ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

罪と罰(29) 新たなる希望

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 KSR案件は第1開発課の案件。この言葉が形骸化するまで、それほど多くの日数を必要としなかった。実際、時間で数えることさえできた。

 火曜日のiframe の一件を皮切りに、武田さんか久保さんが第2開発課に技術的な支援を要請したのは、木曜日までに29件にも上った。2人の名誉のために言っておくなら、項目が足りないとか、処理が洩れているといった要件的な遺漏はなかったが、それは何の慰めにもならなかっただろう。

 KSRチームの3人は、なかなか実装に入れない苛立ちを紛らわすためか、もしくは単に眠気覚ましのためか、仕様書上の技術的な問題を鵜の目鷹の目で探しては、質問するようになった。第2開発課の誰かがいれば、すぐに答えられるような質問ばかりだったが、ミーティングや休憩などで離席しているときに、そういった質問が上がると、仕様書の説明はそこでストップしてしまう。また、武田さんも久保さんも、できるなら第2開発課の手を借りずに解決したいと思っているらしく、まず自分たちでいろいろ調べたことを回答していた。残念ながら、そのような場合の答えは、間違っているか不足していることが多く、結果的に時間を浪費することになった。

 水曜日の午前中までの予定だった仕様書の説明は、ずるずると後ろに伸びていき、結局、木曜日の夕方近くまでかかった。武田さんとしては、そのまま実装に入って欲しかっただろうが、あいにく木曜日の夜は、武田さん自らが段取りしたキックオフの予定だった。18:00には会社を出る必要があったので、KSRチームはそこで仕事を切り上げることになった。

 そのキックオフが武田さんと久保さんにとって、楽しいひとときにならなかったことは、翌日の朝、明らかになった。早めに出社してきたKSRチームの3人は何となく落ち着きがなかったが、武田さんが入ってくると、ラメさんが神妙な顔をして言ったのだ。

 「あの、武田さん、昨日はすみませんでした。ちょっと言い過ぎだったと思って......」

 カズさんとサブレくんも、その後ろで頭を下げた。

 「......いえ、気にしてませんから」

 武田さんはそう言って自席に座った。気にしていない、というのが本心ではないことは、その仏頂面を見ればわかる。

 そのすぐ後に久保さんが出社してくると、先ほどの状況が再現された。ラメさんが謝罪し、久保さんが気にしていない、と答えるが、その表情は憮然としていた。

 「ねえ、あれは何なの?」

 カスミさんが小声で訊いてきたが、私は答えを持ち合わせていなかった。訊いてみようにも、武田さんも久保さんも、話しかけられるのを拒否しているようなオーラを発散していたし、KSRチームに訊くのも変だ。キックオフに同席していた五十嵐さんなら教えてくれたかもしれないが、あいにく朝から、瀬川部長と外出している。

 その答えは、午後になって顔を出したKSRの池田さんによって明らかになった。池田さんは別件の外出のついでに寄った、と言っていたが、それにしてはわざわざガトーよこはまのチーズケーキを、ホールで買ってきてくれた。しかも武田さんや久保さんにではなく、直接関係のない私にそれを手渡した。仮に池田さんが私に気があったとしても、こういう渡し方はしないだろう。

 「ありがとうございます」私は礼を言ってから、世間話のような口調で訊いた。「昨日のキックオフはどうでした?」

 「あ、やっぱり聞いてないですか」池田さんは、武田さんの方を気にしながら小声で言った。「私は用事があったので途中で失礼したんですが、北条たちの話だと、あの3人が武田さんと久保さんに、ずいぶん失礼なことを言ってしまったようでして」

 「失礼なことですか......それは、どんなことでしょう?」

 「えーとですね、まあ、その......」

 池田さんが囁くような小声で教えてくれたところによると、KSRチームの3人は、武田さんと久保さんに、やり方が古い、技術力がない、意味がわからない、あなたたちみたいになりたくない、などと言ったらしかった。酒の席ということで、また無礼講ということでもあり、少々、気が大きくなりすぎたのだろう。

 「それはまた......」私は呻いた。「......何と言うか」

 「元々、じっと座っているのが苦手な奴らで」池田さんは忌々しそうな顔でKSRチームの方を見た。「つまり手を動かしていたい奴らってことです。たった2時間の社内コンプライアンス研修でさえ、我慢できないほど、根気に欠けるんです。仕様書の説明を延々と聞かされて、かなりストレスが溜まっていたみたいで」

