『すべてはあなたが選択している』――ブラック企業に勤めているのも、自分の選択?
すべてはあなたが選択している ウィル・シュッツ(著) 池田絵実(翻訳) ビジネスコンサルタント (監修) 翔泳社 2011年1月 ISBN-10: 4798123609 ISBN-13: 978-4798123608 1680円(税込) |
■過去の自分と今の自分は「すべて」あなたが選んだ結果
この本書のタイトルに入っている「すべて」という言葉。この「すべて」とは何を指しているか、お分かりでしょうか。実は、「1人ひとりの人生におけるものすべて」を指しています。
生まれてきてから入学、進学、就職、結婚……。過去の経験、また現在の自分が“こうある”ことは「すべて」自分が選択したから――誰か他の人や環境のせいではなく――だというのです。
メンタルヘルスやキャリアプランに興味・関心をもつ私は、この過激な内容に心を惹かれ、読んでみようと思いました。
■では未来は?
タイトルは非常に過激ですが、本書は「愚痴を言うな! 誰かのせいにするな! お前が今こうしているのは、お前がそうしたいと選んだ結果なんだ!」という根性論で書かれたものではなく、一般的な自己啓発の書籍です。
「すべてはあなたが選択している」という言葉は、こう言い直すこともできるからです。「わたしたちの人生は、自分自身で選択して決めることができる」と。
本書では、自分で自分の意思のままに選択をし、いきいきとした人生を送るための視点を紹介しています。
■“なりたい自分”になるための7つの要素
著者のウィル・シュッツ氏は、対人関係について研究を続け、「対人関係に関する3つの次元(詳細は後述します)が、人と人との相互作用において非常に重要かつ効果的」と説きました。また、「対人関係における行動、およびその行動の裏にある気持ち、感情、自己概念から行動特性を明らかにする」という研究を発展させ、自己変革によって対人関係を改善することで、組織の生産性を上げる研究し、「ヒューマン・エレメント」モデルとして体系化しました。
※「ヒューマン・エレメント」の詳細は『自己と組織の創造学』という彼の別の著書で確認してください。
同時に、彼は「ヒューマン・ポテンシャル・ムーヴメント(人間性回復運動)」に加わり、家族や人が抱える問題を解決するための研究を行っていました。児童虐待や精神疾患といった兆候がなければその家族は「普通」だ……という判断で終わらせず、家族1人ひとりが自分の潜在能力に気付くことを助けることが彼の目標でした。
さて、シュッツ氏はさまざまな「本当に望む道、喜びにあふれる人生」に関する研究をまとめるうち、「これらの研究には、共通する『7つの要素』がある」と気付きました。本書では、7つの要素を政治や経済、教育、スポーツなどの場でどのように応用するかを紹介しています。
◎7つの要素
- 真実
- 選択
- 単純さ
- 限界のなさ
- 全体性
- 達成
- 次元
抽象的でやや分かりにくいと思うので、各項目について簡単に解説します。
■真実:自分の本音に反するうそはつかない
例えば、妻帯者が浮気してしまったとします。家に帰れば妻が笑顔で迎えてくれるわけですが、浮気したことを妻に感付かれないために、自分の言動に気を配らなくてはなりません。そこにエネルギーを集中してしまい、妻との会話が成立しなくなります。その結果、自然と家庭内での会話がなくなってしまうわけです。
これは「真実」、つまり「自分の本音に反したうそはつかず、オープンかつ正直に告白した方が、自分にとって良いことなのではないか」という事例です。上記の例は、大げさかもしれません。しかし、浮気をしてしまった事実を正直に告白して許しを請う、または家庭内の不満をお互い話し合って解決する、といった行動が取れたかもしれなかったのです。
■選択:イライラすることも、実はあなたが選択している?
