人材育成、講師の視点から(9)アジャイル開発研修の動向から見えてくるもの
これまでの記事はコチラ↓
- 人材育成、講師の視点から(1)
- 人材育成、講師の視点から(2)
- 人材育成、講師の視点から(3)
- 人材育成、講師の視点から(4) タスク粒度の考え方
- 人材育成、講師の視点から(5) アジャイル開発をはじめるには
- 人材育成、講師の視点から(6) チームファシリテーションから始めるアジャイル開発
- 人材育成、講師の視点から(7) アログツールとデジタルツールの使いどころ
- 人材育成、講師の視点から(8) 身体を動かして考える
こんにちは、天野勝です。
私は、コンサルタントという職業柄、人にものを教える「講師」という仕事をする機会が多いです。現場カイゼンの導入教育や、C言語でのテスト駆動開発と、かなり多岐に渡っています。
この連載では「講師」をしていて気づいたことを私の視点で発信していきます。
■アジャイル開発研修に変化あり
私は、アジャイル開発研修については、2002年から講師を担当しています。
すでに、10年近く研修を行っているのですが、ここ数年で、アジャイル開発研修に求められるものが変わってきています。これは、当然ながらアジャイル開発を取り巻く環境が変化していることに起因しています。
今回は、この研修の変化と、その変化をとおして見えてきた環境の変化をご紹介します。
■アジャイル開発研修の動向
私たちが実施しているアジャイル開発研修の動向を紹介します。
◇開発者以外が受講するようになった
これまで研修では、基礎知識を座学で話を聞いて学び、アジャイル開発の流れと、開発のプラクティスであるTDD(テスト駆動開発)を体験するという2日間のものが定番であり、必要に応じてカスタマイズを行い、オンサイト研修[*1]として年に数回実施していました。この研修の対象者は、主に開発者でした。
ここ数年は、これらを別々に開催し、それぞれの受講者を分けるというのが増えてきています。基礎知識+流れの体験については、アジャイル開発に関わる全員(開発者、マネージャ、仕様の決定者など)が受講し、TDDの体験のみを開発者が受講するというものです。
以前は、ほとんどがソフトハウスの開発者であり、「プロジェクトマネージャ向け」と限定すると、受講者はほとんど集まりませんでしたが、最近はプロジェクトマネージャ向けに限定したほうが、集まりが良いことも増えてきています。
とくに、ユーザ企業の情報処理部門の方が、増えてきています。
◇より実践的な内容が求められるようになった
研修の内容をより実践的にして欲しいという要求も増えてきています。これは、対象者をチームリーダ層に限定し、チーム単位で自律的に開発が行えるようにするというのが目的です。
以前は、基礎的なところを学んだあとは、実際の開発の中で試行錯誤しながらアジャイル開発の知見を増やすとともに、アジャイル開発ができるように訓練していたのと比べると、より即戦力が求められているようです。
また、10年前と異なって、私たちにもそれだけの知見が蓄積され、そのような要求にこたえられるようになってきているのも要因の1つです。
◇受講者の動機が変化してきた
以前は、開発者を対象としていたこともあり、「自分でアジャイル開発を始めるための準備」を目的として参加する方が多かったのですが、ここ数年は、「プロジェクトでアジャイルを採用することになったので、基礎知識だけでも学ばなくては」と切羽詰まった状態の方や、「よくわからないけど、行けと言われたのできた」と意識はそう高くない方だったりと、多岐にわたるようになってきています。
◇実プロジェクトへの導入が増えてきた
オンサイト研修とは若干異なりますが、プロジェクトへのアジャイル開発導入コンサルの一環で、研修をすることもあります。これまでは、パイロットプロジェクトを対象にしていたのが、今年に入ってからはパイロットではなく、実開発のプロジェクトを対象としたものが増えています。
■アジャイル開発を取り巻く環境の変化
上記の傾向の背景には、アジャイル開発が一般的になり、トップダウンにいっきに導入しようという機運が高まっているのがあるのでしょう。さらにその背景には、10年前に私達の研修を受けた方が、昇進して決定権を持ち、今一度アジャイル開発に取り組んでいるというのもあるようです。
以前は、パイロットプロジェクトを対象にアジャイル開発を導入してきたのが、実プロジェクトへの導入が増えてきているのは特筆すべきでしょう。これまで、SIerを対象にセミナーをすると「どうやって、ユーザ企業を巻き込めば良いのか?」という質問が多かったのですが、近年はユーザ企業がアジャイル開発で開発してもらいたいということで、「どうやって、SIerに発注をすればよいのか?」という質問が増えてきています。
ユーザ企業がアジャイル開発にシフトしてきている今、ユーザ企業とSIerが共存共栄するための基盤として、アジャイル開発を捉えてみてもよいのではないでしょうか。
[*1] オンサイト研修
受講者を集めてもらい、そこに講師を派遣する形態の研修