 私は思わずうなずいた。その気持ちはわからないでもない。

 「そういうわけでして」池田さんは時計を見ながら言った。「武田さんと久保さんに、どうぞお気を悪くしないでくださいとお伝えください。では、これで」

 池田さんはそそくさと帰っていった。要するに、今回の案件を円滑に進めるために、上司として謝罪に来たということだろう。午後、くさび形に切り分けたチーズケーキと一緒に池田さんの謝罪の言葉を伝えると、武田さんと久保さんは揃って苦い顔をしたものの、何も言わずにうなずいた。聞き耳を立てていたKSRチームも、安堵したような表情になった。今日から実装に入っていたので、池田さんの気遣いのおかげで雰囲気が改善され、スムーズに仕事を進められることを、どちらも喜んだのだと思う。

 次に池田さんが来社したのは、クリスマスを過ぎてからだった。そのときは手ぶらで、顔には苛立ちと険悪な表情を浮かべていた。そこに至るまでの日数で、武田さん、久保さん、KSRチームの間に生じた様々なトラブルが原因だったが、それらのほとんどを私は、というか、第2開発課はサポートすることができなかった。第2開発課は、そんなことに構っている余裕がなくなってしまったのだ。

 12月12日、水曜日。9:00。

 Webシステム開発部全員が待ち受ける中、瀬川部長と五十嵐さんに連れられて、2名の中途採用社員が入ってきた。その2名の顔を見た途端、足立とマサルが意外そうに顔を見合わせた。

 「おはよう」瀬川部長が新しいメンバーを差し招いた。「今日からみんなと一緒にお仕事することになった飛田さんと本郷さんだ。なかよくな」

 瀬川部長の小学校の先生みたいな紹介が終わると、五十嵐さんが2人を前に出した。

 「入社研修の後は、第2開発課に配属となる予定です。じゃあ、2人とも一言ずつ自己紹介してくれるかな。飛田さんから」

 飛田さんはうなずいて進み出た。身長はそれほど高くない痩せ型で、黒いスーツの下に黒のUネックのニットを着ている。やや吊り上がった細い目と、短く刈り込んだ髪のせいか、第一印象で好感を抱く、という顔立ちではない。街ですれ違ったら、さりげなく目を逸らしてしまいそうだ。建前はともかく、採用選定の際、足立とマサルが揃って「一緒に働きたくない人」としたのは、見かけの雰囲気も大きな要素だったに違いない。

 「飛田です」やや重々しい声で、飛田さんは挨拶した。「前の会社は、たぶん名前を言えば知ってるような会社でしたが、やってることは結構いい加減でした。こちらでは技術的にしっかりやっているようなので期待しています。私は各種データベースが得意ですので、お役に立てればと思っています。よろしくお願いします」

 飛田さんは頭を深々と下げ、私たちは気圧されたように、パチパチと短い拍手をした。

 「じゃ、本郷さん」

 「本郷です」飛田さんとは対照的に明るい声だった。「前職ではサイトのデザイン関係の仕事を主にやっていましたが、プログラミング言語や、システム構築などをやってみたいと考え、転職を決めました。よろしくお願いします」

 「はい、ありがとう」私たちの、先ほどよりも幾分熱のこもった拍手が終わると、五十嵐さんが再び進み出た。「じゃあ、第2開発課はミーティングルームへ移動してくれな。私は飛田さんと本郷さんに入館カードを渡して、説明をしてから行く」

 その言葉に従って、第2開発課のメンバーは一斉に立ち上がった。廊下に出た途端、足立とマサルが寄ってきた。

 「なんであの4番の人がいるんですか?」足立が詰問口調で言った。「第2候補は1番の人にしたじゃないですか」

 「あくまでも第2候補でしょ。第1候補の本郷さんは、ちゃんと採用されたじゃない」

 そんな説得力のない言葉に、足立もマサルも納得したようには見えなかった。

 「でも、何でよりによって、あの4番が......」

 「やめなさい」私は遮った。「誰を採用するかは、最終的に部長が決めることなんだから。私たちは意見を言うだけ。そう言っておいたでしょ。ほら、早く行った行った」

 そう言って2人を追い払ったものの、本心では2人に同調して、盛大に疑問を発したいところだった。

 「本来欲しい人物の他に」採用面接の前に、五十嵐さんは私だけに言った。「こいつとは一緒に仕事したくない、と思うような応募者も必ず1人は選んでおいてくれ。10人のうち9人が嫌いになるようなヤツなら、なおいいな」

