人材育成、講師の視点から(5)
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こんにちは、天野勝です。
私は、コンサルタントという職業柄、人にものを教える「講師」という仕事をすることが多いです。現場カイゼンの導入教育や、C言語でのテスト駆動開発と、かなり多岐にわたっています。
この連載では「講師」をしていて気付いたことを私の視点で発信していきます。
■アジャイル開発の受け止め方のいろいろ
アジャイル開発プロセスの研修を行った後に感想をお聞きすると、受講された方の意見は大きく以下の3つに分かれます。
- まったく同じようにはできないけど、試してみる
- これまで自分たちがやっていたことと何が違うのか
- 自分たちのところでは無理だ、できない
なぜこのような反応になるのか、検討してみました。
◇「まったく同じようにはできないけど、試してみる」という反応
このような感想をおっしゃる方は、自分から率先して受講しています。研修を受けて、何かしら持ち帰らなくてはならないという思いを持っていますので、当然ながら前向きな感想になります。
さらに、開発現場に近い人と、経営層に近い役職で複数のプロジェクトを持っている方も、このような感想を持ちやすいです。現場に近い人は、自分がその当事者なので、できるところから少し取り入れてみて、少しでも自分が楽になりたいというのがその要因となるようです。
経営層に近く複数のプロジェクトを持っている人は、アジャイル開発を試行させるのにふさわしいプロジェクトがあり、それで試してみて、プロジェクトの利益率を向上させたり、人財として成長させたりしたいという思いがあるようです。
◇「これまで自分たちがやっていたことと何が違うのか」という反応
このような感想を持つ方は、情報システム部門の方や、製品としてのソフトウェアを作っている方たちが多いです。特徴として、自社の中に要件を決める仕様ホルダーがいます。
要件を持っている委託元と、開発を行う委託先という会社間の関係を持たないため、その間にはWin-LoseやLose-Loseとなってしまうような契約がないのが特徴です。プロジェクト体制ではなく、組織として開発し続けているというイメージでしょうか。このような組織は、ソフトウェアを作ること自体よりも、売ることや、事業の基盤として価値があるかに重きを置いているようです。
◇「自分たちのところでは無理だ、できない」という反応
講師としては一番うれしくない感想です。この感想を持つのは、2次請け以降のプロジェクトにかかわっている方たちが多いようです。すべての2次請け以降のプロジェクトがそうであるわけではないですが、「仕様ホルダーと直接話せない」「提案しても1次請けのところでつぶされてしまう」などの政治的な悩みがあるようです。
このような政治的な悩みに関しては、私が担当する研修で直接的なヒントを得ていただくのは難しいのですが、仕様ホルダー側に「アジャイル開発のうれしさと、それに伴う大変さ」を知っていただくようにアプローチしてください、とお伝えしています。
■アジャイル開発は信頼関係の上に成り立つ
アジャイル開発は開発規模が大きいとできないなどと言われますが、上記の受講者の反応から見る限りは、規模そのものが課題なのではなく、ソフトウェア開発にかかわる利害関係者の協力関係や、信頼関係が大きなウェイトを占めているように感じています。
アジャイル開発をこれから始めてみたいと思っている方は多いと思います。まずは研修などで、ある程度の知識を得てください。研修で聞いたことがそのまま現場に適用できることはないでしょうから、現場で試せるものから試して、いろいろと工夫をしてみてください。このように進めるのが理想の導入アプローチの1つです。しかしながら、そう簡単には試せない環境に置かれている方がいらっしゃるのも事実です。その場合は、疑似体験として多くの事例などを聞いて、頭の中でシミュレーションを行い、来るべき日に備えていただくというのも、1つのアプローチです。
■まとめ
アジャイル開発の研修の受講者の反応から、アジャイル開発を現場に適用するときに、何が課題なのかを検討してみました。
すべてに置いてアジャイル開発が有効ではありませんが、その効果を発揮する場所はある程度理解されるようになってきました。しかし、現場で適用するとなると、これまでの関係を見直す必要があり、これが根深い課題として残ってしまいます。これまでの関係は急に変えることは難しく、普段からの関係作りが改善のカギとなります。
皆さまがお仕事を進める際のヒントになれば幸いです。
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