海外IT企業で働いていた純日本人エンジニアがいろいろと考えてみる。

海外生活と『1984年』と洗脳状態のわたし

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 どうも、鹿島和郎(かしまかずお)です。今月のコラムのお題は「わたしの人生の1冊」だそうです。当初はお題に乗るつもりはなかったのですが、ほかの話題でコラムを書いているうちに、このお題に当てはまるかも、と思って急きょ路線を変更しました。

 なお、本コラムでは、基本的には「海外」と「ITエンジニア」のどちらにも関係する話題のみを扱おうと心がけているのですが、今回はあまりITエンジニアに限定した話ではありません。IT系の話題以外にはあまり興味ない方は、また次回お会いしましょう。

 さて本題ですが、今回取り上げるのはジョージ・オーウェルの『1984年』という小説です。実際のところ、この本はわたしにとって「人生の1冊」というほどではないのですが、なかなか興味深いので紹介します。

 あらすじはインターネットで検索すれば出てくると思うので詳細は省きますが、近未来の管理社会が舞台で、主人公は政府機関で歴史を改ざんする仕事をしています。国民はみんな洗脳されているに等しいのですが、主人公は仕事柄、本当の歴史の一端を知ることになり、体制に疑問を持っていき……という感じの話です。

 かなり暗い内容で、管理社会・全体主義への危惧と警鐘がメインのテーマ、だと思います。Wikipediaによれば、

1998年にランダム・ハウス、モダン・ライブラリーが選んだ「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」、2002年にノルウェー・ブック・クラブ発表の「史上最高の文学100」に選出される

と、高い評価を受けている名作ですし(※1)、まだ読んだことない人は読んでみてはどうでしょうか。

 さて、こうした物語について皆さんはどう思うでしょうか。

 「この手の話は小説とか映画の話だけのだし……」

 「北朝鮮とかならあり得るかもしれないけど、日本は大丈夫でしょ」

などと思った方もいると思います。本当にそうでしょうか。

※1:後述しますが、「~が勧めている」というのはなかなか効果的な宣伝手段です。

■日本が住みにくくなってる件

 管理社会とはそれほど関係ありませんが、個人的に大きな衝撃を受けた事件が6年位前にありました。ファイル共有ソフトWinnyの開発者が逮捕された件です。開発者逮捕当時、わたしは日本にいたのですが、その後に海外に移りました。そして、海外にいる時に一審の有罪判決を知りました。そのとき、

 「日本もそろそろ終わりだな」

とけっこう真剣に思った記憶があります。この事件はソフトウェア開発に携わる多くの人にとって、多かれ少なかれ影響を与えた事件ではないかと思います(※2)。

 また、ここ数年、「え?」と思うような法律、制度がいろいろと出てきていて、個人的にはかなり心配です。

 さて、事の是非はともかく、日本では(政治家などの一部の人を除くと)公の場で政治などについて長々と語るというのは、洗練された大人の取るべき行動ではない、という認識が割と一般的だと思いますので、ここでは個別の事例を1つひとつ取り上げて深入りすることはしません。ただ、何点か問題提起を行い、それに対し「一度でいいので、日本を出てみるのは有意義ではないか」という、わたしの意見を述べていきます。

※2:本事件のその後ですが、高裁では無罪判決が出て、それに対し検察が上告したというのは多くの人がご存知だと思います。

■正直、洗脳されてたよなー

 『1984年』の世界では、情報はすべて「真理省」と呼ばれる政府機関が検閲、改ざんして発行しています。また、個人が自分の考えを持つこと、表明することは重罪です。一方、現代日本では情報には自由にアクセスできますし、表現の自由も守られています。

 さて、皆さんの普段の情報源はなんでしょう。わたしの場合は、(海外に住む前は特に)新聞、TV、雑誌、ニュースサイトなどから情報を得ることが多く、それを元に自分の考えなどが形成されてました。

 では、それらの情報は信頼できるのでしょうか。個人的に出した結論としては、以下のとおりです。

 「『1984年』のように事実の改ざんなどは行っていないが(たまにしますが……)、印象操作などは日常的に行われている」

 わたしは、昔はメディアにしょっちゅう騙されていました(最近でもたまに騙されますが)。あまり刺激的な言い方で人に訴えかけるというのはわたしのスタイルではないのですが、洗脳されていたと言っても過言ではないような気がします。