 もちろん私は理由を訊いたが、五十嵐さんは「いずれわかるよ」と笑っただけだった。

 数日前に、最終的に本郷さんと飛田さんを採用が決定した、と聞かされたとき、私は再び理由を訊いたが、五十嵐さんはやはり笑っただけだった。

 ミーティングルームに入った私は、どこか落ち着かない気分で、五十嵐さんたちを待った。他のメンバーも、いつになく口数が少ない。足立とマサルに口止めしたわけではなかったので、採用面接の経緯は2人の口から全員に伝わったに決まっている。もちろん、一番一緒に働きたくない人、ということで意見が一致した、飛田さんのことも伝わったはずだから、その人が入社してきた理由をあれこれ考えているのだろう。

 待つこと10分足らず、最初に瀬川部長が、続いて、五十嵐さん、飛田さん、本郷さんが入ってきた。

 「いや、遅れてすまん」部長は座ろうともせずに私たちに呼びかけた。「じゃ、改めて紹介しようか。第2開発課の、いや、Webシステム開発部のニュー戦力、輝ける希望の星、期待のヒーロー、ハマの大魔神、イタリアの種馬......これはちょっと違うか、ま、とにかく飛田くんと本郷くんだ」

 その装飾過剰な紹介に、本郷さんは照れくさそうに顔を赤らめたが、飛田さんは無表情なままだった。瀬川部長は2人と五十嵐さんに座るようにうながすと、自分はそのまま話を続けた。

 「さて、君たちの中には、なぜこんな時期に新しいメンバーを迎えることになったのか、ちょっと不思議に思っている人もいるんじゃないかな。もちろん何事にも理由はあるから、今回の採用についても理由はある。それを今から説明させてもらうよ」

 私たちは固唾を呑んで、部長の言葉を待った。

 「もうすぐオープンになることだから、今、言っても構わんと思うんだが、1月1日付で大きな組織変更が発令される。詳しくは発令内容を見てもらうとして、概要だけ話しておくと、まず、CS部と公事部は、それぞれ人員の大幅削減がある。大幅というのは、本当に大幅ということだ。残念だが、管理職の半分ぐらいは、早期退職制度を受けるように勧告されることになるだろうし、一般社員も赤字部門については減給や異動等の対象になる。あと、これは決定じゃないが、総務部のいくつかの業務もアウトソーシングすることを検討中だ」

 部長は私たちの顔を見回して、少し微笑んだ。

 「本来なら、Webシステム開発部を切り捨てた延命措置が適用されるはずだったんだが、そんなことをしたら、この会社の将来をドブに捨てるようなもんだからな。一定の成果を出す、ということを条件に、その案はペンディングにしてもらった。五十嵐くんに来てもらったのも、その下らない案を回避するためだ。結果はみんなの努力のおかげで、<ハーモニー>という成果を出すことができた」

 実際には<ハーモニー>は安定した利益を生むには至っていないので、成果の可能性、というべきだろうが。

 「とにかくCS部と公事部は、受注そのものが激減しているのは知っての通りだな」瀬川部長は小さくため息をついた。「KSR電機さんもそうだが、来年度いっぱいで保守契約の打ち切りを打診してきている顧客や自治体がいくつか出てる。来年度になれば、その数は増えこそすれ、減ることはないだろうな。で、Webシステム開発部は、その穴を埋めることを期待されているというわけだ」

 私たちは顔を見合わせて互いの反応を確認した。うちの会社が置かれている厳しい状況は、すでに周知の通りだし、社員集会や部会などでも折に触れて言われていることだ。

 「年明けの組織変更では、まずWebシステム開発部の営業部門強化が行われる。具体的に言うと、第2営業課が新設され、CS部の各営業課から数名が異動してくる」そう言いながら、部長は営業課の3名の方を見た。「岩田くん、本間くん、大橋くんにCS部から来てもらったようにな。今、配置は検討中だが、岩田くんか本間くんのどちらかには、第2営業課に移ってもらうことになると思う。何と言っても、受注がなけりゃ話にならんからなあ」

