白いカラスを見つめながらエンジニアはゆっくり腐っていく
■白いカラスの話
秘書の心得として永田町によく流布している話があるそうだ。親分である議員や、地元の顔役から、
「カラスは白いと思うのだが、君は何色だと思う」
と問われ、
「はい、私も白いと思います」
と答えるのでは物足りない。敏腕秘書なら、
「カラスは真っ白です」
と断言するのが正しいらしい。別に永田町でなくても、大企業や伝統のある企業では「上司に合わせるのが基本。」というスタンスが強い。処世術としては基礎中の基礎だと思う。事実、こういうやり方で出世している人は多い。だが、エンジニアがコレをやった時、大きなものを失う。
■実は二度嘘をついている
上司がカラスが白いと言えば、自分も白いと答える。この時点でいくつ嘘をついたことになるだろうか。まず一つ、上司に事実と違うことを言うという嘘。もうもう一つ、黒いと認識している自分に対しても嘘をつくことになる。しかし、それだけでは済まない。自分の周りの人にも、カラスが白い。と嘘をつくことになる。そして部下にも白いと言わせれば、人に嘘をつかせることになる。
嘘を重ねることになるので、人の和を重んじたつもりでも、引き換えに信頼を失う。そして、付和雷同という名目で思考を放棄しているに他ならない。自分につく嘘というのは思うより損失が大きい。自分の中に矛盾を抱えたまま複雑な思考ができるほど、人間の知性は高くない。自分に嘘をつくほど思考の無駄が多くなる。平たく言えば、嘘をついた分だけ頭が悪くなるということだ。
■コンピュータは媚びない
エンジニアの基本だが、ありのままの事実に基づいて判断しなければ正しい結論が導き出せない。コンピュータは黒ければ黒い。白ければ白い。そう答えるだけだ。人の都合に合わせてはくれない。そこをねじ曲げたらエンジニアとしては致命的だ。正しい判断ができなくなる。
60代くらいの年配者とコンピュータの相性が悪い理由がなんとなく分かる。人間であれば、立場を振りかざせばへーこらして都合を利かせてくれる。だが、コンピュータは頑として言うことを聞かない。操作した通りに動くだけだ。人をへーこらさせて事を進めてきた人にとって、これほど腹立たしいものはないだろう。
■スキル直撃
正しい判断ができなくなったエンジニアはスキルが伸びなくなる。最近思うのだが、30代になるとエンジニアとしての成長が鈍ると言われる風潮がある。これって、会社で白いカラスのようなやり取りを繰り返して頭悪くなったんだと思う。
付和雷同という妥協に甘んじていては、優れたシステムは作れない。だからといって、人の欠点をバスバス指摘しろという訳ではない。では、上司がカラスは白いと言われたらどう答えるべきか。そういう時は、なぜ白いか聞いてみればいい。適当に話を合わせたら、その先の理由を聞きそびれるからだ。
白いカラスのようなやり取りをしていると、深くものを考えなくなり、ごまかす習慣がつく。妥協する癖がついて、努力ができなくなる。こうなると、複雑な思考ができなくなる。そうやって、じりじりと思考力が下がっていき、エンジニアとしての能力を失って朽ち果てるのだろう。
そんなことで、自由にものを言える空気って大事だと思うのだよ。
コメント
ardbeg32
まーそら、自由に物が言える環境に居続ける努力のほうが先かもしれませんねぇ。
少なくとも、黒を白と言ってくる人間とは直接的インターフェースを持たなくても良い立場を確保しなければ。
エライさんになるってのは、アホウとも接触せざるを得ないという事と同義なわけで、少なくともアホウから要求仕様をヒアリングしなくても良い程度のポジションではないということですから。
フリーのエンジニアならともかく、外部コンサルでさえ白を黒と言い続けてると「あのコンサルは使えん」と切られてしまうこのご時世、純粋なエンジニアで居続けることが一番難しいと思いました。
Anubis
>ardbeg32 さん
そもそも、偉いと言われる人が実質偉くない。
なので、世の中歪むんだろうな。と思ってます。
日本って、法律的には言論に制約は無いが、それぞれが空気とか利害で縛り合ってるのかもしれない。