どこに向かって進んでいるんだい?
書類というのは、意外と神経を使うものだ。僕もいろいろな失敗をして発表をしてきた。今回は、このことを堅苦しい文章でなく、馬鹿馬鹿しい文章でお話したいと思う。
これが、コラムになるかは、さておいて。
■今日のお話:どこに向かって進んでいるんだい?
ある日、現場の師匠たる上司から「おい、MrF。明日の資料を作っておけ」と命令が下った。
僕は、「Yes Sir Boss。例のシステムの奴ですね」と聞き返すと、「そうだ。分かりやすくな!」っと返答があった。
昼休憩前に命令されて、食事をカツカレーにしようかコロッケカレーにしようか考えたりしていた(カレーばっかりだって? 好きなんだ、ほっといてくれ!)。
結局、カツカレーにして軽く昼寝をし、13時になったのでスクリーンセーバーに「Dont Panic」と某SF小説に出てくる言葉が表示されているパソコンにパスワードを入力して仕事モードに切り替える。
カタ、カタ、カタ。ピアノを弾くように、キーボードを叩く。モニターには「Aの要件について」や「Bを導入することについてのメリット・デメリット」などの文字や表が並んでいく。
「できたか?」
「Boss。作り始めて30分で完成すると思ってるんですか」
「ピザ屋だったら今ごろピザの代金を払って、『辛いソースはお付けしますか?』って聞いてる時間だぞ。」
「ならピザ屋に任せればいいじゃないですか」
「そうだな、それならまずお前をピザ屋に就職させないとな」
なんてやりとりをしながら進めていく。
カタ、カタ、カタ。15時になってようやく第一案ができた。スタイリッシュな横文字と専門用語を散りばめた逸品だ。
「Boss、できました」
「OK、そこに置いといてくれ」
ティータイムなのを思い出して、休憩所で一息つく。自動販売機の紅茶もなかなかのものだ。
すると、そこにBossが飛び込んできた。
「おい、お前の頭の中は最先端を進んでいるようだな」
てっきり僕は、褒められていると思って「ありがとうございます」なんて答えたところ、思いっきり怒鳴られた。
「このIdiotが! 褒めてない、皮肉ってんだ! それぐらい分かれ!」
そこから30分に渡るお説教が始まった。
さて、何が悪かったか考えてみよう。
- 自動販売機の紅茶を褒めたから? No!
- 15時までかかったから? No!
- ピザ屋じゃないから? No!
答えは、「書類の内容が最先端過ぎたから」だ。
まず、手元のゲームの説明書を見てほしい。
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読み終わったかい? ん? ゲームはやらない? すまない。家電製品の説明書でも構わないよ。
説明書には、番号が振ってあって後ろにはQ&Aまで乗っているはずだ。そして、間違いが起こりやすい操作については、注釈が付いており、「Aボタンを押した後、Bボタンを押すと想定外のことが起こります」なんて感じになっている。
ユーザーは、注釈部分に気を付けて操作すれば、開発者が悪意を持ってねじ込んだ特殊な操作以外は、必ずできるはずだ。
つまり、説明書は「誰もが等しく動作をすることができる」書類なんだ。
そこで、前の話に戻ってほしい。「スタイリッシュな横文字と専門用語を散りばめた逸品だ」と言って渡した書類は、この業界に浸かっている人が見れば分かるだろう。
じゃあ、1年目の雛鳥はどうだろう。意味の分からない単語を必死にGoogleに入力しては、単語の意味を検索する。履歴には、「xxxxxxx システム 業界用語」「xxxxxx システム用語」みたいなのが並んでいるはずだ。
そして、単語を調べるのに夢中になり、重要な君の話を忘れていく。そして、作業を割り振るときに「なんで分かってないんだ!」と君は怒るだろう。
ここまでは社内の話、ではこの業界以外の人、特にお客さまだったらどうだろう。
その資料を基に説明を続ける君を、まるで「未知との遭遇」をしたような目つきで見て、君の評価を「極めてエキセントリックな脳をした男 これからの付き合いに要注意」とかにするかもしれない。
そして、君の地球外の言葉を使った演説を聞き終わったお客さまが去り際に、こう言うのだ。
「ありがとう。良く分かったよ」
君は賞賛の言葉と思い評価が上がったと思っているが、次の日にお客さまから来るメールには、「今後、取引をやめたいと思います」と書かれており、君は会議室に呼ばれて哀れな子羊となり「君の評価を改めさせてもらう」と、いつもはゴルフクラブを磨いている上司に言われて悲しみを背負うのだ。
では、どういった文章が良いのか。
答えは分かっているよね。
「説明書のように誰でも分かる文章を書けばいい」
おっと、その「それができたら苦労はしない」という目で見るのはよしてくれ。それと、右手のコーヒーカップは投げつけないでくれよ。僕には届かず、君のモニターが甚大な被害を負うことになるからね。そこまで責任を取れないよ!
本題に戻ろう。確かに誰でも分かる文章というのは難しい。僕も、いまだに完全なものを書いたことはない。では、どうするか?
君が居るオフィスを見まわしてみると良い。きっと暇そうにしている奴が居るはずだ、そいつのところに行って君の書いた書類を渡し、「これ、読んでみて」と聞いてみるといい。何も知らない後輩や、直属の上司でも良い。人数は…… そうだな、3~5人ぐらいにお願いしようか。
注意してもらいたいのが、間違えても文章をすべて渡すんじゃないぞ。ニコニコしながら数百ページもある書類を読んでくれなんて言ったら殴られてもしかたがないからね。
例えば、第一章だけを印刷して持っていく、多くて3ページぐらいだ。しかし、その3ページの中で君は自分に足りないものをたくさん手に入れられるだろう。
そして、第一章をベースに第二章を書いていく。これの繰り返しだ。
「結局、エンジニア目線じゃないか!」
そうだ、否定はしない。
しかし、僕は「上司にも」と言った。場数を踏んでいる人はそれだけ情報を持っている。もちろん、いま君が直面している問題に当たったことがあるだろう。そこから情報を引き出すのだ。
そうすれば、君の文章はさらに素晴らしいものになるだろう!
「俺も、この間違いをしたことがあるんだよね」なんて言葉が出てきたらしめたものだ。蛭(ヒル)のようにその人にへばりつこう。ただし、お礼は必ず言うことだ。「とても参考になります!」「本当にありがとうございます!」なんて言っておけば悪く取られることはそうそうない。それでも嫌がれたら? 「器の小さい男だ」という評価をしておけばいいだろう。
ちなみに、僕の場合は「目次だけ」を持っていったことがある。その結果、自分では問題ない流れだったと思ったところが、実は間違っていて修正することができた。上から下に流れ落ちる滝のようにしっかりと。
ベースを「ほぼ完全に作成する」ことで進路が決まれば、後はその進路を間違えなく進むことができるはずだ。
長々と書いたけど、今回覚えてもらいたいことは「誰かに見せる」ということだ。どんな書類でもね。そうすれば、君がさらにステップアップするため、どこかへ行った時に残された人達は君の残した誰でも理解できる素晴らしい書類を見て、君を神と拝み奉るだろう。そして君のところに途轍もない報酬の仕事を持ってきてくれるはずだ。
船が進むとき、1人の視界は狭いけど皆でいろいろな方向を見れば危険を見つけることができる。それは暗礁だったり、進路の間違いだったり、もしかしたら海賊かもしれない。けれども早く発見できれば避けられる。
つまりは、それだけのことなんだ。