 岩田さんと本間さんは揃ってうなずいた。驚いた表情を浮かべていないところをみると、ある程度は事前に情報を得ていたのかもしれない。営業マンはそういった情報交換を頻繁にしているものだ。

 「開発課の方は第1、第2という組織は変わらない。ただし、これはあくまでも今のところ、であって、今後の状況次第では変わることもあり得る。ここまでのところで何か質問はあるかな?」

 「いいですか」岩田さんが手を挙げた。

 「岩田くん、どうぞ」

 「営業を強化していただけるのはありがたいです。ですが、ご存じの通り営業活動というものは、農業に似たところがありまして、収穫するにはまず種をまかないといかんわけです。ましてや、うちはずっとAS/400をメインにやってきたんですから、Webシステム開発の受注はまだまだ苦手です。私だってCSにいたときは、ほとんどルートセールスみたいなことばっかりやってたわけで。ようやく、こっちの世界に慣れてきたところです。つまり、何が言いたいかというと、人を増やしたはいいけど、養うことができないとか、そういう羽目になったりしないんでしょうか、ということなんですが......」

 「うん、今、そこんとこを話そうとしていたとこだ」瀬川部長はそう言うと、五十嵐さんに顔を向けた。「ここから先は五十嵐くんに続けてもらおうかな」

 五十嵐さんはうなずいて立ち上がった。手に、プリントアウトの束を持っている。

 「今、岩田さんが言ったことをまとめると」五十嵐さんはニヤリと笑った。「仕事あるの?ってことだな」

 まわりくどい岩田さんの質問を皮肉るような言葉に、何人かが軽い笑い声を上げた。岩田さんもその1人で、頭をかきながら答えた。

 「まあ、そうです」

 「結論から言うと仕事はあるよ」五十嵐さんは真面目な顔になって続けた。「<ハーモニー>のカスタマイズ案件は、納品した全ての大学から打診されてるし、新たな大学からの引き合いも来てる。それから<LEAPCRAFT>のWeb版開発もあるな」

 私はうなずいた。<LEAPCRAFT>開発の件は、月曜日に見積を提出済みで、来週初めには回答をいただく予定だ。

 「あと、例の就職活動ゲーム、あれも進んでるよな」

 マサルとクミが揃ってうなずいた。就職活動中の学生を主人公にしたゲームアプリ開発は、いわゆるギャルゲーとして作成する方向で、企画を進めていた。ただし、キャラクターデザインや、サウンドなどを第2開発課だけで作成するのは無理があるので、協力会社を選定しているところだった。この案件は、マサルとクミが主担当になっている。

 「それは知っております」岩田さんが首を傾げた。「ですが、どれも利益ベースに載せるのは、まだ先になると思っていましたが」

 「うん。もちろん、それだけじゃない。先月から私と部長とで、主に既存顧客を訪問して、システム開発案件の御用聞きをやってきた。その結果、口頭ではあるが、いくつか受注見込みが取れた。これがその一覧だ」

 五十嵐さんは持っていたプリントアウトを、一番前の席にいたクミに渡して配るよう命じた。受け取ったクミはちらりとそれを見て、一瞬表情を強張らせたが、順に配っていった。私は最後に受け取り、目を走らせた。

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 「全てWebシステムになる。5番目はタブレットの使用が前提だからAIRを使うことになるかもしれないけどな。見込み列の大は、たぶん取れそうな案件で、小は脈がなさそうな案件だ。訪問件数はこの数倍になるんだが、まあ、たいていはけんもほろろに扱われたな。それでも既存顧客から紹介してもらったりして、何とか話を進められそうなのが、その6件になる。見込み大と中の案件については、これから営業にも加わってもらって進めていくことになるな」

