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悪夢の続き-行軍の果て
(このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)
「バックドアのような気がします。」
ログ解析三日目の仕事の終わりに、Cさんは言った。
「Webアプリのログには何も記録がない時間帯に、データベースの読み出しがされています。」
「外から送り込まれたのか、それともリリース時にすでにあったのかはわかりませんがね。」
開発時の責任者はリリース後に社を去ったという話を思い出した。
「サーバのどこかにプログラムがあって、外からそこにアクセスするとデータベースの読み出しができるようになっていたんでしょうかね。」
「ログだけじゃ、らちが明かないから、サーバのディスクイメージを送ってもらいます。A課長に話せばすぐに送ってもらえるでしょう。それでこっちでサーバを復元してみましょう。」
次の日、届いたディスクイメージからサーバを復元してみた。
「これですよ。悪さをしたのは。」
Cさんがプログラムを見つけた。
「日付からするとリリース時点からあったのかもしれないですね。」
「リリース時点のサーバのバックアップはないんですか。」
「ないそうです。」
「開発時の責任者に話を聞くことはできないんですかね。」
「まぁ、多分無理でしょう。連絡も取れないんじゃないですか。IT人材は人の入れ替わりが激しいですから。もしかしたら今頃大儲けして引退しているのかもしれないですよ。」
「そんなに金になるんですかね。」
「いや、わかりませんけどね。」
「ただ、開発自体は酷かったそうですよ。要求はどんどん膨らむし、納期はずらすな、で、仕事も会社もすっかり嫌になったんじゃないですか。恨んでいたのかもしれないですよ。」
「聞いたような話ですね。」
「いやいや、つい感情移入してしまいました。なにしろ酷い目にあったことは一度や二度じゃないですから。同僚が病んでいても気が付かないふりをしているような、殺伐とした職場は嫌ですよ。」
「あぁ、それは私も本当にそう思います。でも、そういうプロジェクトって結構あるんですよね。日程が延び延びになって、リーダーが疲れ切っていて、検査するための情報出しも十分にしてもらえないっていうね。」
「仕事はね、平日の暇つぶしぐらいに思っていたほうがいい、そう思ったこともありますよ。死ぬ気でやったりしちゃいけないんですよ。」
しみじみそういうCさんの顔からは、苦しい記憶をたどっているらしいことがうかがえた。
「強くなければ生きてはいけない、優しくなれなければ生きていくに値しない。」
昔小説で読んだ一節がなぜだか思い出された。
(If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.)
春よ来い
立春が過ぎて、日差しの中に春らしさが感じられるようになりました。節分とともに不安や恐怖を追い出して、またゆるゆると前を向いてのんびり歩いて行こうと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。