外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

第8話:“突然仕事が降ってきた!”の巻~メンバーへ仕事を割り振るとき(上)

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 新任リーダー明日香の所属するシステム部・技術ソリューション課には、3つのグループがある。今朝は、来年度に向けて全管理職会議があり、明日香の上司である技術ソリューション課長ミヤザキも出席していた。

 会議が終わって戻ってくると、ミヤザキは早速、3つのグループのリーダー、ハカタとコクラと明日香を集めた。

ミヤザキ「さっきの管理職会議で、社長直結の新しい全社プロジェクトが発足するという発表があった。昨年度のわが社の業績は、残念ながら目標値にわずかに届かなかった。今年度のテコ入れ策として経営陣が出してきたのが、“クラウドで一気に攻勢に出る”という方針でね。技術系と営業系から横断的にメンバーを集めて、クラウド案件を重点的に推進するプロジェクトが始まるんだ」

ハカタ「そのプロジェクト・メンバーになったら、既存業務から外れて専任になるのですか」

ミヤザキ「いや、少なくとも今はそこまで本格的な話ではないね。案件を積極的に掘り出したり、社内のスキルアップの案を作成して実施したり、スペシャリスト的にサポートする体制を確立することが目的だ。当面の活動期間は半年間、となっている」

コクラ「でも、プロジェクトとなればミーティングや資料作成や、担当する作業が増えますね」

ミヤザキ「既存業務だけでも人員ぎりぎりの現状で、さらに厳しい話だということは経営陣もわきまえていたよ。ただ、弊社のお客さまは“クラウドの活用はまだウチには早い”というところが多い。それだけに、弊社がリードすることで新たな商談につながる可能性も大きい。業績を挽回するために、手を打たなければならないのはたしかだよ。

 さしあたって、うちの課が担う役割は、社内を技術的にリードすることだ。早速グループで分担して、どんどん動き出してほしい」

 ハカタ、コクラ、明日香の3人は、ミヤザキから資料を受け取った。各グループに割り当てられている内容を確認しあい、具体的な行動項目を考え、連携できる作業や日程について話し合った。明日香のグループは、社内向けの概説資料を作成したり、各部門のミーティングを巡回して最新情報を提供する仕事が主だ。

 いつも、何はなくても元気が一番! の明日香だが、今回は少々気が重い。

 どこも同じ状況とはいえ、明日香のグループも、メンバー全員が各自の仕事に追われている。もちろん、“熱い先端技術集団”を自認するわがグループとして、クラウドに係る新技術そのものは、すでにある程度先行して習得を始めている。でも、社長直轄の大々的な全社プロジェクトとなると、ワクワクするというより負担や責任感を感じてしまう。

 (私だって、自分がメンバーに選ばれたら、尻ごみするなぁ)

 明日香はため息をついた。

 (でも私はリーダーなのだから、そんなこと言っていられない。とにかく、誰かに割り当てるしかないわ)

 メンバー1人ひとりの顔を自席から眺めていると、明日香は弱気になったり強気になったり、しばらく心が揺れた。結局、一番文句を言わずにいつも何でも引き受け、そこそこに仕上げるサクラジマを、新プロジェクトの担当に割り当てることにした

 (サクラジマさんは、今は、お客様との夕方の打ち合わせに向けて準備中だわ。彼に新しいプロジェクトの趣旨を説明して打診するのは、明日にしよう)

 その日は、終業後、久しぶりに明日香と真紀子、草一郎の同期3人で会社帰りに待ち合わせて一杯、という約束をしていた。3人は小さな居酒屋に入り、近況を伝え合った。新入社員の様子を語り合い、入社当時の自分たちの失敗などを思い出して、ひとしきり笑った。

 続いて、新しいプロジェクトの話題が出た。真紀子と草一郎の部署も、もちろんそのプロジェクトに関係している。

明日香「突然、プロジェクト・メンバーを出せ、といわれても大変よね。私のグループでは、いつも文句も言わず何でもそこそこに仕上げるメンバーがいるから、彼にお願いしようと思って。きっと文句ひとつ言わずに引き受けてくれるし」

 明日香が何気なく言ったひとことに、草一郎が意外な反応を示した。

草一郎「……それでいいのか?」

明日香「……え? 何のこと?」

草一郎その人をプロジェクト・メンバーに選んで、本当にいいのか? という質問だよ」

 明日香は面喰った。いつも優しくて明日香の愚痴や弱音を聞いてくれる草一郎が、そんな反応をするとは想像もしなかったからだ。思わず真紀子の顔を見ると、彼女も口を真一文字に結んで明日香を見つめている。

 明日香は口をつぐみ、草一郎から問われたことをあわてて考え始めた。  (下 に続く)

メンバーに仕事を割り振るときに注意していますか?(上)

□頼みやすい人にばかり頼んでいませんか?

□育成の観点を考えながら仕事を与えていますか?

~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 池田典子 (文:吉川ともみ)

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