 五十嵐さんは説明を続けていたが、そのほとんどは私の耳を素通りしていた。私の注意はリストの最後に印刷されている企業名に向けられていたからだ。

 東雲工業株式会社。カスミさんが担当している顧客だ。

 ほとんど無意識のうちに私は手を挙げていた。

 「箕輪さん、何か?」

 「あの、この......」声がかすれた。「......この、東雲工業って、あの東雲工業ですか?」

 五十嵐さんは、「あのってどの?」などと訊き返すことはせず、黙ってうなずいた。

 「カスミさんが担当している東雲工業ですか?」私は再度質問し、五十嵐さんはまたもや首肯した。

 「確、というのは、確定ということですか?」

 「そうだ。10月に情報処理管理課に、新しい課長が異動してきて、積極的にIT化の促進をしているんだ。基幹システムのリニューアルは、もう何年も前から提唱されてきたらしいが、ここに来て、ようやく実際に進み始めたわけだ。というか、それをうちから提案したわけなんだがな。一応、何社かに相見積もりするから、今、RFPを作成中とのことだが、現行システムの中身を一番知っているのはうちだからな」

 「あ、じゃあ、実際の要件定義なんかには、カスミさんも参加してもらうことになるんですね」

 五十嵐さんの首が三度縦に振られることを期待しての質問だったが、それは裏切られた。

 「いや」五十嵐さんは素っ気なく答えた。「進藤さんには協力してもらうが、要件定義や設計は第2開発課だけでやる。これは飛田さんをメイン担当にする予定だ」

 全員の視線が飛田さんに向けられた。当の飛田さんは、それらの視線を平然と受け止めている。ひょっとすると、営業課増設の件と同様、事前に話があったのかもしれない。

 私の心に浮かんだいくつもの抗議は、しかし、どれも音声になることはなかった。いずれの抗議も、私の個人的な感情でしかなかったからだ。副課長という立場でなかったとしても、私の抗議が飛田さんの能力への疑問になることを考えると、やはり口には出せなかっただろう。

 「もちろん、これは大仕事だから、飛田さんだけに任せるというわけにはいかんだろう。他のメンバーにも、必要に応じて力を貸してもらうことになるな。まあ、その頃には私はいないだろうから、ハンドリングは箕輪さんに引き継ぐことになるな」

 ただうなずくことしかできなかった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 オフィスに戻ると、カスミさんが声をかけてきた。

 「新しい人、どうだった?」

 私はカスミさんの顔をまともに見ることができず、もちろん、返事もできなかった。幸いなことに、カスミさんがそのことを不審に思う前に、五十嵐さんが近寄ってきた。

 「進藤さん、ちょっといいかな。ミーティングルームで」

 「はい」

 カスミさんは不思議そうな顔で立ち上がり、私に向かって肩をすくめて見せると、五十嵐さんの後についてオフィスを出て行った。

(続く)

 この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術・製品の優位性などを主張するものではありません。

Comment(30)

コメント

あいおー

ついに最も変化を拒む人にスポットが当たり、クライマックスが見えてきましたね。
ここからの箕輪さんの苦悩が見所になりそうです。

a

>協力会社を選定している
サードアイ「ガタッ」

yamada

カスミさんの仕事ぶり(子供のことがあるので早めに帰る)というから考えても
真っ先に切られても仕方ないんじゃないですかねぇ・・・

あとちゃんと敵対勢力を残した五十嵐さんに完敗。
敵のいない組織は慣れ合いが進んで自壊するのみ。

wwJww

> KSRチームの3人は、武田さんと久保さんに、
> やり方が古い、技術力がない、意味がわからない、
> あなたたちみたいになりたくない、などと言ったらしかった。

何気に「あなたたちみたいになりたくない」はすげーひどいw

けどGJ!!!

n

聖域に踏み込んだかー。
箕輪さんの葛藤はすごいだろうな。

lav

カスミさん、切られるのかもしれないが、実は更なる手を打ってるんじゃないか?