 この手の話題は話が長くなりがちなので、個人的によく騙されていたパターンをいくつか挙げます。

○権威を持ち出す

 本コラムで何度も断っているとおり、わたしは海外信者ではありません。ただ、日本人(少なくとも現代日本人)の悪いところとして挙げたいのが、一般的傾向として「権威に弱い」という点です。

 そんな典型的日本人のわたしは、偉い人が言っていることは何の疑いもせずに信じてしまう傾向にありました。

 エンジニアライフでコラムを書いているAhfさんの最近のエントリで、日本オラクルの「都市伝説」シリーズは最近ではネガティブキャンペーンに近くなっている、という話がありました。

 ITの世界では、大手ベンダーが言うことは割と簡単に信じてもらえたという経験があるエンジニアは多いかと思いますが、日本人の権威主義的な気質が、このような都市伝説が広まる一因としてあるのかもしれません。

○東スポ風釣り見出し by 大手メディア

 記事のタイトルで釣って中身はまったく違う、東スポの専売特許と思われがちなこの手法ですが、実はこれはどのメディアでも行われています(※3)。もちろんメディアも商売ですので、ある程度目を引くタイトルを付けて本や雑誌を売る、サイトに集客するというのは当然のことですので、程度の問題とも言えるかと思います。そして、その「程度」がけっこうひどいメディアも多いように見えます。

 東スポの場合は、作り手も読み手もネタとしてお互い合意の上での話なので、あまり問題にはなりません(たまに訴訟を起こされてますが)。大手新聞社や大手ポータルサイトがそのような記事を載せていると、忙しい現代人は、タイトルだけ見て誤解してしまうこともあると思います。

※3:読者数がそれほどいない本コラムですら、@IT自分戦略研究所の「おすすめ」コラムに取り上げられるときには、編集者によって人目につく(そしてときには本題とはあまり関係ない)タイトルが付けられたりします。「程度」としては許容範囲だと思いますが。

○大事なことは書かない

 メディアが嘘や間違った情報を使えることはほとんどありませんが、自分たち(あるいは株主、広告主、その他ステークホルダー)に都合の悪い情報を流さない、ということは広く行われています。

 これ、理屈としてはみんな分かっていても、なかなか実感していない人も多いのではないかと思います。

 実例はここでは挙げませんが、新聞などで「常識」あるいは議論の前提とされている「事実」のかなり多くが、実際には「事実の『一部』」であったり、「事実を都合よく解釈した『一意見』」だったりします。

■まとめ:違った視点から眺めると

 わたしが「洗脳」されていたことに気付いたのは、海外に住んで海外のニュースなどを読んだり外国人の意見を聞いたりするようになってからです(もちろん、頭のいい人であれば、日本にいてもこうしたことに気付くのでしょうが)。

 別に、上述のような問題点が外国に存在しないわけではないですし、外国人は外国人で自国の社会や文化、メディアによって思想が形成されているケースもしばしばあります。ただ、そもそも日本のメディアのステークホルダーと海外のメディアのステークホルダーとでは立場が異なることが多く、それらが主張する内容も異なる場合が多いので、結果としていろいろな見方に触れることができたのではないかと思います。

 いろいろ考えるきっかけになった『1984年』も、海外に住んでいたときに向こうの友人が貸してくれたものです。

 そろそろまとめたいと思います。海外のニュースを見る、実際に海外に出て生活してみるというのは、「視野を広げる」「洗脳状態から抜け出る」という意味で効果的だと思うので、機会があればお勧めしたいと思います。また、海外でITエンジニアをするメリットについては以前のコラムで書きましたので(1, 2, 3)、もし良かったら読んでみてください。

 後付けっぽい書き方ですが、もちろん『1984年』もお勧めです。特に近未来ものが好きな人は、楽しめるのではないでしょうか。映画『未来世紀ブラジル』は本作に影響されたらしいです。ちなみにこの映画はわたしにとってはさっぱり理解不能です。『12モンキーズ』は好きなんですが。

 さて、今回はこの辺にしたいと思います。終わってみれば『1984年』の話はあまりしなかったような気がしますが……j次回はたまには技術ネタでも書こうかとぼんやりと思ってます。一応エンジニアですし。それではまた。

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