「整理」とは、人生の創造である?! ――『整理HACKS!』
整理HACKS!―1分でスッキリする整理のコツと習慣 小山龍介(著) 東洋経済新報社 2009年6月 ISBN-10: 4492043373 ISBN-13: 978-4492043370 1575円(税込み) |
わたし(新人M)はこれまでの人生を通して「整理」という作業を好きになれたためしがない。「整理」は掃除と似ている。頑張って整理した机は、美しいし気持ちがよい。しかし、時間がたつと新たな乱れ(ゴミ)が発生し、また1から作業をやり直さなければならない。終わりのない、苦しい作業である……。そう思っていた。
ある日書店に寄ったとき、普段は立ち寄らないビジネス書棚の前である本が目に止まった。書名は『整理HACKS!』、副題は「1分でスッキリする整理のコツと習慣」。うん? 1分で整理ができちゃうって? いやいや、それって「日当たり良好 駅徒歩2分」って書いてるのに、実際行ってみると倍以上の時間を歩かされる不動産物件と一緒で、本当はもっと時間がかかるんでしょ……。眉唾ながらも本を取ったわたしは、冒頭「おそらく整理が楽しいという人はほとんどいないでしょう」という一文に「わたしのこと?」と心をつかまれた。あとにはこんな文面が続いていた。
「整理は創造性のない、退屈な仕事のように思っている人も多いかもしれませんが、整理について考えることは、実は本来、創造的なことなのです。どんなふうに書類を保管すれば、取り出しやすいか、机の上をすっきりさせられるか。どんなふうに整理をしたらスムーズに行くかを考えるというのは、いわば、整理のプロセスデザイン。きちんと整理ができる人というのは、整理というプロセスを美しく設計できる、優れたデザイナーでもあるのです」
(「はじめに」より)
■「整理」の発想転換
先の引用文で、著者は2つのメッセージを送っている。
- 本書のターゲットは整理が「嫌い」な人である
- 本書の狙いは、整理のとらえ方を「退屈」から「創造」へと転換させることである
つまり、着地点は単に「整理ができるようになる」ではない。あらゆる方向に発想を広げ、整理を通して「人生の創造者になる」ことなのだ。各章のタイトルが「書類ハック!」「人脈ハック!」といったビジネス向けの内容に限らず「生活ハック!」「環境ハック!」など日常生活面にまで及んでいることは、その表れである。
本書全体で紹介されている整理術は90。ただし、すべてに手をつける必要はない。整理に関して、自分がいま困っている部分にフォーカスし、見合ったものを取り入れていくとよい。以下、私的な目線から自分の日常生活でも取り入れたいと思う(実際に取り入れている)ものをいくつか紹介しよう。
■ノート1冊に情報集約せよ!
仕事は情報との戦いだ。特に、新人であるわたしは日課業務、各種編集作業の進め方、取材先でのインタビュー術……などなど、あらゆる方面から仕事の情報を仕入れていかなければならない。しかも、いつ誰に何をいわれるかは分からない。「いま、ちょっといい?」といわれたら、瞬時に情報をインプットできる体勢を整えるという、なんとも緊張感あふれる毎日を過ごしているのである。
そんな状況にありがたいのが「100円ノート1冊に情報を集約する」というテクニック。ポイントは「時系列管理」である。ノートの表紙には使い始めた日付け、各メモの右上にはそれを取った日付けを記入する。中には、レジュメや走り書きメモのポストイットなども欠かさず貼りつけ、紛失を防ぐ。書き終えたページの端は破っておくと、スケジュール帳と照らし合わせていつでも「あのときの記録」にたどりつけるようになる。
この「時系列管理」、わたしの仕事用メモにも取り入れている。日付けと合わせて、仕事内容の「項目」もカテゴリーに分け、インデックスをつけるとさらに検索が素早くなるのでオススメだ。
■名刺には「もらった日付け」を記入
続いて、人脈管理の話。社会人は「ひと」に関する情報の管理も欠かせない。わたしも先輩の取材先への同行、社内での打ち合わせ……など、仕事を通して日々さまざまな出会いが訪れる。大抵は1時間で2~3人を相手にお話しすることが多い。
……となると、1人に対する記憶はおぼろげで、もらった名刺はたまる一方。さて、どうしよう?
ここで参考にしたいのが「名刺をもらったら日付けを入れる」というテクニック。著者いわく、1度きりのご縁であれば、会ったときの情報を詳しく名刺に記入しても無駄になってしまう。シンプルに「日付け」のみを書き入れることは時間短縮になり、スケジュール帳と合わせてあとから探し出すのも簡単になるというのだ。
「時間の短縮」と書いたが、もらった名刺を会社で再度取り出し、日付けを記入するという作業を行うだけで、記憶の定着度も変わってくるのではないだろうか。わたしはいまのところ日付けの記入を手書きで行っているが、著者によれば日付スタンプを使うのがおすすめらしいので、近日中に東急ハンズに走りたいと思う。
■自宅と会社、そして「第三の場所」をつくる
いろいろと偉そうなことを書いたが、人間はそう簡単に変われるものではない。どんなに気を付けようとも、整理に対して心理的余裕を注げず、自宅や会社が散らかってしまう瞬間があるだろう。
そんなときは整理をあきらめて、自分が過ごしやすい場所に移動するといい。「第三の場所」とはスターバックスが提唱した呼び名で、「おいしいコーヒーだけでなく、心地の良い空間」を指す。いつもと違った場所で仕事をすることは、気分転換にも最適だ。本書で紹介されている「第三の場所」には、例えば以下のものがある。
- お気に入りの喫茶店
- ホテルのラウンジ
- 行きつけの旅館・ホテル
……ううん、下にいくにつれ、だんだんとグレードがアップしていく。行きつけの旅館まで作るのは、いまの段階では難しいかも。
ひとまずは、会社から少し離れたところにある「椿屋珈琲店」でこの原稿を書いてみたところ、静かでかなり集中できた。いつもとは違う空間のため興奮が高まり、おすすめだ。
■「自分なりの整理」を楽しむ
以上、本書に紹介された整理術のうちのいくつかと、その実践レポートをお届けしてきた。
実践を通し体得したのは、本書が紹介する手法を自分なりにカスタマイズする楽しさである。先に挙げた「第三の場所」作りにしても、「行きつけ」のお店を固定化するのもいいし、自分が集中できるお店がどこか、研究してみるのもいい。こうした積み重ねを通じてだんだん「マイ整理術」の幅が広がっていくとしたら、それが整理を通して「人生を創造する」ということなのかもしれない。その境地に到達できるよう、これからも修行を重ねるのみである。