先方、つまり、東雲さんから、引き抜きの話があるとすれば、話はスムーズに行くんだがなぁ
つまり、システムを知ってるカスミさんは、東雲側の人間として、リプレースの協力を仰ぐ。

ちなみにだけど
やはり、池田さん、激おこになるのねwww
進捗が進まないせいで

サルーン

育児での時短勤務を「仕事ぶり」として「切られても仕方ない」とするなら、
少子化は止まらないでしょうね。
国内のパイを減らす活動お疲れ様です。

unkei

話の雰囲気からするとカスミさんを何らかの形で
切ってしまう葛藤に悩むことになる感じですけど、
悲しい気分になります。
残業しない範囲で任せられる仕事もあると思うのですが。
でも、物語としては今後の展開にまた期待してます。

通りすがり

つらい話ですなぁ

Buzzsaw

最初のころの「武田叩き」は分かり易くて良かったんですけど、ここ数回分はなんというか、急に複数スレッドに分散しちまったような感じで、感情のぶつけどころや共感のしどころが薄くなったように感じまする・・・・。

安っぽいビジネス書から仕入れたネタを無理やり仕込んだ感じ。

jiji

多分カスミさんと武田さんとの違いは他者への態度と、自分の実力の把握具合よね。
むしろ武田さんたちがいなければカスミさんはフォローがうまいし、サポート要員として残しておきたいタイプだなー。
折衝役とかうまそう。元々技術者だから素人よりはいいだろうし。
ただ技術者としての道を絶たれるに等しいから、本人としてはどうなんだろう。

でもこのままいけば武田さんはカスミさんが残って自分がやめざるを得ない立場になったとき、暴れると思う。これまでのモンスターっぷりからしたら何やるかわからん。
ただでさえ村瀬さんの件があるから。
別の見方をするなら派遣会社とか協力会社とか? いったんやめる形にならんとどうしようもない気がする。

スーパー通りすがり

一般社員は減給と異動とあるから、カスミさんも退職まではならないのかな?
管理職の武田副課長、久保主査、(+中村課長?)は退職勧告。

逆にシニア三バカトリオの退職に伴い、第1開発課長が空席になるので
今回カスミさんが呼ばれたのは、まさかの課長昇進の話だったり

匿名

時短勤務は会社内で了解されていた事項で、それを根拠に切るのはどうかと。
数少ない利益が出せるプロジェクトに無くてはならない、ノウハウ&信頼の塊だし。
時短勤務で賃金が低いのは、この場合メリットだと思うけど。

とりすがり

育児・介護による時短勤務で働く正社員に対して
その勤務形態を理由にしてファスト リタイヤメントの対象にしたり、
異動・減給処分を科すことは、会社が違法(不法)行為を働くことに
なってしまいます。これはおそらく物語の本筋と離れた問題を提起して
しまうことになるので、そのような展開はないのではないかと予想します。

育児・介護休業法
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/dl/tp0701-1l.pdf

カスミさんを切るならばそれは、「現状をよしとして」「自らを変えよう
としない」エンジニアであるから、という一点に尽きるのではないでしょうか?
あるいはここまでの調整能力の高さやムードメーカーっぽい描写からして
第一課長に昇進(再三管理職待遇との記述もありますし)する、なんていう
展開もありそうですよね~。

BEL

まだカスミさんに悪い知らせが来るかはわからないですけとね、朗報かもしれない。

会社で(暗黙だろうが)認められてることを"仕事ぶり"などとして、
切ったり減給したり評価をさげたり配置転換したら流石にアウトでしょう。

この物語に我々の世界と同じ法律が存在する必要はないですが、
今では、2歳までの子がいる人が時短を申し出た場合、認める義務があります。

(保育園にいってるカスミさんの下の子は何歳だろう)

Masa

23回で五十嵐さんは不当解雇しないってあるから切るって話はないと思う。
別にカスミさんは保守的でも抵抗勢力でもないし。

あと、五十嵐さんの「要件定義や設計"は"第2開発課だけでやる。」っていう言い方が気になるし。この言い方だと先があるってことだから。

既存の保守案件にからんで開発案件が出た場合、開発チームを新たに作って保守は今までの体制で行い、開発が終わったら保守チームに引き継ぐってことは結構あるからそういう扱いのような気がする。

カスミさんは生活状況的に開発どっぷりは間違いなくきついし、最新技術を学べる機会ではあるから前向きにとらえれば悪いことではない気がする。くびになるなら話は別だけど。

nagi

カスミさんは村瀬さんと一緒に業務の合間で勉強すればいいと思うんだ。
カスミさんに今まで反対勢力的な描写なかったはずだし…。
そういう展開であることを祈りたい。

なび

今、最初の方をザックリ読み返したんだけど
カスミさん、別に時短勤務ってわけじゃなくて
週に何日か早退してるって感じの描写しかなさそうなんだけど
どっかに育児のために時短契約になってるって書いてありました?
規定満額で早退繰り返してるなら、問題ありで異動か
時短契約に変更(ようは減給)もありそうだけど。

hoge

カスミさんを勤務時間が短いからきるというのは五十嵐さんの理想とは全く違うんじゃ? 
五十嵐さんは、生産性の高い人が評価されて、変なところに時間ばかりかけて生産性の低い人が残業代たっぷりなのはへんという考えじゃないのかな?

