状況をコントロールし、将来への見通しを持て――『ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編』
ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編 仕事というゲームと人生というビジネスに勝利する方法 デビッド・アレン(著) 田口元(監訳) 二見書房 2010年11月 ISBN-10: 4576101714 ISBN-13: 978-4576101712 1680円(税込) |
■「状況のコントロール」と「将来への見通し」
「GTD(Getting Things Done)」をご存じでしょうか。これはコンサルタントのデビッド・アレン氏が提唱した「ナレッジワーカーのための仕事術」です。日本では、ブログ『百式』の管理人である田口元氏が広く提唱していることで有名になりました。
本書は『ストレスフリーの仕事術 仕事と人生をコントロールする52の法則』『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』に続く、「デビッド・アレン(著)/田口元(監訳)」によるGTD本の第3弾です。本書は「実践編」と銘打っており、GTDの肝である「状況をコントロールするための5つのステップ」と「将来への見通しを定めるための6つのレベル」について、それぞれをどのように捉え、実践するかの指南書となっています。過去の著作を読んでいなくともGTDが理解できる構成になっていますが、できれば過去の著作に目を通すか、GTDについての記事などを読んで、大まかに把握しておくとよいでしょう。
繰り返しになりますが、本書はGTDの肝である2つの事柄を詳細に解説しています。2つの事柄とは、以下のとおりです。
- 状況のコントロール
- 収集
- 見極め(処理)
- 整理
- 見直し(レビュー)
- 取り組み/行動
- 将来への見通し
- 次にとるべき行動(高度0メートル)
- プロジェクト(高度1000メートル)
- 注意を向けるべき分野や責任を負っている分野(高度2000メートル)
- 目標とゴール(高度3000メートル)
- 構想(ビジョン)(高度4000メートル)
- 目的/価値観(高度5000メートル)
■状況をコントロールするための5つのステップ
GTDの最もシンプルかつ重要なポイントは「頭の中を空っぽにする」ことです。現代においては、どんな人も「やるべきこと」が洪水のように襲ってきています。あるタスクに取り掛かっている間でも、「ああ、アレもやらないと」「アレはどうなっていたっけ」と、ほかのタスクに気を取られて集中できない、というのはよくあることです。それを避けるため、GTDでは「頭の中にある『気になること』をすべて書き出す」ことが必要とされます。これが「状況のコントロール」の第1ステップ「収集」です。
個人的には、まずはこの「収集」をきっちりやるところから始めると良いと思います。「収集」を徹底的にやるだけで、頭の中がスッキリしてきます。少なくとも「やり残していることが大量にある気がする」という不安が払拭(ふっしょく)されます。なぜなら、やるべきことや気になっていることが、すべて可視化されるからです。
これ以降の4つのステップについても、本書は詳細に解説しています。これらのステップを通じて、わたしたちは「洪水のように襲ってくる『やるべきこと』」に振り回されずに、状況を適切にコントロールできるようになる、というのが著者の主張です。よくGTDは「仕事術」の1つであるといわれますが、GTDはプライベートな事柄(子どもの教育、引っ越し、結婚など)にも適応できます(そもそも「仕事」と「プライベート」を区別する考え方自体を著者は否定しています)。
参考:GTDのそこが知りたい
■将来への見通しを定めるための6つのレベル
GTDは、よく「目の前のことに対処することはできても、中長期的なことを考えられない」と思われがちです。筆者も、GTDで「目の前のこと」には対応できるようになりましたが、目の前のことをうまくやることばかりにしか頭が回っていなかったように思います。
ですが、本書ではあくまで「ボトムアップ」を推奨します。目の前のことがうまく回るようになれば、中長期的なことを考える余裕ができる、という理屈です。著者はこの中長期的な視点を「将来への見通し」という形で解説しています。
将来への見通しは6つのレベルに分けられています。それぞれのレベルは下記の通りです。
●次にとるべき行動(高度0メートル)
- 考えるべきこと:「必要な行動は何か」
- 実行可能な、目に見えるすべての物理的な行動が該当する
- 車を洗う、企画書を書く、思いついたアイデアのことを上司に相談する、インターネットで兄弟へのプレゼントを探す、など
●プロジェクト(高度1000メートル)
- 考えるべきこと:「何を終わらせなければならないか」
- 複数の行動が必要で、1年以内に達成すべきものが該当する
- 洗濯機を修理する、○○会社との契約をまとめる、休暇を取る、確定申告をする、など
●注意を向けるべき分野(高度2000メートル)
- 考えるべきこと:「維持していかなければならないことは何か」
- 自分のかかわっていることやライフスタイルを維持するのに欠かせないことが該当する
- 企画、システム設計、管理サポート、製品開発、顧客開拓、調査研究、健康・活力、子育て、休暇・娯楽、自己開発、など
●目標とゴール(高度3000メートル)
- 考えるべきこと:「何を達成したいか」
- 1~2年のうちに達成したいことが該当する
- 組織の再編成、本の出版、債務返済、息子の大学進学、新製品の投入、マラソンへの参加、など
●構想(ビジョン)(高度4000メートル)
- 考えるべきこと:「長期的な成功のイメージ」
- 2年より長い期間をかけて達成すべき長期的な目標が該当する
●目的/価値観(高度5000メートル)
- 考えるべきこと:「自分や組織の存在意義は何か」「自分や組織がどのような状態にあるか」
- なぜやるのか、何のためにやるのか、などの根源的な問いが該当する
自分の頭の中にある「気になること」をどのレベルに当てはめ、どのくらいの頻度でレビューし、どう管理すればよいのかについては本書に譲るとして、ここでは「将来への見通し」の重要性について考えてみましょう。
「状況のコントロール」がうまくいくようになると、それだけで満足してしまい、「将来への見通し」をおろそかにしてしまいがちです。ですが、「状況のコントロール」ばかり考えている人は「細かすぎるマネージャ」になってしまう、と著者は警鐘を鳴らします。「必要以上に整理や管理をしすぎてしまい、結果として機能性が著しく低下」(p75)する可能性があるのです。
自分がどこにいて、どこに向かえばいいのかを知るためには、「将来への見通し」が不可欠です。中長期的な事柄を可視化することもまた、「気になっていること」を書き出して、「頭を空っぽにする」ことに通じるのです。
■「仕事」と「行動」をシステム化する
本書を読んでいると、ここで語られていることは「当たり前のこと」が多いと感じます。タスクを書き出す、目標を設定する――これらは、当たり前のようにやっていることでしょう。GTDは、こうした「当たり前のこと」を、細かなプロセスに分割し、システマチックに実践するためのガイドであると捉えられます。
本書はガイドなので、「利用すべき具体的なツール」は書かれていません。というかそもそも、GTDはツールに依存しない考え方であるといわれています。紙とペンでもいいし、EvernoteなどのWebサービスを使うのも手でしょう。GTDをうまく機能させるためのシステムを自分なりに構築するのは、GTDを楽しむための1つの通過儀礼のようなものなのかもしれません。
(@IT自分戦略研究所 岑康貴)