在していないこともありますので、真剣に探したりしないようにしてください。

Comment(3)

コメント

ゆた

おお、ユカリちゃんがミッションインポッシブってるな。

3ST

職務経歴書って別会社に開陳していいものかな
内諾済みの潜入捜査で正直に経歴書いちゃっちゃあいかん・・・それとも何かの布石なのかな

orchis

Zabbixはフリーの監視ツールだー。ユカリちゃんピンチ。

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