BEL

9回に記述がありますが、カスミさんは時短ではなく、年俸制契約になっていて
早く帰るのは黙認されています。減給もされていないです。
(そういう契約なら黙認も何もないと思うが)

カスミさんにとっては時短にしてもらうより、今のままが得ですね。

全ソースと変数名が頭に入ってる人を切ったらもったいない。

従業員の不利益になる一方的な契約変更はアウトになる可能性がある

なび

おぉ、そんなところに書いてありましたか。失礼しました。
となると、何の面談なんだろうなぁ。
あまり穏やかな感じでは無さそうだけど。

fuga

社畜が叩かれててほっとした。この業界は社畜が多すぎ。

通り

一緒に働きたい人、働きやすい人というのは
旧守でない伸びている現場では必ず行う方法なので本郷さんは必然です。
逆のタイプの飛田さんはブレーキ役、兼、落とし穴をふさぐ役割ですかね。
同じタイプの人達だけが集まると客観視を忘れる瞬間がありますから。
それでいてブレーキ役は武田の様な「やらない理由」を言う人ではなく
「危険なリスク」を見つけて指摘出来るだけの能力がないといけませんから。

# 個人的な、あまりに個人的なアレだけど、、、
# 俺がVBer嫌いなのは、他の世界知らんくせに
# VB以外の勉強したくないからやらない理由ばっかいいだんすだよ、あいつら。
# そんなだから言語変えても方法論は昔のまんまだし、ほんと、し(ry

カスミさんは、もしかしたら総務窓口的なポジションになるのかもしれませんね。
カスミさん自身は技術指向でも管理者指向でもなけれども、後ろから全体をフォロー
するタイプなので、無理に東雲プロジェクトのリーダー的ポジションを押しつけても
そんなのは本人は望まないでしょうし、技術的に突っ込んでいったり修羅場上等の
ポジションも同様でしょう。

逆に、全体をバックアップすると言う意味では欠かせない人ですし、現場の苦労を
知っていてそれをサポートする気持ちのある人は支援部隊には貴重な人材なので、
後任者に案件渡した後はカリカリしない立ち位置から皆を支えていく立場になる
んじゃないでしょうか。

n

要件定義にかませないつもりだから、ノウハウってのはあまり期待されてないようす。
縦割りで考えるのは総合的に良くないんだけどね。

Masa

飛田さん、今までの感じだと頑固者の職人タイプな気がする。

この手の態度がとんがっていて周囲とぶつかりまくって反発を招く半面、特定の技術にはやたら強くて周りにやたら気を使わせるタイプの技術者って、仲間にすると頼りになることが多いですし、難しいプロジェクトでは成否を握る場合も多いですから、とったほうがいいと思う。

で、よくよく考えたらそういう人とカスミさんくっつけるのはいいことかもしれない。カスミさんみたいな緩衝役がいると飛田さんの力はもっと生かせるでしょうから。

Masa

聯稿すいません。

ふと気づいたんだけど、新たなる希望って元ネタスターウォーズですよね?ってことは…。

ヒロインのレイアがだれかでずいぶん話が変わる気がするけど、これがカスミさんだったら面白いかも。
反抗している相手に捕らえられて身動き取れず、途中で救出されるって位置づけだから。

z

> Masaさん

五十嵐さんがダースベイダーですか?

通りすがり

カスミさん対東雲ほぼ専属の営業にジョブチェンジかな。

読み直し中

今頃になって最初から読み直しているので数年遅れですが、ゲーム開発者から一言。
ゲーム開発だと武田さんみたいなポジションの、内容を考えて設計してくれるだけの人がいるんだけどね。

プログラマーさん、エンジニアさん達の理想郷を作るみたいな話だからこれ以上言わないけど。

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