何かの議論に参加していた際、自分だけが意見が異なっていて、ほかの参加者に言いくるめられたとします。議論が終わって家に帰っても、言いくるめられた事実にイライラするかもしれません。しかし、意識レベルでは「言いくるめられた」と思っていても、無意識レベルでは「自分がその意見を選択したのだ」と著者は考えます。これは、自分の意見に限らず、不快な心情や病気など、ありとあらゆることにも当てはまります。
■単純さ:答えは意外と簡単かもしれない
自分に赤ちゃんがいたとして、その子の乳離れをいつにするかで悩んでいたとしましょう。すでに子どもがいる友人に話を聞いても、意見がバラバラで余計に分からなくなったため、専門家に相談します。すると専門家は単純明快に答えます。「歯が生えてきてからでいいじゃないですか」
人は何かで悩むと、悩み過ぎて問題を複雑化してしまいがちです。しかし、答えは意外と単純明快なものではないでしょうか。心をオープンにして受け身の姿勢になり、ほかの人とコミュニケーションを取ることで答えは出せます。著者は、この姿勢を教育の場でも生かして、相手に一方的に答えを教えてしまうのではなく、相手が答えを出せるように導くことが重要である、と説きます。
■限界のなさ:「限界」の線を自分で引かない
小さい頃から「不器用だ」と両親にも言われ、自分自身も劣等感を感じているとします。自分で自分のことを不器用だと思っているのですから当然、図工の授業で何かを作っても、見栄えも悪いし実用性もないものが出来上がります。
しかし、自分から何かを作ってみたいという気に駆られてこっそりテーブルなどを作ってみると、ちゃんとしたテーブルができます。その結果、「何だ、意外とできるじゃん」とうれしくなります。
能力を今以上に伸ばせないのは、自分自身が「もうこれ以上は自分には無理」と選択して、ブレーキをかけてしまうことが原因だと、著者は考えます(もっとも、本書では「超能力」という言葉も出てくるなど、やり過ぎ感は否めませんが)。
■全体性:心と体を結び付けて考える
心と体は分けて二元的に考えるのではなく、結びついていると考えよう――こう著者は説きます。「面の皮が厚い」「地に足がついた」「頭が固い「目の色が変わる」「頭が軽い」といった慣用句は精神面の表現ですが、身体的にもそうなっている(自分の感覚がそう訴える)ことが多いそうです。
心と体を結び付けて考える「全体論」的なアプローチを取ることで、人間の行動に対する理解が深まるのではないか、と著者は考えます。
■達成:エネルギー・サイクルを意識して、コントロールする
人間の行動は、一連の「エネルギー・サイクル」としてとらえられます。
現状を変えようとする(動機)→対処のために計画を立てる(準備)→準備していた動きを実際に行う(行動)→行動した結果、「それが的確であったかどうか」によってさまざまな思いが現れる(感情)
このサイクルの要素のうち、何かを否定したり歪めたりしてエネルギーの流れを止めてしまうと、物事を達成できなくなります。エネルギー・サイクルを意識してうまく循環させることで「自分自身に気付き、自分の意思のままに選択できます」。
■次元:団体行動で起こる3つの要素
組織・団体の中で起こる行動は、
- 仲間性
- 支配性
- 開放性
という3つの基本的な次元(要素)で構成されています。
- 「仲間性」:集団の仲間に入りたいという欲求から起こる行動
- 自身を「重要な存在」であると感じているか否かで左右される
- 自信が持てないと「自分は誰からも相手されないから、1人でいいや」と孤独に陥る/「とにかく誰かから注目されたい」と過度に思うようになる
- 「支配性」:集団の中で自分が支配したい、もしくは支配されたいという欲求から起こる行動
- 自身を「有能な存在」であると感じているか否かで左右される
- 自信が持てないと「自分には関係ない」と責任を放棄/相手を支配しすぎる行動に出る
- 「開放性」:集団の中で自分の心を開きたいという欲求から起こる行動
- 自身を愛しているか否かで左右される
- 自信が持てないと「人と関わることを避けてしまう/人の心に土足で踏み込むように人と深く関わろうとする
適度な「仲間性」「支配性」「開放性」を持つことが重要です。
■ブラック企業に勤めているのも、自分が選んだこと?
人によっては「いくらなんでも、それはさすがに……」と思う部分もあるかと思います。わたしは「いじめられるのは、いじめられることを選択しているから」「病気になるのは、病気になることを選択しているから」といった内容については同意できませんでした。
また、本書の内容を実践したくても、さまざまな事情を考えてしまって「そうは言っても……」と思う方もいるかもしれません。
ですが、ここで「ブラック企業」について考えてみましょう。「この会社はブラックだ」と愚痴を言い続けるにもかかわらず、その会社に勤め続けた結果、うつになって休職や退職に追い込まれてしまう……そんな人は決して少なくないでしょう。会社を辞めることを考えてもいいのに「そうは言っても、お客さまがいるし……」「そうは言っても、不景気だから転職なんて厳しいし」と何かと理由をつけて仕事を続けてしまいます。そして、今日も現状に愚痴ばかり言ってしまうというサイクルが回ります。
愚痴は分かりますが、「その会社に勤め続ける」選択をしているのは、自分自身です。うつになると正常な判断できなくなるという話もありますし、そうなる前に転職の道を選択することも必要なのではないでしょうか。
これは、ネガティブなことばかりに限らないと思います。ポジティブに自分のキャリアを考えたときに「転職したい。けど、今のお客さまも仲間もいい人ばかりで裏切れない……」と思うかもしれません。しかし、自分の気持ちを否定しているのであれば、流れを断ち切るような否定はやめて新しい道を選択することで、幸せになるのではないでしょうか。
本書を読み、「本当に望む道、喜びにあふれる人生」について、いま一度考えてみるのもいいかもしれません。
(『It’s Party Time!』コラムニスト あずK)