エンジニアの言い分-第1話
■派遣エンジニアの言い分
「黒霧島をロックで」
ジャズのかかった薄暗い焼酎バー「ロックウォール」のカウンターに座ったのは派遣エンジニアの山崎君。
久保田さんはデータベースを全然分かっていないんだよなあ。何度も説明したのに。自分もコーディングしてるくせに、あそこまで分かってなかったとは。信じられない。 結局は複雑でめんどくさい処理を作るのは全部俺に廻ってくるんだからいやになっちゃう。酒でも飲まなきゃやってらんないよ。 難しいタスクは俺がやってるんだから、久保田さんのタスクは簡単なはずなのに。今日もまだ残業してたよな。まあ、あんな簡単なSQL文に苦戦しているくらいだから時間がかかって当然か。
久保田さんの年齢は俺と同じくらいだよなあ。でも正社員だから給料は俺よりかなりよさそうだ。俺と同じ仕事をやって、いや、俺より簡単な仕事を俺より時間をかけてやっている。仕事が遅い分、残業代ももらってるはずだ。派遣社員が稼いだ利益を正社員が搾取してるんだぜ。それってズルくねえ?。
「マスター、中々を水割りで」
俺だっていつかは独立して、守銭奴エンジニアみたいに稼いでやるさ。
■正社員エンジニアの言い分
カラン。氷を入れたグラスに「いいちこ」を注ぐ。 ファミマで買ったツマミのお惣菜を持って誰もいない深夜のマンションにたどり着く。そしていいちこを飲むのがこのところの久保田氏の日課になっている。
今日の山崎君の「こんな簡単なことも知らないんですか」はキツかったなあ。あの言い方はないだろう。たしかに俺が勉強不足なんだけど。
そもそも時間がとれない。 30人の事務所の分室に正社員が4人しかいないのがキツい。雑用は全部私に廻ってくる。大勢の派遣社員の申請の手続き、外に出してる請負の仕事の発注書類の作成。毎月手続きが必要だったりしてかなり時間を割かれてしまう。
本社の教育部門からは、コミュニケーション教育だのリーダーシップ研修だのE-Learningを早くやれとフォローされている。これも時間がなくて進んでいない。あんな理論だけのE-Learningをやったって仕事の役に立ちはしないのに。
夜遅くまで事務所に残っても、次の朝は一番に出社しなくてはいけない。事務所の戸締りも開錠も正社員でないとできないし、セキュリティカードを持ち帰った人でないと開錠できないから。なんか理不尽なシステムだ。
先月、山崎君が入室用のセキュリティカードを失くしたときはたいへんだった。本社の人にはこっぴどく怒られるし、是正策を実施しろとかうるさいし。当人の山崎君は「すいません」の一言だけで気楽なもんだ。管理責任は全部正社員にかかってくるからなあ。
とにかく、システムを開発するという本来の目的以外の仕事が多すぎる。こんなに仕事があることなんて、派遣社員の山崎君は想像すらできないだろう。
俺だってシステムを作る仕事に専念したいのに。ものづくりがしたくてエンジニアになったのに。いっそこんな会社なんか辞めて、派遣になった方が技術的な仕事に専念できるから楽しいだろうな。山崎君がうらやましいよ。
3杯目のいいちこを飲み終わるころ、時計は26時をまわっていた。
■あとがき
この話はフィクションです。実在する人物とは関係ありません。単に酒を飲みながら愚痴るというプチ小説を書いてみました。あるある、とか、こんなふうに考えてる人もいるんだなあ、くらいに思っていただければと思います。
コメント欄を開けていますが、どちらの言い分が正しい、正しくないについては私はコメントいたしません。それぞれ当人になりきって正しいと思って書きましたので。
あるいは、仕事が終わったらまずはビールだろ! って突っ込まれるかもしれませんね(笑)。
コメント
ksiroi
ああぁよく分かる。両方よく分かる。あるある。あるある過ぎる。
今日の僕は八海山の梅酒。いやんなにこれ超旨い。
第二話に期待しています。
abekkan
>ksiroi さん
コメントありがとうございます。
分かっていただけましたか。第二話に期待してくれる人がいてよかったです(^^)!
八海山の梅酒ですか。旨いんでしょうね!
3104
これはあるある。
第2話に期待しています。
abekkan
> 3104さん
コメントありがとうございます。
あるある話をもう少し書いていくつもりです。よろしくお願いします(^^)。
うい好きー
山崎君に久保田さんですか。
じゃ次の登場人物の名前は・・・・
abekkan
>うい好きー さん
コメントありがとうございます。
はい。第1話は控えめな名前にしておきました。
次からはもっとエスカレートします(^_^;)!